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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十二章:取り返しのつかないもの

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625.まだ負けてない!

『各K(キング)ポジションに告げる!手を動かしながら、余裕のある者は聞け!』


 詰所となった校舎の屋上。

 タヌキ人形のビーコンによって、砲撃地点を指定していた六本木の耳に、各隊の指揮担当クラス専用チャンネルを通し、正村生徒会副総長の言葉が届く。

 

『正村十兵衛理事長、及び壱萬丈目蔵之助学園長、共に戦死!今際いまわに立てども国の盾たらんとする、見事な最期であった!』


 正門を突破した変身能力者が管制室を急襲し、その対応として機密を守っていた理事長を前線に出した、という報告までは届いていた。


 続報と、全体の指揮があまり乱れていないところから判ずるなら、彼らは役目を果たし切り、バトンを次に繋いだということなのだろう。


「理事長、学園長のおっちゃん……!」


 次の座標を発信しながら、口蓋内だけで簡易的な追悼を贈る。

 本格的なものは、生きて参加する葬式で捧げればいい。


『例の変身能力者は排除を確認済みであり、指揮権移譲(いじょう)にもとどこおり無し!避難民収容も間もなく完了見込み!』


 地獄に仏。

 悪いニュースと良いニュース。

 まだまだこちらにも、悲観を砕く弾がある。


『こちらの士気旺盛(おうせい)、故にこの報告を下ろすかは各員の判断に任せる。だが心得よ!ここからが正念場だ!御二方おふたかたの献身は、我らが生きてめいを果たし、この難局を乗り越えることへの信頼から来ている!』


 堂に入った演説で、戦う者達の心火しんかを盛り上げに掛かる五右衛門。


 この間にも、各隊へのカートリッジや糧食、医療物資等の補給、増援、撤退の導線、その他といった、生徒間の簡易的な兵站へいたん管理を統括し、管制側との連携を成立させている多忙の身とは思えないほど、詰まることなきうたい声。


『我々は数に含まれない()()()()でも、使い潰される捨て駒でもない!この戦場で、最も贅沢な位置についた、主役格である!』


 その内容以上に、一つの確かな事実が、聞くものの心を打つ。


 彼の祖父が、敬愛の対象と公言してはばからないチャンピオンが殺されたにもかかわらず、悲しみや憎しみといったかげりを見せることなく、ただ模範的な纏め役としての己のみを見せている。


 その強さは、確かに聞く物を驚嘆させ、強者を好む学園生達に、一体感と忠誠心を呼び込んだ。


『命を捨てるな!他者も、己も守り切り、最後まで戦い、勝って帰る!彼ら誇り高きつわものが生かした物を、自身も含め、最後まで生かし切って終わらせる!そのつもりで掛かれ!ここでむざむざ死ぬる惰弱だじゃくは許さん!』


 「以上!各員戻ってよし!」、

 言いたい事だけ捲し立てて、一方的に切る。

 客観的に見れば、そういう行為。


 軍事的優位性から行くと、幾らかの時間、兵士達の集中を妨げたと、そう酷評されるかもしれない。


 だがそれは、戦闘マシーンを率いている場合の話だ。


 兵士やである以前に人間である彼ら彼女らは、心で生きて心で死ぬ動物だ。


 彼らの目に、胸に炎をたけらせる。

 人間の戦士達にとって、その戦術的価値は計り知れない。


「っし!バイブスアゲてっか!バッチしキメたれ!」


 そして彼らがディーパーであった場合、今のは弾薬やガソリン補給にも近い一手。

精神は魔法の質に直結し、勝利と生存率を目に見えて左右する要因となる。


 あめく光は強くなり、そこはより堅牢な要塞と化す!


「また来る!」

「角度はァっ!?」

「さっきと同じ!南西!こっから見て10時!さっきよりえげちぃから気合入れて!」


 各人形越しに受け取ったデータを、人形の家で収集できる彼女は、次なる長距離砲撃の波を予報。

 

「“溺水塩害氾濫御供チャルウィシュト・チアトリクエ”!」


 シエラの海水層を先頭に、色も形も厚みも様々な壁が立つ。

 そこに小四水の効果増幅魔法が掛けられ、校舎の前を覆い尽くす積層防壁に。

 

 数百m先から、折り曲げられた飴色のゴムのような、高密度のエネルギー砲撃。

 山なりなせんでありながら、びょうちゃく


 それが海水面に触れた途端、それなりの体積が蒸発し、波打って抵抗力を緩和された上で、1秒もせずに次々と爆熱量が追い撃ち。

 背後に控えた複数枚のバリアシールドと接触、貫通し、いかずちめいて網膜に焼き付く。


「止まったああああ!」

「コジー!ガン攻めで!」

〈承知ィィイイイ!!〉

 

 虎次郎が壱百の眷属を投げ返し、それが小四水の魔法陣を通って肥大化。

 ビーコンの指定地点に誤差1m以内で到達。

 

 彼だけではない。

 屋上階に並んだ遠距離攻撃担当が、一斉に各々(おのおの)の魔法発光を届かせる。

 

「アサぽん!今行けそ!?」

『もうちょっと無茶振りでも受けてた所ヨ!』


 イヌ人形越しに辺泥へと通信。

 敵砲兵隊の横腹を突かせる。


 これがずっと続くなら、モンスターの数は減ってくれるが………


「ああっ!このっ、どんどん来やがるゴキブリ共!」


 アルパカ人形を持った生徒が人間の歩兵に対し、幾つかの魔法生成物を固めて一つにしたものを投げる。

 それははしを分離させた反動で加速と軌道調整を行い、一発で5人の頭を砕く。


「半端な異常者共……、ああ、すまない。今のはつまり、漏魔症だからという話ではなくてだな」

「今クソどーでもいいから!」


 精密射撃を行っていたその投手からの、暴言への弁明を切って捨て、六本木はもう一つの人形に繋ぐ。


「サトジ!どしたん!?どんどん東にズレてっけど!?」

『さっき言った通りだ!生徒会総長が東門を防衛している職員を救出に向かった!』

「東門!?」

『例の放送が見えてるだろ!チャンピオンを止められるのは自分しかしないと言い張って聞ききやしない!』


 確かに、明胤学園公式最強の生徒会総長と、暫定ざんてい同列な進の二人が、現時点での生徒側の最高戦力ではある。


 教職員は全域を守る為に散らばっているか、急所を守るべく持ち場を動けないかであるので、フットワークが軽い中で、最も派遣するに足る者は誰かと言えば、妥当な人選かもしれない。


 しかしながら、


「……っ、止めらんない感じ?」

『分かるだろう?』

「マジヤバ……!」


 そう、彼女には分かる。

 プロトは戦術でそうしているのではない。

 完全に私情で動いている。


 あの少女は、壱を助けたいのだ。

 それくらいには、分かりやすい。


 その真意が周囲にれると、士気を下げたり、身勝手を責めることで攻撃性が身内に向けられたりするので、ニークトも言葉を濁して報告している。

 そこまで正しく気を遣う彼が、「止まらない」と言っている。


 相当、周囲が見えなくなっていると、察するに足る応答。


「しんど……、しんどいね、プロち……!」


 ここは割り切る。


 プロトが属するパーティーが学園でも屈指の戦力なのは確かだ。

 乱心し、悪ふざけと言うには惨々(さんざん)過ぎる所業に手を染めたチャンピオン、あれを止めるのに適任なのは誰かと聞いて、彼らを向かわせることに理が無いわけでもない。


 だったらもう、そういう作戦というていで行く。

 流れに利用価値があるなら、全力で乗っかり勢いを借りるのだ。


「六本木だけど!正村聞こえる?」

『こちら正村』

「第一遊撃パーティーが東門救援行ったから把握よろ!あ、生徒会総長の判断な?」

『……了解した』


 彼にしては明らかに詰まった間があったが、それでも何も言わなかった。

 思う所があったが、今言うべきでないという、ニークトや六本木と同じ思考を辿ったのだろう。


「!」


 そこで受信。


『ごめんネ!負傷者が増え過ぎた!一旦退()くワ!10秒持たせて!』

「りょ!次のウェーブっから!」


 モンスターの砲撃の気配が、人形越しに伝わる。

 最近気づいたのか、それとも成長や深化の結果か、タヌキ人形は、他より敏感に情報を送りつけてくるのだ。


「方向はさっきと同じで!」


 何重の壁が立ち、校舎を守る。

 そしてまた間に挟まった建造物を迂回するように、上から飛び込んでくる飴色の帯。


 再びの激突。

 反撥はんぱつされ、液滴えきてきめいて飛び散り、雨水を水蒸気に変える飴色は、並んだ手持ち花火の下、土に跳ねる火のを思い出させ、


 その光景から覚める頃には、六本木の背は押されていた。

 肉体強化の中でも、静止・動体視力双方にけた狙撃役。

 それが反射的に、目の前の彼女を突き飛ばした。


 壁をぐるりと回り込み、校舎を削り取りながら飴色が通過したのは、


 わずか刹那、のちの出来事だった。

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