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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十二章:取り返しのつかないもの

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624.ただでは落ちない

「お前なら、そうだろう、ジュウベエ」


 ロベはライフルで何度か単射。

 どれも吸われるか弾かれるかするのを、驚きもせずに受け止める。


「お前は、出て来ると思っていた」

 

 正村十兵衛の技巧は、かつての戦場で彼の海馬に、強く刻み付けられていた。


 味方側から見ても鮮烈な、絶孤ぜっこの剣豪。

 そして底知れぬ大食漢たいしょくかんのような内なる猛獣を、従順に飼い馴らす圧倒的忍耐。


 “い”以外で、あれに勝てる人間など、片手で数えられる程度だろう。

 “千総フュージリアー”の力を借りている今であっても、安心などという概念は遥か彼方。


「だが、勝つ。俺は勝利する」


 ライフルを捨て、

 左手にT字型に近い短機関銃を、

 右手で腰の後ろに差した、短い両刃剣を。


「お前を秘匿区画に戻さないことが、俺の役目だ」


 逆手に持った右の魔具、その柄を通し、剣身に魔力を抽入。


「“単一にして不可分レトール・シュープレーム”……!」


 完全詠唱。

 ただしそこに、決められたハンドサインやジェスチャーは伴わない。

 

 これは訓練の成果であると同時に、彼の思想と「決まりきった儀式」との親和性が低いからこそ、という側面もある。


 刃渡りに磨き抜かれた鉄のようなものが糊塗ことされ、側面に弾閃だんせん飛び雨空あまぞらが映される。


 ペンタブラックから彼を狙って、弧状の剣閃が飛ばされる。

 飴色を発するチェーンが伸び、ライダーがそれを振るって迎撃。


 それでも止めきれない。

 斬撃はロベに届く。


 短剣がそれと十字に交わるよう防御。

 その時、剣の色はペンタブラックと飴色の2色に変化。


「衰えたな…!」


 切り払い、止まらず直進。

 間合いまで残り5m、


「俺の“劣化品”で、魔力量で、足りるぞ!」


 1秒を更に何分割にもした、カンマ単位の時の中で、


 すれ違いざま、二人は剣で語り合う。


——ぬしほどの男が、何故なにゆえ


 ペンタブラックの剣圧。

 喰らおうとすれば同じ仕組みで喰らい返され、刃先を通されると確信していた十兵衛は、“発散”で、溜めたエネルギーの解放で受けて立った。


 同色がぶつかり、エゴの押し付け合いとなる。


 片や極度の疲労状態、片やill(イリーガル)との共闘。

 これにより、膂力や技量では互角程度にもつれ込み、

 瞬間に限り、精神論的世界観が具現化する。


 ロベと十兵衛、どちらの思い込みが強いか、

 それだけの勝負。


——お前達は、人を“恐れ”から遠ざけ過ぎた

 

 先鋭化した正義感と、研磨された業突ごうつり。

 

——恐れなき徳ほど、無力があるものか

 

 それらは、けれど天秤を微動だにさせなかった。

 全くの同格、同レベル。

 覚悟から妄執まで、どちらも同じだけの深度を持っていた。


 鍔迫つばぜり合いは、彼らに勝敗をつけなかった。

 両者の渾身に、優劣は無かった。




 だが、戦いの行方は決めた。




 背中に手を回して発砲した短機関銃。

 その弾丸が飴色に染められ、肩を通って剣の上を滑り、防御の内側に入り込んだ。


 纏っていた装備によるまもりは全てが弾けて光り、やぶぐちから散った絵の具が、モノクロに赤という極端な色彩を足した。


 剣速が大きく低下。

 砲撃だけを切り伏せるのが限界で、小振りな弾頭に引き千切られていくのを、誰も止められはしなかった。


「将をったぞ、ワースト、スタッグ」


 肉の端まで飴色に洗い流されるチャンピオンを見届け、彼は独白する。


「あとは、お前達が上手くやれば、俺達の勝ちだ」


 


——————————————————————————————————————




——ぬしも見てきただろう?あの“可能性”達を


 目を瞑り、その言葉を胸に宿す壱萬丈目。


——い先短いチャンピオンと、あれら

——どちらかしか助からないのなら、我は後者を選ぶ

——あれらを一つでも多く残す為、この身の残りを捧げるのだ


「あの方らしい物言いだ」


 彼はそう微笑む。

 

 国に益を与える、その道具としての最適解。

 全体の指揮系統が乱れ、生徒の被害が拡大するのを、老人一人の命で止められるなら、安いもの。


 あまり褒められた価値判断でもないが、そういった狂気がなければ、ダンジョンに追われる人間が、「平和」な国など作れない。


 壱萬丈目もまた、人の命をはかった側だ。

 有効な“使い方”を、計算した側だ。


 その答えとして、自分を支払えば得だと、気付いてしまった。

 個人単位では損な役回りだが、それもまあ仕方ない。


 もっと楽な道があったのに、自由意思でここに来たのは、彼の方だ。

 弱さに負けて、自分勝手でいることで得る、気分にも心情にも耐えられなかった。

 

 おおやけの為に、そのお題目に逃げた者は、最後までそれに従うべきなのだ。


 縦穴を降りてきた、銃砲の化け物を見ながら、十兵衛が持参した、パンチャ・シャンの伝言を思い出す。


——出来れば死ぬな

——あんたの後任を見つけるのには、難儀しそうだ

 

 怪物と目が合ったような直感と対した時、

 彼は彼なりに答えた。


「すまないな。私だって、死にたくはないんだがね」

 

 コンソールに取り付けられていたカバー、

 上げられたそれの下、穴にされた鍵を回す。


 最終的戦略手段用動力源として、床部ゆかぶに埋め込まれていたカートリッジ群が一斉に活性化。

 魔法陣回路にエネルギーを流し、莫大なエネルギーを発生させる。

 

 閃光の中で壱萬丈目が考えていたのは、死の恐怖のことだけ。

 残された者達については、心配していなかった。


 彼のような狂人も、

 正村のような強者も、

 まだまだ居てくれている。


 明胤学園を見てきた彼には、その確信があった。

 案ずることなど、何も無かったのだ。




 王と金が取られた。

 だが銀将が、指揮を引き継いだ。




 獲られた端から首がげ代わり、明胤という体を動かし続ける。


 いつでも、誰が死んでも回るように、


 それが、丹本国公的機関における、基本理念である。


 その様はまるで、頭が幾らでも生え変わる、


 神話上の多頭生物であった。

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