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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十二章:取り返しのつかないもの

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623.ヴィンテージものの欲の皮

 穴。


 穴がある。


 四角く切り出された、如何いかにも人工的な穴。


 人はどうして、穴があると、覗き込みたくなるのだろう。

 下がどうなっているのか、見てみたくなるのだろう。


 きっと、想像力があるからだ。


 そこから何が出て来るか、分からない。

 普通は何も出て来ない。でも、穴が開いているのを見ているだけでは、言い切れない。

 

 「分からない」ことが、分かってしまう。


 だから、覗いて、確定させる。


 そこには何もいない。

 どこにも繋がっていない。

 空っぽの穴だと、はっきりさせようとする。


 怖いから?

 それもある。

 でも、期待しているから、かもしれない。


 穴から出て来るのは、悪いモノばかりではない。

 人生を良い意味で激変させるような、思いもよらない財宝があるかもしれない。


 箱の中の猫が、生きているのを期待するように、

 黄金に変わっているのを、願うように、


 人は、穴を覗く。

 何があるのか、見ようとする。

 

 想像は、自由だ。

 目で見るまでは、そこに無限が確かにある。


 では、見なければ自由なままなのか?

 いいや、期待するほど、恐怖するほど、見ずにはいられなくなる。

 人は穴の中身を好きに考えられても、それを見ること自体はやめられない。


 その者達も、そうだった。


 敵が、

 恐るべき力を持った、怪物達が立っていた地点。


 奴らが消えた場所に、穴が開いていた。


 彼らは、吸い寄せられるように、そのふちへと並んでいた。

 すくむ足は、それでも確かに、それが見える場所へと、誘われていた。


 彼らが集まったのは、人生を取り返す為だ。

 自分が持ち得なかったものは、永遠に喪われたものではないと、それを証明する為だ。


 あるかもしれない、一発逆転に賭けた者達。

 穴を覗かないという選択肢は、彼らにはない。

 有り得ない。


 2000年前、史上初めて開いた“それ”を、万難を越えてでも覗きに行った誰か。

 その人間と同じように、

 彼らはその下に、

   かがやかしき未来をかして、

      あるいは許されざる大敵を予見して、

                首を伸ばすように、

                          見た。


 

 

 光。

 強過ぎず、もやが掛かったようなそれが、大きくなったり小さくなったり、周期的に目の前に来ては、過ぎていく。


 尾を引く彗星。

 そこにあったのは、夜空。


 彼は見惚みとれていた。

 その輝きを、もっと良く見ようと、目をらしていた。

 

 首を巡らせようとしても、上手く回らない。

 と、そう考えた時、頬に当たる雨風あめかぜが、自分の頭が動いていることを、教えてくれた。


 ぬるい流れは右の頬から顔を撫で、そして左へ。

 耳から髪をくしけずり、頭の後ろから右耳へ。


 回っている。

 回って

 回っていたのは、


 彼の方だった。


 永劫えいごうに近い時の中、

 彼は自分が落ちているのだと知った。


 そして痛みもなく、ただ茫然と、流れ星の心地にふけっていた。


 サッカーボール大の物体が管制室の床に叩きつけられ、熟れた果実のように赤く潰れても、そこに居る者達は振り返りもしなかった。


 じきに自分達は、あれより酷い有り様になる。


 地上では、さっきまで隣で息をしていた男が、首から上を穴に喰われたことで、何人かが腰を抜かしていた。

 そうでない者も、唐突な刑死に動揺し、そちらを見た。


 その隙に反対の端から、老爺ろうやがひらりと紋付もんつきばかまひるがえす。

 

 5人。

 その所作で、人の形を喪った者の数。


 度胸を持った者が銃を構えようとして、音も目に見える運動もなしに、間合いをゼロまでえぐられた。


 驚いて飛び退いた彼に、老人は構わず去っていく。

 その背中を撃とうとして、ゴトリと頭から地面へと倒れ込む、否、頭が地面へ墜ちる。


 20人程度の一団が、綺麗に切り分けられ、並べられた。

 

 刀身を一切見せない腰のものを、そこで初めて抜刀した状態で静止させる。


 ペンタブラックの湾曲が、体の前に斜めに置かれる、正眼せいがんの構え。

 そこに飴色の巨砲弾が衝突し、僅かな火花を覗いて消滅。

 の表面が、一石を投じられた水面のように、波紋を広げ、すぐにしずまる。


「飢えるか?“かげまさ”……」


 ぎ、いいいいいい………、

 金気かなけの研磨音で返す愛刀。


 抜けば玉散りつゆを斬る。

 妖刀“翳正”、

 んだ貪欲どんよく


「見せてやろうぞ、“正村”を」


 飴色の矢衾やぶすまがマッハ単位の性急さで老人を撃つ。

 応手おうては、「刀の傾きを変える」、それだけ。


 ほんの最小限の動きだけで、命中すれば致死の豪雨を捌いていく。


 そこに近寄るは、砲身の群体。

 一発撃った直後に、別の砲からもう一発。

 それを続け、一体あたり毎秒10発を超える、殺戮の大嵐おおあらし発生装置。


 減衰を噛まさずに、近距離で当てようという心積もりで、攻め手を止めもせず踏み込んで来る。


 更に学習したのか、爆風と破片を攻撃力とする榴弾を、直撃させるのではなく周囲の床に当てることで、破壊力によって取り囲み、閉じ込めるアプローチも織り交ぜられる。


 加えて、オルガンのパイプで作ったヘリコプターといった風貌ふうぼうの者達が、真上と背後を取り、徹甲弾、ミサイル、そして火炎放射に似た噴射攻撃を浴びせ、足場を破壊しつつ穴の下へと攻撃を届かせようとする。


 老人は、ただ、耐える。

 自らに襲い来る全てのエネルギーを刀で受け続け、その殆どを無効化し、


「ぬう…!」


 時折ときおり鞘に戻して抜刀、それを高速で繰り返す。


 体幹は根が張ったように頑固で、一方両腕と刀身は分裂したかの如く稀薄化きはくか

 霧となって球面状に彼の周辺を満たし、一発、一波いっぱも届かせない。

 

 


 彼は刀、

 斬撃の化身、

 希求ききゅうの末に起こった引き算。


 


 同じエネルギーでも、全面に掛けるのと、範囲を線上に限定するのとでは、働き方が違う。

 この魔法は、強さを求める彼の凶暴性、それを狭く凝縮し、“破壊”を“破断”に変化させたもの。


 正村十兵衛という男は、求めないこと、清らかであること、それを美徳としているのだと、表面的には思われる。

 が、その本性では、彼は強欲を否定していない、どころか正面から肯定する。


 欲望はエネルギーであり、あればあるほど良い。

 真に肝要なのは、それを御することで清廉さを保つ、その精神性。


 欲望は大きい事が問題なのではなく、コントロールできないことがよろしくないのだ。

 高い練度が、出力を絞る純粋さがあれば、強欲は呪いではなく、生きた能力となる。

 

 欲に溺れず、力に使われず、その発散を研ぎ澄ませる。

 鞘に納める動作も、自身の理性による制御が保たれていると確かめ、魔法の威力を上げる儀式。




 という説明すら、建前。




 彼は、もっと浅ましい。

 闘争に明け暮れた先で、より高い、もしくは深い絶頂を欲しがり、そして「焦らす」ことを覚えた。


 えて禁欲するかわきの時間を作ることで、より鋭い満足感を。

 ゼロから跳ねるだけでなく、マイナスから突き抜ける高低差を。

 ただ守る、手に入れるだけでなく、奪われてからそれ以上の収奪しゅうだつを。


 彼の魔法は、発動の間隔が空くほどに「飢えて」、その胃袋の底が抜けていく。

 そして、いつか来る戦場を待ち侘びて、その快楽を最大化する為に、無意味な“暴”を振るうことなく、最悪の時まで静かにす。

 

 すなわち彼は、世界のあらゆる戦力の中で、破壊力と制御のしやすさのギャップが、最も著しい便利な駒。


 彼は彼の嗜好の為に、然るべき時まで決して立たず、動かない。


 そして一度ひとたび抜き身となれば、


 彼の欲深さは、他者から投げられた害悪すら、自らの糧として喰らい尽くし、圧延あつえんして剣閃へと変じさせる。

 

 弾幕を吸収し、別の攻撃と相殺そうさいし、時に斬撃状の光熱こうねつりきとして飛ばし、

 敵も、その攻撃も、討ち滅ぼしていく。


 高質の身体能力強化と、重厚な理論と、経験に裏打ちされた技量。

 それらが張り巡らす防御は、

 まさに無敵。

 

 けれど、無制限ではない。

 決して、限界が無いわけではない。


 新鮮で鋭敏な快楽にも、じきに飽きが来る。

 鞘に納める「おあずけタイム」を挟んでも、それには必ず直面する。


 特に、それを得るのが億劫おっくうになるタイミング。

 楽しみや心地良さより、疲労が勝る極大点を過ぎると、“遊び場”の全域が色をうしない、欲が減退、魔法が鈍っていってしまう。


「いつまでも、若々しくは、いられぬ、か……!」


 その限界が、これほど早く見えてきたのは、

 寄る年波、ということなのだろう。


「矢張り、この辺りが潮時しおどき、というわけだ……」


 自らの取捨しゅしゃ選択せんたくがんに狂いはなかった。

 それを確信した時、


 飴色の波をくぐるモーターボート。


 違う、あれはバイクだ。

 下半身が二輪で、上半身が人型の銃身束じゅうしんたば

 

 特殊部隊のアーマーにも、戦車の装甲にも見える体表に、弾を通すらしい管が幾本も走り、それがバイクの外装に沿って、マフラーとして後方に伸びている。

 防弾ヘルムの下から、並んだ銃口が突き出ている方か、それとも大きなヘッドライト一つか、どちらが顔に当たるのだろうか。


 ケンタウロスに殺意を過積載したような姿のそれが、10台ほど機関銃を撃ちながら突っ込んでくる。


 ローカルの影響だろう、同士討ちフレンドリー・ファイアは起こっていない。

 斉射は確実に車列を迂回している。

 

 痺れを切らして、より直接的な方法をったか。


 返り討ちにする気全開で、最後のギラつきを搾り出す正村の目が、


 1台、他よりサイズが大きい個体に止まる。


 よく見ると、体が膨れているように思わせる、その理由がよく分かる。

 それは全地形対応の4輪バギーであるだけでなく、二人乗りだから体積が広いのだ。


 ライフルを携えた、戦闘用フルフェイス防弾ヘッドギアをかぶる、“人間”が後部に同乗しているのだ。


 装備の良さから、どう見ても雑兵ではない。


 あれは、もしや、


「こんなところで、ぬしまみえるとはな、ロベ・プルミエル」


 敵の首領。


 騒動の火付け人。


 そして、かつて正村とも肩を並べて戦った、


 誇り高き戦士であった筈の男だ。

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