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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十二章:取り返しのつかないもの

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620.また会った………ど、どちら様?

 硬度など関係なく、抉り掘る。

 手を持ち上げるごとに、地下に隠した設備を持っていく。


 明胤学園正門に現れた巨大変身能力者は、進路上の全てを自分の一部として取り込むことで、防御無視の破壊を進行させながら、中央棟付近へと迷わず直行している。


「ィィイイイイイイイイ」


そのサイドでギリギリ高さを保っている建造物の外側を駆け巡る者()り!


 オットー!

 吸盤で壁に付着しつつ、体を前に持っていき、自分の後ろに位置した蛸足は伸ばすことでバネ的推進力として、まるで海鮮車輪のように直角走行!


「イェアアアアアアアアアアア!!」


 勢いをつけて屋上の端からジャンプ!

 敵の上を取った!


 取っ手と刃を取り出し組み合わせて薙刀なぎなたに!

 それを首の後ろらしく見える箇所に触手で突き立ててから魔具機能起動!

 圧縮気体を噴射して内部から破裂させようとする!


 直後、先端からモゾモゾと入り込まれる感覚!

 爪の間を掘られるが如し!

 

「コイツ……!」

 

 彼はそれを知っている。

 末端が自分のものでなくなっていくこの怖気おぞけを、体験したことがある!


リズニマタ来タノカヨ!?」


 “感染”した蛸足を切り離して跳び離れる!

 融合と分離。

 敵と一体になる能力と、自分から任意の箇所を分離させる能力。


 彼がちょうど1年前の同じ頃、中等部主任のジャミーラと共に殺した筈だ!

 

「ナンデ、クタバッテネーンダ!テメエ!」


 別のビルからもう一回アタックを入れようとして、その巨体から体毛が生えているのを見る。

 言うまでもなく、それは毛とは違う。


 電線だ。

 そいつが通過し、取り込んできたものの一部。

 電極部がバチバチと水滴に過剰反応しているそれらが、掃除機のコードめいて伸長。


 一斉にオットーへと襲い掛かる!


「ソウイウコトモデキルッテカ!?」


 蛸足からナイフを投げて応戦!

 だが撃ち落とし切れない!

 シールドに受けながら一度離れるしかない!


「オイ!マダカ!?誰カ寄越セ!」


 攻撃してきた何者かに注意を払って歩みを緩めるという事もなく、オットーが管制室に無線を入れる間も、決められているかのように進んでいく。




 蚊に刺されても気付かぬ人間か、進路一つで大勢を惑わす台風のように。




 その正体は、かつての“壊し屋”、ナイニィ。

 本来は二人一組、一心同体の相棒と共に、「融合する」能力と「分離する」能力をセットにした魔法を使用していた。


 だが明胤学園へ襲撃を掛けた際、く敗北。

 そこで死んでいた筈だった。


 偶然か、執念か、絶命の直前、彼女は魔法によって、自身の記憶を、物語そのものを、の器に移し替えることに成功した。


 「取り込んだものは自分そのものとなる」性質を利用し、最初は地面に、そのまま地下に、様々な場所をつたって、リレーのバトンめいて意識を逃がしていった。


 そして、魔力が切れる前に、ディーパーでない人間へと到達。

 魔学回路を完全移植。


 本来記憶によって形作られるそれによって、逆に相手の身体の記憶を塗り替える、というあべこべの暴挙を完遂した。


 だが、二人分の記憶による合作魔法、その魔学回路から逆算的に作られた人間は、二つの人格を上手に分離させることが出来なかった。

 その逃走経路のアイディアを出したナイニィをベースとして、ほぼ一人分に統合されてしまったのだ。


 以来、彼女は一人である。

 便宜上“ナイニィ”と呼ばれるが、それは最早、“口付けは御預けよ(シックス・ナイン)”と名付けられた魔法が、人の構造を得たに過ぎない。


 生ける魔法。

 肉を操る物語。

 力を行使するだけの残響。


 それが今のナイニィである。


 元来が混ぜこぜ人間なので、自らの身体感覚変形に、抵抗感が極めて薄い。

 その為、大きな質量を取り込んでも、自分の一部として平気で振り回せる。


 「人間」と呼べない形になったとしても、逃げていた時はずっとそうだったのだから、まるで気にならない。

 最終的に、アクセス可能な脳味噌さえあれば、魔学回路は生き残る。


 回路が残れば、魔法も稼働し続ける。

 

 また、彼女が巨大になるほど、回路も広がっていき、それは魔力出力を上げる。

 この野放図のほうず増築的巨人形態は、効力と効果範囲を引き上げた結果、成立した。


 限界はある。

 だが人のそれよりは、遥かに高い天井。

 

 変身魔法は、自己同一性を担保する為、通常はあまり人間から離れられない。

 その弱点を、ほぼほぼ無視している。

 

「血管トカモアンノカ…?アルンダロウナ似タヨウナモンガ」


 先程の電線の自在さを見るに、魔法によって体内にエネルギー運搬システムが作られており、取り込んだだけのパーツであっても、筋肉のような緻密な蠕動ぜんどうが出来るようになっているのだろう。


 人格は肉体に宿り、肉体は人格で変えられる。

 だからもう、人間の一個体としての意識は、ほぼ消えかけていると思われる。


 ある意味で、似たような生態を持つ、全く別種の生物とでも言える状態に、変わり果ててしまっているのだ。


 たとえバラバラにしてやっても、欠片一つでも残ってしまったら、地面に魔学回路を移植し、それがまた別の地点と融合・分離して乗り移るのを繰り返し、そのまま乗っ取れる人体があるところまで逃げていく。




 そして脳が、“意識”が手に入ったら、もう一度膨らみ始めていくのだ。




「コイツ、俺ダケジャ止メランネエゾ!!」


 これほどの巨体を一片残らず満遍まんべんなく殺せるような効果を持った魔具は、BCD兵器——生物兵器、化学兵器、特異窟生成兵器といった、3種の大量破壊兵器の総称——に当たるとして、丹本国はその所持・使用を禁止されている。


 自前じまえの魔法能力が偶然状況に当てまった適任者を呼ぶか、数に頼るか、問答無用の強者を連れて来るか。

 この巨大変身能力者を倒し切るには、どれかしかない。


「ン……?」


 無線。

 増援通知。

 と言っても数人だけだが、


「……イイノカヨ?」

 

 その中に意外な名前があった。


「マア、蓋ヲ引ッペガサレチマッタラ、処置ナシダッテコッタナ……」


 この学園は、模擬戦用アリーナや警備管制室以外に、地下にもう一つトップシークレットを抱えている。

 そこにアクセスできる人間は当然限られ、秘密保持の為に警備も最少人数にならざるを得ない。


 非常勤のオットーには、それが何かまでは知らされていないが、とにかく丹本という国にとって、総理大臣よりも守らなければならないものが、ここには埋められている。


 そこを守れる、そして“それ”が起こす「万が一」を押さえ込む為の貴重な戦力を、こちらに回すと言われたのだ。

 国家機密の防備を薄くしてまで、たすけてくれるという有難ありがたい申し出である。


 思い切った采配だが、踏み切られた理由は幾つか考えられる。


 ナイニィはどうやら、地面の下の配線やら魔法陣回路やらを破壊しながら這っている。放っておいたら、“それ”を覆っている地盤まで剥がして、外気にさらしてしまうかもしれない。


 そうなった時、触れて欲しくない場所に、大量のテロリストが雪崩れ込むことになる。

 大きな出入口を新たに開設されたら、少人数で守ることにも無理が生じてしまう。

 

 だったらそれをやられる前に、ろうという決がくだったのだろう。


 そしてもう一つ。

 避難民の命が脅かされ、生徒達まで前に出ているこの状況。


 外部向けの地図にしか載っていない場所で、学園側の人間が身を隠すという行為は、国防的には正しくとも、後々に遺恨いこん禍根かこんとして波及する。


 そういう心理的な側面にも配慮した結果。


 


 と言っても、“情”があることを否定しきれない。

 そこに、生徒達への罪悪感があるのではないか?と。




 国は、国という総体を生かす事を考えなければならない。

 数十、数百人を助ける為に、全国民に影響が及ぶほどの損害を容認するのは、本末転倒とも言える。


 一方で、では少数派に全てを押し付けていれば、それが健全な社会なのかと問われれば、それも分からない。


 今分かるのは、明胤のお偉いさん共は、どいつもこいつも世渡りが下手で、隙あらば下々(しもじも)よりも前に出たがる、ということだけである。


「マ、雇イ主ダカラナ」


 蛸足車輪で棟を渡り、ナイニィの進行方向300m地点、一足早く到着していた教師と合流する。


「ソレガ感傷ダロウガナンダロウガ、乗ッテヤルサ。貰ッタ金ノ分ハ、地獄マデデモ」


 待っていたのは、奇遇にもジャミーラだった。


「ヨウ、リベンジ受ケテヤロウゼ。因縁ノ再会、ッテヤツミタイダシナ」

「あれれ?知り合いドス?」

「覚エテネエナラ、テメエノ口デソウ言ッテヤレ。『テメエナンカ敵デスラネエ』ッテヨ」


 一度殺した相手である。


 彼ら二人が、また終わらせればいい。


 本命の駒が、本来の持ち場にいち早く戻れるように、


 ここまで来る手間を省いてやるのだ。

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