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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十二章:取り返しのつかないもの

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616.帰れ!

 両手を前にかざすと、小さなくいのような合金パーツが、空中に一斉固定される。


 集めて固めれば遊具でも作れそうなほどの量。

 それらが亜麻あまいろに優しく包まれ、前進のベクトルを奪われ、その場に振りかけられたみたいにパラパラと落ちていく。


 壱の魔法、その八文字詠唱。

 これにより、東門は損傷を大幅にまぬがれていた。


 同僚達もかつて見なかったほどの、高出力使用。

 重機関銃でも止められる能力である為、歩兵火器相手なら無敵と言える、筈だった。


 だが——


「あまり……持ちませんね…!これでは……!」


 敵が放つ運動エネルギーが、見た目と格段にへだたっている。

 無論、実態の方が強い、という意味で、だ。


 地面に落ちて、溶けるように消えていく銃弾。

 それが何か、異質な破壊力を持っていると壱は感覚していたが、そこへの詮索せんさくに使える頭の余白は無かった。


 過不足なく、針に糸を通すように精密に、効果の強度を調整する。

 それで手一杯。


「殲滅を急いでください…!あと数十秒が限界です…!」


 その頭上を巨岩が通り、爆発拡散して小さな破片を雨に混ぜる。

 背後から槍が投げられ、敵戦闘車両に突き刺さって内部から膨張させる。


 学園の敷地を囲む塀、そこにめ込まれた強化ガラスは、魔力障壁で守られている上にマジックミラー構造。


 内側から一方的に相手を視認し、遠隔攻撃魔法を山なりに投げ込むという、ただでさえ有利な守備側を、より一層堅固にする優れもの。


 “純粋自由派モンタグナルド”側の火力は、シールドに守られた分厚い壁でさえ破損させるほどだが、それでも攻め落とすのには遠い。


 明胤学園内だけで、小国の国家権力に匹敵する戦力、そう称されることすらある。

 世界最高峰の潜行者集団の呼び声は、伊達ではない。


 テロリスト実行犯として選ばれたのは、ディーパーですらなく、銃の扱いすら慣れていないことが丸分かりな素人。


 防衛隊を牽制するには丹本国民を使わなければならない。

 世直しの真似事をやらせるには恨みを募らせていなければならない。


 それらにぴったり当てはまる駒が、漏魔症罹患者達。

 

 だが様々なことに対策するあまり、肝心な点がおろそかになっている。


 単純な戦力として、明胤の門を抜く事ができない。

 未知の銃砲をたずさえたところで、踏み入る資格を強盗ごうとうできるほど、彼らに戦闘能力が足りていない。


 被害も損害も、小さくないレベルで出た。

 だが勝ち方の問題。

 負けはしない。

 

 “純粋自由派モンタグナルド”にとっては、死に物狂いの全力強襲。

 教員からすると、小競こぜり合い感覚。


 だから、小さなミスにも気を張って、手から水を漏らさぬように、丁寧に戦いを畳むこと。彼らが考えていたのは、そういった事柄であった。

 

 壱が限界まで銃撃を無力化。

 それから一度、門の向こうに引っ込み、魔力が充分溜まったら再度、防御位置へ。

 

 魔法攻撃の激しさを緩めず、あと一歩ですらテロリスト達を近づけさせない。


 そのルーティーンを正確に実行することで、完全試合を目指していた彼らだったが、


 崩れたのは、予期せぬ方角。


『正門周辺に高エネルギー反応!この不安定性は、魔学エネルギーです!』


 耳に付けたインカムから流れ込む、オペレーターの驚愕。


『変身魔法!?それも、あんなに大きいヤツ…!グランドマスタークラス…!?』


 次に来たのは足の下から。

 景色がブレて、全員が跳ね上げられるほどのおおれ。


『敵戦力、正門を突破!』   『職員3名との通信が途絶!』

   『目的地は!?』  『南側防衛設備が魔法能力に侵蝕されています!』

『そのまま中央棟を目指して直進中!』

             『正門担当パーティーは一時後退!』

 『避難民のシェルター収容を急がせろ!』 『防衛線を再構築してください!』

      『巨大変身能力者!再度進行を開始!』

『他の防衛戦力から応援を!』     『集団流入を止められません!』

 『駄目だ!      『該当区域の警備システム、正常に動作しません!』

  それで別の門を突破されれば元も子もない!』

  『これの撃滅の為に予備職員の投入を!』  『生徒達への連絡急げ!』

『学園長!御決断を!』   『地下秘匿ブロックのセキュリティ一部停止!』

  『“彼処あそこ”をがら空きにしろと!?到底承服(しょうふく)しかねる!』

 

 ここからだと、湿潤の幕と施設の林立に覆われていて確認できないが、状況が転がり落ちていることはよく分かる。

 

 正門の守りが破壊された。

 そこから洪水のように、敵が雪崩なだれ込んでいる。


 壱はさっと視線を走らせ、こちらに残された余裕を計算。

 2、3人程度なら、子ども達へのたすけとして送り込めるか?


 能力の維持限界の為に、一度遮蔽裏へとし、魔力回復に努める間に指示を出そうとして、鳴り止まない連発音の中から、やけに規則正しいひとつなぎを聞き分ける。


 撃ち切られたら止まる銃声と違い、間隔を大きく開けることなく、時と共により大きくなっていくそれが、背中に冷たい結露けつろを浮かばせ、その頭を押し上げる。


 視界に入ったのは、雫が幾つも糸を引いて、編んだ光を曲げる幕の向こう、鋭い翼を左右に持つ鉄の蜂が、こちらに向かって来ているところ。


「戦闘ヘリ…!?」


 それこそ、一体どこから運び込んだのか。

 さっきまでどこに隠されて、どうしてここまで素通しされているのか。

 

 わけが分からないことだらけの中で、その頭の下、腹とも言えるかもしれない箇所にぶら下がった、長細い筒を束ねたえんりんが、くるりと前後軸の周回を開始した。


「身を低く!急いで!」


 声が発されてから、両サイドの職員の耳に届くより早く、右の壁が瞬間数十発をぶつけられて穿孔せんこう突破。

 そのまま大口径と手数の暴力は一文字型をなぞり、城壁の裏表を開通させていく。


 更に翼からぶら下がった多連装砲から、ミサイルが狙いなどつけていないとでも言うように乱発。

 だが地面への衝突直前、それは直角を超えた方向転換を見せ、人間達へと執拗に口付けしにいく。


「まさか…!」


 魔法でそれらを止めながら、壱の目はヘリコプターの操縦者へ。

 そこはよく見るとガラスで覆われておらず、ハンモックでくつろぐのと同じ格好で、一人の女が寝そべっていた。


「いいね!じゃあ次は、これをされたら、どうするかな?」


 「ジャッジャッジャ、ジャーン」、

 彼女がまるで指揮者のように、両手で盛り上げるような仕草を見せると、


『そんな……!?』『今度は何だ!?』

『正門付近に、特異動体らしき反応出現!』

『なに!?』

『こんなの、さっきまでどこにも…!?』


 モンスターが湧いた。

 ダンジョンも無しに、突然。


 それを為したのが誰か、この場に居る者にとっては、問うまでもない。


「奴が……!」

「HA-HA!命日(Happy)おめで(Death)とう(Day)!」


 女の右手に、肥大だが構造は単純化されている銃器が生成。


 それが火を噴き、


 飴色の弾道がぐるぐると、


 ボールペンのインクを出そうとする執拗しつようさで、


 灰色のキャンバスを自由帳に変えた。

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