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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十二章:取り返しのつかないもの

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615.あと何人繰り返す?

 大気にノイズを走らせるように、乱れる空模様。

 8月の熱気が籠る地面にぶつかり、けぶ滾々(こんこん)


 深夜、古いテレビの画面を埋める砂嵐のように、静かな雑音が降りめる中、

 雨打際あめうちぎわを撥ね散らかし、雫を吸ってピシリと冷えるすそや靴下。


 「邪魔を壊す」、その機能に特化された筒を、宝物のように抱える一団。

 傘を持たない彼らは、全身を覆い尽くす不快から逃げるため、屋根のある建物へと一目散に向かっているようだった。


 だがその実のところは、標的を探しているだけ。

 これまで胸に溜め込み、つかえ続けたおりのヘドロを、嫌いな奴の顔面に吐きつける。


 それをしたいというだけで、彼らは命のことすら忘れて、足を必死に動かしている。

 「壊していいもの」を求めて。


 靴がふやけ始めた頃、事前に受け取った地図で指定された、一つの建物が見えてくる。


 あれだ。


 あの、見るからに偉そうな、札束を呑んでブクブクと肥えて見える、「金持ちの道楽」のような1棟。


 あれの中を、彼らは目指している。


 溺れそうだと錯覚する高湿の中、夢でも見ているみたいに思い体を前に押し、巨悪の根城ねじろに突進する。


 先頭の男が後ろに転ぶ。

 足の先で綺麗なアーチを描いていたのを見て、盛大に足を滑らせたのかと思っていたが、そう思うには吹き飛び過ぎで、いつまで待っても立ち上がろうとしない。


 意識を失いかけている。

 そう見た時、前列の人間が次々と、壁にでも激突したかのように卒倒そっとう

 

 ただでさえ悪い足元に、急に成人男性が転がったことで、走行の勢いが阻害され、後ろがつっかえていく。


 20人ほどで構成された先頭グループ、彼らは謎の爆発によって、360°包囲され、集合させられていき、そこにライトイエローの道が繋がる。


 スパークと、水溜まりが泡立ち弾ける音。

 

 バタバタと倒れていく彼らに、隠れていた人影が群がり、拘束していく。

 一人が道に隠されたパネルを開いて操作すると、地面から防衛用の壁がり出す。

 

 魔法陣回路で強化されたその陰で、他のメンバーが銃器を回収しようとして「!?捨てて!」一人が警告。


 直後、押収された武器が爆発。

 何も残さず溶けて消える。


「証拠隠滅機能!?」

〈どんだけヤクいネタなのヨ!?バックがデカいこと確定じゃないノ!〉


 銃火器をここまで揃えていた時点で察せられることだったが、これでもう疑う余地が無くなった。

 かなりの力を持つ組織、それこそどこかの大企業や国が保有するレベルの何かが、こうなるよう仕向けている。


 丹本という国に対する、大規模攻撃。

 単なる夢見がちな貧民革命ではなく、大富豪の策略だ。


「次が来る!ライト・ナウ!」

「応戦しろ!」


 後続の数十人が追い着いた。

 道の真ん中で突き出ている謎の遮蔽物を前にして不審に思い、その後ろで味方が倒れていると知ると、何らかの兵器なのかというところまで考えが及ぶ。


ならば壊すと単純な思考の切り替えが行われ、トリガーが引きっぱなしにされる。

 

 ビスケットが鼠にかじられているみたいに、壁が驚くほど簡単に削れていく。

 魔法による物質的、エネルギー的障壁が何重にも張られて止められるが、それらも数発で突破されてしまう。


 最も有効と思われた、水色のバリア。

 それすら数発で破られていく。

 

 彼らが持つあらゆる守りが、障子紙しょうじがみめいた頼りなさとなっていた。


『サトジ…っ!?ちょっ』

〈いいや!待たん!〉


 その銃列を横から襲ったのは、人を超える体躯を持った猛獣。

 厚い毛並みが雨水を破きながら、ゴワゴワした白の背景に残像を払うさまは、水墨画の如き幽玄さを持っていた。


 暗雲の下でも燃える赤金が通り過ぎると、小銃が次々と割断かつだんされていく。


 それを止めようと銃口が向く先が散らされ、その隙に壁の後ろから魔力・魔法弾が飛ぶ。


 だがそうしているうちに、次なる一団が来る。

 その前に、学園が手を打つ。


 あちこちで防御壁カバーリング・ウォールが起動、身を隠す場所を生徒達に与える。

 管制室で遠隔操作を行ったのだろう。


 身をかがめてその裏に張り付き、次の行動を吟味する。


 避難民や総理を守る為に配置された、防衛用兵力と異なり、彼らの役目は遊撃である。

 敵の脇を食い破る、それが運用思想。


 後ろが安心だと思っている者と、そうでない者。

 どちらの軍勢が、スムーズに敵地を攻略できるのか?

 その答えは火を見るよりも明らか。


 なので、敵の殲滅よりも、一撃離脱を繰り返し、存在感を示し続けることが、優先される。


 特に、相手方に囲まれる中を駆け抜けながら、長く生き続け、戦闘不能にならない。

 それが求められる為、機動力と攻撃力に優れ、この学園でも屈指の実力であると証明済みの、特指、八志教室から人員が選ばれた、


 というのが、表向きの建前。


 実際のところこの人事は、反発や猜疑さいぎしんといった味方内に巣食う不和を、最小限にする為の工夫だ。




 何故なら、敵が漏魔症罹患者だから。




 自分達を殺しに来るのが、どんな連中なのか。

 それが知れ渡った時点で、進を見る目に疑いの色が浮かび始めていた。


 「こいつはグルなんじゃないか」、「そうでなくても、容赦してしまうのではないか」、と。


 それを否定する為に、最も危険な役回りを引き受けたのだ。


 護衛対象からは遠く、裏切るには周囲に人が多過ぎる。

 他がはかりごとに引き込まれていても、生徒会総長という最高権力にして武力が監視している。

 裏切り者でなかった場合、本気で戦わなければ、自分が死ぬ。


 そういった立場に身を投じることで、ようやく納得を得ることができた。


 そうでもしないと、完全に無力化され、拘束されたいたところだった。

 話の流れが悪ければ、殺されていたかもしれない。




 相手からの視線を切れている間に、それぞれの班に分かれて散開。

 流石に20人以上が一緒にというのは、身軽な部隊としての身動きが取りづらくなる。


 進とプロトが離れないことを条件に、最低6人の構成。

 あちこちに形成されていく遮蔽や塹壕ざんごうを利用し、建物内も経由して位置を隠蔽。


 少ししてから、六本木の人形で連携を取って、一斉に攻撃を仕掛けて敵勢を混乱させる。


 そのつもりで歩き出そうとした進の足首を、気絶していると思われていた一人が掴む。


「ズル…、いじゃ、ないか……!」


 墨やタールのような黒色が、その眼窩がんかを満たしていた。


「お前は、こっち側なのに…!」


 籠められる力が、骨を折らんばかりに強くなっていく。


「自分だけ、美味しい思いして…、仲間を……捨てるのか……?」


 「お前は仲間を捨てるのか?」、

 真っ黒な二つが、彼に問うている。


「お前だけ、救われれば、良いのか……?」


 黒の液体がどんどんあふれて、その顔の半分ほどが沈みかけている。


「良いのか…?それで……いいって、いうのか………?」


 ゴポゴポと、気道が引き絞られる音を漏らし、それでも焦点は彼から外れず、逃さないと言わんばかりに——


「ススム君!」


 肩を揺すられ、我に返る。


「大丈夫!?」


 呼びかけに短く返答しながら、彼は恐る恐る下を見て、誰の手も指もないことを確認してから、低い姿勢を維持して駆け出す。


「お前、だけ……」


 後には、折り重なる敗者達が残された。

 許されざる罪人たちが放置された。


「ゆるさ、ない…!」


 彼らの一人は、服の上からでも分かるくらいに胸を上下させ、


「ゆるさ、な、お、おおおお、ぉぉぉぉ………」


 肺の奥からえずいて息を荒げ、


「ごぽ……っ」

 

 大きく開かれた喉から、


 ぬるりと銃口が伸びた。

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