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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十二章:取り返しのつかないもの

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614.あとほんの、ひと絞り

 到着早々、彼はバイクから飛び降りながら、ワイヤーケーブルを射出。

 ビルの外壁にアンカーを引っ掛け、巻き取りながら登攀とうはん


 それを繰り返し、屋上まで来たところで、眼下を振り返る。


 見下ろした風景は、平屋や一軒家がひっしりと並んでおり、平坦に開けていた。

 

『相手の平均速度から言って、間に合ってる、はず…!』


 眷属が殺されてから、再発射までの間。

 その時だけ、狩狼はスパルタクスを追えなくなる。


 その間で、相手の次の狙撃位置として予測された地点に、密かに潜伏できたなら?


『来た…!東からそっちに真っ直ぐ向かってる!』


 絶好のスナイピングスポット。

 遠距離から敵を撃ちたいなら、ここが最適。

 だから、待ち伏せが可能。


 端に背をつけて隠れていたスパルタクスは、身を乗り出してライフルを構える。

 スコープは外し、ヘルメットと一体になっているゴーグルデバイスのズーム機能を使用。

 

 銃本体に搭載されたシステムと同期リンクさせ、照準位置を補正。

 敵はこちらへ向かって来る形で移動中。

 X軸とZ軸方向への動きが最小限となり、ほぼ一次元的ルートを通って彼に近付いてくる。


 どれだけ高速であろうとも、外すわけがない。

 全速移動中のヘリコプターのパイロットを撃ち抜いたことがある彼にとって、自らの側に距離を縮めて来る相手を撃ち抜くなど、造作もないこと。


 数秒後に相手が通る遮蔽の切れ目、商店街の出口からすぐを視界に収めるように、全身の骨で銃身を固定。


トリガーに指を掛け、後は偏差を考慮に入れて——


『うっ、撃った!?』


 想定を上回る速度で飛び出された。

 杖のような形の遠隔作用魔具に脚を絡め、後端を猟犬で押すことで飛行している。


 猟犬のみの場合の最大速には劣るが、それでも走るのと比べれば格段にスピードアップ。


 すぐに敵の動作予測を修正、素早く俯角ふかくを大きくして、射撃。


 だが直前で90°転回されていた。

 彼がそこで歓迎を用意していると気付かれたのだ。


 恐らく、敵をおびき寄せる為に魔力の気配を出し、それで加速することで無防備な大通りを足早に通り過ぎる、その予定だったのだろう。


 それが結果的に、眷属の感覚で相手の位置を察知することに繋がり、直感的な危機察知と回避をさしめたのだ。

 

 だが狩狼は、そうとかんづく前に、スパルタクスへと全力接近してしまった。

 反射的に舵を切ったが、それでも50mほどの距離まで近付いた後。


 今なら追い着ける。


 ジェットパックの推進力を水平方向に全開。

 ライフルをその場に放置し、身軽な状態で相手を追う。


 マガジンに実体弾を装填。

 敵から完全に追跡されないように、猟犬は狩狼の背を押すのではなく、スパルタクスを突き刺すのに使われた。


 左腕と首回りの防弾装備の一部を破るも、カウンターを数発叩き込まれて消滅。


 重力加速とジェットパックブースターの二つで滑空に近いやり方で空を横切りながら、ディーズの誘導を元に追いすがる。

 

 僅かの間だが、肉眼がその背を捉えた。

 小刻みにブースターを噴かして激突前に落下エネルギーを減衰。

 

 最後のカートリッジをジェネレーターに刺してシールド形成。

 それと受け身で衝撃を緩和した五点着地で民家の上を転がり、起き上がりざまに蹴って流れるような屋根渡り。

 

 この近くまで来ると、訓練された彼の聴力が、狩狼の位置を特定できるようになる。

 ヘッドセットに搭載された音波探知センサーも、それを補強。


 あと二軒渡れば、ほぼ真上から見下ろす形を作れる。

 拳銃にセットしたカートリッジはまだ余力を残しており、強化銃弾を放つことが可能。


 そして弾丸で満杯のマガジンと交換し、瞬間最大火力をいつでも叩き込めるようにしている。


 殺せる。


 と、自らが狩られる直前であることを、狩人の感性が導き出したか。

 確実な敗北の直前、狩狼は自身の前にあった電柱を蹴って反転。


 次の一歩で大きくバネを溜めて、


 影が跳び上がる。


 そちらに銃口を向けようとしながら、スパルタクスは首の後ろの鳥肌に気を取られる。


 これ見よがし過ぎる、と。


 目線を下に。


 へりを掴んで自身を持ち上げた狩狼が、スパルタクスに魔具を、それを縦断するスリットの先を向けていた。


「“マフく——」

 

 だがそこから円形歯列が撃ち出される前に、シールドを破壊した特殊合金弾が喉と胸をえぐるのが早かった。


 ディーパーと渡り合い、生き残ってきた漏魔症。

 その凄みが、最後に押し勝っ『スパルタクス!上だ!』

 

 首の横に、左腕を立てるも、それを斬り裂きながら三連の鋭角三角形が食い込む。

 

 最初に囮として、開いた状態で投げられていた、折り畳み傘。

 その裏では、三つの四角で構成された誘導弾ブラッドハウンド中棒シャフトを咥えて角度を調整。


 そこに走った溝に沿って貫通弾グレイハウンドが発射され、スパルタクスに命中した。


「げぼっ……!」


 最後の力を振り絞り、敵が怯んだ隙を突いて焼夷弾マスティフを構える狩狼。


 その前で間欠泉のように首から緋色を吐きながら、何一つ動じずに追加の数発を確実に命中させるスパルタクス。


 支えていた腕の力が抜け、落ちていく。


 牙で血管を掻き混ぜていた三角形が、溶けるようにドロドロと崩壊していく。

 

 止血処置の為に、ポーチからテキパキと救急医療品を取り出す。


『まだ生きてっ!』


 悲鳴のような声と同着。

 頸部けいぶれっそうに四角い追尾弾が咬みつき、骨を砕いた。


 グレイハウンドが完全な絶命を演出したことで、最後の最後に下げられた左腕のガード。

 残留思念とでも言うべき執念の一撃が、それによって実を結ぶ。


 前のめりで倒れるスパルタクス。

 滑り落とされた拳銃が破裂し、跡形もなく消える。


 軒先のきさきにある庭では、花に囲まれた少年が、小さな人形を握りめながら、虚ろな目に灰の海を映していた。


「ろ…ぴ……」


 てのひらから伝わるその感触だけが、彼の魂を最後までつなぎ止めていたのだった。

 

「……わせ…に……なっ………」

 

 雨足あまあしが、少し強まった。


 天が葬送の為に、死に化粧げしょうほどこしている。


 黒くこびりつくべにを洗い流し、


 尊厳に満ちた、穏やかな終わりを与えん、と。

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