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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十二章:取り返しのつかないもの

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612.それもまた生存戦略

 世の中広しといえども、まず存在しないものがある。


 だが人間は、「無いなら作れば良い」と、自らの手でそういう物を生み出してきた。


 絵画や文章といった仮の器から、魔学、工学的なこころみ、遺伝子改良に至るまで。

 無いものを実現しようとし、不可能を可能にしようとした。


 「ディーパーを殺せる漏魔症」。

 それも、そういった“作品”の一つ。


 とは言っても、それが怪しげな実験によって生まれたスーパーソルジャーなのか、それとも純粋な研鑽の果てに生まれたフィジカルエリートなのか、それは誰も知らない。

 

 どういった産道さんどうを通ったものか、いつの間にかそこに居た。

 “カミザススム”以前からりながら、暗部における活用方法しか存在しない為、歴史の表舞台から意識的に無視されている者。


 それがスパルタクス。

 単なる凄腕の狙撃手スナイパーである。


 彼の手口は、到ってシンプル。

 相手が警戒していない時に、見えないほど遠くから、その頭を撃ち抜く。


 どのようなディーパーであっても、身体強化も魔法も発動していない時に、脳汁が弾け飛べば即死である。


 身体欠損を治癒できるほどの使い手が、近くに控えていたとしても、突然頭部が粉々になった雇い主の、延命に成功するケースは稀である。


 では、もしそれすら可能な者が敵方にいたなら?

 少し工夫してやるだけだ。


 治癒能力者と標的を引き離してやるだとか、息を抜いた瞬間を逃さないだとか、続けざまに両方を殺してやるだとか、念入りな二撃目を叩き込むだとか、やれることは幾らでもある。


 彼が好むのは、“ボルトアクション”と呼ばれる構造で、破壊力の高い対物ライフル。

 単純で直しやすく、精度が高いメカニズム。

 そしてちょっとした壁やシールドなら、破壊して余りある威力。


 漏魔症がディーパーを殺すには?という疑問への解法。

一発勝負の漏魔症には、その選択肢しかなかった、とも言える。


 剣だろうが銃だろうが爆弾だろうが、ディーパーが使った方が遥かに強い。

 だが狙撃銃は、その限りではない。

 必要なのは、視力の他に、頭脳と忍耐なのだから。


 そんな、ほぼ一択に縛られている彼はこれまで、様々な戦場で使われ、そして生き残ってきた。

 報酬の踏み倒しすら、一度も許したことがない、プロ中のプロとして、名をせた。


 反漏魔症感情によって、生きる場所を持たない筈の彼は、誰もが同じ生死の境界線上を渡る“戦場”にこそ、自らの居場所を見出みいだしたのだ。


 生息地を追われた被捕食動物が、他の種も苦しむ苛酷な環境に流れ着き、そこで己が入り込める隙間を発見し、生態系の一部を占領したように。


 そして彼が、過去最高額の報酬で引き受けたのが、今回の大規模な仕事である。

 と言っても、特別な心構えなどない。


 ただ必要なだけ殺し、生きる。

 彼の行動原理は、たったのそれだけである。


 彼にとって、食事と殺人に大した区別はない。

 「生きる為に殺す」のだから。


『あった。「ムツザネ・シュロウ」、これだ』


 その常道としては、情報を得ることだ。


 知らぬ物を口にしてはならない。

 不明な相手に弾は当たらない。

 彼が日頃から心掛けている訓辞くんじ


 勿論、その因果な職業の都合上、どうしてもアドリブを求められることもある。

 だが猶予が1、2秒であっても、敵を理解する事に割ける時間があるなら、頭を止めてはならないものだ。


 理解とは、どんな分厚ぶあつい装甲をも貫通する、最強のほこなのだから。


『奇遇だね……。例の、“目標”と同じ学園、同じクラスに所属する生徒だ。DRは6』


 だから、この国のディーパーについて、できるだけ詳細で網羅的なデータベースを、事前に要求しておいた。

 特定の人物を狙うような、通常の依頼とは違う契約なのだから、相応の安全策を用意させたというわけだ。


 零負遠照はその無理難題も、二つ返事で快諾かいだくしてくれた。

 どこから手に入れたのか、丹本国籍を持つディーパーほぼ全員のプロフィールを、一通り揃えて見せたのだ。

 

『“シュロウ”という家の、「猟犬魔法」らしいね……。高速弾、誘導弾、焼夷弾の三種類。それぞれ同時に一発ずつしか存在できず、二種以上を合成することも可能……。凄いな、この資料によると、眷属の嗅覚や聴覚探知は、かなり鋭いみたいだ』


 それで、か。

 彼はかれこれ20分ほど、四角い耳を持つ眷属に、追い回されている。


 念の為、臭いも消していたのだが、それでも僅かにこぼれた残り香を判別可能なのか、はたまた移動時の音を頼りにしているのか。


 一方、弾道が一定でないので、こちらからは撃ち出した地点がどこか分からない。

 潜行者とは便利なものだ。


 猟犬はどこまで行っても振り切れない為、ビルの中のような閉所に立ち、敵が彼を目指す際、限定されたルートか、床や壁、天井を破るかしなければならない状態で待つことで、毎回撃ち落としてはいる。

 

 が、その作戦が期間限定品であると、向こうも分かって来る頃だろう。


『スパルタクス?弾倉マグはまだ、持ちそう……?』


 黄色信号を送り返すと、「そりゃそうだよね」と強張こわばりが鳴る。


 彼が今持っている銃は、従来の弾倉マガジン以外に、銃身の下にグリップが付いている。カートリッジを入れるスロットだ。


 威力増強だけでなく、プラズマ弾頭生成まで行える優れた機構を備えているわけだが、言い換えればどうしても、消耗品ありきなのは変わらないということ。

 

 最大威力で撃てる実体弾が、あと3ケース分。

 対物ライフル弾薬の残りは、1ケース。

 カートリッジは10本を切った。

 

 アーミーナイフ以外、何一つ持たない素寒貧すかんぴんになる時も近い。


『後方と合流して欲しいけど……』


 当然向こうも、彼がここを動く事を、許そうとしないだろう。

 見えない相手に、一方向的に狙われる。

 いつもの逆の立場に陥った彼は、しかし鼻呼吸を乱しもしない。


『よし、来た。到着した』


 次の手順は既に決めてある。

 他の区域に使っていたカメラドローンを、ディーズが呼び寄せている。


 なんなら、スパルタクスが要請するより早く、それは実行中だった。

 優秀な観測手である。


『魔力探知モード起動……。さーて、出てこい出てこおい……』


 指の関節をパキポキ言わせているのが聞こえる。

 準備完了の合図だ。


 彼は肘で窓を破ると、通りに向かって数発撃った。

 それは敵の耳にも届いただろう。

 

 狙撃手。

 それは戦場で最も嫌われる役回りとされており、そこからも分かる通り最も恐れられている。


 銃火器を持たない法執行機関にとっては、何よりも消えてほしい相手。

 そう考えて、狩狼はスパルタクスを優先して攻撃、封じ込めようとしているのだ。


 だが、必ずしも殺す必要はない。

 自らと向き合って、釘付けにしている間なら、息を潜めて、時間経過を待てばいい。

 生きているだけでプレッシャーとなって、相手の動きを制していることが分かるからだ。


 だが、テロリストが市民への攻撃を再開したなら、また気を引かなければならない。

 もしもそこで、命惜しさに丸くなってやり過ごそうとするような人間なら、このまま何事も起こらないが、


『いた!動いた!』


 どうやら今回の敵は、しっかりと正義感に忠実なタイプだ。

 殺しや破壊より、人助けに重きを置く“好ましい”人格。


 撃ってきた。

 スパルタクスを仕留めるか、少なくとも威嚇する為に。


『発射地点マーク!』


 素早く周辺地図上に座標情報が描き込まれる。

 行動開始。

 彼は一つの躊躇も見せなかった。

 

『誘導弾!さっきより速い…!7時から10時を行ったり来たりして君を追ってる!』


 猟犬ミサイルのち手、狩狼を追跡するスパルタクス、を追尾する狩狼の眷属。

 アヒルの親子の行列、どころか互いの尾を呑む蛇である。


 ジェットパックユニットに残り少ないカートリッジを入れて、出力を上昇させる。

 壁を蹴り砕き、空を渡り裂きながら、敵が「さっきまで居た場所」を目指す。


 当然、発射と同時に引き払っているだろう。


 なら、もう一度撃たせるだけだ。


 逃げながら眷属を殺し、再度撃たせて、また追いかけっこ。


 そのイタチごっこの中で、徐々に距離を詰め、リソースが切れる前に殺す(kill)


 かくれんぼ、いや鬼ごっこか?


 命懸けの逃げ足勝負の時間である!

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