表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十二章:取り返しのつかないもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

841/981

610.すっげー豪華な進路相談 part2

「僕は、取り敢えずまずは進学して、魔学関係の道に進みたいって、そう思ってます」

「魔学……、大学でと言うと、理論系か?」

「魔力とか、魔法とか、そういう物と向き合うなら、その原理みたいなものを深堀りすることを、避けれないと思うので………」


「君は、実践派だと聞いているが」

「実践を磨く為に、理論を使いたいなって」


 と言っても、頭脳労働が向いているタイプじゃないのは、自分でよく分かっている。

 だから、必要な知識をある程度得た後は、これまでそうして来たように、“足”で稼ぐ。


「フリーの潜行者として、世界中のダンジョンを巡って、自分の五感を通して理解して回るような……、例えば、ガネッシュ・チャールハートさんみたいな生き方を、目指しています」

「チャンピオンの、“全人未到ワイズマン”のような在り方、か」

 

 お気に召すような答えだっただろうか?

 指で手の甲を叩く総理を直視しながらも、内心ではガックガクに力んでいるのを、なんとか自然な呼吸として逃がしていく。


「例えば、国の潜行者として働く、という可能性は考えているだろうか?」

「……もし、途中で、その方が性格に合ってるようなら、そうしようと思ってます。僕をここまで生かしてくれた社会を、直接的に支える役に、興味が無いと言えば嘘になります」


 相手の目の面積が、にわかに広がった。


「意外だな。社会が君に向ける目は、厳しかっただろう?」

「それは……はい。だけど、」


 それでも、思う。


「僕も、僕の大切な人達も、この社会の強制力が、バランスが無くなれば、高い確率で死んでしまうって、それは凄く分かるんです」


 俺を追い詰めたのは、社会だ。

 だけど、誰からも嫌われた俺を、それでも生かしてくれたのも、同じ「社会」なのだ。


 じいちゃんや学園のみんなを、生きて俺に合わせてくれたのも、ずっと守ってくれていたのも、約束で作られた「社会」だった。


 だから、それを壊してはいけないって、強く認識した。

 

 人は動物で、自然物で、だから当たり前に死ぬんだ。

 弱いヤツが死なずにいれる、それがどれだけ素晴らしいことか。


「それを守ることの価値を分かっていて、しかし今はそれ以上に、より危険の多い世界へ羽ばたく事に、魅力を感じている、と?」

「それも、はい。その通りです」


 矛盾しているようだが、俺としては一貫しているつもりだ。


「人はこの先もずっと、ダンジョンと共に生きなければなりません。この国では特にそうです。だから、ダンジョンとはなんなのか、それを広い視野で見て、そこで得たものを少しでも、この国に情報として持ち込んで、そうすることに意味があると思うんです」


 サンプルは多いに越したことはない。

 世界の諸相を見て、多様なダンジョンに触れて、それから俺が守りたいものを振り返る。


 それは優れているから、守っていくべきものなのか?

 足りていないから、変えていくべきものなのか?


「変えるべき、とは断言しませんし、その前提で粗探あらさがしするつもりもありません。守るべき、と改めて分かるだけでも、意義があるって思うからです。

 この国の中で安心してるだけだと、ただ守ることしか、変えずに停滞させることしか、頭に浮かばなくなるかもって、自分が怠け者だからこそ、それを懸念してるんです」


 両方だ。

 どちらも無ければいけないと思う。


 それに、内側を守ることだけでも、外を知らなければ備えようがない。

 本当に守るべき、変えてはいけないものの価値も、中にいるだけじゃ見えなかったりする。


「それでは、配信はどうするのかね?続けるつもりは?」

「今の所は、そうしようと思っています」


 公務員とかになったら、流石に無理かもしれないけど。


「それも、君の進路の一環として?」

「基本は、ただの息抜きですよ。みんなを笑わせる、それが全てです。ただ、良いように作用すればいいな、という希望はあります」


 考える頭だって、多い方がいい。

 俺が見たもの、聞いたこと、その一部でもこの国に送りつけて、それが何かを好転させるかもしれない。


 どこに住んでいたって、命と命の食い合いからは逃れられない。

 自分達は何かを食べて生きていると、それをみんなが思い出す、最初の一歩になればいい。


 それは時に、痛みと共に変わらなくてはならないと、人を悩ませるかもしれない。

 逆に、変わらないよう守ってきたことに、誇りを持たせるかもしれない。


「ポジティブな可能性を信じて、潜行であれ、配信であれ、僕が出来る全てをやろうって思ってます」

「それが、君の使命か?」

「違います。正しいからじゃないんです。それが、僕のやりたいことだからです」


 人の心を支えるいこいの場。

 モチベーションを養成する、娯楽の補給地点。

 そこに決まった思想じゃなくて、「考えるきっかけ」だけを仕込めるなら、それが一番良い。


 人の心を楽しませ、それによって余裕が確保されると、ダンジョンという現実が見えるようになり、「当たり前」に対する見方が変容する、というギミック。




 それが俺に出来る、この国への復讐で、恩返しだ。




——それに………


 俺は視線だけで左横を見る。

 ソファの背凭せもたれに脚を載せ、腰を置く場所を背中にいて、頭を下に行儀悪く寝転ぶ彼女。


 ここから先は言えないけれど、もう一つ大きな理由がある。

 一つ所に留まる生き方は、()()()がいつか退屈する。


 だから、俺は世界を渡る。

 こいつに、色々な物を見せて、笑わせてやる為に。


「なるほど………」


 総理が何を思うか、その顔に刻まれた皺が、上手く隠してしまう。

 それを推しはかるには、言葉から掬い取るしかない。


「君は、希望だな」


 少なくとも彼の口は、そう言ってくれた。

 あとついでに、副総長が俺の後ろで感涙している。

 ちょっとうるさい。


「そんな、それはちょっと、買い被り過ぎって言うか……」

「だが——」




——遅過ぎた




「遅過ぎたんだ」


 目蓋の下から、睨むでもない強い眼差しが、俺に投光される。


 それは憎しみと言うよりも、まるで、「副総長!」


 音を立ててドアを開け、生徒会メンバーの一人が駆け込む。


 血相を変えて、とはこのことだ。


「どうした!」

「反政府勢力の中に、強力な変身魔法の使い手と思しき者を確認…!それが……、そいつが……」


 様子を見ただけで分かった。


 朗報ではない、どころか、悪夢のようなニュースだと。


「しっかりしろ!現状は?」

「正門を突破されました」


 「暴徒は中央棟を目指して直進している模様です」、

 会敵から、ものの十数分で、みんな、覚悟を終えなければならなかった。

 

 もうすぐ、人同士の殺し合い、その当事者になるのだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ