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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十二章:取り返しのつかないもの

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606.身動きが…!取れない…!

 寝耳に水の危急報ききゅうほう

 それも、如雨露じょうろで流し込まれたかの如く。

 

 “最悪最底ワーストランカー”について、イヤな事実が発覚した時から、近いうちに何かを仕出しでかすのではないかと、気が気ではなかった。


 あのニヤけづらは、長い間彼らをせせら笑っていた。


 丹本政府を始めとして、各国が行っていた対策。

 彼の能力で、重要な場所に侵入させないように、施されていた結界の数々。


 無駄。

 一切の無意味。

 まるっきり効き目ナシ。


 あざむかれていた。

 たばかられていた。


 おおやけに奉仕していた時から既に、その能力の限界を隠匿いんとくされていた。

 或いは、動向が追えていない間に、深化を果たしたか。

 

 かつて彼に対して有効だとされていた、様々な手法。

 その内側に、土足で踏みられた。


 それも、明胤学園でイリーガル事象が起こり、丹本の政府機関全体が揺れていた、それとほぼ同タイミングで()()()()


 特作トクサが保有する施設、その最深部。

 公的には存在しない“霊安室”。

 “死人”しかいないその場所から、一人を持ち出し、姿をくらました。

 

 これにて、その名の通り「最悪」の事実が証明完了。




 零負遠照の前には、あらゆる戸締まりが無意味である。




『そこに来て、これだよ』


 


 臙脂えんじの絨毯の会議室。

 五十嵐がモニターに映すのは、テロリストによる犯行声明である。


『我々は、自由と平等の為に戦う者である』


 西洋風で、ガッシリとした肉質の男。

 顔認証データベースと照合すれば、個人をすぐに特定できた。


 ロベ・プルミエル。

 かつて丹本に移住した、没落貴族の一人であり、多大な貢献を見せた実直な男。

一人息子は、明胤学園に通っていた。


 その「息子」が今何をしているのかと言えば、答えは「どこにもいない」。

 9年前の10月10日。

 永級窟害において、紋汰・プルミエルは英雄として命を落としたのだ。


『人は、ダンジョンとモンスターという、巨大な敵との戦争を、2000年間続けている』


 彼は真っ直ぐ、はばかるところなどないといった態度で、見る者に正面から目を合わせている。


 その瞳の青は、宝石と言うより恒星だ。

 美しさより、破滅的な荒々しさを感じさせる。


『だが多くの人間は、その事実を忘れ、共通の敵に対して団結することもせず、どころか戦う者達を鼻で笑っている』


 潜行者や、あの窟害の被災者を支援する活動をしていた、そこまでは追えている。

 だが彼は、3年前にダンジョンで行方不明となり、死亡したとされてきた。


『ダンジョンによる被害、ダンジョンとの戦いに必要な苦役くえき、それらを異常で、異端で、間違ったものとして分類し、自らとは違う世界のものだと、日常から切り離している』


 都市部の、管理が行き届いたダンジョン。

 いつの間にか出ていた、ということは有り得ない。

 そのダンジョンから居なくなるには、必ず受付を通らなければならない。


 そこから消えた以上、死んでダンジョンに掃除された、以外の説明がつかない。


『歯を食い縛る戦士や、理不尽に見舞われた市民の犠牲の上に成る幸福、それを享受することには余念が無い。そうやって平穏な現状をむさぼるどころか、それでも生じた不満の元凶を、ダンジョンが生んだ被害者達になすりつける』


 それがこうやって、生きて彼らの前に現れた。

 解析班によると、ディープフェイクや魔法による偽装の線も薄いと言う。

 彼は正真正銘、「生きていた」ロベ・プルミエルであるのだ。

 

『潜行者や漏魔症罹患者へ、国が金を掛けすぎだと彼らは言う!ダンジョンという直面せざるを得ない現実を前に、それと向き合い、被害をせばめようとする施策しさくを、優遇の為の浪費であると叩きののしる!』


 入れない筈の場所、密室から人が抜け出した。

 空想推理小説なら単行本を出せるが、“あの魔法”がある現実では、もっと簡単な解がある。


『ならば望み通りにしようではないか!彼らが守ってもらう必要など無いと言うのなら!漏魔症罹患者が二度とゆるされない悪魔だと言うのなら!よろしい!その世界観に寄り添おうではないか!』


 “最悪最底ワーストランカー”。

 彼が盤上に居ると分かったなら、ミステリーもクソも無い。

 

『我々は真実の声!“彼ら”が望んだ理想を、忠実に再現する者!

 “純粋自由派モンタグナルド”である!


 我々はこれより、丁都のダンジョンの管理を実力停止させ、“彼ら”が望む自由をはばむ者、ダンジョンに国費をそそぎ込む意思決定者を、しいすることを宣言する!


 この「悪魔の所業」は、“彼ら”が言う「悪魔」が実行するものである!


 喜べ!祝え!民衆の声は、確かに聞き届けられた!


 民の財産が、ダンジョンとの戦いにかれない国!それを叶えようという代弁者が遂に——』


 五十嵐は映像を止め、重く息を吐いて間を作ってから、次の一撃の効力を最大に引き上げる。

 

『彼は、零負遠照は仲間を集めている』


 “霊安室”から持ち出されたのも、漏魔症に罹患した“死人”だった。

 そしてロベが支援した被災者の中に、先程の演説でも触れていた「漏魔症罹患者」が含まれる。

 

 更に、丁都で銃火器を振り回している、万に届くかもしれない実行犯達。

 彼らの中で、現在確認が取れている全ての人間が——


『漏魔症罹患者による、反乱だ。“最悪最底ワーストランカー”は、この下準備をしていたんだろう』


 丹本国籍を持つ者も、不法滞在者も、渾然一体となっての運動。

 入念に計画された、暴力革命である。


『国家公安委員長、ダンジョンの被害は?』

「えー……、2箇所の中級、5箇所の浅級におきまして、管理団体の制御下から離れている状態です」


 呼ばれた老年男性が、マイクのスイッチをオンにして返事をする。


『鎮圧と復旧の目途は?』

「これにつきまして、各機動隊及び特別強襲部隊を動員しての制圧を進めております」


『それまでに“逸失フラッグ”が発生しないという確証は?』

「特別防衛局長、それは事の印象をいたずらに深刻化した発言かと」

「そうです。浅級、中級程度の特異窟で、そのような早期に“逸失フラッグ”が発生するなど有り得ません」

 



『ダンジョン相手に「有り得ない」を語れるなんて、物知りだね、みんなは』




 僅かに上がるうめき声以外に、弁が途絶える。

 そこを突かれると、彼らには何も言いようがない。


『“白取モデル”のレポートは読んだかい?もしもダンジョンの力の源泉が、人の認知であるとするなら、テロリストに占拠されて注目が集まっている今は、最も危ない状態と言えるんだ』


 仮にそれが正しいのなら、モンスターの間引きが出来ないのに、ダンジョン内で力が有り余る、という状態が発生。

 “逸失フラッグ”の危険が格段に強まる。


『フラッグを未然に防ぐ為なら、ダンジョンに関する有事として解釈できる。防衛隊を動かせる筈だ。違うかな?』

「身元が判明している構成員の多くが自国民ですよ!?国民に防衛隊の刃を向けると、そうおっしゃるか!」


『何度も言うけどこれは“最悪最底ワーストランカー”の仕込みである可能性が高いんだ!放置していたらどれだけの惨事に拡大するか知れたものじゃないよ!』


「ですから警視庁の強襲部隊を——」

『それが出て来るなんてのは想定済みだよ!彼は丹本の、それも国に重用された優秀な潜行者だったんだよ?警察ばかりが対応して、防衛隊出動には尻込みする、そこまで分かった上での犯行の筈だ!』


 常識的な手は全て承知の上で、対局を仕掛けられたと考えるのが正しいだろう。


 だからこそ、それを出し抜き好きにやらせない為には、従来の定石じょうせきからは想像できない、思い切った決断が必要だ。

 防衛隊が動くのであれば、相手が予想した以上のスピードで、この動乱を畳めるかもしれない。


「しかし特別防衛局長、それには総理の御決断、御下命ごかめいが必要となります」

「総理は現在明胤学園に避難中ですが、連絡は取れており、その御意思は確認済みです」


 強い意思を持って、彼は言った。

 「モンスターが現れるまで、防衛隊の交戦は許されない」と。


「防衛隊には召集を掛け、丁都近辺の駐屯地ちゅうとんちに出来るだけ多人数を配備、いつでも出動可能なように待機させます」


『去年と同じじゃないか!それじゃあ相手の思う壺だ!それに、人心から不安を取り除かないと、そのうち全国で漏魔症罹患者に対する“先制的報復”が始まる!そうなる前に安心材料を提供しないと、人死にが他の地域にまで広がってしまう!』


「法と条文にのっとった運用です。ご理解を」


 五十嵐は右手の先、三脚で固定したタブレットのカメラで映っていないところで、小型端末を操作、従者達に指令を送る。


 これからつらなる会議の為の会議が落ち着くのを待っている暇など無い。

 丹本が世界に先駆ける可能性、それが失われようとしているのだ。


 兵器を持てない以上、

 この国は他と対等以上の立場、

 “最強”でなければならない。

 

 亡国の瀬戸際とも言える局面で、一々根を回していられるものか。


 こうなればやむを得ない。

 特作トクサは独自に動く。


 この反乱を、


 かれた種から育ち、地中に張り巡らされるよりも早く、


 根からつ!

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