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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十二章:取り返しのつかないもの

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599.もう自分相手すら、「いいひと」のフリができない

「トボけるのか」

「………」

「聞こえてるか?良い綿棒貸してやるから、耳掃除するか?」

「ごめん、それは……」

「ああ、安心しろ、未使用だ。礼は要らない」

 

 綿棒がたくさん入った袋を差し出されるも、首を振って辞退。

 そして相手の肩越しに、ミヨちゃんが今にも出て行こうとしているから、そっちを見てもう一度、「来なくていい」と頭の動きで制止する。


 これは、分散も緩和も無しで、俺が正面から聞かなきゃいけない話だ。

 

「ニュース、見たか?」

「………」

「大手メディアは流石に学園の話題中心だが、ネットニュースだと、まるでお前が主役だよ」


 「『イリーガルに愛される男』、だとさ」、

 皮肉な通り名過ぎて、不謹慎と思っていても笑いそうになった。

 正しくは、「イリーガルが隙あらばぶち殺そうと狙っている男」、である。


「6月末の、襲撃時、榴弾らしき攻撃の目標となっていたのは、お前の部屋だったんだろ?」

「………」


 表情を変えないように、それだけを意識する。

 央華の攻撃の目的、それは機密だから言えない。

 だけど俺みたいな奴の、口先の嘘が通じるようにも見えない。


えぶり和利かずとし。知ってるだろ?枢衍先生のところの生徒で、将来を嘱望しょくぼうされてた」


 頷く。

 知らないわけがない。

 あの時、俺の命を救ってくれた、恩人の一人。


「気のいい奴だった。いつも明るく笑ってて、」


 「だけど」、

 そこに居る十数人の顔色が、一様いちように曇る。


「この国とか、大切な家族とか、そういうものの為になりたいって、自分に厳しい奴だったんだよ」


 少なくとも、この人達全員に好意を抱かせるような、そういう男だったんだろう。

 直面しているのは、俺が踏み潰した命の名前と、その歴史。


「モンスターとか、テロリストとか、他の国の兵隊とかを殺すのも、そいつらに殺されるのも、覚悟してたんだ」


 そうなんだろう。

 寮生を助ける為に、最速で命を懸けた一人なのだから、彼はどこまでも本気だったのだ。


「それが、そんな奴が、」


 集団の中心的人物、代表で話している男子が、俺を睨む。


「守った相手に背中から刺されたなんて、ノンデリジョークの中でも最悪だ」


 本当に、笑えない。

 何も言えないし、言ってはいけない。


「あいつを巻き込んで、殺しときながら、知らないフリして、それで今度は、校内大会か?」


 人間の犠牲者は出なかった。

 だが、人が死ななかったからそれでいい、とはならない。

 そうとも、正論だ。


「あれで、何十人も死ぬところだった。それどころか、他国の要人が死亡すれば、そこから国家間の関係が崩れて、より大きな不和や摩擦に繋がっていたかもしれない…!」


 長い目で見れば、戦争すら、あったかもしれない。

 誇張ではなく、その瀬戸際だった。


「それでよくもいけしゃあしゃあと、まだこの学園の厄介になれたもんだ」


 全部に頷けば、彼らの気は、晴れてくれるだろうか。

 そんなことはないだろう。


 死んだ人は、もうどこにも存在しない。

 失われたのは、戻ってこないのだ。

 

 俺が出来ることは、なんだろうか。

 言葉であれ行動であれ、彼らが望む返答をしたいと、そう思っている。


 


 思っているが、出来はしない。




 俺の今の任務は、“いつも通り”にカンナを閉じ込めること。


 私利私欲の為に俺から言い出したことだけど、あの島での戦い以降、カンナを安定状態から動かしたくないって意見が強まったらしく、今では「やれ」と言われる側だ。


 そして当然、そのことを誰かに、ミヨちゃんやニークト先輩相手でも、教えてはいけない。


 ここでこの人達に、「ごめんなさい、俺が悪かった」、そう言うのが、いさぎよい好青年のあり方だと思う。


「何を言われても、僕が言う事は一つだよ」


 だけど、これは仕事だ。

 俺に与えられた職務で、使命だ。


「心当たりがない。そんなこと言われても、どうしようもない」


 軽蔑される、最低人間。

 それが、特作トクサの日魅在進に課せられた役柄。


「お前…!どこまで腐ってやがる…!」


 胸倉を掴まれる。

 目を逸らさず、彼を見る。


 その拳が握られているところを、観察する。

 振り上げられたそれに、突き刺されるとしても、逃げてはいけない。


 避けられない衝撃が迫り、自分の骨がひん曲がるまで。

 その恐怖を和らげてはいけない。

 痛みを鎮めてはならない。


 これから俺に生じるマイナス、その全てを隅々まで受け取る。


 自分が楽になりたいからって、与えられた役割を投げ出して、彼らに分かりやすく謝意を見せる。

 そんなものは、誠実さでもなんでもない。


 ゆるされようと思うな。


 罪人のまま、終わらない罰を受けろ。


 グーに握られた手が、俺の鼻を潰そうとして、

 横から掴まれた。


「……!披嘴ひはし先輩……!」


 赤みがかった銅色の髪に、立体感のある優しげな顔。

 披嘴(とばり)

 明胤に属するインフルエンサーの一人。


「君達、これは何の真似だい?」

「先輩、何で止めるんですか!?」


 それが分からないのは、俺もそうだ。

 この人は、どっちかって言うと、俺を嫌ってた側だったのに。


「いいかい?彼の戦力評価は今や、押しも押されぬ明胤最高峰だ」

「そ…れは…!」

「彼は、明胤に属する、強いディーパーだ。その意味は?」

「………国の、重要な、『実力』です……!」


 「その通り」、

 先輩は、他の面々にも目を向ける。


「一方で、彼は漏魔症候群の罹患者でもある。その意味は?」

「……低濃度魔素環境下では、一般的な人間と、変わらない……」

「正解だ。つまり今の彼は、ディーパーがちょっと力を籠めて殴れば、コテンと命を落としてしまうんだ」


 ギリギリと音が出るほど、強く押さえ込まれていた腕から、力が抜けていくのを感じる。


「君達は、国に益をもたらす財産を、この場で散らしてやろうと言うのかな?」

「先輩、でも、コイツのせいで……!」

「それは言い掛かりというものだな」


 背後からの声に振り向くと、殊文君や良観先輩を始めとした、新開部員達が来ていた。


「み、みんな……?」


「先輩方が言っているのは、点と点を根拠なき線で結ぶだけの詭弁、詐術に過ぎない。


 『友人が死んだ』、『自分は何もできない』、『せめて元凶だけでもこの手に掛けたい』、『そうだ、手の届くところにいるアイツを元凶にしてしまおう』、そういう理論の倒立、結論ありきのこじつけが起こっている」


 ズバズバと切り込む殊文君に、声を荒げようとした彼らは、睨みが新開部員とぶつかり合い、直前で食いしばって止まってしまう。


「一般市民と同じだけの耐久力の人間相手に、根拠薄弱の言い掛かりをつけて、遂には暴力でらし。君達は明胤の品位に、どこまで泥を塗りたくれるのか、チャレンジしているのかな?」

「う……!」


 勢いで向かって来そうだった人達も、披嘴先輩の指摘で立ち往生する。

 

「ハーイ、なにしてんの~?ザコどもー?」


 そこを見計らったように、というか恐らく成り行きを見守った上で、最適なタイミングを見て介入したのは、プロトちゃんだ。


「模擬戦でもないトコで、多人数でモメごとぉ?ボーリョクザター?カンベンしてよねー?こーれだからドーブツみたいに、カッとなると我慢できないヤツらってさ~ぁ!」


 「何ボケっとしてんの?散って欲しいって言ってんですけど~ぉ?」、

 そこが決定打だった。

 先輩が手を放したら、それぞれ俺を視線で刺しながら、三々五々散っていく。


「日魅在先輩、大丈夫だったか?」

「あ、ああ……」

「間に合って良かった」

「あ……、ありがとう、ね……。その、みんなも……」


 新開部員達が、「良いってことよ、分かってるって」、という顔で笑い掛けてくれる。

 でも、正しかったのは、俺じゃなく、あの人達の方だった。


 俺はこの信頼を、裏切っている。


「…っ!せ、先輩も、ありがとうございました…!」

「僕は、明胤学園の看板、その価値を守っただけだ」


 去りかけていた披嘴先輩が、「何のつもりか分からないけれどね、」一度こっちを振り向いて、


まとの外れた処罰を受けて、贖罪しょくざいのつもりになってるんじゃあない」


 そう責めてきたのに対して、

 俺はまともな反応すら見せられない。


「僕は言ったからね?君のやり方は………、いや、」


 「言い方が違ったね」、

 指を差して念を押すような流れを切って、たった一言に集約する。




「『だから言ったのに』」




 徹頭徹尾、ぐうの音も出ない。


 俺は軽率で、自分勝手で、半端に弱く、半端に強くて、


 そんな奴が好きにした結果が、今ありありと表れている。


 そしてもっと救えないのが、


 それをやめようなんて、まるで思ってないところだ。

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