みんなの自認は、悪?正義?
「というわけで、今日から少しのあいだ、ボクらはパーティーメンバーだ。よろしくネ」
ワーストランカー、零負遠照の言葉に、特に返事は為されない。
ただ、何人かが視線を左右に振ったくらい。
特に、部屋の隅、誰にも背後に立たせないように、ビクビクと全体を見回している猫背の青年、ディーズの挙動不審ぶりが目につく。
この場に居るのは、それぞれの言い分を鋭く澄ませてピリついた、怒れる主張者達。
それか、頭から歯止めのネジを抜かした、イカれる自由人達。
ディーズと同じく、出入り口近くに陣取っているのは、他に二人。
一人は丸刈り青髭、中東系らしき男、軍人にも見える筋骨を持つ傭兵、スパルタクス。
もう一人はスタイリッシュなスーツに、四角いフルフェイスヘルメットを合わせた破壊工作員、スタッグ。
前者はディーズのように、いつでも素早く逃げる為に、
後者はディーズのような、逃げ出す者を制止する為に、
そこに立っている。
背中への神経質さも、3人に共通する部分だ。
部屋の中へと視線を移すと、まず目を寄せるのはゆらゆらと歩き回る女……女?
「女」と聞いていなければ、性別など分からなかった。
全身がツギハギ、様々な肌や筋肉、骨をくっつき合わせ、そこにアスファルトやら鉄やらが取り込まれ、有機生命ながら機械のような外観を成す、おぞましき“人間”、ナイニィ。
多種多様なルーツを持つ“材料”で組み上げられ、3mほどの巨人となったそれは、“ポリティカル・コレクネス”への最適解。今もブツブツと何事か呟き、行ったり来たりをノシノシ繰り返す。
パイプ椅子に座っている、タンクトップシャツの男。
西洋風な、赤く焼けた白い肌、青い瞳を持つ彼は、ロベ・プルミエル。
最後に、ホワイトボードを背に立っているトオリの横、自分で作った銃を磨いてはバラし、組み立ててはまた磨きと、鼻歌混じりに弄んでいる女。
この仕事のクライアントが、“大口”であるという生き証人。
“号砲雷落”、ジョーナ・Z・ヴァーク。
中心となる面々は、これで全て。
この顔触れで、今から一国に喧嘩を売る。
とは言っても、この7人“だけ”では無理だ。
敵の強さは、1年前に散々確かめた。
だから、今回は数を用意する。
部隊じゃなく、“軍勢”を。
ということなので、この7人が固まって動く機会は、ほぼ無い。
それぞれが要所に配置され、必要な役を果たすだけ。
「全体のオペレーションは、その青年が果たすらしいが」
ロベが振り返り、見られたディーズが縮み上がる。
「務まるのか?」
「そこは信用してくれていいヨ」
遠照は自信を持って頷く。
「この中なら、彼が一番向いてるから」
「消去法のようにも見えるがな」
「頭脳労働担当を、くれなくてさあ……」
「ケチケチしててBadだよねえ?」、
特に困った様子でもなく、ヴァークが顔を上げもせずに言った。
「っというわけで、現地調達出来る中で、一番マシ……、いや上等なのが、彼だったってワケ」
「今『マシ』って言っただろお前」
呆れるロベに、ディーズは「ど、どうも……」と、隙間風のような小声と共に、右手を僅かに上げた。
溜息を吐き、今度は出入口の男に話し掛ける。
「お前は?それなりに暗躍してただけあって、頭は切れる方に見えるが?」
『私は当日、実働班としての御役目が御座いますから』
「キミは現場指揮、スタッグクンとボクは隠密潜入任務、あとはどっちかって言うと………」
「ああ、分かった。言わんでよし」
命令待ちのロボットのように微動だにしないスパルタクス、言葉が通じるか怪しいナイニィ、恐らくその場のノリで生きているだろうヴァーク、彼らを順に見ながら、ロベは渋々納得するしかなかった。
どの道、事が始まった後は、統制も何も無くなるだろう。
この戦いにおける司令官は、大して重要な役ではない。
「ついでだがもう一つ。こいつは言う事を聞くのか?」
庭で丸くなる駄犬に向けて言うかのように、ナイニィを指す。
遠照は目も口も使ってニッコリと笑って見せ、黙することで返答としたので、ロベは肩を竦めて話を打ち切った。
「武器の備えは、充分な用意がある。兵隊も、スタッグクンの尽力で集め終わってる。そしてスケジュールも把握済みだから、決行の日取りも確定済み。他に何か質問はあるカナ?」
遠足のしおりを読ませ、内容の定着度を確認する和やかさで、改めて全員の意思と熱意の程を測ろうとする遠照。
ここで迷いのような物を見せた者あれば、彼は即座に計画から外すつもりでいた。
「えぇ、ちょっと……」
そしておずおずと手を高く揚げたのは、ディーズ。
迷いに溢れた声音であったが、それは「やるかやらないか」という揺れ動きではなかった。
「はいディーズクン。どうしたんだい?」
「さっきもらった、資料を見て……、アー、気付いたことが……、その、つまりなんだけど、」
「なんだ。言いたいことがあるならハッキリ言え」
「ひゅぃっ!」
痺れを切らしかけたロベを片手で止めて、「続けて」と目で促す遠照。
「そのう、ヴァークに、お願い、したい、ことが……」
「へぇ?」
自分の名が、その青年から出るとは思っていなかった。
臆病者は、強者の注意を惹くことすら、厭うのだから。
彼はここで、ヴァークの気紛れの対象になるリスクより、作戦の成功率を上げることを優先した。本当に避けるべき危険は何か、それを分かっている“真の臆病者”。
愉快気に、評価を上方修正、と言うより初めて彼に興味を抱きながら、彼女は訊ねる。
「Can I help you?僕に、何を、オネダリするんだい…?」
彼のアイディアを聞いたヴァークは、
何とも自分好みだと、
唇の曲線を、裂けるほど深めるのだった。




