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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十二章:取り返しのつかないもの

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みんなの自認は、悪?正義?

「というわけで、今日から少しのあいだ、ボクらはパーティーメンバーだ。よろしくネ」


 ワーストランカー、零負遠照の言葉に、特に返事は為されない。

 ただ、何人かが視線を左右に振ったくらい。


 特に、部屋の隅、誰にも背後に立たせないように、ビクビクと全体を見回している猫背の青年、ディーズの挙動不審ぶりが目につく。


 この場に居るのは、それぞれの言い分を鋭く澄ませてピリついた、いかれる主張者達。

 それか、頭から歯止めのネジを抜かした、イカれる自由人達。


 ディーズと同じく、出入り口近くに陣取っているのは、他に二人。

 一人は丸刈り青髭、中東系らしき男、軍人にも見える筋骨を持つ傭兵、スパルタクス。

 もう一人はスタイリッシュなスーツに、四角いフルフェイスヘルメットを合わせた破壊工作員、スタッグ。


 前者はディーズのように、いつでも素早く逃げる為に、

 後者はディーズのような、逃げ出す者を制止する為に、

 そこに立っている。


 背中への神経質さも、3人に共通する部分だ。


 部屋の中へと視線を移すと、まず目を寄せるのはゆらゆらと歩き回る女……女?

 「女」と聞いていなければ、性別など分からなかった。


 全身がツギハギ、様々な肌や筋肉、骨をくっつき合わせ、そこにアスファルトやら鉄やらが取り込まれ、有機生命ながら機械マシンのような外観フレームす、おぞましき“人間”、ナイニィ。


 多種多様なルーツを持つ“材料”で組み上げられ、3mほどの巨人となったそれは、“ポリティカル・コレクネス”への最適解。今もブツブツと何事か呟き、行ったり来たりをノシノシ繰り返す。


 パイプ椅子に座っている、タンクトップシャツの男。

 西洋風な、赤く焼けた白い肌、青い瞳を持つ彼は、ロベ・プルミエル。


 最後に、ホワイトボードを背に立っているトオリの横、自分で作った銃を磨いてはバラし、組み立ててはまた磨きと、鼻歌混じりにもてあそんでいる女。

 この仕事ヤマのクライアントが、“大口”であるという生き証人。


 “号砲雷落ワールド・ウォー”、ジョーナ・Z・ヴァーク。


 中心となる面々は、これで全て。

 この顔触れで、今からいっこくに喧嘩を売る。


 とは言っても、この7人“だけ”では無理だ。

 敵の強さは、1年前に散々確かめた。


 だから、今回は数を用意する。

 部隊じゃなく、“軍勢”を。


 ということなので、この7人が固まって動く機会は、ほぼ無い。

 それぞれが要所に配置され、必要な役を果たすだけ。


「全体のオペレーションは、その青年が果たすらしいが」


 ロベが振り返り、見られたディーズが縮み上がる。


「務まるのか?」

「そこは信用してくれていいヨ」


 遠照は自信を持って頷く。


「この中なら、彼が一番向いてるから」

「消去法のようにも見えるがな」

「頭脳労働担当を、くれなくてさあ……」


 「ケチケチしててBadだよねえ?」、

 特に困った様子でもなく、ヴァークが顔を上げもせずに言った。


「っというわけで、現地調達出来る中で、一番マシ……、いや上等なのが、彼だったってワケ」

「今『マシ』って言っただろお前」


 呆れるロベに、ディーズは「ど、どうも……」と、隙間風のような小声と共に、右手を僅かに上げた。

 溜息を吐き、今度は出入口の男に話し掛ける。


「お前は?それなりに暗躍してただけあって、頭は切れる方に見えるが?」

『私は当日、実働班としての御役目が御座いますから』

「キミは現場指揮、スタッグクンとボクは隠密潜入任務、あとはどっちかって言うと………」

「ああ、分かった。言わんでよし」


 命令待ちのロボットのように微動だにしないスパルタクス、言葉が通じるか怪しいナイニィ、恐らくその場のノリで生きているだろうヴァーク、彼らを順に見ながら、ロベは渋々納得するしかなかった。

 

 どの道、事が始まった後は、統制も何も無くなるだろう。

 この戦いにおける司令官は、大して重要な役ではない。


「ついでだがもう一つ。こいつは言う事を聞くのか?」


 庭で丸くなる駄犬に向けて言うかのように、ナイニィを指す。

 遠照は目も口も使ってニッコリと笑って見せ、もくすることで返答としたので、ロベは肩をすくめて話を打ち切った。


「武器の備えは、充分な用意がある。兵隊も、スタッグクンの尽力で集め終わってる。そしてスケジュールも把握済みだから、決行の日取りも確定済み。他に何か質問はあるカナ?」


 遠足のしおりを読ませ、内容の定着度を確認する和やかさで、改めて全員の意思と熱意の程を測ろうとする遠照。

 ここで迷いのような物を見せた者あれば、彼は即座に計画から外すつもりでいた。


「えぇ、ちょっと……」


 そしておずおずと手を高く揚げたのは、ディーズ。

 迷いに溢れた声音であったが、それは「やるかやらないか」という揺れ動きではなかった。


「はいディーズクン。どうしたんだい?」

「さっきもらった、資料を見て……、アー、気付いたことが……、その、つまりなんだけど、」

「なんだ。言いたいことがあるならハッキリ言え」

「ひゅぃっ!」


 痺れを切らしかけたロベを片手で止めて、「続けて」と目で促す遠照。


「そのう、ヴァークに、お願い、したい、ことが……」

「へぇ?」


 自分の名が、その青年から出るとは思っていなかった。

 臆病者は、強者の注意を惹くことすら、いとうのだから。


 彼はここで、ヴァークの気紛れの対象になるリスクより、作戦の成功率を上げることを優先した。本当に避けるべき危険は何か、それを分かっている“真の臆病者”。


 愉快ゆかいに、評価を上方修正、と言うより初めて彼に興味を抱きながら、彼女はたずねる。


「Can I help you?僕に、何を、オネダリするんだい…?」


 彼のアイディアを聞いたヴァークは、


 何とも自分好みだと、


 唇の曲線を、裂けるほど深めるのだった。

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