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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十一章:ゴングを鳴らせ!ガチンコバトルだ!

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598.えぇーっ!?そ、そんなこと…!?

「「それと、もう一つ」」


 そこで彼らが語った情報は、進を大いに狼狽ろうばいさせた。


「なにを……、急になんてこと言うんですか!?そんなことあるわけ……」

「それが、あるかもしれないんだよねえ、困ったことに」


 信じられないものを見るような顔で、口を半開はんびらきながら五十嵐へと振り向く。

 ほとんど接点が無いと思っていたが、考えていた以上に近付かれていたのかもしれない。


「クミちゃん。例のものを」

「はいなのです」


 事前に打ち合わせ済みである、一度は言ってみたかったお決まりのセリフ。

 それを聞いた傍付そばつきの従者は、忠実に彼の望み通りに動く。


 大判のタブレットにある写真を表示し、進に見せたのだ。


「これは……?」

「“燈柄拿ひえだ焼冶しょうじ”。聞いたことは?」

「いえ……でも、この顔………」


 「顔」。

 それはある人間の、潜行免許発行の為に撮影された、バストアップ写真である。

 鋭い目つきに、縦に長いが頑丈そうな顔。

 髪は赤色の中年。


「そうだ……、この人……!」

 

 そして、進はそれが誰か思い出した。


「“火鬼ローズ”……!」


 矢張りか。

 五十嵐達は、当たって欲しくない予想がまた一つ的中したと、ほぼ確信を得た。


「ほんの、10秒ちょっとくらいしか、見てないような気がしますけど……、でも、きっとこいつです…!“火鬼ローズ”の人間態は、確かこんな顔をしてました…!」


「「少なくとも、現在彼はどこにも居ない、行方不明であることは事実です」」


 それはそうだろう。

 ダンジョンの深層で、死んでいたのだから。

 

「え?でも、あのダンジョンに入ったんだったら、記録が残ってる筈ですよね?」


 そう。

 丁都の、それも都市部のダンジョン。

 いくら浅級とは言え、受付の出入り記録は徹底されている。


 入った人数と出た人数が違う、そういった事態をすぐにでも察知する為であり、もしそれが起こったら、すぐに潜行課へと連絡が行く。


 だがあの日、

 配信上でイリーガル事象発生が確認され、同じダンジョン内のディーパー全員に避難を推奨する連絡が行き、死人が出ないかピリピリしていた時、


 いつまで経っても、燈柄拿が出てこないことが、何故か問題にならなかった。


「こちらで調査したところ、その日、彼の入窟にゅうくつ記録は確認できませんでした」


 睦月が補足する。


「一方で、それと矛盾する事実もあります。

 ある配信者が、“くれぷすきゅ~る”チャンネル運営者と偶然をよそおって遭遇することを画策し、同日、同じダンジョンに潜っていました。その配信アーカイブに、僅かですが彼が映り込んでいたのです」


「じゃあ、やっぱり……あれ?」


 進の指が、違和感に触れた。

 そんな、偶然残った記録をわざわざ見に行かなくとも、もっと早く確実に手に入る証拠がある。


「それって、普通にガバカメの記録見るんじゃダメだったんですか?」


 丹本の潜行者は、ダンジョン内活動の撮影が義務付けられている。

 映像は必ず、管理会社に提出される筈だ。


「そこなんだよね」

「え……まさか」




「はい、提出された映像に、彼の姿はありませんでした」


 


 「恐らく、改竄されています」、

 それは、大問題である。

 

 個人情報保護の約束の上で、管理会社に渡されるそれに、何者かが触れて、手を加えたことになるからだ。


「やれるとしたら、企業の内部か、それとも公的な身分を持つ者か、です」

「例えば、き、救助隊だったら、その権限も、持たされるのです……」

 

 自分達ill(イリーガル)モンスターが、人間に化けられる知性存在だと、世間に露見する。

 その恐れがあったから、怪しまれそうな部分を書き換え、無かったことにした。

 そうも考えられる。


 そして、それが出来る条件が揃った者、その中に、前々から救世教会が目を付けていた、ある一人も属している。


「君のプライベートスマホの番号が、“きゃぷちゃら~ず”に漏れてたってのも、ちょっと気になりゅからね~。可能性として、低くはないんだよにぇ」

「「くれぐれも、ご注意ください」」


 半信半疑、と言うより、全く考えていなかった話をされて、明確な反論ができずにいる進を見ながら、五十嵐は内心でもう一つの懸念をまさぐる。


 AS計画、それを深く知るとされ、約1年間ずっと、調査対象になっていた情報源。


 それが強奪された。


 奴の能力は、彼らが考えている以上に、万能だった。


 あれは、どこまで連動した事態なのか?

 

 悪い事が、重なっただけなのか?




—————————————————————————————————————




 時はさかのぼり、7月19日。

 校内大会開始とほぼ同時刻。


 特作トクサが利用している地下施設、その一室に職員が入ってくる。

 打ちっぱなしのコンクリートが、無表情に見下げる中、アパートの広めな部屋一つ分くらいの空間の中心に、拘束された青年が椅子に座らされている。


 彼には、左手首から先が無かった。


 ガスマスクを被った二人の職員のうち、一人は隅の台の上で道具を並べ始め、もう一人は青年の前に屈み込んで、その目隠しを外す。


 四角い顔に向かって、恒例の文句を並べ、今日の仕事に取り掛かろうとしたその時、


 背後から繊維の束のようなもので首を絞められた。


「…!カ……!」

「先に謝っておくよ。ごめんネ。キミが悪いんじゃない」


 相棒に助けを求めようとした彼は、食虫植物に似た形に変形した机が、赤く汚れた塊を食っている場面を見た。


 ガクリと全身から命を失った職員を、丁寧に床へと下ろして寝かせる。


 これでブラフは見破られた。

 カードを切るにはここだと決め、もうこのプレイングをナシにはできない。


 「適切な対策さえあれば、侵入を検知できる」、それが偽りだと知られた。

 「世界中のほとんどの場所に、気付かれずに到達できる」と、彼らにも伝わることだろう。


——本格参戦、ってわけだネ


 影がみ出すように現れた、黒づくめの一人。

 “最悪最底ワーストランカー”、零負遠照。


「ヤ、初めまして、だネ」


 遠照は中腰ほどの高さへと頭を下ろし、青年と目線を合わせる。


「キミ、結構、切れ者なんだってネ?」


 「それに、ガッツもある」、

 彼を捕える枷を撫でながら、掘り出し物の骨董を見つけたように、満足そうな目を細める。


「キミに、手伝って欲しいことがあるんだ」


 さもなければ、ここに置いていく。

 顔にそう書かれていた。


 彼が探しているのは、ビジネスパートナーであり、奴隷なのだろう。


「安心してヨ。でぇぇぇっ、かいことだヨ。時代を動かすほど、ネ」


 青年の瞳が揺れる。

 

 時を超える偉業、


 それに、興味を示している。


 魅力に誘われている。




「世界を変えるんだ。一緒にやろうヨ、ディーズ」




 猿轡さるぐつわを解かれた口から、


 思った通りの返答が出てきた。

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