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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第三章:友達よりも敵が増えるペースの方が圧倒的に速い件

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55.いざ尋常に

 明胤学園では至る所に、模擬戦用アリーナが設けられている。

 “ギャンバー”の強豪として、時に大会の開催地となることもあるし、普段の授業でも、頻繁に利用すると言う。

 五芒星以上の高度魔法陣によって設備と観戦者を守り、地下会場に至っては、地形や天候などの条件まで設定可能。

 生徒個人による、研鑽としての使用も奨励されている。


 で、こういう直接殴り合えるような仕組みがあれば、当然それを揉め事や闘争の延長として使うヤツが出て来る。

 と、言うか、ただでさえ、能力があれば人格や学力は後回しでも良い、みたいな思想の試験を用意する学園だ。進学校的な立ち位置なクセをして、生徒の「民度」は悪めだったりする。

 「決闘の取り決め」と称して、格下から物を巻き上げる、どうしようもないのだって居るらしいし、勝敗や残ポイントでの賭け事も横行する。

 力で学園を乗っ取ってやる、みたいな物騒なのも少なくないだろう。教師が説く道徳なんてクソ食らえ、そんなアナーキストも、在籍出来てしまう。


 いじめの温床になったり、将来の犯罪者を育ててないか?と思われるかもしれないが…、そこは考え方次第だ。

 この学園内では、弱い上に役に立たない奴は、誰からも下に見られる。無視されるし、孤立する。教師陣も、それを解消する事自体には、あまり熱心でない。


 が、「強くならない、なろうとしないヤツ」、「強いが考える事の出来ないヤツ」を、馬鹿にする空気も、確かにある。


 さっきの「格下いじめ君」は、それを繰り返してると、今度はそいつがいじめの対象になる。下しか見ないのはダサいからだ。

 1対1の決闘の勝敗だけ誇る奴は、白い眼で見られる。「サポートポジションの重要性を理解してないアホです」、という自己紹介だからだ。

 校則を始めとしたルールに従わない奴は、どれだけ強くても支持を失う。教師が更にクソ強いから、敵対したら絶対に勝てないからだ。


 力を持ったガキに、「無秩序に己を振るうより、所属する集団の空気を呼んで、ルールに則って誰かを殴る方が楽」、そう教え込むのも、学園の役目。


 増長すれば教師にボコられるし、模範的なら少しくらいの粗相も目こぼされる。もしその集団の規則が気に入らなければ、周囲を良く見て、考えて行動し、味方に引き入れ、権力を持ってから自分で変えろ。ただ強いだけでは、何も出来ない。

 そうやって、他者を気にしていると、前より金や、人望や、権力、優遇が手に入っていく。「じゃあこうした方が得じゃん」と、危険人物を社会の枠に収めるのが、国の狙いの一つなのだ。



 この方針については、賛否両論ある。あるが、こういう学園でしか取り扱えない、鎮められない爆弾みたいな人材が、実在してることは確かなのだ。そいつに秩序を「教育」してやる場を潰すのは、国民にとっての死活問題に直結する。

 だから反対派も、あまり大声で糾弾出来ない。してるやつも居るは居るけど、「死にたいのかコイツら…?」みたいな、冷めた嫌悪感でスルーされるのがほとんどである。


 残酷そうに見えるが、しかし「強い、強くなりたい、規格外な存在」に、教えを授ける学校だ。そういう弱者への、ある種の無関心さも、あってはいい、とは思う。


 確かに、「俺が最強!」みたいな奴が、他の誰でも優しくしてくれるよう、変わってくれるのが一番ではある。が、世の中には、生物として隔たり過ぎて、どーしても、対等な人間として見れない、という外れ値みたいなやからだって居る。そういう場合を矯正するに当たり、より現実的な次善の策が、この在り方なんだろう。



 超人を“人”にする。でないと、社会を維持できない。



 合わなければ、一部の特別生を除いて、学校を移ったりも出来るし。これはこれで、一概に悪習というわけでもない。

 ないんだけど、だけどさあ、


「なんでローマン相手には、こんな攻撃的なんだよ…」


 明胤学園、地上第五模擬戦用アリーナ。

 その一角、編入試験時と同じくらいの広さの空間で、丸くてデカいのと向かい合っている。

 互いにヘッドセットで顔は見えない。が、その内側にある憎たらしい表情は、そう簡単には忘れられない。


 ニークトと俺との決闘当日。魔素の注入も終わり、試合開始直前の、最後のひと時である。


 もっとこう、互いに敬意払って、神妙に、みたいな感じで行きたかったんだけど、なあんか、場の空気がね…。


「棄権しろよ!何戦いに来てんだキモいな!」

「そーくーし!そーくーし!」

「現実知って出てけ!」

「キモチワルイ!同じ教室にいるだけで最悪!」

「2分耐えろよ!ローマン!せめて俺の儲けになれ!」

「ニークト様に無様に負けて退学しろ!」

「もげろ!下半身野郎!」

「ニークト先輩!そいつの股を重点的にお願いします!」

「死ねー!性犯罪者ー!」

「ブゥゥゥゥゥウウウウ!!」


 会場の外周は観戦席となっており、戦場を見下ろせる作りとなっている。そこには所狭しと人が押しかけ、俺の敗北を待ち望んでいるのだ。学校関係者ならリアルタイム映像にアクセス出来る為、ここに入らなかったけどそっちで見てる人も居るだろう。俺は何人に「負けろ」って言われてるのか。


 あの、敗者への無関心は…?

 格下狩りへの嫌悪感とは…?


(((漏魔症の場合、軽蔑と同時に、忌避感と憤慨が来るようですね)))

(無関心ではない事に、喜ぶべき、なの、か、なあ…?)

(((貴方の場合、例の少女の相方となった事への、妬疾としつもあるでしょう)))

(うん、嘆くべきだな。マジで全員敵なんだけど)


 「どうせ負ける」にプラスして、「許されるなら殺したい」、みたいな感情が見えます。ローマンって、そんなに汚く見えますか…?特に害は無いですよ…?ほんとなんです…。あと別に退学を賭けては無いからな?


「カミザくーん!ガンバってー!」


 ありがとう詠訵。そう言ってくれるのはお前だけだ。だけどその一言で、会場のボルテージが加熱したね。まだアガれるのかよ、人気アーティストのライブじゃねえんだわ。


「お二方とも、コチラへ!」


 白取先生に呼ばれ、ニークトと共に中央へ。

 決闘だとか“ギャンバー”の試合だとかでは、言うまでもなく教師と、それから身体欠損を修復できるレベルの治療役、この二人の立ち合いが居る。どちらも兼ねている一人でもいいし、生徒に手伝いをさせたり、外部のディーパーを雇っても可。

 白取先生は、一人で大丈夫なタイプみたいだ。


「握手を。勝敗がどのようであれ、互いの力を、能力・知力・体力・努力・忍耐力を、敬い、讃え合いましょう!ええ、人の可能性とは尊いものです!」


 どっちが言ったでも決めたでもなく、互いに左手を、利き腕と逆を出す。


「知らないかもしれないから言っておくが、この学園の決闘の映像は、秘匿性の高い物を除き、後ほど公開される。お前の大好きな『配信』とやらで、お前を圧倒的に打ち負かし、地べたに転がし、赦しを請わせ、お前を通して甘っちょろい願望を抱く能無し共を、夢の世界から叩き起こしてやるよ。お前のように遊んでるだけの奴は、いつまでも負け犬だと教えてやる…!」


「居もしない『能無し』相手にイキるより、自分の『聞く耳無し』を改善してはどうですか?相手へリスペクトを示す場だって言われてんだろ?俺はこれからも、人に興奮と感動を届けたいです。例えばあんたみたいな口と権力だけの見掛け倒しを、痛快にぶっ飛ばしてね。ネタの提供ありがとうございます。最近マンネリだと思ってたんです」


「………私の話を聞いていましたか…?」


「勿論です白取先生。私は彼の有りもしない希望を見せる能力をとうとんでいます。まるで自分自身も信じているように見えますけど、まさかなあ?」

「分かってます先生。僕は先輩の体型と同じように大き過ぎる自信に圧倒されているんです。どこから来るか分からないんですけど、まさか根拠ゼロってわけでもないでしょ?」


 うーん、互いに肉体強化無しでの握力比べでも、思った通りニークトに分があるか。力押しには持ち込まない方がいいな。

 白取先生は首を振りながらも、それ以上何も言わずに元の位置に戻るよう命じ、自分は戦場から一旦離脱していく。いつでも駆け付けられるよう、見えないが近くに待機しているのだ。


 俺はいつもの、左手を前にして、右手にナイフを持つ構え。

 ニークトは、湾曲した片刃の西洋剣みたいなものを、右肩を前に出した姿勢で、体の横に水平に構えている。


 始まりが近いと察して、静けさが広がっていくくらいには、野次馬達にも理性と自制心があった。こういう所は、仮にも「学園」である。

 

 その数秒の間に、俺は自分のムカつきに薪をくべる。

 相手を刺す時に、間違っても鈍らせないように。


 これは部活に入る入らないの勝負だが、俺にとってはプライドも懸かってるのだ。

 さんざっぱら人の趣味とファンを馬鹿にしやがって…!この豚に思い知らせてやる…!こんな奴に、俺の学園生活を制限されて堪るか!


 そして完全に物音が無くなったその時、


 ビーッ!と、


 ゴング代わりのブザーが鳴いた。

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