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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十一章:ゴングを鳴らせ!ガチンコバトルだ!

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590.やっつける!

 最初に訪れたのは、なぎだった。

 日魅在進が起こしていた風、それが完全に止まった。


 当然、魔力で固定されていた肉や骨、臓器は支えを失って、

 真紅の涙をおびただしく嘔吐した。


〈!?……なにを………!?〉


 答える言葉も猶予も持たず、

 彼は次に、


「すぅぅぅううう…」


 息を吸って、


「ふううぅぅぅ…」


 吐いた。

 魔力廻転が生じ、からだの欠けを下支したざさえした。


「す、ぅぅぅううう……」


 吸って、


「ふ、ううぅぅぅ……」


 吐いた。

 風がまたつばめのように、くるりと宙返り。

 

「ひゅ、ぅぅぅううう…っ!」

 

 吸って、


「ひゅ、おおおぉぉぉ…っ!」


 吐いた。

 春一番が、力強く火の粉を躍らせた。


「ひゅ、ゥゥゥウウウ…ッ!」


 吸って、


「ひゅ、オオオォォォ…ッ!」


 吐いた。

 体内での周回が速くなっていき、


 それはとうとう一本の斜線を引いた。


 手と手を合わせ、肘を横に、足を左右に開く姿勢。

 その端から端までを使って、見慣れた形を結んでいく。


 同時に、ダンジョンケーブルが引き出され、彼の背後に円を作った。


 その立体的経路を、前から二次元として見たなら、


〈五芒星魔法陣……!〉


 出力大幅上昇、つ容易な高度処理を可能とする、

 魔学界の革新と言われた図形。


 それが、


 それが土台だ。

 前提だ。


 ここからが、「やりたいこと」だ。


 彼は意識する。

 イメージする。

 

 自らの中にある穴、

 自らを覆った大穴、

 それは「ここではないどこか」へ続いている。

 

 そこから、引っ張り出す。

 呼吸の勢いで、

 それで生まれるエネルギーで、


 ありったけを、「今ここ」に!




「ぴ、ぃぃぃいいいいいい……っ!」




 大気が、甲高かんだかく鳴った。




「ひょ、おおおぉぉぉぉぉぉ……っ!」




 その風はダンジョンを、“爬い廃レプタイルズ・タイルズ”中を駆け抜け、

 詠訵やニークトを始めとする11人にも、

 どころか外で戦う明胤の戦士達の耳にも届いた。




 彼らはその時、

 ダンジョンの号哭ごうこくだと、

 そう思ったと言う。



 

 さみしい鳥が鳴くように。

 びしい風がくように。


 


 進は思い出す。

 かつて目の前のill(イリーガル)に、自らを憑依させた時のことを。

 その時の、肉体の変化、反応を。


 そのからだの感触を、思い起こす。


 風が鋭く地を削り、そのはしくれを巻き上げる。

 竜巻が大地を吸い上げるみたいに。


 全身に魔力が浸潤しんじゅんしていく。

 それらは全霊探知状態を作り上げる。


 が、魔法陣の影響で、精度は更に、格段に上がる。


 1mの100万分の一、ミクロの世界、

 そこからもっと細かく、ナノ単位の域に。


 それらは全身で同時多発的に、ある化学結合を丁寧に切り離した。


 彼の考えは、簡単だった。

 敵が自分に似ていて、だが自分には一部及ばない部分があり、それによって押し負けていると言うのなら、

 

 


 並んでやるだけだ。

 同じ事を、やり返してやるのだ。




 彼は炭素の一部を、他と同じだけ結合できる珪素けいそと入れ替えた。

 珪素はどこから調達したのか?

 「そこらじゅう」だ。


 地殻ちかく、言うなれば地表の大部分は、

 石英、二酸化珪素によって構成されている。


 何よりここは、珪素生命体らしき竜、“臥龍メガサウリア”の中。

 その物質に困る筈がない。


 肉体が作り替えられる。

 やわく、しなやかな部分と、

 硬く、つよい部分。


 硬くも脆いアーマーの内側に、空間装甲や強化ゴム、防弾チョッキの層。

 そんな“肉体”を作り上げていく。

 

 旋風つむじかぜの幕が上がり、立っていたのは硝子ガラスのサイボーグ怪人だ。

 幽霊のように稀薄ながら、耀々(ようよう)ぎ澄まされた剣山けんざん地獄。

 盛立さかだつ白熱の時間を止めたら、そういう姿になるのだろうか。


 関節部以外を覆う、鋭角えいかくつらなる分厚ぶあつい鎧。


 血流や化学反応を加速させる魔力の奔矢ほんし、それが束ねられたものが透明な体表の内を抜け、それが起こす乱反射によって、その身を白く濁って見せるは、まさしく燃ゆる血潮の可視化。

 

 表面に無数に走る、スリット縁取ふちどるプリズム光。

 管楽器のように巻き巡らされる、パイプ構造。


 その一部は頭の右半分を、「く」の字型に覆っていて、左半分には三つの瞳を持つ、スケルトンフレームの生体カメラ。

 歯並びは歯車の噛み合いの如く機械的。

 

 肩甲骨の後ろあたりからも、ギザギザしたパイプの束が突き出ていて、退化した翼のような一対の突起となっている。


 指は刃物に、足は5本指の上から二又ふたまた獣脚じゅうきゃくが被さり、それらはスリットの爪を持つ。

 

 様々な部分を作り替え、増設したことで、全高は1m80近くに。


 全く異なる物質を、無理矢理に体へ馴染ませた逸品いっぴん


 コンセプトは、

 もっと細かく、もっと正確に、

 もっと硬く、もっと鋭く!


 愚直に、ただただ愚直に!


〈ぴ、ぃぃぃいいいいいい……っ!〉


 空を翔ける音ながら、


〈ひょ、おおおぉぉぉぉぉぉ……っ!〉


 地の底から震えわたる!


 それは破魔はまひとき。

 破竹はちく甲機こうき


 名付けるなら——


(((“ナリカブラ”)))〈“魔術空手マジカラテ”!〉


〈………〉

〈………〉

(((………)))


〈マジカラ(((“ナリカブラ”、とでも呼称しましょう)))選考の価値ナシ!?一考の余地すらない感じ!?〉


 進の案は言外の却下を喰らい、


 今ここに命名、


 魔学的全身生体改造技術、


 “嚆矢叫炎ナリカブラ”!


〈お待たせ…!〉


 合わせた掌を、左手左脚を前に、右手右腰を引いて、


〈じゃ、始めるか…!〉


 いつも通りの構えに。


〈お手合わせ、ですの〉


 全身から上がる目映まばゆい光は、


〈ああ、格付けの時間だ〉


 魔力噴射の陽炎かげろうと、

 回転刃の斬裂。


〈“臥龍メガサウリア”。お姉様とい遂げるのは〉

〈日魅在進。カンナと一緒に生きるのは、〉







           〈ワタクシだ!〉〈俺だ!〉







 はかったわけではなかったが、


 両者とも、


 同時に一歩を踏んでいた。

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