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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十一章:ゴングを鳴らせ!ガチンコバトルだ!

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585.死にはしない!

 ジュリー・ド・トロワは、亢宿勻を嫌っている。


 自らの弱さに向き合い、真っ直ぐであれるようになった後も、それを最初から自然と出来ていた、あの男に敗北感を抱いている。


 「なんか負けた気がする」、些細ささいだからこそ、取り除きがたい。


 一つ歳下の彼が、勝手に彼女のライバル気取りなのも、

 彼女自身の心が、なんとなくそれを受け入れてしまっているのも、

 気にさわる。


 彼女は以前本人に、そのことを直接言ったことがある。


「なら今度、トロワさんが卒業する時にでも、もう一度サシの真剣勝負をしようじゃないか」


 彼は待ってましたとばかりに、そう提案した。

 「絶対に泣かす」、彼女はそう固く誓った。


 トロワもトロワだが、亢宿も亢宿である。

 似た者同士、ぶつかるのも当たり前だった。

 

 だが同じ後輩で、同じような精神構造の相手でも、進に向ける内心は軟化なんかし続けている。亢宿へのそれが、同族嫌悪だけで片付けられるものではないと、それも分かっていることだ。


 では、それは何なのだろうか?


 ある種の友情か?

 愛のような面倒な感情か?

 戦士としてのプライドか?

 直接負かされたという事実が大きいのか?


 もう分からない。

 決着をつけて、それをハッキリさせる前に、

 彼には勝ち逃げされてしまった。


 彼は最期まで戦士として生き、戦士として戦って死んだ。

 彼女の理想の生き方、死に方を、先にやられてしまったのだ。


 だからやっぱり、彼女は彼が嫌いだ。

 約束も守らず、勝手に一抜いちぬけなんて。


 そう、彼は死んだ。

 忌々しくも彼女とすると認めざるを得なかった彼は、その命を払わず勝つことができなかった。


 けれど、多くを守って、自分とその仲間は死んで、

 それはディーパーにとって、使命をまっとうした死にざまだと言えた。

 

 彼女がそれでも彼をたたえられないのは、どこかで思っていたからだ。

 自分は、それと比肩ひけんする彼は、死なないのだと。

 なんだかんだ、何があっても、勝って生き続けるのだと。


 強者だから、弱肉強食だから、

 なんともオメデタイと、今更ながらに思う。

 

「『平和オトボケタイプ』……、その通りね…、痛いくらいに」


 模擬戦用の剣を握り、肌にバチバチと刺さる殺気にひたる。


 人は死ぬ、それも結構あっさりと。

 「生存はまず前提」、それが「極論」だと、訅和に言われたその意味が、あんなに強かった亢宿の死でようやく、身にみて実感できた気がした。

 

 一人で戦える、生きていけるなんて、自分が不死身だと思ってる馬鹿野郎のセリフだった。

 仲間を頼ろうが、撤退しようが、生きて、より多くを生かすため、手段を選んではいられない。


 戦う姿に、作られた美しさを求めるなど、世界でも図抜けた最強にのみ許される贅沢。

 彼女はまだ、そこに到れていない。


 彼女が憧れた、華やかな英雄になりたいのなら、

 最強になるまで、生き続けないといけない。


 だったら、仲間は必要だ。

 そして彼女には、自分と並び立たせ、背を預けても良いくらいには、それなりに最高の仲間が居る。


「“強き牙を放つ匕首(キャラッド・コーグ)”。死なせないわよ、誰も」


 竜胆色の飛刃がM型やF型を殺し、他の戦士の爪や牙、刃物を強化し、全体を支える。


 振動や流動で、斬撃を複数回入れることが前提な能力者、狩狼や辺泥なら特に、その能力を有効に使えるだろう。


 彼女の剣に残されたのは、先端と根元の部分のみ。

 

「約束も守らず死ぬなんて不誠実、少なくとも今は、させてあげないわ」


 アーマー左手の袖に剣身をこすり付けながら、さきを数歩先のW型に向け、構える。


「死なせるもんですか!私の目が届く内で!」


 自分の為に、仲間も自分も守る。

 彼女が見つけた、「自分本位な在り方」。


 W型は、重装歩兵のような装備。

 右手に槍と、左手に盾。


 槍の穂先は、それだけでブロードソードクラスのサイズであり、刃から少し下に取っ手が突き出ている。

 盾は扁平へんぺいで横に幅広の、両刃りょうばおののような形状で、カメに似ていることで知られる三畳紀の板歯ばんし類、ヘノドゥスの背甲はいこうが近いだろうか。


 右腕の中途がボンと吹き飛び、溢れた体液がを伝い、穂先の溝をグツグツしたたり濡らす。

 

 赤熱刃ヒートブレード

 それで斬り下ろしてくる。

 

 間合いはまだ遠い。だがそのまま立っていれば、槍に付着したマグマを飛ばす攻撃を、モロに引っ掛けられてしまう。

 

 サイドステップ。

 その足運びによって、前進も後退も一時不自由になる、その隙を狙って盾の陰に全身を隠しながらの低姿勢接近。


 他と違って猫のように柔らかな身のこなし、このダンジョン内では最速クラスのスピード。

 W型らしく、技量もしっかりと身に着けているタイプ。


 対して、知的生命体代表たる霊長類が取った行動は、


 正面から三段突き。

 

 2発で盾をぶち抜き、それで開いた穴に3発目を突き刺すという、能力と剛力に全委任ぜんいにんした、知力ゼロの攻撃特化戦法。


 たった一回の、フレームレートが低い刺突にすら見えるそれによって、確かに盾は穿うがたれた。

 だが3撃目が入った瞬間、W型の左手はひねられ、剣先を外側に持って行かれる。


〈クゥッアッ!〉


 「獲った」、とでも言いたかったのだろうか。

 先端近くの取っ手を使って短く持ち替えた槍で、ガラ空きになったボディに一直線。


 その鋭角に添えられ、横に流すもう一本。

 さやだ。


 一部が溶け欠けながらも、とがった石突いしづきに竜胆色の刃を装備し、立派な攻撃手段としてW型にカウンターを刺し込む。

 脇腹付近に、2撃。

 破裂し、体液が音を立てて飛び出す。


 衝撃で回るW型を見ながら、トロワは剣を手放し三角座りのように脚を畳んで後方回転跳躍。

 その背中の下を、尻尾によるあしぎが通過し、散布されたガスが一拍遅れて発火爆発。


 向き直ったW型は口を開いて、喉奥から高圧溶岩流をたんしゃ

 その首を脚で挟み、背中からぴったり相手に密着することで躱した彼女は、地面に両手を付くと力いっぱいに敵を後ろへ投げる。


 頭頂から叩きつけられながらも再度の溶岩流で撃ち抜こうとし、だが自らの盾にはばまれる。

 そこに刺さったレイピア、それが竜胆色越しに遠隔で操られ、射線上まで引っ張ったのだ。


 両腕のバネで跳ね起きながら剣を引き抜き、振り向きざまに斬り上げることで尻尾の打擲ちょうちゃくはじく。


 四つ足で這いながら方向転換をしているW型にツカツカと駆け寄り、回頭中に右足でまず盾を外に、それから胸を蹴り上げる。


 爪先に仕込まれた竜胆色が、傷口を刻印。

 その足で踏み込みながら、両手の“剣”をそこに目掛けて一点同時刺し。


 爆散。

 胸から上にぽっかりと穴が開き、首がほうられた。


「次!とっとと持って来なさい!」


 最後に炸裂した切片せっぺんによる傷を、ベージュ色に治癒させながら、ライオンの人形に叫ぶ。

 

 そこから数m地点に、大振おおぶりのハンマーを持ったW型が降って来た。


 あらゆる手を使いそこまで誘導されたのだろうが、それにしても仕事が早い。

 恐らく広い視野を持つ六本木が、トロワに言われる前から動いていたのだろう。

 

 再びの至近戦闘。


 こうやって敵の頭脳を釘付け、削り取っていくのが彼女の役目だ。

 チームの為のスタンドプレー。


 大型の敵は、彼女の魔法さえあれば、他の誰でも殺せる。

 だからこれが適任。


「ちゃんと決めなさいよ…!」


 鎧を剥がし合い、身を焦がし合う闘争の最中さなか


 彼女は友軍に、当然の要求を入れる。


「この私を、アシスト役に回したのだから!」

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