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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十一章:ゴングを鳴らせ!ガチンコバトルだ!

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572.たった一つ、ただそれだけでも

 大量の神経が通っており、痛みに弱いとされる耳。

 自らのそれを引き千切ると、相手の姿勢がブレて攻撃威力が減退。


 半ば当てずっぽうのカウンターが間に合い、鼻を折る。

 自らの痛みや苦しみは、アドレナリンか何かが洗い落とす。


 基本はこれだ。

 末端を自傷し、敵にそれをフィードバックして、崩れたところに合わせる。

 手足をへし折り、臓器を打ち抜く。


 押している。

 押しているが、彼女は釈然としない。


「お前はもっと、痛みに強いだろっ!」


 自爆上等な戦い方は、その男の十八番オハコなのだ。

 この程度で、やられっぱなしになるような、そんな奴ではないのだ。


 彼女はそれを、ムカつくほどに良く知っている。

 戦場で並び立ちながら、何度も何度も見て来たから。


「何度でも言ってやる!『本気でやれ』っ!」


 両方の膝下を破壊しながら、踏み止まろうとしているそいつの股下に潜り込み、掌底アッパーをぶち込む。


 自らの下腹部も吹き飛ぶが、痛みに関しては相手の方が上である。

 人間の主要部位でありながら、熱に弱い為に外に出ている、“その臓器”を潰されているからだ。


 怯んだその腹に拳や膝を何発も叩き込み、肉体への負担よりも苦悶させることを優先した攻めを続け、煽り立てる。

 男性のみが持つ一方的な弱点すら、容赦なく突いてやるところを見せて、自分の本気を伝えてやる。


 訓練など口実だ。

 らし、

 リンチの為にやっている。




 全力で殴り返して来い、と。


 


 好感が持てる人だと思う。


 何事にも本気で、全力で、お人好しなところがあって、友達想いで、単純だが思慮が浅いわけでもなく、妙に頭が回るところもあり、蛮勇との間をギリギリ行き来するような勇気も持っていて………


 今だって、彼女の提案に喜んで付き合ってくれている。

 条件として提示してないのに、反応装甲や魔力ジェット、ナイフやケーブルを使わないでいてくれる。

 「練習になる程度」を、探り探りやってくれている。


 良い奴だと思う。

 実際、好ましく感じることは幾らでもある。


 だから彼女は、彼が恋敵であるという事実に、



 たまらなく、腹が立つ。



 遠慮なく軽蔑させてくれない。

 躊躇いなく憎ませてくれない。


 これで最低な男だったら、どんな汚い手を使っても、大事な人を守る為、という言い訳が出来た。

 でもこいつ相手では、何か仕掛けたら、悪いのはどう見ても彼女の方になる。


 放置すれば、想い人をられる。

 戦えば、二度と想い人に顔向けできなくなる。


 どう足掻あがいても、彼女は満足できない。

 幸せに、なれない。


 分かっている。

 言い訳だ。

 最初から、自分勝手な欲求だけの、恋とも言えない邪念だったのだ。


 彼女は知ろうとした。

 女が女に欲情する、それを起こすには、どうすればいいのか。


 見つけた答えは、酷くこざっぱりしたものだった。


 

 そんなこと、()()()()()()()()()

 奇跡でも、ドラマでもない。



 様々な統計や実験が言っていた。


 男は女を、無意識に好む。

 でも女はそれ以上に、女を好意的に見るように出来ている。

 

 男は自分の性的嗜好(しこう)に合ったポルノに興奮する。

 女は男女カップル、男性同士、女性同士、どの絡みのポルノでも、全体的に好む傾向にある。


 男性刑務所よりも、女性刑務所の方が、囚人同士での性的暴行の発生率が高い。


 女が女を好きになるのは、

 実は言うほど異常ではない。


 彼女が親友のことを好きになったのは、人の身体ではなく魂を好きになったという意味だと、誇りに思ってきた。

 “プラトニック”、その言葉を本気で信じていた。


 でもそれが、間違いだったら?

 生物学の自然として、そうプログラミングされてるだけ、という話だったら?


 結局肉欲でしかないなら、

 彼女がその男より優れている点は、

 もうどこにも無くなってしまう。




 ダンジョンも、潜行者も無い頃。

 困窮こんきゅうした共同体から真っ先に間引きされるのは、一番下の子供、特に女児だったらしい。

 なのに人間は、全体的に女子供おんなこどもに好意的だと言う。


 この矛盾は、何だろう?


 “弱者”を守り、所有すると、気持ち良くなれる。

 自分が気持ち良くなるために、弱者を使うと言う快楽。自分の生存ほどではないけれど、弱者の存続に気を遣う機序きじょ


 自分を最優先に、でも娯楽やかいを追う余裕が出来たら、弱い奴も助けようとする。

 そういう遺伝子を持ってる方が、数を増やしやすかった。

 きっと、それだけの話。


 そして遺伝子にとっては、「女」も弱者カテゴリーの中だった。


 人類のDNAはかつて、魔学を知らなかったのだから、子を産む為に生物的コストを払う役でありながら、それ以外の共通身体能力は低い“メス”が、「弱者」に設定されてしまうのは、自然な話と言えばその通り。


 それはかつて、魔法なんて概念が無かったころの名残。

 男女の戦闘力的な強さをならせる仕組みが現れても、2000年ぽっちじゃ、人間の遺伝子は大して変わらなかったのだろう。


 あの子の短い髪が好きだ。

 あの子の深い瞳が好きだ。

 あの子の爛漫らんまんさが好きだ。

 あの子の妖艶さが好きだ。


 あの子の、

 あの子の何を知っている?

 表面しかあげつらえないのに?


 女は女を好きになるのに、

 それは変なことだと思われている。


 女で良かった。


 女だから、彼女の想いは気付かれなかった。

 あの子との距離を極限まで縮め、


 だけど最後の一線を越えられる可能性を、限りなくゼロにしてしまった。


 女から女への性欲はない。

 女が女を好きになるわけがない。

 その思い込みさえなければ。


 女でさえ、なければ。




 日魅在進は、こちらを心配している。

 だが体外魔力操作や、ジェット噴射を、徐々に解禁し始めている。


 このに及んで、「ちょうどいい力加減」をまだはかろうとしているが、リミッターは着実に外れている。


 彼はきっと、彼女を本気でぶん殴りたくはないのだろう。

 その嫌な気分を、彼女の想いをんで、抑えてくれている。


 一方で、完全詠唱を破壊しないという、最初のルールは守ってくれている。

 それを破ったら負けだという、小学生の屁理屈みたいな彼女の言い分に、付き合ってくれている。


 みじめだ。

 彼女は「胸を借りる」債務者だ。

 これではどちらが大人か、どちらに思いやりがあるか、人間的にどっちがマシか、その答え合わせをしているようなものだ。


 やればやるほど、負けると言うのに、

 八つ当たりが止まらない。


 勝てない。

 何も、

 何一つ、

 彼女はそいつを上回れない。


 せめて、

 せめて執念だけでも、

 諦めの悪さだけでも勝ちたい!

 勝たないといけない!


 勝っていないと、彼女は自分を許せない!


 その恋慕が本当に、ただの獣欲だったことになってしまう!


 それを否定する為に、彼女は戦う!


 ちっぽけな意地だと、言わば言え。


 ハンデ戦で、そんな発言をする図々しさに、どれだけ呆れられようとも!


「ミヨちゃんの前で!私に負けろ!日魅在進っ!」


 太い針を幾つも自分の脚に突き刺し、筋肉の反射的収縮を引き起こすことで相手のフットワークを止める。

 その両肩に手を乗せ、敵の頭上に倒立とうりつ


 反転しながら膝を突き出し、重心のズレを起こし重力を纏って加速、円軌道で背中に打ち下ろす!

 それを減速させようと敵背部からジェット噴射が。

 

 そこを狙い、相手に最も近くなっている右腕を首に回し、左腕で固める。

 彼女の体を離そうと押し返すほどに、逆により強く閉まるように!


 チョークスリーパーが、


 そのくびった!

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