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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十章:だとしても、そうだとしても

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564.三方一両損

「そうですか、死によりましたか、あのアホ兄貴」


 政十天万は話を聞いて、ポツリとそれだけを言った。


「今回のこと、彼を恨むかい?」


 五十嵐に聞かれ、笑って首を振る。


「まさか、アホはアホでも、あれも政十の男ですさかい。死ぬことくらい織り込み済みで出向いてますわ。日魅在君がどうのやありません」

「そう言ってくれると、僕としても安心できるよ」


 甲都、雨坐大神宮、拝謁はいえつの間。

 今は「裏の事情」にも通じている侍女が出払っている為に、室内は男二人きりである。


 天万の役柄は、五十妹本庁と政十本家とを繋ぐ連絡役。

 丹本の内から国賊こくぞくが出たことで、敵と通じている内憂ないゆうの洗い出しを行っている間、傍受ぼうじゅされるオンラインでのやり取りを一時中止し、速さを捨てて原始的伝言ゲーム方式に切り替えているのだ。


「それより、ええんですか?」

「三都葉のこと?それとも壌弌?」

「両方ですがな。どっちもキナ臭いとちゃいますの?」

「そうだねー……」


 央華と組んで“可惜夜ナイトライダー”独占を画策した疑惑のある三都葉。

 無断で極秘裏に部隊を送り込んでいた壌弌。

 どちらも大問題であり、責任追及の上でそれなりの処罰なり、弱体化なりをしたいところではある。

 

 あるのだが、


「あんまり大っぴらに攻めるのもねぇ……」

「いけませんか?」

「影響が大き過ぎるからね」


 時機が悪い。


 “右眼”や永級閉窟、そして今回の央華の凶行によって、国際関係の緊張は高まっている。

 更に陽州の永級第三号閉窟が重なり、険悪さも一入ひとしお

 過去最悪の空気が醸造されつつある。


 次男がお家存続と騎士団再編の為にリソースを全注ぜんちゅうし、外に目を向ける余裕が無くなっているルカイオス公爵家を除けば、今回の作戦で最も戦力をロストしたのは丹本勢力である。


 経済の面でも資源の面でもコネクションの面でも軍事、否、“実力”の面でも、丹本のかなめである御三家。それに内輪うちわでダメージを与えていられるほど、余裕のある時世じせいではない。


「御三家それぞれの本家出身者から犠牲が出た形だし、これ以上の打撃アタックには慎重にならざるを得ないんだよね。今回の作戦マッチであまり懐を痛めてないキリルとか、怖いなんてもんじゃないし」

「聖国も、“号砲雷落ワールド・ウォー”を失った程度で揺らぐような国やありませんやろなあ」


 日魅在進と“右眼”がill(イリーガル)の術を突破する事に、三都葉瑠璃が大きく貢献したという報告も上がっている。

 恩を押し売られた形だが、他の二家に矛を収めるよう説得する材料として、気持ち良く買い上げてやるべしと、五十嵐はそう判断した。

 

「元々この有事に、三都葉をオーバーキルするつもりも無かったからね。『痛み分け(ノーゲーム)』って落とし所へ持って行く言い訳を用意してくれたのは、今回のことで数少ない三都葉の貢献ポイントだよ」

「マッチポンプめいた貢献のしかたですやんな」

「まあそれについては目をつむるよ」

 

 単純に「三都葉を潰す」と言っても、その根は様々な業界、業種にまで及んでおり、下手に大事にすると国レベルの損害にまで広がることになる。

 それは望むところではない。


 だからどうやって関係各所の溜飲りゅういんを下ろすか、それに頭を悩ませていたが、自らをスケープゴートにしてくれるなら話は早い。


「今回のことは、三都葉瑠璃個人が央華を使って、三都葉家の権力掌握の為にクーデターを起こした事が発端。三都葉瑠璃本人は死亡しているので追及は不可能。グループ系列企業からは出来るだけ央華の影響力を削ぎ落す。それが表向きのシナリオだね」


「で、裏っかわでは、『三都葉は初めから央華を出し抜いて丹本に利するつもりだった』、『央華が予想以上に暴走したものの、沈静化には成功したのでプラマイゼロ』、で通すわけですわな」

「何事も方便は大事だよ」

 

 どうせなら、これからは央華中枢とのパイプとしても役に立って貰おう。

 彼は奴らを、馬車馬ばしゃうまの如くコキ使ってやるつもりでいた。

 そこまで利用し尽くさなければ割に合わない。


「壌弌の方も有耶無耶うやむやですか?」

「まあ、ダメージ判定(ヒットマーク)は確認できたし、今はそれ以上は望まないかなあ。向こうもill(イリーガル)討伐にアシストを入れてくれてたらしいし」

「………やっこさん、今回の反応を見るに」

「うん。そういうことだと思うよ」


 彼らが危惧していた事は、一つには“右眼”が央華の手に渡ること。

 だがそれなら、話が合わない事実がある。


 明胤学園の理事長づてに要請された、日魅在進の護衛計画。

 それが承認されなかったことだ。


 そのせいで世界大会の場ですら、クリスティアへの間接的な脅しと、学園が用意した戦力のみでの身辺警護となり、結果として日魅在進は一度見失われ、それが第五号閉窟騒動にまで発展した。


 政府に近い壌弌家が“右眼”を重要視しているにしては、おかしな話だ。

 そこまで無関心を決め込んでおいて、いざ取られたら決死隊を派遣するなど、行動が矛盾している。


 だが一つの補助線を引くと、するりと氷解する。


「“右眼”を他に渡したくはないのと同じくらい、“カミザススム”を生かしておきたくない、そう見るのが正しそうですわな」

「そうだね、僕も同意見だ」


 彼ら“総理派”は、日魅在進を邪魔に思っている。


 その少年の手に“右眼”があるのがいけないのか、それとも“カミザススム”という存在そのものが不都合なのか、とにかく「いなくなって欲しい」と考えている。

 なんとか“右眼”だけ置いて死んでくれるか、少なくとも“右眼”と共に消えてくれるか、それを心から待望している。


「って、彼らが思ってることを、僕らが気付いたって、向こうも流石に理解している筈さ」

「派手に手ぇ出せん状況は作れとる、いうわけですか?」

「うん。ま、念の為、今度パーティーを組む時に、総理にもそれとなく釘を刺(ピール)しとくよ」

「………『パーティー』?」


 ここから出歩けない彼が、非戦闘員で非ディーパーの三枝総理と“パーティー”を結成する。

 その字面の不自然さへのいぶかしみを顔に出した天万を見て、五十嵐は「あっ」と訂正を挟む。


「ごめんごめん、ゲームの話だよ」

「フレンドなんかい!」

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