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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十章:だとしても、そうだとしても

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562.世界最高

「矢張り、凄まじい破壊力じゃ」


 オペレーションルームの一角いっかく

 鶏冠とさかのような白髪を持つ教授プロフェッサーが、観測データを表示したPCのスクリーンに、額をぴったりとくっ付ける。


「ふむ~~~~ん、素晴らしい、素晴らしいの一言じゃよぉ……」


 それはたった今行われた“空爆”の戦果だ。

 必中の精度と必殺の威力。

 その魔法の強力さは、疑うべくもない。


 だが彼が期待しているのは、そのような属人的攻撃力ではない。

 それを元に、近い将来に“人類”の手に収められる、文明の結晶たる“兵器”。

 その先にある、エネルギー革命。


 火、鉄器、文字、紙、モンスターコア加工、活版印刷、火薬、羅針盤、蒸気機関、化学窒素固定、インターネット………。

 それら数々の発見、発明に並ぶ、新たな歴史の転換点、いやさ開始点。

 

 それが手の届く所まで、指先が引っ掛かる所まで来ている。

 あと何度かその端を揺らせば、自分の懐に落とせるのだ。


 彼という科学者と、クリスティア合衆国は、歴史に残り続ける。

 量子力学の横に、特殊・一般相対性理論が、正式な科学の土台へと返り咲く、その大事を為すまで、あと少し。


「すぐそこじゃ、すぐそこじゃからな…!」


 だからこそ、


「お前も英雄の(こちら)側に立ちたいのであれば、余計なことはせんようにの…!アイン…!」


 最後の懸念に、目を光らせておくべきだろう。

 その男がおらずとも、クリスティアがその炎を操れるように、


 その技術を完全に、おのが物にする必要があるのだ。




—————————————————————————————————————




「ったく今度はなんだってんだよ!」

「まだill(イリーガル)が……!?」

「でも、カンナちゃ……“可惜夜ナイトライダー”に脅しつけられて、しっぽを巻いて逃げたんですよ?」


 攻撃の正体も出所も分からないが故に、白い壁や黄金板で完全に自分達を覆ってから、何が起こっているのかを考察する遠征者達。


「いや、ケツ捲ったってのは飽くまで片方の陣営だけだろ?ドサクサに紛れて居なくなってやがったもう一方が、リーパーズとか言う連中が残ってんのもあり得るだろ」


 知性型モンスターの存在を隠蔽する為に、この島の出入りを封じ込め、誰一人として生きて返さないつもりか?


『いえ、それはお、おかしいのです…!』

「我々は先程指揮所(CP)との通信を成功させ、ill(イリーガル)に知性があることを伝達済みです。報告は既に特別室長まで上がっています」


 ここで彼らを殺し尽くすメリットは、大して残っていない筈である。

 

「狙いは、そちらではないのかもしれない」


 ニークトは詠訵を、そのリボンに最優先で守られている進を見る。


「奴らが、なんとしてでも“右眼”をここで潰すつもりなら?」

「でも、“可惜夜ナイトライダー”が出て来るかもしれないんですよ?今ススム君が彼女を呼べる状態じゃないって、向こうは知らない筈です」


 下手に刺激して、反撃で滅ぼされることを恐れていないのか?


『実行犯が、人間なら、どうなのです……?』


 黒衣の一人が直上を、防御の先にある高空を見通す。


『例えば、密かにill(イリーガル)と結んだ勢力が、その手でここを攻撃するなら?そ、それは、“可惜夜ナイトライダー”の判定的に、セーフなのです…?』

「……『セーフ』って言いそうです………」


 敵の正体としてはそんなところであろう。

 後はどういう攻撃をされたのか。


「今俺達が攻撃されてねーってことはよー?そんな頻繁に撃てねーか、それとも輸送機レベルにデカくねーと見えねーか、どっちかってことだよなー?」

「高高度から、観測手段を併用しての魔法攻撃、或いは遠距離兵器でしょうか?」


「衛星兵器だったりはしねえよな?だとしたら対策のしようがねえぜ?」

『一撃で対象を仕留めてましたし、よ、余分な破壊も起こっているようにみえませんから、普通に魔法攻撃だと思うのです……。あれほどピンポイントな攻撃は、通常兵器では難しいのです……』


 火線らしきものは見えなかった。

 海上であれ上空であれ、火器だとは思えない。

 だが魔法攻撃にしては、魔力の色も気配もないように見えた。


「一つ思ったことではあるのですが……」


 ガネッシュが顎を指で挟みながら、目つきを険しくする。


「これは、いつまで続けるつもりなのでしょうなあ?」

「いつまで、ですか?」

「はい。ここには“右眼”と“カミザススム”という二つの無視できぬ資源がありますから、少なくとも丹本国は、追加の回収班を向かわせるでしょうな」


 次が来る。

 目標物が無事かどうか、それだけでも仕留めて来い、そう言い含まされて。

 

「それを全て落とすつもりですかな?随分気の長いことだと思いますが……」


「いいえ、」


 ガネッシュの疑問にシンプルな解を出したのは、“聖別能徒パウエルズ”の男。


「簡単です。この島全体を吹き飛ばしてしまえばいい」


 先程の破壊力で、ここを死の島に変えてしまえば、それで片が付く。


「そんな大規模な魔法が?」

「……信じ難いことですが、こちらが持っている情報がある程度正しいなら……」


 世界で最も優れた情報網を持つ諜報機関、神聖ローマ市国教王庁。

 多くの国の政府機関の人間は、政府より前に、彼らの神に忠誠を誓っている。

 故に、その組織が持つ耳は、世界で最も多いとされる。


「我々はクリスティアが、ダンジョン関連で何か、とんでもない禁忌を犯しているのではないか、そう疑いを掛けていました。それがもし——」

ill(アイ・エル・エル)との密約ならば」


 最悪の想像の続きを、メナロが引き継ぐ。


「あの国については我々も詳しい。何せ可愛いほどに手の掛かる放蕩ほうとう息子だからな。


 一時期の不自然な、永級ダンジョン発生時のそれすら凌駕するほどに急激な、魔学関連技術の振興。そこにチラつき、プロジェクトAS(アルファ・シエラ)やプランβ(ブラボー)の過程でも見え隠れする、謎の集団。


 ディーパーの完成形でも手に入れたのか、永級ダンジョンで何か見つけたのかと思っていたが、イリーガル共と通じていたなら説明はつく。敵対しているらしく見えた時もあったが……、偽装工作だったか?」


「この攻撃はクリスティアがやってるってのか?」

「“号砲雷落ワールド・ウォー”の目的は“右眼”の破壊でした。奪取を一切考えていないようでした。その“無欲さ”に引っ掛かっていましたが、ill(アイ・エル・エル)らそう命じられていたから、と考えれば納得が行きます」


「言われてみると……」


 ガネッシュは記憶を回顧かいこする。


「ヴァーク殿はバッタから攻撃されても、イルカからは不思議と襲われていませんでしたなあ……」


 リーパーズとクリスティアが、繋がっているとしたら?

 

「クリスティアには、世界一位が……!」

「そうだ。詳細不明だが、破壊力がピカ一であることは分かっている、“確孤止爾アトモス・スフィア”がいる」


 それが、この島に投入された場合、どうなるのか。


「我が国の機関が手に入れた、断片的な戦闘記録を閲覧したことがある。あれが真実なのだとすれば、小さな離島一つくらいなら、焼き払うくらいは可能に思える」


 顔を真上に向けて、眉間を皺くちゃにしていたメナロは、

 そこでメンバー全てに一通り視線を渡らせ、それから再び上を見て、


 非常に苦そうな顔をしながら、


「………致し方あるまい。ルカイオスは借りを作らん」


 不承不承ふしょうぶしょうに決断を下した。




—————————————————————————————————————




 疎州シュヂォウ島直上、高度10000m。


 2対4枚の翼を持つ鳥がいる。

 翼のペアはそれぞれ逆方向を向いており、飛んでいると言うより、その場に滞空して留まっている。


 その下で、4本の猛禽めいた足に掴まれ、シートベルト代わりにしている男。

 白い上下スーツに白いシルクハット、長い前髪を一本に纏めた美丈夫。


 鳥から伸びた、触手にも電源コードにも見える半透明な管。

 それが彼の首の後ろから背中まで各所に繋がり、「下界を監視する」視野を共有。

 遠く下方、その島を肉眼で見ているのと同じ状態になる。


 彼は今、島のすぐ上での仕込みを終わらせた。


 右手をそちらに伸ばす。


 親指、人差し指、中指で何かを抓むような形を作り、

 中指を親指に押しつけ、付け根までスライドさせ、


 パチン、


 骨を打ち鳴らした。







 2061年、7月1日。


 遠洋に出ていた漁師は、海の向こうが一瞬光ったように感じた。

 水面の反射とは違い、カメラのフラッシュのような、硬いまばゆさだった。

 

 ある者はそこに、奇妙な形の雲を見たらしい。


 肉厚な傘を持った、キノコのような雲を。

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