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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十章:だとしても、そうだとしても

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558.いたく、あつい

 水分を全て奪われた脚が、魔力噴射の反動で崩れた。

 

 咄嗟に空中に設置した魔力に右肘で掴まり、体を支えていなかったら、きっと膝上まで失っていた。


「ヴううううううう゛う゛う゛う゛う……!」


 逃げ、なければ。

 そう思っても、力が入らない。


 細かい魔力が操作から離れ、傷が開いて大量出血。

 それが頭痛を酷くする。


「単純な熱中症だよ。『日陰でこまめに水分補給を』。聞いたことくらいは、あるでしょ?」

「き…き、ヤ……」

 

 “提婆キャメル”。

 そのローカル。


 ただの強い日射し。

 ただそれだけ。


 それで、地面が焼き上げられているのか?

 真っ黒焦げで、鉄板みたいに高熱で、触れた部分を一瞬で、こんな…!


 丹本が用意した、極限環境での使用も想定されてる、耐熱も当然考えてるアーマーだぞ…!

 地面と、それで温められた空気と…!

 そんなんで、こんな酷いダメージになるのかよ…!?


 シャン先生から以前、サウナの室温が100℃でも、空気の熱伝導率と汗の気化のお蔭で火傷をしないって、聞いたことがある。


 じゃあここは、何度になってるんだよ…!

 密閉されてすらいないんだぞ…!?


「ごっ…!ごぼっぼっ、ぼご…ッ!」

「あーあ、せちゃった?お大事に~」

 

 気道にサラサラとした粒子が入り込む感覚。

 その痛さは、ただチクチクと尖っているからか、それとも高熱由来か。


 戦うどころじゃない。

 体中から分泌される液体の全てが瞬時に蒸発して、端から干からびていく危機感すらも、脳と一緒にデロデロと融けている。


「ダンジョンを呼ぶ間、隙が出来る、そこで逃げられるって、そう思っちゃったんだろうけど、」

 

 ノコノコ出て来た何者かを、即座に行動不能に陥らせる獄熱ごくねつ


「甘々の甘ちゃんだよお?」


 そう、甘かった。

 誰が生き残ったか見て、それから次の行動を考え、攻撃に移る、なんて悠長を、奴は犯さなかった。


 味方だろうが敵だろうが、まずはフライパンの上に叩き込む。

 それで味方が事故死しても、それまで。

 そういうドライさに、備えられていなかった。


「きみを逃さないのに、ダンジョンなんていらないんだから」


 炎天、

 その言葉にぴったりな灼熱の中で、口呼吸の度に舌が干物にされていくのを感じながら、魔力を動かしてなんとか逃げようとする。


 無理っぽいが、それでもだ。

 どうせ死ぬなら、やって後悔することもない。


「みっじめー。小憎らしいガキんちょもここまでかー」

 

 かすんで見える褐色が、その端っこを持ち上げた。

 指を、さして、いる?


「じっくり焼き目もつけてあげたことだし、………?……何してんの?」


 口で魔力(かい)を噛んで首の力で体を持ち上げ、手のない右腕で鳥籠をしっかりと抱いて、傷は魔力で押さえて出来るだけ血を止めて、左半身を前に出し、そちら側からの噴射による流動防御を展開。

 攻撃が、来る。


「えっ、もしかして、守ろうとしてんの?守るつもりでいんの?それ?」


 だめ、だ、目蓋が、


「一人で立ってることすらできない分際で?まじでやってんの?」


 ボヤけが、酷くなって、


「うっわー、いじらしいね?」

 

 まりょ、く、け、はい、が……

 よ、け……


「女々しくてキショク悪い」


 また、暗闇だ。


 動き続けなきゃいけない。

 死んだのなら、考えることもできない。

 それが、まだ死んでないって証拠。


 前が見えずとも、感じろ。

 魔力越しに、何でもいいから、

 方向なんて最悪どうでもいいから、

 

 動かせ、

 動け、


 なにか、顔も肌も使って、

 痛みを利用して、


 少しでも外からの情報を得ようとして、

 その時に感じたのは、

 涼しさ。


「……?」


 感覚がイカれたか?

 という思考の冷静さが、怪訝さを加速させる。


 温度が、下がってる?

 これは、

 この黒色は、


「どいて」


 闇じゃない。

 布だ。


「私の夜に、光はいらない」


 黒と青の、知っているようで知らないリボン。

 

「抱きめて、閉じ込めたいんだから」


 それが女の腹を貫通して、俺を包み込んでいる。

 褐色肌の背後、青黒の見知らぬ衣装を纏った、

 見違えたような表情で、

 でもよく見知った顔と声。


「みよ、ちゃん……?」


 どうして、ここに?

 それに、その魔法は?


 俺が聞く前に、

 明度だけ高い煉瓦色の光が横切る。


 右の方で岩が砕かれたように聞こえる。

 そっちに目を向けると、腹に切れ込みを入れられた“提婆キャメル”が、その傷に触れながら真顔で立っている。


 その隙にミヨちゃんは俺を引っ張り、体のあちこちにリボンを撒いて血を止める。


「………」


 “提婆キャメル”が人差し指をこちらに向けて、ミヨちゃんがリボンで作った球面装甲が煉瓦色に溶断される。

 すぐに再生させ、俺を抱きかかえながら守りを整える。


 麦わら帽子の下、サングラスが僅かに横へ傾く。


「普通に、こっちが強い……」


 ボソり、

 明瞭でない発音で、何か呟いている。


「なんでだ……?」


 追撃の手が、どういうわけか止まっている。

 体の傷もすぐに塞がれ、このままさっきのを連発されると、こっちからすれば辛い状況なのだが、

 何か知らないが、困惑している?


「みよ、ちゃ……!」

「ススム君、喋らないで…!」

「に、げ……!」

「ごめんなさい。この能力じゃないとススム君を守れないんだけど……!」


 深化の結果なのか、変質した魔法。

 これには、治癒能力が存在しないみたいだ。

 止血が精々、ということなのだろう。


「……もっかい撃ってみる……?いや……、それより、息切れを待った方が、確実か……?」


 “提婆キャメル”は攻撃してこない。

 この隙に離脱出来ないか?


「入れたのに……!」


 リボンの一つの先が、横へと伸びていく。

 その先をよく見ると、煉瓦色がオーロラのようになっている。


 魔力、それとも魔法が起こしてる現象か?

 それに触れたリボンは、焼けたのか溶けたのか、瞬時に形が崩壊した。


「どうして…!?出れない……!」


「うん……。普通に、出れないよな……」


 その光景を見て、納得したように、或いは言い聞かせるように、繰り返し頷く“提婆キャメル”。

 

「お、れが、あしでまとい、に…!」

「違うよ!ススム君が居るから、この魔法は…!」


 そこで彼女が言い淀んだので、どういうことか分からないが、けれど逃げ道が無いことは理解できた。

 それ以上を考えようとしても、頭が重い。

 でも、何か手を見つけないと。


「もっと、思い切ってみるか……」


 敵も、もう待ってくれないみたいだ。

 俺の役立たずの頭が、空回ることすらしなくなってる間に、事態はどんどんと悪い方へ。


 何かしないと、

 せめて何か、

 行動を、

 考えることを、

 続けていないと——


〈チャンス到来!〉


 地面から、象が出て来た。

 分厚い肉が、足が、高温を受けて崩れているけど、少しの間だけ破壊に抗っている。

 象の足の裏って、ほんとに硬いんだなあと、暢気のんきな感想が湧いてしまう。


〈カミザどのおおおお!〉


 その鼻が振りかぶられ、何かを投げた。

 瞬時に気化した古茶のシャボンの内に、影のようなシルエット。

 

「キャッチして…!ミヨちゃん…!」

「うん!」


 空飛ぶハーケンを掴んだ黒衣が、その手を離して落っこちてくる。

 リボンがそれを、低反発枕のように緩やかに受け止める。


「トオハさん、生きて……!」

「話は後です!」


 その足に古茶の水玉が生成され、


「あなたの『面白さ』とやらに賭けます!」


 蹴り出される。


「制御してみなさ——」

 

 強光が、


 視界を真横へ洗い流した。


 音も匂いも巻き添えに。

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