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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十章:だとしても、そうだとしても

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556.包摂されし自由 part2

 日魅在進は、相手を一人の人間だと思っている。

 だが“刺面剃火オール・ラウンド”は、それを自分の指先だとしか考えていない。

 この差は大きい。


 腕でも脚でも、何を破壊されたとしても、増幅装置である脳さえ残っていれば、戦える。

 いいや、脳が無くても、“下放シィアファン”さえ残っていれば、その体への電力伝達に注力することで、魔法を通して充分な電流を届けることが出来る。


 四肢はプラズマで幾らでも作れる。

 殴り壊されようが、蹴りえぐられようが、これよりはダメージと呼ばれるものとはならない。

 それこそ、代謝の一種として捨て置かれるような些事さじでしかない。


 日魅在進は、ほとんど身一つだ。

 アーマーの損傷も酷く、その機能を活かしきれない所まで追い込まれている。


 報告では、魔力による手足の構築も、長く続けられるようなものではないと聞いている。

 長くともあと数十秒、速ければ数秒で決壊する窮地。


 一方で“刺面剃火オール・ラウンド”の背は、スーパーコンピューターと魔法能力による、半永久的なバックアップで支えられている。

 第二次大戦における丹本と連合国陣営のような、明らかな体力フィジカルの格差。


 問題なのは、ダンジョン崩壊まで時間が無いこと。

 なるべく手早くテキパキと、この少年を葬ってから、すぐに逃走準備に掛からねばなるまい。


 不幸中の幸いにも、丁度ちょうど外ではill(イリーガル)同士の大喧嘩の最中である。

 外に出て、潜伏させた機兵に“右眼”を受領させ、その装備で島から脱出する事は充分に可能。

 ダミーの機兵も幾つか飛ばせば、追撃を散らして回収確率を上げる事も出来る。


 全てはその少年を、日魅在進をどれだけ早く殺せるかに掛かっている。

 その為のプランを、彼は構築し終えている。

 

「ひゅ、おおおぉぉぉ…っ!」

〈オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オオオオオオオオオン…ッ!〉

 

 口蓋こうがいが奏でる風の音楽と、チタン式増設型人工心臓モーターのうねり。


 その後の交錯の始まりを、人類の9割9分9厘以上が視認できなかっただろう。

 互いに搔き消えるかのような超速で、地を蹴って一歩を踏み込んだ。


 進と同じように、“刺面剃火オール・ラウンド”は指向性魔力爆破によってブーストする。

 更に抵抗が低く大きな電流を流せるプラズマの体で、動作のパワーを上昇、減衰を最小化することで、破滅的重加速を発生させる。


 今やほとんどが炎雷プラズマとなったその五体は、身長を2m程度まで縮小させて空気との衝突を抑え、自らの一部を推進力を提供する燃焼に変えて、これまでで最も速い距離詰めを行った。


 関節がきしき、悲鳴のように空気を裂く。


 だが、日魅在進は常にでありながら、せんだ。

 魔力やエネルギーの反応の全てを察知し、次を読み、先回る。

 敵の組み立てた予定をき回る。


 フックを撃った機兵の左手をくぐり躱して、右魔力()手刀しゅとうでのドリル貫手スピアを、敵の接近に合わせて刺しべている。

 

 自らの接近の速さもあって、機兵はそれにあっけなく突っ込んでしまった。

 下腹部が貫かれる。


 それでいい。

 “右眼”がぶら下がっている胸は狙わない。

 そう分かっていた。


 だからそれを胸当てとして、“下放シィアファン”を守らせたのだ。

 

 少年の右腕をカーボンブラックが包み、金属化。

 固定する。

 

 右拳を、HEAT弾頭に加工。

 それを叩きつけ、すかさずのもう一撃で肉体を完全破壊する。

 

 そこまでを企図きとした所で、ムズムズと痒みのような感覚に襲われる。

 彼を構成するプラズマが、何かの刺激を電気として伝えている。


 それは腹から上っている。

 それは極めて小さくて、そして精密な動きで経路を辿り、

 “下放シィアファン”に迫る。


 “刺面剃火オール・ラウンド”はデータベースの中から答えをすぐに見つけた。

 敵体内への魔力侵入。


 正体は分かった。

 対処法は分からない。

 

 信号伝達、稼働域確保、動作用エネルギー注入、魔力運搬。

 様々な理由で、何らかの形での道を通していなければならない。

 全く繋がらないようにしてしまうと、そこより下が喪われたに等しくなり、今この状況でそんな隙を晒すわけにはいかない。

 

 そこにはそれなりの葛藤があったのだが、機兵がもしそれを実行しても、結果は変わらなかっただろう。

 もう一撃を入れられ、そこからの魔力侵入で同じ状況に陥るだけ。


 結論から言えば、止められなかった。

 日魅在進の魔力は、“下放シィアファン”に着いた。


 “刺面剃火オール・ラウンド”はその機体の完全ロストを確信し、次なる一手を打つことにした。

 外に待機している子機で奪い返す。

 行動計画を素早く修正。


 そうして彼は意識を再び別々の体に拡散させ、


 ふと、「へその奥を掻きたい」と、そう思った。


 それは、上へ上へとり上がってきた。

 魔学回路の形をなぞるように。


——それはそうか


 彼は納得してしまった。


 あれは彼の体の一部で、ここに居る彼と繋がっているのだから、


 回路を通して魔力が届くのも、


 当然だ、と。

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