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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十章:だとしても、そうだとしても

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554.ノー・エスケープ

「もっと速く掘れねえのかよ!?」

『これが限界なのです…!』

〈ヌヌヌゥゥゥ…!〉


 穴を深くする黒衣、ゲートで入り口を押さえながら、邪魔な土を外に放り出す吾妻。

 それ以外の面々も、土中に侵入してくるバッタ共を、思い思いの方法で押し返す。


 どうやら上から相当な数がのしかかってきているらしく、次々と新たな出入り口が開き、板が折れた船底のように、黒い汚濁があふれ込む。


「イルカの眷属使うっつー話はどーなってんだ!」

「もう注意を惹くどころじゃありませんよ!」

〈僕が視線誘導しても、全体の流れを変えるなんて無理だよ!〉


 組体操のピラミッドが崩れている最中、最下段の人間が離れた何かに気を取られたとして、それで上から潰される運命から逃れられるかと言えば、誰もが首を横に振るだろう。


 1匹2匹を誘惑し、釣り上げた所で意味がない!

 巨大質量となった集合体が、引力に従うのを止めることはできない!


〈エンプレス…!どうか、御無事で…!どうか…!〉

「いねえヤツの心配してる場合か!」


 道化師はどうやら、自身が戻らずとも仲間が無事であることを、祈るフェーズに入っている。

 冗談じゃない。乗研はそれを否定する。


 ようやくまた、歩き出せたのだ。

 バッタで溺死など、絶対にしてやらない。


 だが足下を走る虫の数が、明らかに増えて来た。


 降ってきた奴らを吾妻がゲートで外に返そうとしているが、繋げた先にスペースが無く、黒い楕円の向こうから戻されてしまう。

 目視範囲のどこに開けても、そこは必ずバッタの群れでギッチリと詰まっているのだ。


 乗研の黄金板も、破砕することで敵を吹き飛ばしても、それ以上に押し込まれる。

 段々と、天井が低くなっている実感がある。

 

 側面の壁からもバッタが湧き始めた。

 そしてそいつらは今も土の中で、卵からかえって増え続けている。


 中に入ってきた者達に六波羅や“飛燕サルタドール”が対処するが、底の抜けた桶で水を捨てるような徒労感が付きまとう。

 

 “醉象ローカスト”に、踏み潰される。

 それが彼らの末路。

 

〈ウグッ…!〉


 イルカが呻く。

 その頭が俯く。


「おい!どうした!」

〈何を喰らった!〉

〈いや……ちょっと……〉

「あぁん!?」


 大顎に食いつかれ、肉から異臭と煙を放ちながら、そいつは顔を震えさせていた。


「なにかあるなら俺のビートを」〈ゴメンッ!そうじゃあ、なくってさ……!〉「んだよ!問題があんなら早く言えよ!」〈ほんと、良くない、んだけど〉


 “飛燕サルタドール”はその口を天井に向けて大きく開き、


〈ゴメン、吐くね〉


 その中から岩の塊が爆発的に膨張した!


〈ボォ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!〉


 巨岩きょがんりゅうあらわる!

 

 全身からマグマと火山弾を乱射しながら、数十mの下膨れ体型が咆哮を上げる!

 

「こいつは……!?」


 突如周辺一帯を吹き飛ばしながら出現したそいつを、黄金板の防御の後ろから呆然と見上げた人間達。


「エンプレぇぇぇぇぇぇぇぇぇス!!」


 その耳に女声じょせいと野獣のコーラスが成すハモりのような響きがぶつかる!


「どぉこだああああああ!!エンッッップレぇぇぇぇぇェェェエェェェェェェエェェッッス!!」


 それはいわおいただき、竜の頭の上から聞こえた。

 

「させませんのオオオオオオオオ!!」


 その格好、何度も溶岩流噴出と岩石爆発を繰り返す生態、進からの情報を得ていた特作トクサ班構成員は、そこでやっと正体に思い至る。


「“臥龍メガサウリア”……!」

「お姉様をォォォォ、失わせようなどとおおおおおおお!!」


 内部でガスが発砲。

 破裂。

 散弾巨砲で一円を惨裂ざんれつ


「ゆぅるしません、のおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

〈ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!〉


 腹から岩のような卵を連射!

 そこから生まれた眷属共が次々とバッタに蹂躙されながらも、死の直前に自爆して巻き添え虐殺!


「じゃぁッ」


 巨竜の口から高圧溶岩流!

 

「まアアアアアアアアアアアアア!!」

〈ゴッ、ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!〉


 それが撒かれ、バッタに命中した端から酸素と可燃性ガスとで引火爆発!


「“赫き地熱よ堅き鈍劣よグラッグ・ウォン・グラグーゥン”ッ!!」


 大 噴 火!


 それにより灰と黒が混じった爆熱煙ばくねつえんが柱のように立ち昇り、その密度が空気より大きいが故に上昇を途中で止めて落下に転換!そのまま巨竜の表皮を流下りゅうか

 1000℃を超える高温のさい屑物せつぶつ拡散流である地這ちはぐもく先をき裂き通った跡を炎上焼壊(しょうかい)していく!


 世界最大の暴挙をさせまいと、玉砕上等、憤怒ふんぬ囂囂ごうごう


かれた…!枷が……!〉


 そこまでしても、数の暴力を前に押され始めている“臥龍メガサウリア”を仰ぎながら、“奔獏ジェスター”はわなわなと平衡を失っていく。


 彼女は、女王の使う魔法によって、催眠状態にあった。

 それがどうだ。自由に存分に暴れ回っている。


 こちらの危機を見て、意図的に野獣を鎖から放したなら、それでいい。


 けれども、もし、

 これが不本意な解放であったら?


 その魔法を成立させることが、もう難しい。


 そのような状態に、陥っているとしたら?


〈エンプレス…!〉


 だが彼には、それを確かめに行けはしない。


 “醉象ローカスト”が生きている限り。


〈ぐ、ぐぐぅぅぅぅぅ、くるるるるるるルルルルル………!〉


 そしてそいつは、見ての通りまだ死んではいない。

 

 元気に健やかに、腹を鳴らしている。


 武器を手放してしまい、胸はほとんど背にくっつきかけ、翅を1枚、肢も3本失ったが、

 とにかくまだ息をして、動けている。


 右の前肢を伸ばし、眷属達が蠢く黒に触れようとする。

 その者達に引っ張って貰い、その中に隠れる。


 体も武器も、直せるものだ。

 敵から距離を取れば、それで勝ち。

 ローカルで補強された分厚い壁で断絶させ、もう二度とその手も足も、本体に届かないようにしてやる。


 それで、勝手に終わるのだ。


 右の中肢と後ろ肢で、地を掻くように這いずり、前肢を群れへと引き込ませようとして、

 

「いいや、巻き取ってる」


 その体に絡まったケーブルに引かれ、思いにそぐわぬ方へと寄せられる。


「こっちだよ、いいから来いって」


 ゆらぁりと、襤褸ボロを纏った幽鬼ゆうきのように、赤黒く身を汚しながら立ち上がる少年。


「腹、減ってんだろ?」


 落下の衝撃での破裂や変形、複雑骨折、それらを応急修復し、

 

 左義腕を前に、右半身を引いて、構える。


「たっぷりご馳走ちそうしてやるよ。腹いっぱいに」


 ill(イリーガル)準最強と言われたその首に、


 最弱マイナスランクと呼ばれし者の指が、


 掛かった。

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