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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十章:だとしても、そうだとしても

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551.ニュートラリゼイション

 いさる欲求だけに支配されているモンスターにしては、巧妙な仕込みであった。


 だがその元となる昆虫、現象から見れば、自然な営みとも言えた。




 蝗害こうがい


 過密状態となると起こる、体色を変化させ食欲が増したバッタ共が、群れを成して食物という食物を喰らい尽くしながら、主に乾燥地帯からの大移動を敢行する災害。


 一日に数万人分の食糧を平らげる、とも言われ、その恐ろしさが聖典にも記されるほど、見る者に深い忌避と畏怖を埋め込む、生物厄災。


 記録に残っているもので最大規模となると、その数は数百万、どころか数億、をも軽々と飛び越えて数兆匹にもなったという。

 

 クリスティアで発生したその空前絶後の大群集は、丹本列島を覆い尽くせるほどのものだった、とする計算結果もある。

 

 一国土いちこくどに匹敵する巨大さを持ち、数日のあいだ上空を後から後から横切り続け、常時腹を空かせた規格外の雲、といった様相。


 生存困難な土地から、新天地を目指し、大気を一杯に満たした生命いのちが、旅をする。


 酷いものになると、ある意味深級ダンジョンよりも、「この世の終わり」に近い天変地異テンペスト




 それが蝗害。

 可視化された暴食である。




 そして“虫”の常と言うべきか、それだけの数の暴力を振るう種なら当然と言うべきか。

 腹から出す卵の数は多い。


 とあるバッタの種は、一度の産卵で100匹程度が生まれたとも言う。


 そして卵は、土の下に産みつけられる。

 地中という見えない場所で、未来のカタストロフがウゾウゾと蠢き育っている。


 “醉象ローカスト”は、自分の眷属の小型バッタ共に、水面下——正確に文字に起こすなら地面下じめんか——での産卵、増殖を進めさせていた。

 何よりその、ネズミ算すら裸足で逃げ出すような大量発生こそが、そいつの魔法、“この世で(ノー・ストック・)最も(オブ・ケイク、)幸せな病(ノー・ストマケイク)”の主要効果プライマリーである。


 自らの内からバッタを生み、それを防御フィールドや弾頭のように使い捨て、それと混ぜて目立たぬように、土壌や泥中に浸透させる、産卵用個体群を放つ。


 特にこのダンジョン内は、極めて肥沃ひよくな土で埋め立てられており、卵の生育環境としては絶好のロケーション。

 そして魔法による再現である為、生まれてから急成長、即成虫即戦力となり、それらがまた子らを増やす。


 そうして着々と準備が整っていき、広域を破壊する爆弾に匹敵する、スケールが違い過ぎる大技が用意されるに至った。


 


 その技とは、“醉象ローカスト”の一声で、数百、数千万、数億のバッタ共が一斉に姿を現す、ただそれだけ。




 バッタの濃密な土臭さ、命臭いのちくささ、それがカモフラージュとなって、更に本体に全神経を注いでいた為に、日魅在進でさえ察知できていなかった伏兵。

 その一斉蜂起ほうき


 西洋絵画の農村のような遠景が、墨汁の如きものでべちゃべちゃと埋め潰されていくのを見た彼らの中で、


 進が最初に動いて魔力弾を発射。

 すぐ近く、地上付近に形成されていた群れを散らす。


 だがそれが何になる?


 川が氾濫したのを見て、必死に目前の水溜まりを蹴りくことに、どれだけの意味がある?


 飴色とカーボンブラックがそれに続いて、全方位に火力を投射。


 足りない。

 山火事にバケツで挑むように、

 何もかもが足りていない。


 ほどなくして彼らは呑まれる。

 黒い滝の途上で横たわっているかのような錯感さっかん

 

 そして、もう一つ思い出して頂きたいことは、


 小型バッタが撒かれていたのは、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ンだとオオオオオオ!!?」

「ザけやがってーーーッ!!」


 白金の創世。

 厳冬の氷嵐ひょうらん


 それらを越えたill(イリーガル)2名、人間5名。

 彼らの周囲にもまた、ダンジョン内ほどではないにしろ、膨大な数の腹ペコ跳びムシの群勢ぐんぜいが立ち昇り、吹き下ろしていた!


〈“醉象ローカスト”!あやつ!ヤツ!こんなものを隠して!〉

〈このおおおおおおお!来るなよおおおおお!!〉


 水圧ジェットが横一列にぐ!

 イルカの口先に触れて一時液状化されていた地面が尾ビレに撥ね上げられると同時に硬化し散弾と化して撃殺!

 道化が胴を伸ばしてから杖をプロペラスピンさせて上半身全体を振り回して応戦!


 制御役の本体がこの場にいないため、利害など関係無く全員に、目の色を変えて飛び付いている!


 否!

 共喰いが常習化しているのだ!

 今や味方にも害を及ぼしているかもしれない!


速稲田手按摩ダイナダノ・ナ——』


 詠唱に呼応するように盛り上がっていた土が容易く食い破られる!

 だが黒衣は下に穴を掘っていた!

 気絶している救世教会関係者を真っ先に放り込み、自らもそこに入る!


『皆さん、急ぐのです……!』

「ウゼーんだよ!」


 吾妻が幾つもゲートを開いて破壊、或いは別場所から吐き出して相殺!

 乗研も少しでも注意を逸らせるよう、黄金板を離れた複数地点に設置!

 六波羅のビートで目と鼻の先まで来た連中をとって返させ、喰らい合わせる!

 メナロから生じた金色の騎士団が、その身を構成するエネルギーで焼き払う!


 だがバッタ自身が、自分がどこに飛ぼうとしているのかすら分かっていない!

 その上ローカルによる密着強化も働いている!

 眩惑や精神操作、方向転換でき止めるにも限度というものがある!


 徐々に脚や肩といった、気が回らない端の方から順に、少しずつ強酸の唾液と大顎で削り取られていく!

 起きている者達全てが、自分の体積が目減りする実感に背筋を震わせながら、自ずと一箇所に、


 穴の周囲に集結!


〈おのれぇぇええ!この、この消耗で!こんな時に!〉


 メイクでは誤魔化し切れない恨み節を吐きうならせる“奔獏ジェスター”!


〈あの御方は!?女帝陛下は御無事か!?お迎えに上がらなければ!〉

「故郷のおっかさんが恋しいってかぁ!?誰だか知らねえが居ねえヤツの話は後にしろ!」

「どうするんです!?我々にはもう、大規模な火力も防御力も!」


 “聖聲屡転ガヴリール”は魔法効果が完全に解除され、単なる人間の男女に戻っている。


 リーゼロッテは戦闘不能。


 吾妻の能力は、巨大な単体には強いが、小型の大群殲滅には向いていない。


 六波羅や黒衣の能力は、即効性の欠如が理由で押し切られる。


 ill(イリーガル)共は、反動でしばら辺獄現界アマゾニン・ダンジョンが使えず、ローカルも魔法も本領ではない。


 メナロの能力が唯一頼りになりそうだが、それだけでこの百万は優に超える数を全滅させるなど、作戦立案と言うにはあまりにお粗末。


〈私は!生きねば…!〉


 密集により獲得した耐呪性能で、遅延を易々《やすやす》突破され、リップを緋色で塗り替えるほどに強く下唇を噛む道化。

 

「だったら腹ぁくくれや!」


 入り口の周囲に黄金板バリケードを並べながら、


 乗研が最後の希望を明かす!


「時間だ!ありったけ持たせろ!それで行く!」


〈時間だと!?モラトリアムのエキスパートは言う事が違う!〉


 メナロが魔力弾で数十匹を処理しながら毒づく!


〈時間が経てばどうだと言うのだ!何が起こると言うのだ!〉


 乗研はかつて“奔獏ジェスター”ラインがあった向こう、


 その少年が消えたという方角を睨む!


「元凶が死ぬ!」

〈何を根拠に“醉象ローカスト”が!〉

「あいつが殺す!」

〈ぶ、ヴァァカな!〉


 その時、道化には珍しく、他者から笑わされてしまった。


〈有り得ん!あれが人間にたおされるなど!〉

「有り得んだよ!」


 彼は疑いを見せず言い切った。


「あいつはやる!俺達は待つ!」




ひゅ、ぅぅぅううううううううううう………——

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