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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十章:だとしても、そうだとしても

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550.フリー・フォール

「へん……!ざまあないで……!」


 春荒れのような賑わいを見せる、バッタの暴威。

 

 まるで本物の嵐の如く、その中で稲光が明滅し続ける。

 

「カミザクンも、見れる顔にはなったわ……!」


 上下数段に並ぶ灰の雲を、描かれた龍のように貫きながら、電流を纏う旧軍服の男。

 空を行き交い激突し合う、流れ星のような光芒こうぼうを見上げ、会心の笑みを浮かべる戦士。


 政十道眞。

 

 その皮膚を千切られては、つまみ食いをした悪戯いたずらっ子を電殺、或いは凍結させ、根性だけで咬み荒らされるのを防いでいる。

 

 死の2、3歩手前から、摺り足で進むという抵抗。

 無駄な足掻きか?

 そうではないと、断言できる。


 “醉象ローカスト”の左後ろ肢。

 ill(イリーガル)であるその者の欠損が、再生されない理由。

 

 切り口付近で、道眞の魔法による凍結が継続しているから。


 後ろ肢のジャンプやキック力が単純に2分の1となり、片方だけというバランスの悪さも足を引っ張り、最高スピードを許さない。


 四者が対等に近くなっているのは、間違いなく彼の功労あってのことだった。

 縁の下の力持ちポジションとして、自身を俯瞰して悦にひたり、そのモチベーションで魔法を磨き光らせ、猶予を数秒引き延ばす道眞。


 けれどそれも、いつまで続くか知れたものではない。


「その死合デュエルが、終焉を見るまでくらいは、持たせてやりたい、んやが……!」


 努力はするが、無責任な約束は出来ない、という塩梅あんばい

 どれだけさかんになったところで、風前の灯火であることに違いはない。


 “醉象ローカスト”が何か思い切ったことをすれば、確保した残り時間など一発で飛ぶだろうとは、想像に難くないことである。


「かなわん…!ホンマ……!」


 彼らしからぬ、弱気な発言。

 だがそうボヤくしかないほど、異次元な戦闘。


 何色なんしょくも走る航跡こうせきを追う以外、目を追い付かせることすらできない。

 見上げることしかできず、参加資格、挑戦権さえ許されなかった、強者達の交錯。


 いつの日か憧れ、大人になりながら夢想し続けた、“本物”達の社交場。


 すぐそこにあるのに、そちらへと手を伸ばすこともできない。

 膝を折り、へたり込み、嫌がらせが精々である。


 渋い貢献によって、最強への嫌がらせが出来ている。

 その存在を、片隅に認識して貰っている。

 そう思わなければ、自己肯定が崩れかねない。


 こんなお役目に就き、こういう戦い方をしていれば、いつかはこの日が来ると思っていた。

 魔法があろうが合理性があろうが、虚勢は虚勢だ。

 外面を飾るしか特別感が出せない者の、言い訳なのだ。


 だから殊更、彼はカッコよさにこだわったのかもしれない。

 どんな事実にも、客観にも、自分の満足で対抗できるように。


「かなわんが、勝つのは、我や……!」


 現実に蹴り倒されても、不敵にえ返せるように。


「ここで終わりと、思うな……!」


 ズル、ズルと、手繰たぐり寄せる。


 自分に出来る戦いを。


新世界の扉(ヘブンズ・ゲート)は、我の手で開いたる…!」

 

 空では、黒い筋が広がっていく。

 

 バッタ、いや、“刺面剃火オール・ラウンド”の棘だ。


 飴色のMMMマイクロ・マルチ・ミサイルとぶつかり合い、互いに爆散していく。


 それら攻撃魔法で飽和する中で、カーボンブラックとイエローラインが行き違いながら数合を交わす。


 びゅん、プラズマカッターが振るわれ、ギャァン!チェーンソーが叩きつけられる。


 幾つもの重いキャニスターが硬い床を一斉に引っ掻くようなブースター音。


 強烈な慣性を押し通る二刀の機械兵士。


 横から飛び込む小柄な影。


 ジェットノズルや翅といった飛行用パーツを狙って鋭く刺さりにいく。


 その片手間で不可視の回転刃付き魔力弾を複数発射。

 

 距離を取り、失った右腕を飴色のアーマーで補い、二丁拳銃で中距離から撃ち続けていた女の翼を、横から削断さくだん爆破しようとする。


 羽ばたき、打ち叩き、都合よく制御された銃撃エネルギーで破壊。


 その結果推進力の均衡が崩れた彼女を目掛け、バッタの産卵管から追撃連射。


 一度翼を体に巻き付けて回り落ちながら防御。


 その下に入り込み左の義腕でのアッパーを入れて打ち上げ、他2名の交戦の渦中に連れ戻す少年。


 両手両足頭からの銃弾で周囲を薙ぎ払い回りながら戦場を通過する女。


 その脇腹に棘が刺さりこみ、後尾を爆発させながら掘り進む。

 

 炎と化したそれが防御の下を幾らか焼く。


 飴色とカーボンブラックのミサイル群が再度吐き出される。


 それらの先と垂直に交わる方向に針路変更をしながら茶色の溶解液を複数条ふくすうじょう放散し、首を横にゆるりと振りながら全て撃ち落としていくバッタ。

 

「バッチいんだよさっきからあ!」


 死に物狂いでブーストして背後を取ってドリルキックで背中を蹴り刺す少年。


 飛行に使っている間、翅を蛇腹に変形させての攻撃には使えない、と予想しての行動。


 バッタは前に飛ばされながらも振り向き、中肢の先を開いて敵に向ける。


 それを掌打しょうだのように突き出し、中から小型バッタを発射。

 

 腹の先からの散弾の反動で変則軌道を実現しつつ、左右の中肢で遠距離攻撃を連打。


 前肢で握ったチェーンソーと背中からの隠し肢で、襲い来る二種のミサイルを斬り叩いて落とすも、それらの爆発で体表の眷属の一部を殺され、甲皮への着弾が増えていく。


 自由落下にプラスしてジェットを吹かしながら尖った仮の脚部で狙い刺す“刺面剃火オール・ラウンド”。


 機兵は2本の魔具での斬り下ろしも同時に行っていた為、背中側に避けたバッタ。


 そこに尻尾型ユニットで引かれた火線。


 金属化の後に爆発してから再度の固体化をして、棘の形で撒かれ散る。


 正面からそれらを受けて眷属を犠牲にしながら前へ。


 飛行手段として最重要パーツと思われるノズルを狙って両前肢を振るう。


 機兵の顔についていた、双眼鏡を縦にしたような箱型カメラパーツが、頭部に敷かれたレールの上を滑り移って背後へと向けられる。


 魔具が逆手さかて持ちにされ、2本の腕が下から後ろへ回され、平気な素振りで前後逆形態へと早変わりをし、プラズマを溝に流したそれらがチェーンソーとち合う。


 カメラパーツの溝が赤く色づく。


 徐々にピッチが上がる高出力レンジ音。


 それはマイクロウェーブ照射機構。


 相手の水分だけを狙って急加熱沸騰させる装置。


 とっておきの隠し手の一つ。


 小型バッタが剥がされた部分にそれが当たり、内部の水分を、それで構成された細胞を滅していく。


 組織が破壊されボロついた部分を目掛けて尻尾型ユニットが突出。


 中肢がその部位を守る。


 右の踵がそのガードを打ち上げる。


 足裏から出たカーボンブラックのジェットがHEAT弾頭へと変形、起爆。


 噴射されたメタルジェットが致命傷になるのをスレスレで躱される。


 だが脇と前翅の一部に穴が通った。


 小型バッタ達がそれを我が身で塞ごうとするも、その前に飴色が傷口を目掛けて押し入ろうとする。


 守り手達が身代わりで破れ死んでいるうちにバッタは翅を畳み、一度空気抵抗をすり抜けながら落ちて、低高度で再展開。


 そこに進がぴったりと寄せる。


 周囲に魔力爆破を発生させて、自分がいる方向以外から抵抗を生み出し、逃さない。


 左ドリル貫手スピアで穴を抉りに行く。


 “醉象ローカスト”はクロスさせた中肢で下からそれをかち上げて攻撃を逸らし、表皮装甲から切削せっさく音を駄々流しにしながら、


〈あぁぁばぁぁぁぁ〉


 前に斬りつけるように肢を開いて敵の腕を押し返し、


〈どぉぉぉぉおおおおおん!!!〉


 夕食を告げる腹のベルを鳴らした。




 八方で、黒い柱が天を支えるように立ち並んだ。




 それはすぐに崩れ、破片はドロドロと粘体のように流れ寄ってくる。


 黒煙は夏の森の騒めきと共に襲来。


 お察しの通り、その黒い雪崩はバッタである。


 誰も知らないうちに、“醉象ローカスト”は最終手段を着々と準備し、


 既に細工は完了していた。

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