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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十章:だとしても、そうだとしても

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539.天からの裁きを

「掛かっておるの」


 黒く熱を持った岩に、脚を組んで腰掛けながら、“靏玉エンプレス”は林の一角いっかく、丸く禿げあがった土地を前にして我知らず呟く。


 その後にまぶたを閉じ、両目の間を指で揉みつまむ。

 

「妾としたことが……、気疲れしておるのかのう……?」


 “醉象ローカスト”が“右眼”と日魅在進をダンジョンに幽閉して、もう20分近くが経つ。

 当然にバッタの親玉が勝つにしても、奇跡が起きて人間達が脱出してくるにしても、決着自体は早期に着くと考えていたが、見たところ大外しなようである。


 矢張り、“飛燕サルタドール”を忍び込ませておくべきだっただろうか?

 けれど、つい先程“奔獏ジェスター”の辺獄現界アマゾニン・ダンジョンが発動したばかりだ。

 向こうも向こうでっている。援護を送り込んでおいたのは正解と見るべきだ。


「是非も無し……。“可惜夜ナイトライダー”が関わると、どうにもままならぬことばかり起こるものよのう……。いいや——」



——それともあの小童か?



 己の天敵、事象の擾乱者じょうらんしゃ、理外に生きる条理。

 それは、“彼女”なのか、それとも“の少年”なのか。

 或いは、その両方か。




 いずれにせよ、それにつけても、

 あの“右眼”は破壊しなければならない。

 それだけは、絶対である。




 あの男、“最悪最底ワーストランカー”から得た、とある情報。

 10月、深級内でせしめた“席代”。

 有力な暴露。それか“告発”、だろうか?

 

 ill(イリーガル)の2大勢力による戦い、その苛烈さを増させる効果を持つ。

 あの“右眼”を中心とした戦いを。


 それは“環境保全キャプチャラーズ”への、交渉の切り札ともなるほどの大きな一撃。

 それを観覧料として、“転移住民リーパーズ”にあっさり公開した。


 二者の衝突を、闇討ちによってあっさりと終わらせない。派手に爆発してくれなければ困る、とでも言いたげだ。

 

 どうにもキナ臭かった。

 彼女が知る“最悪最底ワーストランカー”は、世の固定観念ステレオタイプに挑戦する者であっても、戦乱そのものに興趣きょうしゅを見出す人間ではなかった。

 数ある手札の中から、何故それを彼女達に握らせたのか?その真意が読めなかった。


 だが、一つ予想があった。

 そもそも彼があそこに現れたのは、あの少年を追って来たから、という憶測を下敷きにすると見えるもの。

 

 その情報は、“右眼”の持ち主であった少年を、守るという使い方もできる。

 暴かれることで戦火を激しくし、けれど隠れた危難きなんを火を見るより明らかなものにして、渦中かちゅうの一人に利する側面も持つ。


 まるで、“可惜夜ナイトライダー”と日魅在進のセット、それを切り離したくない、失いたくない、というような行動と、そう言えなくもない。


 そこで彼女は、漏魔症関係の騒動を起こそうとしている、という見当をつけた。

 それならば、“転移住民リーパーズ”へ積極的にコンタクトを取りに行くというのも、頷ける。

 要は、プロジェクトAS(アルファ・シエラ)に、ひとつ噛ませてほしい、という示唆なのだろう、と。

 

 


 だが、


 だがあの日、


 永級が一つ、世界から消えた日、


 本当の答えが見えた。




 “可惜夜ナイトライダー”の真意が大筋で判明し、「その力を利用する」という方針は有り得なくなった。


 そして彼女達は、破壊の機を窺っていた。

 “転移住民リーパーズ”は“あれ”の目的を察していない、恩恵に預かろうと協力的でさえある。そう見せかけながら、どこかで奇襲する、それが可能な時を待っていた。


 そして、“右眼”は持ち主から取り上げられ、“あれ”を呼び出せる人間が居ない、という一時的な状況が出来上がっている今こそ、


 今日ここで、日魅在進による奪還を許す前に、破壊しなければならない。


 それで、“転移住民リーパーズ”を全動員しての、このバカ騒ぎだ。

 出来れば「知性を持ったill(イリーガル)」の目撃者を、全員消しておきたいが、厳しいだろうと半ば諦めている。

 ここから先、少なくとも諜報員のネットワーク上では、彼女達の存在が常識となるだろう。


「台風の目は楽しいのかもしれんがのう。荒らされる方はいい迷惑じゃ」


 苦笑いしながら、両腕を上に、

 昼寝の後の猫のように伸び上がる。


「ま、それも良かろう。“可惜夜ナイトライダー”の存在だけ否定すれば、あとは野となるも山となるも一興いっきょうじゃ」


 “醉象ローカスト”のダンジョン内で、これからどの目が出ようとも、彼女がいるマスは素通りさせない。

 “右眼”を持って出て来たのなら、いて止まって貰うだけ。


「それに、中には彼奴あやつがおる。ならば人が“醉象ローカスト”に勝利したとて——」


 ぽたり、

 すぐ近くの草に、液の一粒が滴下てきか

 

 雨?

 そんなわけがない。

 晴れているから、ではなく、

 一方からの光だけ通す、彼女のマジックミラーが死角なく覆っているから!


 何かが降っても、鏡に触れるだけ。

 ここまで入って来る筈がない!

 

 “靏玉エンプレス”は雫が落ちた芝生に目を走らせる。

 熱くじゅうじゅうと焼かれて、溶けた物質が、急速に冷え固まっている。


 それが落ちて来た方向を、上を見る。

 鏡が、

 その端が溶けて、変形し、液化している!


「あ、ありえぬ……!いつの間に……!いや、どこから……!?」


 一帯の気配を探るも、魔力や魔法で攻撃されているように感じない!

 だが鏡は、明らかに異常な温度まで加熱され、融点を超えている!


「ローカル……?だが力を感じんとは……否!そうか!」


 再び顔を上へ、その先には、直視すら罰する自然の神聖!

 図像ではオレンジや赤で描かれ、肉眼で見れば痛みを帯びた白色!


「太陽…!そして日射で少しずつ、ほんの少しずつだが鏡を温めて……!」


 奴だ。

 あの女のローカル。

 「日陰でこまめに水分補給を」。

 

 そして奴の存在を感じ取れないのではなく、

 「奴が居る」と意識出来ていないだけ。

 奴から発されるエネルギーが、そこにあるのが当たり前だから、意識がそちらを見ないだけ!


 言ってしまえば——


「そこにおったか!“提婆キャメル”!」


 上部の鏡がわんのように表面を曲げ、照射された太陽光線を収束して撃ち返す!


「ちょっとちょっとぉ~」


 日輪にちりんの中で大きくなる影。

 逆光から降りて、やがてビーチサンダルで地上を踏んだ女。


「急に撃つことないじゃんか」


 金色ビキニのそいつは、鳩を一匹()き撫でながら、サングラスの下で涼しい顔。


「直射日光の中に気配を紛らわせ、挨拶も無しに妾の所有物を加工しおったのは、オヌシの方じゃろうに」

「いや~、前に見た映画のシチュエーション試してみたくって」

「『映画』、じゃとう……?」


 甘いオレンジの明かりを宿し、ボタボタ端から溶け落ちる。

 それを満足げに観賞しながら、高揚をそのまま見せる日焼け肌。


「でっかい怪物が出て来てさ、口からビームみたいなの撃つんだよ。で、人間が変な……アイロンみたいな秘密兵器作ってさ、それが鏡で光線を撥ね返す。うおっ、無敵じゃーんって思ってたら——」


——熱戦を受け過ぎて鏡が溶けるんだ


「再現出来て大満足だよ」

「ほうか。『よくできたの』。これでよいか?とっととね。妾は忙しい」


 “右眼”の破壊が確認されていない以上、ここで殴り合うは犯さないだろう。

 彼女はそう考えていた。


 それほど合理的であるからこそ、

 他より先見に優れているからこそ、


 愚かしい他者に異端として排除された。

 それが彼女だ。


「こーら、駄目でしょー?」


 今度も同じだった。


「死んじゃうからって、逃げるのはさぁ?」


 彼女は「愚かさ」に邪魔立てされる。


「……なんのつもりじゃ?」

「トリ君から聞いたんだ」


 その胸から離され羽ばたいて、空に戻った鳩は、伝言役メッセンジャー


「あの鬱陶しい雑草のローカル、使ったんだってね?」

「……!」


——こんなにも早く伝わっておるか…!


 もう二度と“火鬼ローズ”を呼び戻せない。

 それが敵の間で共有されてしまっている。


「もうわたしへの対策、残ってないんじゃなぁい?」


 彼女に仕える道化の判断は、恐らく正しいものだっただろう。

 それがなければ、人間共を止められなかっただろう。


 問題なのは、抑止力が消費されてしまった事ではない。

 まだ“右眼”の安否も確認できていないうちから、“提婆キャメル”が挑んでくる事の方。


「コロがすならここでしょ、間違いなく」

「オヌシ、言うておくがの。“あれ”を放置してはいかん……!“あれ”は、我々共通の敵じゃぞ……!ここで争うて、ドサクサ紛れに逃してしまってはいかんものじゃ!絶対にここで、日魅在進の中に戻る前に、葬らねばならんものじゃぞ!」


 説明すれば、理解するだろうか?

 少なくとも、“右眼”の破壊だけは完遂しなければならない。

 そこにイレギュラーの入る余地を挟んではならない。

 絶対確実、100%でないとならないのだ。


「わたしは別に、そんなのどーだっていいよ」


 祈りは太陽に届かない。

 そいつは、理を解さない。意に介さない。

 助かる為の出まかせとしか、思っていない。


「ロー君が勝って、“右眼”はぶっ壊される。起こるわけないことだけど、あのガキんちょが手に入れたとしても、その後にあれこれ手段を選ばず殺せばいいし。所詮人間、地力の差は埋められない」


 「そんなことよりさ」、

 彼女はサングラスを外す。

 黒い眼球の中に、溶岩のような虹彩。


「おまえら外来種が、一秒でも長くのさばってる方が、はるかに忌々しいんだよ」

 

 “靏玉エンプレス”を囲む鏡面のはこが、歪み捻じれて溶け崩れていく。

 表面がブクブクと泡立ち、弾けて飛散しくろがす。


 “提婆キャメル”が人差し指を向ける。

 “靏玉エンプレス”は自分の前に鏡を生み出す。


 彩度の低い煉瓦レンガ色が束ねられた円筒が鏡を割り、表面で反射され散らばされ広げられ、それでも止まらず黄金色こがねいろの髪を一際ひときわきらめかせながら、背後の木立を突っ切っていく。


 エントロピーを発散していくエネルギーが、目に痛い熱光ねっこうとなって包み囲む。

 狭い範囲を焼き切る器具から発されるような高周波が、減衰して可聴音に。

 

 それに囲まれた彼女は、暑さのせいか、緊迫によるものか、


 ドッと汗を掻きながら、


 またも片頬で苦笑いを浮かべる。


「さて、どうにかオヌシを“説得”せねばいかんのう」


 勝ちの薄いギャンブルを強いられながら、


 それでも不遜に前を向く。


「聞く耳を持たない、と言ってるのが聞こえないのか?」

「妾の呼気が続く間は、老人との“おしゃべり”に付き合って貰うぞ?」


 「ここぞ、腕の見せ所」、と。

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