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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十章:だとしても、そうだとしても

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538.ワイルドキャット

 最大の美質びしつ

 最強の精髄せいずい


 部位ごとに重要度で色分けしていけば、金ピカを発するだろうそれが、


 バッタの後ろ肢が、断ち離された。


 攻撃、回避能力の喪失。

 そいつが得意とするほぼ全てが、そこで拒絶された。


 正面から“刺面剃火オール・ラウンド”が相対、大剣型魔具で双刃そうじんや中肢と打ち合う。


 刀弥は横に回り込み、右の後ろ肢も断とうと狙う。

 内部の電位差を高めた雲が、小さな雷電を押し付けようと反対から飛び掛かる。


 ヴァークが右手の拳銃を長物ながものライフルに変え、もう避けられないそいつに向けて引鉄を滅茶苦茶に引きまくる。

 

 ガネッシュはハーケンを投げながら睦月の治療に向かい、進は敵の背後を立ち塞ぐ。


 “醉象ローカスト”が両の前肢を掲げる。

 刀弥へと向き直り、関節の弾性と体重を利用し、前倒れるように上半身ごと振り下ろす。


 だが分かりやすい大振り。見切っている。

 最低限の間を空けるだけで避ける。

 刃から飛んだ溶解液も、魔法で生成された身体で防ぐ。


 そこで刀弥と進は気付いた。

 そいつが何をやりたかったのかを。


「離れ——!」


 ぞろぞろぞろぞろ、

 五つの肢がせかせかと忙しなく地をく。

 チェーンソーの刃が履帯りたいや車輪の役を果たし、地を切りつけながらそいつの走行を補助。


 「そいつの強みを奪ってやった」、と?

 二足歩行の法則に当て嵌め過ぎである。


 彼らは忘れていた。

 そいつは昆虫なのだ。

 

 全ての肢を使って這うのが本領。


 その状態で、遅いわけがなかったのだ。


「ガネッシュさんッ!そっちです!」


 魔力反応から動きがある程度読める進が鋭く警告。

 象の頭を持った学者は、聖水を撒いてから自らの魔力を籠めたハーケンを立てて壁を展開。

 

 だが溶解液を口から浴びせながら、当然の権利のように突破。

 流石に音速の壁は超えなかったもの、ディーパー一人を破壊するには充分な加速アクセル

 前面投影面積が狭くなり、より戦いづらくもなっている。


「おーい、レディをお出迎えするくらいはしてよ」


 横から翼を生やしたヴァークが割り込もうとする。

 左手の銃が短機関銃となっており、そこから飴色が毎秒20発弱発射される。


 彼女が“醉象ローカスト”の前に出る直前、その腹に何かが接触。


——……っと?


 優しく、自然に、ただ同僚の肩を叩くように、太く大きな中肢の先で、触れられていた。


 短機関銃サブマシンガンに重ねるようにもう一つ、釘を連打するハンマーを重厚にしたような音がハモる。

 ヴァークの背から第3の翼が生える。

 それは鮮やかだったり、或いは黒っぽかったりする赤色であり、言葉を捻らずに言えば血液の噴水。

 

「オ゛ッ!?」


 「く」の字に体を折りながら、彼女は飛んだ。

 羽ばたきもせず、背中の方へと飛翔した。


〈興味深いですなあ!〉


 ガネッシュは再生した牙を鼻で掴み、いつでも抜剣ばっけんできるよう構える。


「ダメだああああああ!!」


 バッタの背後に迫った進だったが、蛇腹になった翅部分が一度畳まれた後、伸び突いて彼を追い遣る。

 そして、右の後ろ肢が踏み切られた。

 

〈なんですとおおおっ!?〉

 

 横回転跳躍!

 フリスビーのように回り迫る!

 翅が蛇腹剣となって斬りつける!

 そして迎撃に振り抜かれたガネッシュの牙は——


〈刺さっ…っ!〉

 

 内まで干渉できない!

 密集した小型バッタが1匹殺処分されただけ!

 欠損効果が、届かない!

 彼に残された装備で、この斬裂ざんれつを防ぐ術もない!


 横に一閃!

 ガードに上げた両腕が切断され、その下の胸までもが、ざっくり深々と切り込まれてしまう!


「もうやめろおおおお!!」


 進の叫びを聞かず、その魔力による攻撃を遠心力で弾き、反時計回り中に右のチェーンソーを地面につけて一輪駆動!

 グラインダーのように花吹雪の如き粉火こなびを散らし、ようてつ色の残光はモーターボートに撥ねられる白い水飛沫みずしぶきと同じ!


 大きく曲がりながら今度は道眞へ!


「守れぇ!“刺面剃火オール・ラウンド”ォッ!」


 央華のチャンピオンが行く手を阻む。

 バッタの翅が飛行モードに。

 中型腕から発射されるクラスター弾を小型バッタを体表から跳び出させてぶつけ合い、左のチェーンソーで炎を切り払い、右のチェーンソーを土から離して斬り上げ。

 

 大型腕で防ぐが、それをカーボンブラックの金属ごと割り溶かしながら、その表面を回転刃で伝って背後へ。

 背中に中肢を右左と二連打ち付け!

 またも鈍く硬い連音と共に仰け反って一瞬だが前に浮く“刺面剃火オール・ラウンド”!

 

 尻尾型ユニットが頭部を狙って繰り出されるも唇と大顎に挟まれて噛み千切られる!


 その横から刀弥!

 両手に持った大小2本で刻みにしてやろうと踏み込む!


 右の後ろばねが開いてその下から新たな肢が生え、というより収納されていたものが展開され、右前肢のチェーンソーを受け取って双刀そうとうとかち合う!


 直前まで翅を動かすのと変わらない電気信号が流れることで、刀弥の力量であってもそれは奇襲的な攻撃と見られる!


 熱心に研ぐような金属擦過(さっか)

「!!っ」

 そこで紅色によって0.2秒先を予測した刀弥がバックステップを踏もうとするも、もう遅い!

 

 先程跳ね上げておいた前翅まえばねが蛇腹となって巻き付く!

 右後ろ肢で“刺面剃火オール・ラウンド”を蹴り飛ばし、右斜め後方へと腰を使って身を回し、刃が引かれた。


 片方であっても、尋常ならざる脚力を発揮するのには充分。

 それが生む勢いで、スポスポとパーツごとに引っ張り抜かれる人形のように、刀弥の五体は宙に散らかされた。


 雷雲でそれを援護しようとした道眞に、斬り飛ばされた左後ろ肢が横から衝突していた。

 その腿から九十九つづらおりになっていた隠し肢がバネ仕掛けで繰り出され「んな」先端の大顎部が胸に突き刺さり「アホ」内部から小型バッタが噴霧ふんむされハリガネムシ型の触手も伸びる。


 モンスター達が中に詰まっているのだから、肢がひとりでに飛ぶのも当たり前だと、起こった後からなら幾らでも言えた。


「おまえええええ!!」


 進が再度の急接近、を減速せずに右拳を大きく引きしぼりながらストレートパンチ半秒前!

 右のチェーンソーはまだ背中から出ている肢が持ち、左は魔力爆破で外に逸らされ、それ以外の肢であればそのままへし折ってやるつもりで——


——!産卵管!


 魔力の熾り!

 だが今からそれで狙いをつけても間に合わない!

 構わず殴る!


 一直線!

    と、前に出されている左半身に“醉象ローカスト”がぶつかってきた。


「それ、は、」


 産卵管からの小型バッタは、そいつの後ろに発射された。

 

「反作用…!?」


 反動で前に飛び、進の体に触れて、拳が狙っていたインパクトのポイントからズレる。


 移動距離、動作工程が短くなり、加速しきれない、中途半端な拳撃けんげきとなって、腹を打った後の魔力噴射で数匹の小型バッタ殺傷にとどまる。

 

 スピードを殺された彼を待つのは、溶解液の吐きかけ、右の前肢の側面から生えた大顎による削り斬りと、両の中肢の同時掌底(しょうてい)


 咄嗟に頭と腹に防御を重点。

 

 だが高圧魔力噴射の中を、


 中肢は硬質な打ち付け振動を響かせながら強行突入。


 ヘルムの一部が溶け削られ、


 胸に裂傷、


 腹は数十の打突を一息で入れられたように破裂。


「ぎゅ、こ゜ぽっお゜っ……!」


 たった一回、敵の攻勢を受けただけで、


 四肢が飛んだかのようなショックが奔り、


 満身創痍まんしんそういで意識ごと彼方へ送られたのだった。

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