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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十章:だとしても、そうだとしても

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535.オープンファイア

 一体で8人の上位ディーパーを封鎖してから、およそ5分が経った。

 疲労の色を見せず、淡々と魔力や魔法生成物の破壊に勤しむ“醉象ローカスト”。


 黒地にイエローの表層が、曇天の稲光のような残像で、一定範囲を塗り埋める。

 大小、計六つの複眼の赤色が引き伸びて、長時間露光で撮影された、夜の街を駆ける四輪車の如し。


 そいつはもうバッタではなかった。

 嵐や帯状の光、純粋な運動エネルギーそのもの。


 広く囲む形を持ち、結界を作るように内外の接触を拒む不思議な物質。

 ある種の壁や、境界という概念の物理的発露。


 速過ぎるが故に止まって見える。

 残像の全てが、質量を持つひとつづきの実体と錯覚させる。


 チャンピオン3名を含む実力者の群れを軟禁しながら、時に表面の一部をいびつにうねらせ、相手の精魂を枯らすことに注力する。

 

 擦り減るまで延命するのか、焦れて乾坤けんこん一擲いってきを図るのか。

 

 彼らが選んだのは、後者。


 古茶の幕が下り、低姿勢を取ってそれぞれの防御を展開するディーパー達の姿があらわに。

 それらを遮蔽物として、紅白の牛頭に守られながら、巨大な銃器を構える一人。


「いっっっっ」クぅぅゥゥゥオオオオオオオオオオ、円状に並べられた銃身が回転を開始!「っっっっくよおおおおお!!」一発撃っては隣と交代、それを超高頻度で繰り返す!


 飴色の線を一瞬で数百と引いて空間制圧!

 薬莢が噴水のように吐き捨てられる!



 “ガトリングガン”!



 銃砲は連射速度を上げると、銃身の内部が摩耗し、そこが帯びる熱が高くなり過ぎることで、変形による不具合を引き起こす。


 それを防ぎつつ、けれど短時間に高速連射をしたい。

 そんな利用者の声にお応えするべく、一発ごとに銃身を交換、回転時のくう冷却れいきゃくも併用、という手法をったのが、「ガトリング」と呼ばれる武器種である。


 通常の単銃身型機関銃が毎分1000発を超えるのが精々なのに対し、ガトリングガンは最大で毎分6000発以上。


 一見凄まじい兵器に思えるが、銃身を複数持つことによる過重量、弾の消費が激しくなるというコスト問題、撃つ相手が居ないという火力の過剰さ等という側面があり、軍として広く運用される事に向いていなかった。


 化け物と超人が蔓延はびこる潜行者の世界でも、それは同じである。


 モンスター相手に使おうにも、ダンジョン内にジャラジャラ持ち込む手間の方が大きい。

 ディーパーを相手にするとしても、大口径の単銃身で大抵間に合ってしまう。

 それを避けられるような使い手を殺す道具としては、取り回しの悪さが足を引っ張る。

 そもそもそんな例外の為に、軍隊内のそこかしこに配置するなど、費用対効果が見合っていない。


 画期的ではあるが、活躍の場などあるわけもなく、登場から2、30年で大した活躍もなく廃れてしまった武器種であった。


 転機は20世紀後半。

 ジェット戦闘機の進化によって、優れたディーパーでもない兵士が、科学で音速の壁を越え始めた時代。

 一般的にはくう対空たいくうミサイルしか用を為さなかった空の戦場で、速過ぎる敵を殺す武器として有用だと、ガトリングが復活した。


 相手が速いなら、弾のバラマキ密度を強めればいい。

 歩兵が持つには重くとも、乗り物(ヴィークル)に積むなら許容範囲。

 人類の戦闘車輛は、かつてとは比べ物にならないほど重装甲化し、火力が余らない相手も増えた。


 生まれるのが早過ぎたオーバーパワーは、ここに再び日の目を見る。


 ヴァークが作ったのは、それの50口径バージョンである。

 彼女の銃は発射しながら、魔法能力で弾丸を製造、供給する為、本来は外からの再装填を考える必要がなく、マガジンは短くまとめられるか、或いは完全に省略されているものが多い。


 だがガトリングの場合、その連射が速過ぎて、弾を繋げた帯である“弾帯だんたい”をあらかじめ用意しておかなければ、切れ目なく撃ち続けることができない。

 

 大口径の銃身複数、高速回転機構を搭載した機関部、数千発がひとつながりとなって銃本体よりも重い弾帯。


 最も威力の高いガトリングモデルと比すれば、軽量化された“ミニガン”タイプに分類されるとは言え、総重量は100kgを遥かに超える。

 そこに、毎秒100回の巨大反動が追加される。


 彼女のようなチャンピオンなら、それでも撃つだけなら片手でも可能。

 だが自在に振り回すとなると、その身体では両手を使わざるを得なくなる。

 ジャラジャラと弾薬を引き摺る必要があり、彼女自身の一匹狼いっぴきおおかみ的なスタンスも含めて、使用にピッタリなケースはほとんど存在しなかった。


 その極端砲火を、この機会にお披露目である!


 ジイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!

 その発射音は、細かい振動と表せるようなレベルを超えている!


 振幅がギリギリ感じられないような、ほぼ一定の一音!

 ギロのようにびっしりと並んだひだを引っ掻き、それを何倍にも加速したものを幾つも重ねたかのような、銃声と言うよりドリルが壁を削る工事のやかましさ!

 

「ハハハハハハハhahahahahahaha!!!HoooooOoooooT!!!!きンっもちいいいい゛い゛い゛い゛い゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛イ゛!!」

 

 果てぬ魔力で無尽蔵に咆え飛ばされる飴色の爆炸ばくさく

 狙いなどつけていない!

 全体を満たすようにふんだんに盛り付ける!


 マスタードの容器を逆様にして握り潰すようなヤケクソ衝動!

 害虫が逃げ込んだ隙間に殺虫剤を缶一つ丸々注ぎ込むような確定殺意!


 ただ振り回して遊んでいるだけ!

 赤ん坊の常と同じく、やってる側は一切の加減というものを知らない!


 銃口の向きを見ることで避けようとするも、一部の弾頭は魔法効果によってヴァークの意のままに飛行針路を曲げる!


 数撃ちゃ当たるの極致!

 

 面を制する敵に、弾幕という面で返す!


 これに対し、“醉象ローカスト”は小型バッタを増産、体中にへばりつく防御層を厚くする!

 そしてバッタの群れでコーティングした双刃槍を手元でスピン!

 力技で稼働するファンは丸い盾の如き外見となってガキギギガガガンッ!攻撃を弾き返す!


 攻防入れ替え!

 ここで他のメンバーも攻撃に加われば、今度は相手を防戦一方に出来る!

 その考えのもとに解かれようとしていた防御の上にドン!と叩きつけられる黒い球!

 

 ヴァークは右眼を失っており、真右で起こっている事態への反応が遅れる。

 だからそいつは、僅かに速度を落としながら、相手から見て左へと動いて視線誘導、同時に左中肢でスライダーを投球。

 横から抉り入ったそれは、ガネッシュの肩に食い込んでから拡散。

 

 小型バッタが彼を襲う!

 が!

〈対策済みですぞ!〉


 ワイヤーとハーケンで作られ、中心に牙を突き立てた魔法陣!

 密着状態を解いて、耐呪が下がったバッタ達を欠損させる!


〈塊では入ってこれても!〉

 

 散開した瞬間に首を飛ばされる!


 バイキング会場にはならない!

 

 彼の牙がそこで効力を発する限り!

 

 山なりに投げ込まれた一球がその牙をクラック!粉砕破壊!


〈なんですと!?〉

「あいつ…!近付いてます…ッ!」

 

 紅色が付けられた反応魔力が猛スピードで割られていく!

 間合いを詰めて、陣の中に届く攻撃を増やしている!


「三都葉のぉ!支配しろやぁ!!」

「耐呪に押し負けてるんですよ分かるでしょうイヤミですかあああ!?」


 瑠璃の魔法領域内だが凝集ぎょうしゅうされたバッタ共を乗っ取れない!

 更に今度は個体でバラけるのではなくパアン!と体を破裂させ溶解性体液を大量放散!


 化学ケミカル擲弾グレネード


 ひゅん、ドン!パアン!

 びゅう、ゴン!ドパァン!

 次々と投げ込まれるそれらが、外と内と両面から彼らに対処を迫る!


「反応魔力再配置が間に合わない!」


 敵はご丁寧に、進の魔力を掃除している!

 わだちさえ見ることを許さない!


「そろそろ来るで!総員備えぇや!」


 きききキーーーーーイイいいいィィイイイィィイィ!

 ヴァークが持つガトリングが聞く者に鳥肌を立たせる悲鳴を上げながらロータリーを突如停止!


「イイイイイイイイイイイ、い?」


 横から楕円のチェーンソーが刺し込まれている!

 その柄を握る鬼面きめんのバッタ!


「ちょっと、折角スガスガしい気分だったのにさ」


 だが止まったのはお互い様!

 進が魔力で槍の柄を固定しヴァークが左手で大型拳銃を抜き “刺面剃火オール・ラウンド”がえんけんを刺し込み刀弥が斬り掛かり道眞が魔法行使を試みガネッシュがハーケンを投げ瑠璃が紅白の斧を振り下ろし睦月が脚から水を蹴り飛ばし


 “醉象ローカスト”は、


 双刃槍を真ん中からへし折った。


 いや、それは付け外しが可能な設計となってた。


 二刀となった得物が、不可視の魔力による拘束から容易に引っこ抜かれる。

 後ろ肢が踏み切られ、周囲を吹き飛ばしながら速攻加速。

 翅を蛇腹状にして数人を切りつけながら、


 ヴァークの背後、紅白の魔法で守られた睦月へと、右のチェーンソーを突き入れる。


 抵抗はあるものの、それでは完全停止までいかない。


 一連の作業は、何かが鳴る響きが誰かの耳に届くまでの間に、


 無音のまま手早く済まされる。


 モツの中身を表すようなドス黒い飛沫しぶきが、


 ビチャビチャと節足のうわつらを汚した。

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