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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十章:だとしても、そうだとしても

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534.ディープインスティンクト

 「十人寄らばけんも形骸」。

 密集した者を強化するローカル。


 それをバッタの側だけが得ている。


 そいつは産卵管に、小型バッタを満載。

 方向転換で速度が大きく緩む刹那、腹を横に捻じ曲げ後端から跳躍発進させる。

 別のバッタと蹴り合う事で、倍のパワーが乗っていることも忘れてはならない。


 日魅在進の魔力装甲を色付きで見れる恩恵は、その味方側だけの特権ではない。

 攻撃を捩じ込むサイドも、当然の如くやり易くなる。


 溶解液を散布し、接触によって魔力を爆破させ、防御を剥ぎながら隙間にまた一発。

 「小型」と言われるとも、通常のバッタの数倍の体積を持ち、ローカルによって硬度を高め、下手な金属よりも貫通力に優れたそれが、高度な魔学防御に穴隙けつげきを掘る。


 “刺面剃火オール・ラウンド”が大型腕の表面に金属を生成、傾斜装甲にして構える。

 進が防御用魔力を増やすと共に高圧流動防御を広めに発動させ、道眞は電磁力を得た氷粒の群れを身に纏い、ヴァークは飴色で方々に撃ち返し、結果的に全方位をカバーする形にはなっている。

 

 けれど常に360°を守れるわけではなく、時に上を飛びながら撃ち下ろしてくる場合もあり、しかもバッタ共がよく訓練されているのか、腹の中での再装填もスムーズ。

 発射感覚は短く、一般的な小銃と変わらない。


 止まって耐えるには限度があり、かと言って避けられるものでもない。


 だが一つ、事情が変わった。


「“浅稲畔脚按摩椎乳アシナダノ・ナヅチ”」


 三都葉瑠璃の魔法と、ガネッシュが持っていた止血並びに細胞再生促進ジェルによって、睦月十巴が戦線復帰。


 古茶色の分厚い液体壁で立て囲む。

 道眞がその一部を凍らせ、弾丸のような高速で衝突してくるものへの抵抗力が高い、2重装甲が完成。

 上側だけを重点して守れば良くなった事で、防御を固める態勢が安定。


「欠損まで再生させるのは、私のパートナーの領分ですが……」

 スーツの一部機能が破損し、ゴーグルで隠れていない顔の下半分が露出した睦月。

〈構いません。全員の止血と感染症予防をお願いしますぞ〉

 ガネッシュが魔法の肉体を再生させながら返事をする。


 治癒の役を持ったディーパーが二人に。

 完全ではないが、死へのカウントダウンが一時中断。


「ふー…っ!僕とした事が…!相手の激しさに振り回されるなんてね…!攻められるのも、楽しいじゃないか…!」

「対立してからのこれやが、まだ我がK(キング)でええか?」

「すいません、お願いします……!」

「揉める止める咎める時間が無いので従いますよぉおお……!」

〈異存ございませんぞ〉

〈当機に異議なし〉


 数十秒前のギスギスとした関係性を引き摺るほど、不覚悟な能力不足者はこの場に居ない。

 が、そのような賢さ、潔さ、切り替えの速さがあったとして、この場を切り抜けられるかは別である。


 ()()


 ここに居る誰よりも、全員が束になっても、一体のモンスターが上回る。


 8本の太矢ふとやが、剛腕で一挙にへし折られる様。

 どこぞの武将も苦い顔をするだろう。


「このイクサ膠着ロックダウンが永続してくれるんやとして……」

「気力と体力で根競こんくらべになりますが、それで勝てるとはとても思えません」

「ジリ貧ですね……!」


 壁は絶対安全ではない。

 さっきから解体用鉄球でも打ち付けられているかのような鈍い打擲ちょうちゃくが奔り、破られて補修するのを繰り返している。

 それでも魔素が豊富なこの空間なら、その程度の作業に伴う魔力切れは、ほぼほぼ心配しなくていい。

 

 だが頭は?

 集中力は?

 

 自らの魔法生成物全体の形を把握し、その中のどこを補修し、その為にどれだけの魔力を使うかの管理。

 それは確実に、彼らの脳を蝕んでいく。

 

〈食べ物は各々携帯糧食程度ならお持ちでしょうし、私も皆様に分けられる分が御座いますが……〉

「餓死寸前みてえなテンションのクセに、あいつ全然死ななそうですよね…っ!魔力さえあれば稼働できると見た方が良さそうです…!」


 そうこうしている内に、彼らの体が睡眠に飛び付くのは避けられない。


〈動物が必ず睡魔から逃れられないのは、寝ている状態が生物の本当の姿であるかららしいですぞ!「活動」、それは進化が獲得した能力であり、敢えて言うなら「不自然な」状態なのだそうです!植物のようにその場にただ在る、それが原初として我々の身体に今も根付いている!〉


 それに逆らい動き続けようと無理をすれば、最後に待つのは最大の不可抗力的生理現象、乃ち「死」あるのみ。


 「眠る」、それは絶対の制限。


 特に、一息でも抜けば一瞬で壊滅しかねない、強敵との戦闘中、魔法を絶えず展開し続けているのであれば、消耗は顕著。

 壁を作る二人だけでなく、上からの不意打ちに備える他も同様。

 誰が限界を迎えたとしても、戦線維持が困難になって来る。


 それを、“醉象ローカスト”は理解している。

 さっき誕生したばかりの明瞭な脳で、どちらが先に限界が来るか、しっかり計算済み。


 だから封じ込めたまま、兵糧ひょうろう攻めのようにチクチクと遠巻くことしかしない。

 言っているのだ。

 「賭けに出るなら、お前達の方からだ」、と。


「そうだろ?やるだろ?つまらないだろ?このままグースカ、フカフカの土のベッドで死ぬなんて。もうちょっと頑張って遊んでようよ!」

「それについては不本意やが同感や。その意思おもいは重なっとるんやが…!」

「その『賭け』の内容、それこそが議題です。何をしようと今の状態を崩すなら、もう二度とこの陣形に戻って来れないと考えるべきでしょう」

 

 敵はこの戦いを通して、彼らの魔法能力に完全適応しつつある。

 あれやこれやを引き出され、秘密兵器など全員合わせて、片手に満たぬほどしか残っていない。


 奥の手にしろ何にしろ、半端なアプローチではあしらわれるだけ。

 その時リスクが牙を剥き、彼らを頭からバリバリ食い荒らす。


 チャンスは恐らく一回。


 失敗した後にいそいそ配置に帰るのを許すほど、慈愛に満ちた敵ではない。

 その為に用いられる手段は、どれもが「既にどこかで見たことある」ものでしかないから、必ずや対応される。

 

 待った無し、背水ノーリターンの精神で勝ち切る道、それ以外は行き止まり。

 だが奴を相手に、「必勝を()せるやり方」などあるのか?


「罠を仕掛けても、超高速移動による運動エネルギーと衝撃波で大抵蹴散らされます…!」

「我の雲も大気ごと破断されてしまいやな…!」

〈私の「道具の機能を向上させる魔力」と、増幅用スクロールで、聖水が作る破魔の壁を強化運用するとしても…!〉

「それで1秒止められれば御の字でしょう」

〈私の目算では、半秒もせずに蹴り跳んで逃げられますなあ!〉

 

 彼らが作れる好機とは、所詮その程度。

 相手にはまだ幾らでも、未知の持ち札があると言うのに。


「最低5秒や!5秒をようす!5秒あれば、()獄氷ごくひょう()まって、闇より勝算がでるんやが…!」

「5秒…!ほぼ永遠みたいなものですね…!」

「せやな」

 

 せ返るくらい濃く立ち込める敗色。

 今にも転覆しそうな狭いいかだの上で、冷たい海水に浸され体温を奪われながら、身を寄せ合うしかない彼ら。


 もしここに希望を持ち込むのなら、

 画期的な打開を試みるなら、

 

 それは——


「皆さぁぁぁん」


 三都葉瑠璃が、その暴挙を心に決めた。


「妙案名案、明暗を裏返す良い手があります、よぉぉぉおおおお」

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