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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十章:だとしても、そうだとしても

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533.トップスピード

 昆虫(こう)バッタもくの後ろ肢の付け根。

 そこにはゴムのような材質、レジリンが含まれる。


 仮にそれでボールを作り、地上100mから落とせば、90mの高さまで跳ね返る。

 無理に押し込み続ければ、かなりのエネルギーを溜め込ませることが可能。

 

 これが、体長の数十倍近い距離を跳ぶ、驚異的なジャンプ力の秘密である。


 ill(イリーガル)モンスターである“醉象ローカスト”。

 それは外見だけでなく、体内の構造もバッタに酷似している。

 膝の強さ、という点でもそうだ。


 違うのは、より強力な弾性と衝撃吸収能力、そして精密な技量を持つ、という点。

 乃ち、ただの節足動物風情より高性能。


 力の働き方を微調節し、地面と平行な跳躍線を引く、だけではない。


 ずおうっ、

 と、後ろ肢を蹴った後、同程度の弾性を持つ前肢や中肢を地面に突いて、

 ぼんっ、

 と、自分の体ごと別方向へ高速で跳ね返す。


 それを行いながら、

 ずばん、

 把持した武器や硬い翅で切りつける。


 その身体運びは、ジグザグの残像が自らを通り抜けていく惨景さんけいを、既に斬られた敵に見せつける。

 地上を黒い雲耀うんようはしり裂いたようなもの。

 

 それがただスピードだけなら、躱せる者も居ただろう。

 だが途中で何度も行われるベクトル変更は、出発点と着地点の予測を大いに狂わせる。

 右に行ったのを見た時、そいつは左から迫っている。


 誰の爬虫類脳、原始本能反射であっても、追いつけない。

 ただ勘によって、怯えたように身を屈め、或いは倒れ込むように横転し、

 運良く四肢の一部がね散る程度で済んだ。


「ぎゅぐが…っ!?」


 進は、左肩から先を失った。


〈損傷により部位の機能停止。装備を放棄パージ


 “刺面剃火オール・ラウンド”の右大型腕が完全に破損、胸にも斜めに焼け溶けたような痕。


「はぁ……?」


 その後ろに立って陰になっていた筈の瑠璃は、腹に大穴を開けられた。


〈なん、とぉ……!〉


 ガネッシュは象の鼻を断たれ牙も砕かれ、額から鮮血を噴き出し視野を潰されている。


「HAHA……!興奮してきた……!」


 ヴァークは銃砲を残さずスライスされ、右眼から右耳に掛けてを抉り取られた。


「………??」


 刀弥は紅色の身体と共に、胴を上下に別たれ掛けている。


「おくれた……!?この、我、が…ッ!」


 道眞は灰の電流を鳴らしながら、刀を握った両腕を土の上に脱落させる。


『ガガ…!がggggg……!』


 睦月が最も重傷で、全身に開けられた野球ボール大の穴から、しゅうしゅうと煙を昇らせていた。


 誰もが、全身に響く強い衝撃から、腰砕けとなり直立を維持出来ていなかった。

 小型バッタの霧を着た“醉象ローカスト”が再度の跳躍準備に入った事を、進が察知!


「これしか…ッ」魔力爆破で全員を一箇所に集合!「無いのかよ!」爆発反応装甲一周展開!


「“除災御戸代ガンド…オブ・…!グブ、将口分《マサカン、ド》”……!」


 紅の円が広がり、その中に幾つもラインが引かれる!

 だがそれは予測をコンマ1秒単位で変化させ、定まらない!

 しゅんっ、

 “醉象ローカスト”の姿はもう消えた!


〈うおおおおお!!〉


 同時にガネッシュがバックパックから取り出した聖水に魔力を流しながら全員に振りかける!

 救世教のトップと関わりのある一部の人間にしか渡されない、限りのあるそれで全員をコーティング!

 

 それが作った白い膜がジジジと明滅!

 人垣をすり抜けるようにして突き入れられる双刃そうじんの槍がいつの間にか出現!

 

〈ぎゅぅういいいいいいいいいいい〉


 聖水の守りを破りながら黒衣を狙ったそれの前に霜と灰輝かいきを履いた足が突っ込まれ掣肘せいちゅう


「そこを、狙うやろうな!」


 この場で最も治癒に長けるが故に、全員に囲うように守られた睦月を狙った溶解液含みのチェーンソーとの接触!火閃かせんはつらい!足首切断!


「“Z条(ブブブブゥーム)”!!」


 だがそれを為すまでの1、2秒の隙に挿し込まれるヴァークの大口径拳銃ハンドキャノン

 僅かに止まった“醉象ローカスト”目掛けてドカドカとライフル弾クラスの仕事量が連発!


 そして槍は紅白の魔力にずっぷりと呑み込まれ容易に引き抜けない!

 瑠璃が自身と睦月の延命、防御、治療、そして反撃をぜん同時どうじ敢行かんこう

 

 小型バッタの防護を焼かれながら永級(ゼロ)型は槍の先を支点に棒高跳びの如く彼らを跳び越える!

 その動作のついでとばかりにきりもみ回転!

 ばた、

 ばたたたたたたたッ、

 蛇腹の刃物となった翅が眷属と共に上から薙ぎ下ろされる!


 魔力爆破連打!

 砲型魔具からのカーボンブラック火炎放射!

 “刺面剃火オール・ラウンド”が肩に作った魔法生成物がすっぱりと割られ、象牙の腕が一本落とされたものの、どうにか睦月に届かせない!


 どん、

 着地から全力水平跳躍!

 それによって地を耕すように土がめくれ上がり8人を吹き飛ばす!

 槍は抜かれ、自由に!


 ずん!

 すかさずシャトルランの如く切り返しての追撃!


 だが直線的には来ない!

 彼らの近傍きんぼうから衝撃波が往復ビンタ!

 音は遅れに遅れて最早どちらから聞こえているのか、何手前のものなのかすら不明!


「壌弌!俺の魔力を追え!」


 進が叫ぶ!


「敷き詰めるから!お前が色を付けろ!」

 

 刀弥は己の魔法に、進の魔力を避けるようなルートを算定させる!

 それにより紅色がシャボン玉めいた数多あまたの無色透明魔力を可視化!

 そのルートが書き換えられる事により、一拍遅れではあるがバッタが辿った道が見える!


〈軌道を精査、パターン解析、予測演算を遂行、計算完了、反撃を実行〉


 ドゴン、

 高速処理を進めながら“刺面剃火オール・ラウンド”は砲型魔具のパーツをばくだつ

 刃部分が溝になり、みねが太く四角い片刃かたば剣のような重機が現れる。

 溝にカーボンブラックの炎が入れられ、高速で流動、エネルギーブレード形成。


〈警告。頭を低くしろ〉


 ギェイイイイイイイ!

 命じながら左の中型腕で握った縦の持ち手を横薙ぎに振ってその先に突っ込んで来たZ型の斬り上げと鍔迫つばぜる!

 魔具の側面からスラスターが噴かされ力を拮抗させると共に、他の中型機械腕の掌からHEAT弾頭生成!


 発破はっぱ

 先端からメタルジェット噴出!

 だがその数瞬前に“醉象ローカスト”はあえて槍を下に引きながらの前方宙返り!


 固体化した炎で守られた大型腕の表面を叩き割った楕円穂先(ほさき)!の回転を利用して槍全体を自分の体を追わせるように外回し!もう片方の刃を振り下ろす!


 ガコン!

 その柄と穂の付け根部分を隻腕せきわんからの魔力噴射で止める進!


 横に払ってガラ空きになった頭部目掛けての顔面右半分に付けられた口元パーツから伸びた回転刃!

 

 敵の口からの高圧溶解液と、

 ジィイイじじじじじ!

 先端から刺し合い、焼き飛ばし、頭を下に押し返されるがままに浮き上がるようなサマーソルトキックを返す!


 防御の為に胸の前へ上げられた中肢に引っ付いていた小型バッタ達が焼かれ、その内からかぎ状の刃の並びが現れる!

 肢の側面に大顎部が生えている!


 ギャリギャリギャリ!

 溶解液を分泌しながら引き斬ってくるそれとふたまた爪先の回転刃が削り合って反撥はんぱつ

 両者の間が空き、後ろ肢が敵を踏み下ろさんと繰り出され、だが進が魔力噴射で横に避けて空振り!


「掴んだぁぁぁぁあああ!!」

「いいねえ!」

 

 その左肢の先が紅白の魔力に捕えられる!

 ヴァークが両手の大型拳銃で滅撃めつげき

 だが瑠璃が表面の小型バッタ共を支配している間に、ぶおうっ!羽ばたき前進によって引き抜かれ、ぶばん!高速で反応魔力を突き破りながら飴色の追尾を振り切ってまた間合いの外へ!


 バッタは種や気候条件によって、1日で150kmを飛び進むと言われる。

 どうやら肢が地面に着かなくとも、問題無い程度の推進力を持っているようだ。


〈ジャンプの高さだけではありませんぞ!もはや空中はあちらのテリトリーですなっ!〉

「こなくそ!“天道眞氷嵐雷権現ヴァイシュ・テンマン・ジガワット”ッ!」

 

 進の魔力が張られた領域の内側に平たい灰雲を環状に数段!

 

「中で電荷ちからを高めとる!突っ込んで来たら終焉《感電死》や!」

「超音速で、衝撃波によって大気を負圧化しながら来てるんですよぉぉぉおおお!雲切れ一枚、吹っ切れて一巻の終わりでしょうがぁぁぁあああ!」

「我らに攻撃する直前なら停止する!その暁には小さき虫柱むしばしら共が焦殺しょうさつされるわ!」

「本当に!?」

「信じろ!信念こころが魔法を高次こうじに至らしむるんや!」


 「それにぃや!」、

 一定距離から断続的に上がる土埃を目で追いながら、道眞は不敵さに溢れた答えを言い切る!


「我らがそういう面構え(かお)で待てば、奴も飛蝗群まもりを剥がされんのを警戒して、う踏み込まんようになるやろ!」

 

 魔法戦でのハッタリは絶大な武器だ。

 実を伴わなくとも、相手の腰を引かせた時点で有利が傾く。


「何とか治癒の!回生の猶予を稼ぐ!」

〈ごぶっ〉

 ヒュンッ!

「我らの起死きしにはそれしか……なんや?」


 奇妙な潰れ声は、象頭から発された。

 その右肩が、丸く穿たれている。


〈警告。敵投射物飛来。秒速およそ2000m〉

〈みなさま…っ!防御を…!〉

「マズいで何か知らんがんぐっ!」


 シュンッ!

 短い風切り音と共に、氷雷で己を守っていた道眞の胸上に突き刺さる。


 霜と電磁の鎧の下、肉まで到達して止まったそれは、


 小型バッタ。


 それが弾丸となり、

 

 彼らを四方から撃ち抜き始めた。

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