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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十章:だとしても、そうだとしても

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531.絶望と呼ぶには、勇猛

 即興。

 このダンジョンに入る直前まで、実行に移す気がまるでなかったアドリブ。


 試したのは数回。

 お話にならないほど無感触。


 アイディアとしては、根底の根拠からして薄味。

 出来るわけがない筈のもの。


「グゥゥゥゥルゥォォオオオオオ………!」


 魔力を凝縮し、高密度に練ればいいのか、拡散し、広範囲に張ればいいのか。

 集中か、瞑想か、それとも悟りめいたものか。

 見当などつかない。


 だが、出来ると思うしかない。

 魔法の最初は、リアリティと共に、それを胸に刻み付けること。

 それが噓か真か、そんな事を問う次元より深く、感動の奥に突き刺さる衝撃。


 「物語」という、咀嚼しやすい状態に加工して、

 その内の論理と、理屈ではなく心で共鳴する瞬間!


〈何を?〉


 一向に詠唱をするように見えず、何か明確なトラップを用意しているようにも見えない彼に、道化は杖で容赦なく突き刺し内側から焼き上げんとして、体にプラチナの炎を移した狼が飛び込み、燃え盛ることでそれらを妨害。


 ならばと色鮮やかなナイフを数投すうとう


 狼皮の鎧は、いよいよその面積が、ゼロの値を這いかけている。

 強化された肉体が直に攻撃を受け止め、臓の内にまで害が及ぶ。

 

 無抵抗のまま、意味不明な溜めを作って、肩透かしに死んでいく。

 役者として落第点を付けられた彼に、けれどスポットライトが当たる。


〈なんと〉


 光源は、頭上の円輪えんりん

 後方からすぐ近くの砂上へ、燃えながら飛んできた二つで一つの塊。

 互いの肩を離すまいとがっちりと組み合った、男女の上半身。


「「ち、ちの…、いつく……し……」」

 

 息絶えるその時まで、天使と共にその肉に残った全てを出し尽くそうとする彼らの声を、“奔獏ジェスター”は投げナイフと着火ローカルで無慈悲に刈り取る。


「グゥ…!ゥルルルル……ッ!」

 

 呼吸を吹き返した青年の胸板を、左手の杖で貫き割らんとする。

 狙いは心臓。

 だが上に逸れ、肩を破壊。


 道化は杖を放し一つ下の手に握らせてから振り返りざまの横薙ぎを打つ。

 金色の騎士の像が散る。

 そいつに背後から、一突いっとつをかち上げられたのだ。


 関節部を破壊して身動きを取り戻し、騎士の姿をした魔力弾の肩を借りて起き、更なる一撃を撃ち出さんとしているメナロに、燃える刃の弾幕をぶつけて封殺。


「グゥ、ルゥ、ォォォオオオオ……ッ!」


 道化と狼の主。

 二者を囲むのは、炎の筋である。


 生み出されては弾け死んだ眷属の狼達。

 それらの血肉が発火しながら散らばり、五芒星魔法陣の形で足元に敷かれていた。


 永級のローカルの力を高効率活用した、至極の増幅機構。

 だが狙っているのは、完全詠唱ではない。

 速く激しく動くほど不利なこのダンジョン内では、それを強くしても逆に不利を引き寄せるためだ。


 コアさえ残れば復活できるill(イリーガル)モンスターを殺すなら、一撃で決さねばならない。

 これが彼ら永級の化身との初遭遇でないなら、それを悟っていてもおかしくはない。

 短時間のみ生き残れる攻撃力強化だけで勝てると思うほど、その青年が楽観的だとは見受けられなかった。


 では何を?


 こいつは何をしようと、魔法陣を敷き、出力を高め、

 細かい魔力操作に拘泥しているのか?

 

 分からない。

 そして恐らく、やっている本人にも、自分が何を作ろうとしているのか分かっていない。


 ならば、いい。

 配役が過剰な役者不足。

 それだけの話。


 ナイフを投げ、腕からあけを伸ばし、今度こそとどめを。

 その指先から、

 体の前から、


 き飛ばされる。


〈!これはこれは〉


 白金の業炎ごうえんに。


〈まだ舞うか……!〉


 ニークトの背後から、両腕を前に回し、頭を肩に載せる男。

 全身から発火し、鎧装がいそう魔具は齧り取られたように欠け損じ、ヘルムとバイザーは隙間だらけの重石となり果て、中から射貫く鳶色の瞳が、プラチナの炎心えんしんをその内に宿す。


「さと、じ……!」

「……兄上……!」


 その身から上がる白金は、彼の弟を焼いていない。

 鎧と本人の魔力制御技術によって、自らの魔法でローカルの発火を押さえている。

 それでも余る火力は、全て己の内に向けさせ、決して外に出そうとしない。


「つかっ、っえ……!」


 ルカイオスの完成形が放つ高貴なる炎耀えんよう、それが魔法陣を重ね満たす。

 その能力によって、ニークトの術技に神秘が付与される!


「いった、だろ……!」


 名も無き長兄は、ただ弟の為に、


「おまえたちを……!」


 下半身から白い灰として散りながら、


「まも——」


 のこせるありったけをそこに置いて行った。


「グ、ゥゥゥウウウウウウウウ…ッ!」


——考えなさい

——あなたが、本当に欲する物とは?

 

 ニークトは、立ち戻る。

 ただ、己の魔法の原点に。


「グ、ォォォオオオオオオオオ…ッ!!!」


 物語、

 原風景、

 自分の根源が、何に感動したのか。


 変身物語と、

 その後の滅び、

 そして破壊。


 非日常。

 英雄、いいや超人?

 人外の活躍。

 破壊の享楽。

 

 巨大な怪物に、ビルが壊される所を、金を払って見に行くように、

 無邪気な憧れと残酷さ、

 強さと、解放を求める衝動。

 己の中にある攻撃性。


 雄としてか、

 生物としてか、

 もっと根深いものか。


 ルカイオスは、楽園追放を罰として定義した。

 ニークトは、

 悟迅は、


 それをエンターテインメントとして味わった。


 狼に変じる王様の戦いと、

 理想郷の崩壊を。


〈よもやお前!〉

 

 白金の炎災えんさいと金色の騎士に阻まれ、二の足を踏んだ道化はその時、覚えのある魔力反応パターンで肌をそそがれた。

 

〈向こう見ず!身の程知らず!猿猴捉月えんこうそくげつ!面白過ぎる!〉


 罵倒と杖の回転による突風を浴びせ、壁のような白金燃びゃっこんねんを突破。


漫談まんだん噴飯ふんぱん笑話しょうわ阿呆あほうらしく素晴らしい!〉


 プロペラスピンさせた得物を体の前にして焼き挽肉(ハンバーグ)を製造するべく一直線に向かう“奔獏ジェスター”。


〈9層にも至らぬ人の身で、よくもそこまでおごれたもの——〉


 それと眼光をぶつかり合わせるニークトは、両手首をまっすぐ伸ばし、二つの掌をぴったりと重ね合わせた。




辺獄現界アマゾニン・ダンジョン

 

 


 砂の層を破り裂く二つの隆起。

 丘のようなそれは土や岩の塊でなく、獲物に襲い掛かるあぎとだった。

 

 


               〈“疾落園アルカ・マギカ”〉




 巨大な狼が、牙並びを咬み閉じる。


 暗転の後、彼らは長閑のどかな大草原に立った。

 

 雲一つない真っ青な快晴、

 青々と萌え、花畑が敷き詰められる先に、空と同じ色の湖、

 遠くには大理石めいた、白耀はくようの建物が並び立つ。


 鳥がさえずり、鹿が跳ね回り、

 人肌のような温かい風が、

 抱き止めるが如き優しさで吹き抜ける。




〈本当に、出来の悪いコメディーだ〉


 道化師は、専売特許を侵害された不服さを滲ませ、


〈この高みへ続く試練の門を、土足でくぐったと言うのか、人間、いや……!〉


 膝下までを緑に埋める正面の青年に、


 形ばかりの賞賛を掛けた。


〈ルカイオス……!〉

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