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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十章:だとしても、そうだとしても

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528.宇宙旅行

 かつて、世界は一つの火球だったと言う。

 かつて、宇宙は爆発から生まれたと言う。


 それを思うと、彼らが見ている物はまさしく、

 神話の冒頭、森羅万象の序章であるのかもしれない。


 

 

 乗研の黄金は、所詮偽の輝きである。

 壁となるべく並べられたそれらは、金色の中のはくみょうのような、強まるプラチナの熱放射によって、蒸発という最大級の自壊ですら、エネルギーを受け止め切れなかった。

 

 同じ白でも、天環てんかんより射す純白に近い、姿なき父からの寵愛は、遠きから注ぐ恩恵であるが故に、あっさり押し負け割り砕かれた。


 白い壁も同様に崩れ、金が混じる白磁めいた色が、陳腐さを塗り誤魔化す3Dエフェクトのように、下品なほど濃く満ち溢れる。


「“虚ろ是れ世の母なりオーム・マキャーラ・スヴァーハ”ーーーッ!!ざけんなーッ!?」


 黒。

 単なる異空間への通り道。

 それのみが抗える。


 その中に入った白金を、別の場所から放ち、そちらからの破壊と相殺させる。


 黒で囲んだポケットの中だけ、世界の再定義強制力を免れる。

 人間から塵やら風やらへ、生まれ直すまでの猶予を得る。


「“氷々とした(ジェネラル・)…!絶対零土シヴィィィィィィィル”ッッッ!!」


 ウォーターブルーの寒波!

 雪の華が詰まった大気流動!


 それが吹きつけ、プラチナの熱を可能な限り奪い続ける!

 吾妻のやり方で御し切れなかった、宇宙を焼く劫火、その一部だけでも減衰し、広がる方向を最大限に誘導!


「「父の……!国を……っ!」」

「“罪業と化ける財宝(ファーヴ・ナックル)”ゥゥゥ!!」

『“速稲田手按摩椎乳タイナダノ・ナヅチ”…!!』


 天使と黄金と土壁も再度加勢し、どうにか火勢が落ち着き始める。

 だが横に膨れる事が無くなっただけで、鎮火など儚い夢。

 白と金が奢侈しゃし風に彩る、阿鼻あび地獄の様相を呈している。


「「皆様、我々の魔法陣からお出にならないよう忠告致します」」

「今更だろーが!何人死んだ!?っつーか何人生きてんだ!?」

『わ、私は無事なのです』

「ガヴ以外は私達4人と……!」


 神秘の陽炎で揺らめく向こう側、炎の合間に金色の魔力光。

 倒れているようだが、息はある。


「次男君は無事みたいだね……!」

「あいつは“雄戴噛惣ダイアウルフ”の奴と魔力の親和性がたけえからな…!耐性のお蔭か、それとも上手い事自分を傷つけねえように受け流すかしたんだろうが……」


 あの炎は、飽く迄もローカルとの連携で、巨神が元となり生み出したもの。

 速く動く物のほうが、より激しく発火するのと同じ。

 大いなる行いに、大いなる結果が伴った。


「他は全滅かよー…!」

「「父の恵みを」」


 輪の一つから白き柱が伸び、メナロに落とされる。


「「父の慈しみを」」


 その中をもう一つ別の円環が通り、上級騎士の傷を癒している。

 これで残りの戦力を万全まで戻すことは出来た。

 彼らは視線をぐるりとわたらせる。


「あのデカブツは、ローカルをナシにすんじゃねーのかよ!?」

「“体内”はな!外側だとか体表面で現象を起こされる分にはどうにもなんねえだろ!」

「イヤーな納得感だなーオイ!」


「ンなことよりその“雄戴噛惣ダイアウルフ”はどこでどうなってやがる……!?生きてんのか!?」

「「不明です。現在我々の円環を通して捜索中ですが……」」

『プラチナの炎が生きている限り、ぞ、存命である筈なのです……』


「あいつの魔力がこんなにさかってる中じゃ、埋もれちゃって見分けとかつかないよね……!くぅおお…!酔いがさめてきちゃったよ…!」

「逆にさっきまで結構しっかり酔ってたのかよテメエ」


『もう一つ酔い覚まし情報なのです。この聖域内でも、断熱が完全でないのです…!こ、このままだと、炙り焼きなのです…!』

「網の上で食べ放題、ってかー?ムカつく死に方だぜ……」


 追い詰められた一方で、これがチャンピオン由来の破壊現象なら、敵もこの中ではあまり自由に動けまい。

 考える時間が与えられた形だ。


「“奔獏ジェスター”が、“火鬼ローズ”のローカルを使いやがる…!しかもガキの言う事にゃ、“火鬼ローズ”は“可惜夜ナイトライダー”の手で殺されたって話だ……!コイツをどう説明すりゃあいい…!?」

「なーんかくっちゃべってたよなー?バカがどーのこーの」

『「バッキャス」、太陽系内で、太陽から最も遠い惑星、む、夢王星の事なのです』

「あとは、太陽からの光が、星から撥ね返る、みたいな話…?」

「「恒星の光を反射する事で、惑星は光点として観測が可能になる。その話かと推察されます」」


 “奔獏ジェスター”のキーワードである“遅れ”。

 時空への干渉。

 光ですら一瞬ではない天体規模の距離。

 

『仮に』


 黒衣が彼方へと視軸を持ち上げる。


『“奔獏ジェスター”に何か、データのようなものをエネルギーに変えて、あそこに撃ち出す能力があるとしたら、どうなのです…?』


 そちらの先には、白金の中でさえ潰されていない、しかと孤高の青白い星。


「……真空中では、それは減衰せずに直進し続ける……。『過去の光』……。奴の言い方を真に受けるなら、過去を送信し、あの星に反射させ、戻って来させる、って事か?」

「それを遅らせ続けて、然るべき時に遅延から解放、任意のタイミングで受信して、使用するってことカモ…?」

「「星を一種の保存媒体として使っている、という事でしょうか?このローカルも、過去に“火鬼ローズ”その者との協力によって、その詳細な構成情報を記録した…?」」

 

 “遅延”、“加速度”を操るこのダンジョンは、宇宙の広さ故に消え切っていない過去を、ここまで呼び戻す事が出来る。

 そう考えると筋は通る。


「だが少し待て。“罪宝ナックル”…!俺の感覚が正しければ——」


 乗研は黄金板を一つ生み出し、六芒星魔法陣で守られた領域の外へ。

 それは耳触りな擦過音さっかおんと共に出火、端から火の粉を砂上に振りかけるが、


「ビンゴだ。“遅延”が、“低加速度空間”が効いてねえ」

「ぉえ、マジかよリュージ!」


 それに掛かっている抵抗力は、“奔獏ジェスター”本来のそれと比べて遥かに小さい。

 摩擦による引っ掛かりだけ。

 充分十二分、自由に動かせる。


「「ill(イリーガル)ill(イリーガル)を憑依させるという行為とは、また勝手が違う、という事でしょうか。飽く迄も出力する口は一つ。片方のローカルにそれを割いた場合、」」

「もう片方の効き目がゼロになるっぽい、ってわけか~。取り敢えず朗報だね?」


 鈍い動作を強制されているのは変わらないようでいて、いざとなれば捨て身覚悟で瞬発力を発揮できるのであれば、選択肢が増えたと言う事も出来なくはない。

 要は、これは防御を捨てた攻勢を取られた形なのだ。


 ノーガードで殴りを連打。

 それに対して、こちらの防御がどれだけ持つか。


「このダンジョンに制限時間でもあれば分かりやすいんだけどね?」

「ガキから聞いた話じゃあ、召喚したダンジョンにほぼ丸一日叩き込まれてた、とかいう経験もあったらしい。望み薄だな」

「「もう一つ警告です」」


 魔法陣の中心に立つ“聖聲屡転ガヴリール”が、端的に伝達。


「「“飛燕サルタドール”の場所を特定しました。今話している組から見て6時、背後方向です」」

ーニュース追加か」

「「いえ、悪いニュースです。総力を挙げてこの禁域を守ってください」」


 付き合いが長く、その声音から焦りを読み取れるリーゼロッテを中心に、それぞれが理由を聞く前に構える。


「ガヴ、どうなってるの?」

「「この状態でも、対象はローカルの適用を制御出来るようです」」

「……奴ら、燃えてねーのか?」


 白金の炎を潜り抜け、明るめな青を更に白めて、イルカ擬きが口先を突っ込んでくる。

 その頭が上げられ、白い壁を作る魔力が、長い胴の後方へと流し吸われてしまう。


「「ご覧頂いた通りです。父の腕を」」

「いっつもズリィんだよコイツらはぁッ!」

 

 額から見えぬ暴撃。音波に揺さぶられた空気が彼らに打ち付ける。


 噴射孔からは高圧水流ジェットが発射され、展開しつつあった各種の防御を切り裂いた。

 

 黒い楕円が胴を横切るも、〈ああ、ごめんね?〉“向こう側”に潜る事に慣れたそいつには、〈それ、効かないんだ?〉大した影響を及ぼさない。


 そうこうしている内に、蛇のようなその全身が侵入を完了、


 その尾ビレの下、異空間への入り口が、


 六芒星の頂点を担当する、


         一組の上半身を


  刈り取った。

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