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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第二十章:だとしても、そうだとしても

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527.竜よりも神よりも恐ろしく

「「父の恵みを」」


 光輪ヘイローからの清らかな祝福。

 彼らを照らす投光器。


 藍夜あいよの中で、騎士と戦士と天使が照り映える。


「「残念でしたね。悪魔よ。打ち倒される者よ」」


 遅延。

 或いは低加速度地帯。

 それは満足に働いていない。


「「私の魔法は、依然何の差し支えもなく行使されます」」


 ここがダンジョン内であれば、当然ではあった。

 魔素なのか、それとも別の何かなのか。

 ダンジョンは“伝える”機能を持つ何かを保有している。


 そして“聖聲屡転ガヴリール”は、それを媒介に利用できる。

 その意思を、霊を、深き辺獄の底にまで届かせる。


「「それで勝ったおつもりでしたか?」」


 ローカルは強まったかもしれないが、それすら解呪する世界三位の魔法発動は継続。

 それが天敵たる吾妻漆を確保、彼女の全能力に委細異常なし。

 “奔獏ジェスター”のダンジョン生成、或いは召喚は、肉体の傷をリセットする事以外の効果で、ほぼ不発と言えるだろう。


「「御覚悟を」」

「今度こそ仕留めんぜー」


 掌印を結び直し、離れた地点に一本足着地をした道化師を視界に収め、完全詠唱準備に入る吾妻。


 そして救世の白輝びゃっきが、黄金板によってその矛先を向き直され、まるで見せ場が来たとでも言うように、ピエロ目掛けてサーチライトのように投射される。


 それを征途せいととして騎士団が駆ける。

 ここが何処であろうと変わらず、先程の包囲討伐を再現するつもりだ。

 

 “奔獏ジェスター”はそれを、ただ黙って見ている。

 否、

 見てすらいない。


 彼の頭は、一色の空にたった一つ浮かぶ星光に、

 眼球を貫き脳に刺さり止まる魅幻みげんの方角に、

 一心不乱に固定されていた。


夢王星バッキャス……、散りばめられた夜景の一つ〉


 乗研は黄金板の一つが、妙に重いように感じる。

 

〈だがそれは惑星であって、恒星ではない〉


 どうやらうっかり、救世教の光から外れてしまったらしい。


〈それは、ね返した綺羅めき〉


 天使の後光の力を借りて、それを回収しようと、別の黄金板の角度を変える。


〈火球から出て、星にぶつかる〉

 

 黄金の端から火花が散った。

 固い石と擦り合わされたようだった。


〈あの光には、二重の“過去”が、もう無くなった今が、籠められている〉


 


 黄金板が、炎上した。




「なんだ、とおぉお……?」

 

 人間達は、止まった。

 自らのすぐ横で起こった現象が、理解出来なかった。


 全くの未知だったから、ではない。

 既知なのだ。

 彼らはそれを知っている。


「あ、あれって……!」

〈このタイミングで現れた…!?否、ダンジョン内で待ち伏せていたか…!〉

「ち、ちげー……!話がちげーぞ…!?クソチビ……!」

『ありえない、のです…。それは滅ぼされたと、そう聞いているのです…!』

〈なに……!?〉


 中でも丹本陣営の動揺は、目に余るものがあった。

 幽霊を見たかのように、蒼白だった。


『それは、“可惜夜ナイトライダー”の手で、融滅ゆうめつされたと…!』

〈……!?ばかな…!証言者の考え違いでは……!〉

 

〈思い出したか?皆々様よ〉


 “奔獏ジェスター”は、手足が細長い道化はやっと、

 暗い水晶の中に、一点だけ星を宿した、その目玉を人間へと向けた。


〈その口で今こそ呼んでみよ。お前達が付けた名を〉

 

 暴き立てるようにも曝し上げるようにも、

 そして祭り上げるようにも見えるライトの中で、


 デフォルメされたピエロ頭を柄にした、一本の杖を後ろ手に持ち、片脚ずつ曲げ伸ばしを繰り返す舞踏。


〈ご唱和ください。彼の名は?〉

 

 全員が異口同音に、頭の中で答えを揃えた。




 “火鬼ローズ”。

 「急いてはことごとく焼き損じる」。




〈おっと、これは私が言わにゃあ〉


 口元を片手で押さえ、「しまった」のポーズを取ってから、




             〈“紅洛炎フリクション・フィクション”〉

 

 


 聞き覚えの無いダンジョン名を唱える。


 それは、もう滅んだ筈であった。

 もうどこにもいない筈であった。


 よりにもよって、“可惜夜ナイトライダー”が下手人。

 仕損じる事など、無い筈だった。


「どう、なって…!?」

「「けれど、けれどしかし」」

「そっ、そうだよ、ガヴが言いたい事わかるっ!こっちの魔法でローカルが解呪されてるのは、変わらない!」


 その通りであった。

 鳴り物入りで姿を現した、ダンジョンの亡霊。


 だが、ローカル無効は変わらない。

 “聖聲屡転ガヴリール”がその息吹をここまで届けられているのなら、依然状況は優勢なままである!


虚仮こけおどし!流石、舞台演出家としては一流か、伊達男!返礼として、こちらも得意をお見せして差し上げよう!各騎続け!折角の余興を盛り下げぬうち——〉


 カッ、と、

 時間が大きく跳んだ。


 飽く迄、「そう見えた」という話だ。

 彼らの頭上の明度が上がり、そこに含まれる白が増え、昼の空のように冴えわたった。


 太陽が上った。

 これも、比喩だ。

 太陽のような強い光源が、彼らの肌をチクチクと焼いた。


 その正体を、皆が確かめようとした。


 向いた先には、白金が立っていた。

 巨神が、燃えていた。


〈………それしき……〉


 フルマラソン後のインタビューでも受けているかの如く、

 メナロの祈りは浅く息を喘がせる。


〈それしきのこと……、兄上には、神格の前では……!〉

〈そこの彼の魔法は、自分を神に高める事〉


 歌う。

 飛び切りの喜劇を演じる。


〈その所作の節々(ふしぶし)に、髪のひとなびきにも神秘が宿る。

 自身の動作の全ての結果を、極大の事象へと昇華する〉


 ルカイオスが目指した神とは、スケールの大きい者達の事だ。

 涙や血から別の神を生み、

 腕を振れば天候が割れ、

 のたうち回れば地を崩す。


〈その神が空を裂く、その結果として生まれた火とは——〉




——どれほど素敵なものなのだろうか




 全ての動作に神性を付加する。

 その魔法が、空力加熱を増幅するローカルと合わさり、

 神話級の火炎を、混沌を生み出す。


〈これからここは地獄になるのだ〉


 赤熱し、青熱せいねつし、白熱に至り、

 収縮し、膨張し、拡散し、

 

 爆裂する。


 波濤はとうが神経を熱々(あつあつ)に溺死させる。


 空は正午のように気持ちよく澄んで、更に晴れを濃くして闇以上に人の目を覆う。


〈物のたとえでなく、聖典に書かれるような「地獄」に〉

 

 まず始まりに、巨神ありき。


〈巨神の体から火が生じ、それが世を白々(しらじら)と覆いて、


 功も罪もひとしく焼いて、一つの無秩序に還帰かんきせり〉


 神が死に、


 その偉大なるむくろから、


 世界は再創生される。

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