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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十九章:人も神も怪物も龍も、みんな等しく明日に狂う

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523.信じ、疑う

 丸く繋がる燃火ねんか

 その中で更に縦横に伸焼しんしょう


 白く揺らめく火焔の交点、或いは接点、

 そこに一組ずつ、白黒修道服の男女が立っている。


 騎士団が引き込まれたのは、大掛かりな六芒星魔法陣の内だ。

 6組12人によって生み出されたそれは、中心に立つ別の一組、その魔法をアップグレードして出力する。


「「父の恵みを」」


 彼らの上に、輪の内に一回り小さい輪、という形が幾重も連なった、広い円環が広がっていく。

 そこから降りる光によって、彼らの体感時間が、目に見えて鈍化している。

 彼らの意思が、はやくなったのだ。


「「これは、退邪たいじゃの加護と、立ち向かう力を与えてくれる光です」」


 そう解説された通り、“奔獏ジェスター”の力の射程圏内である此処でも、思考や行動に澱みをきたさない。

 尋常に、戦える。


 端末の数を充分に揃えた“聖聲屡転ガヴリール”は、ローカルや“ダンジョンの呪い”すら解除する、特定上級治癒魔法の域にすら達する。

 

冗句ジョークも皮肉も今は要らねえからよ」


 乗研がメナロに向かって単刀直入。


「どっちからやんだ?」


 逡巡は目配り二つで終わった。


「道化師だ。触れた物を遅延させる。最悪あちらさえ対処できれば、事は進む」

「同意見だ。交渉成立」


 合意があった。

 事切れた竜と、その鎧、

 イルカと踊る巨神を除き、

 全ての人間が同じ方へ向き直った。


〈一端の将校!一旦の小康?〉

「いいや、安息を得ていたのはお前の側だ。そして、」


 親指だけ90°離した両掌を、角度をつけて杖の上に乗せ、


「“神呪拝授供犠饗餐リューカー・マイナー”。それももう終わる〉


 完全詠唱。

 

「“罪業と化ける財宝(ファーヴ・ナックル)”」


 追い掛けるように乗研。

 黄金板が道化を囲む。


〈フンッ!〉


 落としてしまったコピー用紙が狭い隙間に入ってしまうように、扁平に伸びて包囲を抜け出す“奔獏ジェスター”。


いつわり見飽きて幾星霜!敵を知らぬは、あな恐ろしや!〉


 彼はペテンなど、理想を幻視させる精神誘導など、眼球に溶接されるほど見てきている。


 “(かた)る”は彼の得意分野。

 気味が悪いくらいの笑顔の仮面で、絶望の行路こうろに喜劇を添える。

 それが彼のやってきたこと。


〈私に嘘を吐こうなど!〉

「そうかもな。ま、それくらいスルーする奴が居てもおかしくねえ」

 

 乗研の能力を鼻紙にして吹いた道化は、外に出たことでその黄金列の本当の効果を見た。


「だけどよ、()()()違うんだぜ?」


 彼の右手、騎士団達から見て左手、そちらに黄金板を継いで作った、高く輝く壁がある。

 その向こうでは、“雄戴噛惣ダイアウルフ”と“飛燕サルタドール”が、今もステップを交わし合っている、


 筈である。


「“反射”だ。俺達の目は、そいつがあると、意識をそっちに持ってかれンだとよ」


 中途半端な魅了を帯びた壁がノイズとなり、“飛燕サルタドール”のローカルによる介入をスポイルする。

 素晴らしき演目の気配は漂ってくるものの、プロの気を散らすにはボリューム不足。


「ピカピカに網膜を焼かれてよ、ギラギラに脳を刺されてよ、」


 イルカの舞による強制注目効果が不成立。

 そして、光沢を強く強調する黄金は、

 そこに反射した輝跡きせきを、よりあやと強まらせる。


「それが真価だって、そう思っちまう」


 「単に、眩しいってだけなのになあ?」、

 白き帯、蛇、ずいどうのように、

 黄金と黄金を繋ぐ綺羅光きらびかり


〈道…、道か…!天球に満ちる…!〉

「どうやら、マジに行けるらしいな」

 

 天使がもたらしたきらめき。複数組で成した高位階こういかい天祐てんゆう

 “聖聲屡転ガヴリール”がおろした、信仰者を力づける神の光。

 人に「正しきこと」を遂行させる、導きのともしび


 それが、黄金によってその強さを増し、遅延に抗う通路を作り出す。

 それは信仰という想いの強さ。

 例え、見せかけの光り物によって、見た目だけが強まったのだとしても、

 

 受け取る側が信じれば、それが本物の旅路となる!


「「どうぞ。父は示しました」」

〈散開!各騎臨機行動!〉


 サーチライトで追われているが如き逆行を背負い、

 気炎万丈の騎士団がときの声を上げて白道はくどうの中を飛び走る!


〈最早場違いだ!貴様はここで降りろ!〉

〈信仰結構!それもまた幻想!〉

 

 無数の手足の指が伸びて、狙う先は囲む騎士達ではない。

 その道を作る一助、黄金板!

 それを破壊するつもりだ!


 だが!


「“氷々とした絶対零土ジェネラル・シヴィール”ゥ~!ニハハハハッ!」


 氷の囲い!

 踊り吹雪ふぶき、

 指先を受け「止める」!

 

「きみぃは、うごきにくくするの~りょくでぇ、」


 ウォーターブルーの雪の花。


「私は、物から運動をうばう、のうりょくぅ」


 それがやぶけて氷土ひょうど在り。


「似てるよにぇ、ほんっとぉさ」


 触れた物を遅らせる能力。

 それによって、敵の一部をその立体座標にほとんど固定、動くとそこから剥ぎ抉られる。

 鎧の破壊はまだマシで、その下の皮に触れたなら、肉の奥から引き摺り出される。

 

 が、リーゼロッテの魔法は、物体から熱を、分子運動を奪う。

 あまり動いていないようにしか見えないものが、更に動かなくなっただけ。


 二つの能力は近く、故に重複しようとも大した差は無い。

 どころか、遅れたせいで見掛け上は動きにくくなっている分子を、固体化する仲間だと勘違いし、氷の一部として固く取り込んでしまう。


 やすく言えば、“奔獏ジェスター”の能力を発動した指先ごと、凍り付いてしまうのだ。

 

 良好過ぎた相性によって、恋人繋ぎより固く雁字搦がんじがらめにされる道化師。

 だが「伸び縮み」とは体積変化。

 それは何も、長さにだけ変数を加える使い方に限定されない。


 氷壁ひょうへきに罅が入り、内から裂け割れる!

 

「ふくらんだぁっ!?」

「「肥大化、と呼ぶべき力と推察します」」


 指を太くし、その体積膨張で凍結から抜ける!

 そうして縮んだ後にグネグネと曲がり伸び、黄金板を守る騎士達と打ち合う!

 魔力以外で触れてしまうと、強い遅延によって確実に装備が損傷、或いは没収される!


「“じぇすたあ”が憑依されたモンスターって、身体が柔らかくなるぅ、とかは聞いてた事だけどぉ~…?」

「「あれは……いえ、もしや……」」

「何か思い当たる理屈があんのか!?」


 黄金と氷とで檻を築きながら、原理の解体を進める人間陣営。

 理論の補強によって、敵の魔法の威力を底上げする事にもなるが、正体不明の現象を相手し続けるのよりはまだいい。


「「とある学説では、時間も、空間も、絶対としてあるのでなく、飽くまで視点によって変ずる、相対であると唱えられます」」

「“相対性理論”かよ……!結局あの学説に振り回されるんだな人間は!」

「反応とか遅らせるだけで、空間がどうのなるってことぉ~?」

「「曰く、静止した者が速く動くものを観測すると、後者は空間的に短縮化する」」


 光の速さは此岸の上限であり、速くも遅くもならない。


 (距離)(イコール)(速さ)×(かける)(時間)


 この単純な式は通常、(距離)と(時間)から先に代入し、可変である(速さ)を計算するのに使われる。

 だが光によって観測するという行為を挟むと、この(速さ)を光速が固定してしまう。(距離)と(時間)、言い換えれば時空を連動する変数としなければ、式が成り立たない。


 運動には時空の歪みが付き物。

 ただし、その違いが観測可能なほど顕著になるには、光速近くにならなければいけない。


 そのヘンテコな理論の上で発生する、直感に反する現象とは?

 常日頃から、「止まった物から見て、動く物は動く方向に縮んでおり、時間は遅くなっている」。


 その不思議な光景がこれまで見逃されて来たのは、光の速さに対して人間の日常で見えるスピードがノロ過ぎて、無いに等しい誤差程度のものしか検出出来ないから、と、こじつけめいて聞こえるが、そう説明が為されている。


「光速スケールの能力ってことぉ?本当にそうだったら、そのエネルギーで殴った方が簡単に勝てるし、違うんじゃなぁい…?」


「その理論を物語化して、大袈裟に誇張してる感じだっつえば、通りはする。魔法と物語の結びつきなんてそんなもんだ。例えば自分を『常に運動している細胞や分子の集合体』に見立てて、その運動に時間的なズレを生んでやれば、自分が伸び縮みする、みてえな」


 「時間」と、「伸縮」。

 理論を元にしたそういう能力と捉えれば——


「ん~?でもガヴ?ノリ=チャン?」

「『ノリ=チャン』…?」

「だとしたらおかしい所があるんだけど」

「「はい、そうですね」」


 その理屈の矛盾。

 現実との食い違い。

 それは騎士団とせめぎ合う道化の指先を見れば分かる。


 速い。

 速、過ぎる。

 

 救世教が誇る光条の中では、遅延が僅かにしか、或いは全く効いていない筈。


 けれど“奔獏ジェスター”はただ、速かった。


 その末端を伸ばす、それだけの所作が見る者に、“瞬間移動”という言葉を想起させる。

 根が細胞を繋ぎ合わせ、生長させるような運動である筈。

 遅延によって起こされたものであるなら、尚のこと。


 だが、メナロでさえも、回避困難に見える。

 それともモンスターの頂点な為に、その身体の性能が高過ぎるというだけなのか?


 問題はもう一つ。


「今起こってるの、逆だよぉ?」

「逆……、いや、そうか、逆ってことになンのか……?ややっこしいな」



 そう、「遅延」と「伸び縮み」の説明にはなっているように思えたそれは、肉体を「伸ばして」いる“奔獏ジェスター”とは、実はあべこべ。



 例えば、エレベーターに乗って上昇すると、留まろうとする慣性力で下に引っ張られ、重力が増したように感じる。

 速度が安定すれば、やがて元の重力に戻る。だがエレベーターの速度が同じだけ増し続けていけば、床への力は強いまま変わらなくなる筈だ。


 下に引かれる力とは、上への“加速”と同義。

 そこから、相対性理論は語る。

 ()()()()()()()()()()()


 そして速度、言い換えれば「運動」が発生した時、自動的に時空の歪みも生まれる。

 本来はここに“光のドップラー効果”という経由も入るが、兎も角今知るべきは、重力であれなんであれ、「加速度」を受けたものは空間的に縮み、時間的に遅れる。



 そうなのだ!

 「自身を遅らせた」場合、「押さえ込む力」によって加速しているのと同じとなり、「縮む」ことになってしまうのだ!


 の理論を物語として組み込んだ魔法の挙動にしては、彼らが見ているものは整合していない!



「「加速するという事は時間を遅く感じるということになり、主観としては周囲が緩慢になるので敵の攻撃が速くなるのとは真反対、いえ、それは身体反応を妨害するというやり方を通しさえすれば、見かけ上は両立可能となり、ただし自らは縮まなくてはならなくなって、それを優先させるなら逆に“減速”させていると考えるべき?となるとあの速さの説明が付かず、理論として成り立っていないなら魔法としても扱い切れない以上、この方向性では不正解?


 ………ガネッシュ様がここにいらっしゃれば、何と仰るでしょうか……」」


——疑う事、ですぞ


 道は違えど、“絶対の真理”を求める点で同じ。

 だからこそ彼らは、あの学者に興味と敬服、親近しんきんを抱いてる。


 かつて、魔学博物館の開館セレモニーで顔を合わせた時、少しの時間だが、個別に話す場を設けた事もある。と言っても、護衛付きではあったが。


——「信じる」あなた方とは、やり方が真逆

——そして、それで宜しいのでしょうなあ


 思考プロセスのスタート地点を問いかけた時、彼はそう語った。


——誰もが同じ道を行けば、それが誤りであった時、全てが途絶えてしまう

——生物学でも時たま言われる、進化の袋小路ですぞ


 「疑う」、

 専門外だが、やってみる。

 一人の人間の中でも、複数の手法を取るバランスがあっていいだろう。


 前提、

 彼らが無意識に作った、「当たり前」という鎖。

 見えず、感じず、だから最も厄介なもの。


 嘘、

 同じパフォーマンスでも、見せ方一つで持つパワーが変わる。

 噓っぱちのまやかしは、決して無価値を意味しない。


 それは、道化師の誇る所であり、

 それが、「嘘」を上手に「前提」と融合させていたのなら、


「「詐術さじゅつ……!」」

「どーでもいーけどよー」

 

 捨てた葉巻を踏み消し、


「俺の出番はまだ掛かりそーかよ?」


 獣性が余人よにんはだつんざく。


「「判断は、正解でした」」


 が、天使はそれを寛容に受けた。


「「矢張り、我々の切り札は、吾妻様です」」

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