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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十九章:人も神も怪物も龍も、みんな等しく明日に狂う

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522.異形を討伐せよ、偉業に到達せよ part1

「ンだと……?」

「だからよー」


 唯一“奔獏ジェスター”ラインを素通り出来る能力の持ち主は、

 煙をともす肺焼き玩具を指で弾き捨て、


「今が一番チャンスだろ。考えろよちっとはよ」


 協力的でないどころか、破滅願望とまがうアイディアをのたまはなった。


「リュージ、俺達、『デケー事』が出来んぜ。今ならすぐそこだ」


 乗研はまず偏頭痛を覚え、力を籠めて目を瞑ってから、一度開き、そっと周囲を確認する。


 表情が見えないのは、“聖聲屡転ガヴリール”と黒衣。

 だが黒衣の方は、全身が愕然を表している。


 リーゼロッテは、驚いているんだか、感心しているんだか、どっちともつかない顔をしていた。

 吾妻とは有力者同士、チャンピオン同士知らぬ仲ではない。だから、このノリに慣れている側の人間なのかもしれない。


 どうやらこの中で、突っ込んでやるのは彼の役目になりそうだ。

 再度目を閉じ、開き、


「どういう意味だ」


 意を決して真意を問うた。


「意味ったってよー、そのまんまだぜ」

「だから…!さんざっぱら言っただろうがよ…!意味が分かんねえ伝達なんて、何も伝えてねえようなもんだってよ…!」

「相変わらず細けー事にうっせー男だなー。クソのたんびにケツの穴が詰まってねーか心配になんぜ」


 飄々《ひょうひょう》ととぼける吾妻に苛立ちながら、辛抱強く詳細を語らせる。


「だってよー、お前、さっきの見ただろー?あの、ラポルトっぽいのが何かを呑み込む所をよ」

「見たよ。ああ見た。見たとも。それが何だってんだよ」

「んで、そこのガブガブ君ちゃんがゆーには、それってーのはバッタのデカブツが、カミザと“右眼”を持ってった、って事なンだろ?」


 「なー?」、

 吾妻に振られ、それは確かだと改めて認める天使の憑座よりまし達。


「『持ってく』ってーのは、中で何がどうなってんだ?」

「「入って数秒でロストしてしまいましたが、感覚的には、ダンジョンに入った、という説明が最も近いかと」」

「ガキが言ってた、イリーガルがダンジョン作るって話、ありゃ大マジだったわけだ。んで、イリーガル連中って、ローカル持ってるよな?んでそいつは、永級のローカルと重なるっぽいって、俺達おれたちゃそー睨んでたわけよ」

「それは出発前に聞いたぜ」


 永級10号。

 そのローカルと、ill(イリーガル)モンスター“鳩槃カウンセラー”のローカル。

 その二つが、恐らく同一であるという話。


「っつーことはよー、かなりの確率で、カミザその他がぶち込まれた所ってのは、永級ダンジョンの中って事になんよな?ガキがイリーガルぶち殺して、一つ閉窟、って繋がりもあるし、イリーガルと永級はセット、そこは確実って思っていーよな」

「だろうな。それが自然だ」

「だったらよー——」



——死ぬだろそりゃ



「……なに……?」

 

 ヘッドセットの下で、乗研の眉根がくしゃくしゃに寄る。


「イリーガルの中で最悪まで言われてる、“醉象ローカスト”のヤローだぜ?それと一緒に、永級の中に収容だぜ?そりゃムリだろーが。逃げ回って数分長生きが精々、何かを守りながらとか、無理ゲーなんてレベルじゃねーって。だろ?俺何か間違ってるか?」

「テメエ……!」


 拳を握る。

 数歩詰め寄る。

 それでもその後が続かない。


 彼の理性が、一理を見出してしまっている。

 永級ダンジョン。

 彼は今回の案件に関わることで、初めてその内部の詳細情報を得た。


 そこは、深級と比べても遥かに危険。

 モンスターの質も、量も、明らかに別次元。

 Z(ゼロ)型だけが何故か不在、という事実があっても、国家最強の精鋭を1、2個小隊集めなければ、踏破は不可能とされている。

 

 そのダンジョンの主、最強の存在と共に放り込まれて、生きて帰ってくるなどというのは、枕元の英雄譚ベッドタイム・ストーリーたぐいである。


 それは禁句?

 正確な現状把握が求められる戦場で、「言ってはいけないこと」とは何か?


 認めるべきだ。

 日魅在進は、ほぼ確実に死ぬ。

 蓋然的な結果として、それを元に今度の行動を決めるのは、実に理のある考え方だ。


「今から行っても、俺達にゃ助けるとかできねーだろ?急に出現したダンジョンの入り方が、分かんねーんだから」


 ならば、可能なのは出待ち程度。

 出て来るのを待つしかない。

 しかし、待っていたところで、

 

「で?待ってどーなんだよ。イリーガルが出て来たら、とーぜん手ぶらだぜ?あいつらの目的は、ぶっ壊す方なわけだし」


 時間を損するだけだ。

 彼らが行こうと行くまいと、隔絶された異界の中で、“右眼”は破壊される。

 面妖な術で永級ダンジョンに呑まれた事で、ほぼほぼ結果は決まっていた。


「俺達の手に入らねーけど、央華も利用できなくなった。それでおーけーじゃね?こんだけ騒いで、ウチの被害は兵隊3人。まー上出来だろ」


「だがそうじゃねえ可能性だってあんだろ…!カミザの野郎だけが入れられたんじゃねえ…!周囲一帯まるごと連れてかれたんだ…!他の国の連中と協力出来てるかもしれねえ…!それで奴らが必死こいて“右眼”守り抜いて、外に出た途端、別の敵に叩かれるんじゃあ、そんな間抜けはねえだろうが…!」


 その可能性は、ゼロではない。

 有り得ないなどと、言い切る理由はない。

 「どうせ大丈夫だろうと思った」、そんな言い分を通せるほど、呑気な事態ではない。


 一つのミスが、国を、国際社会を、揺るがしかねない。

 備えるべきだ。

 全てが上手くいった、その奇跡を拾い上げる為に。

 奇跡を起こした者達が、馬鹿を見ない為に。


「じゃー、助けに行ったとしてよー、あのガキが上手ーくダンジョンから出れたとしてよー、その後どーすんだ」


 「後」。

 日魅在進か、或いは他国の勢力が“右眼”を持って逃げようと出て来て、それと合流するなり交戦するなりと話が運んで——


「で、そこに次のイリーガルが来るわけだろ?ダンジョン作ってよー」


 そう。

 この島に居るill(イリーガル)モンスターは、“醉象ローカスト”1体だけではない。

 “右眼”の破壊という同じ方角を向いた、両勢力合わせて、確認出来ているだけで7体。

 一つ欠けても、あと6発の“残弾”が残っている。


「そーなると今度は、ノコノコ出向いてグータラ待ってた、俺達まで巻き込まれる事になんぜ?イリーガル側が全員で息を合わせて襲い掛かって来て、それで死んでみろよ?被害が一気に倍だ」

「んみゅ~、ショージキ、私達が全部やられるのは、救世教会としても結構痛いんだよね~」


 一つ切り抜けた程度では、何も終わらない。

 この局面で、日魅在進を待つ為に奥に行くのは、各勢力の最高級戦力を、無意味にベットするのも同じ。


「そうは言っても他にやれる事があるとでも……、テメエ、まさか」

「おっ、やっとテメーにも分かってきたかー?」


 問題は、ダンジョンという強力な檻を作れる、ill(イリーガル)モンスターと呼ばれる強敵。

 それが何体も居過ぎること。

 今から進が消えた地点まで行って待ち伏せでは、“右眼”を持ち帰るどころか、誰か一人でも生き延びる可能性までゼロに近似きんじ

 

 やるとしたら、ダンジョン内で奇跡が起こった時、それをバトンとして次に繋げられる、その期待値が大きい方。

 

 それは、


「減らしゃーンだよ。イリーガルを」


 先に各個で殺しておくという手順。


「このまま、イリーガル対ルカイオスの戦いを無視してコソコソ行くより、狼さんに助太刀してやる方が勝ち筋が広い。だろ?」


 争奪戦に参加する、人間勢力を増やす事と引き替えに、最大の脅威を削っておける。

 リスクとリターンは、ギリギリプラス収支。


「俺はそっちがいーと思うぜ。だから、今はテメーら、向こーに運んでやんねー。俺を使いたきゃ、協力しやがれ」

「「………人数を揃えた我々の魔法であれば、壁を突破する所までは、可能ではるでしょうが………」」


 “聖聲屡転ガヴリール”は計算を巡らせる。

 ここで吾妻達と分かれて先を急いだとして。


 そこから先、リーゼロッテと彼らだけで、全てのill(イリーガル)に対処できるかと言えば……、微妙な表情を作らざるを得ない。

 策に乗り、吾妻と行動を共にする方が、目的達成までの望みを繋ぐ、それに通ずるより太い道のように思える。

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