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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十九章:人も神も怪物も龍も、みんな等しく明日に狂う

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518.大道芸

 「遅れる」とは、物体が持つ「動きにくさ」の上昇である。


 “人世虚ホリブル・ノブルス”と呼ばれたダンジョンのL(ロコ)型は、魔力から作った魔法生成物を相手に貼り付け、それで押さえ込む事で動作を阻害するという魔法を使用する。

 “奔獏ジェスター”の原理も、それとほぼ同じだと、そう言われている。


 そして時間の本質が「変化」である以上、一定範囲の物質の運動・反応を妨害する事は、その部分の時間を遅らせているに等しい。

 そういう意味で、「時間に干渉する能力」と、そう言えるかもしれない。

 ただし、光という不変の最速だけは、見かけ上でしか遅らせられないが。


 厄介なのは、“奔獏ジェスター”が操るそれが魔法ではなく、窟法ローカルであるという点だ。

 魔力や魔法なら、ディーパーに視認可能。

 だがローカルは、作用している結果を感覚する事しかできない。

 もしローカルそのものが目に見えるなら、ダンジョン内はぎっしりと一色に塗り尽くされることだろう。




 さて、「時間が遅れること」が、「物質の状態が変化しにくくなる」事であるなら、遅らされることも悪い事ばかりではない。


 遅らされているものは、等速の物体からの影響を、変化を与える力を受けにくくなるのだ。

 

 人間の体全体を遅らせると、彼らに追い着かれない事は簡単だが、その分傷つけにくく、殺しにくくなる。

 

 だから“奔獏ジェスター”は、彼らの意識だけを遅らせる。

 筋肉や血流、骨の動き、それに一切の手を加えない。

 

 脳からの命令伝達を遅らせれば、例えば、腕を動かそうとしても腕が動かず、何度も念じる内にやっと動いたと思えば、今度は腕を止める命令が作用しなくなる、と、全てが後手に回って、体の動きが鈍るのと同じ結果を得られる。


 それらを変化しづらく、堅固にしなくても、真面まともな挙動を取り上げる事が出来る。


 並の体内機能強化でも、その遅延を振り払えない。

 変身魔法のような、特殊なブーストを魔法効果として内包する者でない限り、その中にキャッチされたら抜け出せない!

 

〈ならば、私がやるしかない…!〉


 杖で地を突き、そこから狼の群れを生み出す!

 遅延フィールドに突っ込ませ、そこにある物質にエネルギーを伝え、伝達・反応速度を加速させ、遅れを無理矢理元のスピードにまで押し上げる!

 狼がぶつかり、炸裂する事で作った道を、道化師の移動先へ繋げ、そこを通ってメナロが駆ける!


 けれどそれは、自分から進行ルートを申告しているも同然であり、並み以上の身体強化で動く“奔獏ジェスター”にとって、そんな攻撃は当たるものではない!

 ボールの弾力を使って跳ねて、輝く円盤にも見える投げナイフを上から横から続けざまに投げつける!


 それらは時にほとんど停止し、時に等速に戻りといった緩急を織り交ぜ、カーブを掛けて曲線的に襲うものも混ざり、あらゆるタイミング、アングルから上級騎士を切り裂きにかかる!


〈ヌ、ウウウウ!〉


 狼の魔力装甲を部分的に厚くし、意識の合間を縫って防ぎ切れなかった物は実体の鎧で受け、彼は道化師を追うようにして、狼の進路を曲げる、事はしない!


〈そのままだ!進め!〉

 

 彼が目指したのは、B(ビショップ)ポジションの騎士の中でも、治癒能力に優れている一人。

 己が纏った金色の狼、不完全ながらも神性の欠片の発露であるそれに命じ、部下に牙を立てさせる。

 魔法効果をその男に適用、体内反応を加速させる!


「!!ごぼ……!」


 失調から回復した彼は、シルバーグレーの右腕で喉を押さえ、その傷を修復。


「メナロ様!」

〈続け。可能な限り戦力を再編する〉

「仰せの通りに!」


 狼達に守られながらメナロの後を影のように追う!


 メナロの狼を分け与える事で、神へと、偉大なる存在へと近づける事が出来る。

 一部の強化を、その相手に適用する事が出来るわけだ。


 ただし、ただでさえ魔力消費が激しい完全詠唱が、更に出費を重くするというデメリットもついて来る。

 この戦場で、一秒でも魔力切れ状態を起こせば、その瞬間に首をねられるだろう。


 ここからは必要とするタスクそれぞれに、如何に過不足なく魔力を使うか、そういう勝負となる。


〈〈〈グゥォラアアアアアアアア!!〉〉〉


 三つ首のドラゴンが深緑の装甲からジェットスラストを噴射!

 後ろ足で跳躍しながら腕と首とで“奔獏ジェスター”に挑みかかる!


 あの鎧は騎士の一人が変身した姿であり、纏う者の動作を助ける。

 纏っている者を強化すると言うよりは、鎧の方から動いて引っ張るような、外部からの働きかけをする形だ。


 その為に己のパワーの出力を調節する事は日頃から行っており、自らの神経内での伝達妨害を強行突破する事も出来る。

 そして装備者の体内にエネルギーを流し込み、強制加速させる事も能力の範疇で可能。

 

 自身、及び他者の体への繊細な干渉、それを為す事に熟練した、その者ならではの技術である!


〈〈〈ゴ、オオオオ、〉〉〉


 全ての首から敵を囲むように火針かしんを吐き撃ちながら体当たりのように左拳を打ち付ける!

 減速させられた大気層によってそれが止められる!


〈〈〈オオオオオオオオオオ!!〉〉〉


 肘からのスラスト!

 殴り抜く!

 頭を下にふざけた姿勢でジャンプした敵を狙い、動きそのままにビビッドグリーンに輝く翼の一つでも斬りつける!

 

 道化師は空を駆けのぼって回避!

 空中であっても足が付かない無防備など一切ないとでも言いたげに、局所の空気を遅延固定して見えないアスレチックを作り上げる!


 羽ばたきとジェットでドラゴン飛翔!

 あちこちの遅延小領域に体をぶつけながら、鎧の力で押し通って道化を追う!


 その間地上では上級騎士による部下の救出作業進行!

 遅延した空間の中を自らの力だけで切り拓いて進めるだけの使い手も居るので、全員に狼を与える必要が無いのは救いと言えた。


〈総員、酸素を内部供給に切り替えておけ。大気の循環が広く止められている以上、外の空気はその内吸えなくなる〉

「承知!聞こえたな!無酸素環境を想定して行動しろ!」


 それぞれの鎧に付帯している、吸気供給機構を起動。

 ドラゴンとその鎧を除けば、残ったのは8騎。

 巨神と上級騎士が健在。

 戦闘続行可能。


〈我らの切り札が海産豚肉を調理している。それが終わるまで持たせるだけでいい。殉職者の魔具弓を拾え。全員でQ(クイーン)を援護……〉

 

 言葉が切れる。

 空中高く走り回る道化は、その背から手品のように、幾つも玩具の手を生やす。

 それらが一対ずつ絡み合い、様々な影絵を作る形に指を組んだ。


〈“白昼堂々と夢恥蒙昧にディヌク・リエリ・エク・リ・エ・リ”。差し詰め、鮨詰すしづめ、こうずね。皆様お揃い、いざ勢揃い、群れねば痛いと涙をはらり?〉

 

 ドラゴンが下から2で斬り上げる。

 頭からはビビッドグリーンの炎弾。

 避けた先に地上の騎士からの撃ち上げ援護。

 

 止めて、止めて、止めきれないものは投げナイフで相殺。

 それでもドラゴンの連打は止まらず、飛び上がる時に抱き締めるように身体に張り付け収納していた腕と、炎を充填した翼と、鎧で鋭硬えいこうを増した尻尾で畳みにいく!

 

 肩越しに、玩具の手の一つがドラゴンを指す。

 指が伸びた。

 迫る拳を貫いた。


 車輪の中に大の字でハマっているように体を回しながら、脚の横から別の腕の指が伸びた。

 翠針を撃たんとしていたレンズ部分を突き、罅を入れ、内部の増幅機構が暴発、首の一つが炎と悲叫ひきょうを吐く。


「あれは……!?」


 騎士達の目は、伸びて竜の手をいた指先に、肉片がくっついている事を確認する。


「“遅延”を撃ち込んでいます!」

 

 その指を刺された点だけが遅らされ、周囲の肉体の動作から置いて行かれたのだ。

 恐らくレンズ部分の不具合も、一部だけが遅れた事によって発生している。


〈ある人曰く、くうは共に伸び縮み、速ければ短く遅ければ長く〉


 道化は朗々と理を唱えながら、その胴を伸ばして竜の三つ首を纏め縛り上げる。

 締め上げられ暴れるそれらは、途中のみが遅らされる。

 右に動いていた物の一箇所だけが、慣性の作用を鈍くすれば、そこだけ他より左にズレる。


 力一杯に振られた首で、そんな事が起こったら。

 最悪千切れる。

 良くて骨折り。


 ゴキリ、

 その響きは遅らされ、下にまで届かなかったが、それでも視覚が効果音を補ってくれた。


 伸縮自在な体と、それで触れた部分への強力な遅延の付与。

 それこそが“奔獏ジェスター”の、魔法としての能力!


〈それでは、こちらは一方的に撃たれるだけになる!〉


 ill(イリーガル)モンスターの体という硬い弾丸に当たれば、動くだけでその部分が“遅れ”にぎ取られる。

 遅延の防御を自由に使えるだけでなく、ナイフ以上に貫通、破壊力の高い遠距離武器を、そいつは抜いてしまった。


 メナロは脳の活動に注ぎ込むエネルギーを増量。

 どう見ても勝てる要素の無い中・長距離戦闘を、どうやって生き延びるかのプランを組み立てていた所に、


「め、メナロ様!」


 背後から焦ったような声。


〈今考えている!〉

「そう、ではなく…、、、」


 要領を得ない報告の仕方に、彼は苛立ち紛れに部下を見返みかえる。


「な、にィ……!?」

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