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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十九章:人も神も怪物も龍も、みんな等しく明日に狂う

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514.フライ・ハイ!

 “醉象ローカスト”。


 そのill(イリーガル)に取り憑かれたモンスター達は、その思考のほぼ全てを食欲に支配される。

 初観測記録も古く、その為に出現例も多いそれは、目撃者のほぼ全てから、おぞましさを強調されて語られる。



 

 曰く、

 敵を見失い彷徨さまよう者は、

 そのうち同族を喰らい始める、と。




 ダンジョン史の授業において聞いた、怪談のような色が付いた話。

 日魅在進は、それを思い出していた。


「こいつら……!?」


 刀弥が“手術”を終え、道眞とバトンタッチしたのと同じ時、彼ら眷属のバッタ達が、一斉に“その行動”を後追いした。

 (アマゾン)型や(ゼロ)型の勝ち抜き生態を除けば、モンスターとしては異例。

 同じダンジョン内での共食い。


 そいつらは、今それをやった。


 進と交戦中だったW型までが、その大顎から溶解液を分泌し、巨大バッタの背中に頭を突っ込んだ。


 あちこちから茶色の体液が噴き出し、自らのを溶け崩していた。

 そして灰電かいでんは、大小を問わずほぼ全てのバッタ達を通った。


「抵抗、だ……!」


 その意味を彼は即解そっかいした。

 巨大バッタの体内の電流回路、そこに眷属バッタ達という経由点を挟んだ。

 一体一体が、永級クラスの耐電性。

 ルート全体の抵抗が大きくなった。


「電力量が変わらないのに、抵抗が大きくなれば、電圧は上がって、電流は……!」


 そしてそれを知れるのは、バリケードの外に出て、この光景を目に出来ている者だけ。


「構えろ!まだ終わって——」


 ひれ伏す。

 黒光りするキチン質と頬ずりさせられる。


「ぶぐ……っ!」

 

 重力が大きくなった?

 空気を操り上から押し込んだ!


 違う。

 それは慣性だ。


 物体が運動の状態を留めようとする力。

 何も無いところでは、動くものは動き続け、止まるものは止まり続ける。


 彼らも今、止まろうとした。

 空間上、xyz軸座標の数値を、変わらないように踏ん張ろうとした。

 彼らの頭上の大気共々、物質的本性が、そうしようとしてしまった。


 その力と、彼らを壊れたエレベーターのように急上昇させる力。

 その二つが相矛盾し、対立、衝突し、

 その相克が、彼らを足下に押さえつける。


 よりカメラを引いて、俯瞰する形でべよう。

 彼らを背に乗せたまま、巨大バッタが跳んだのだ。

 囮を追う事をやめて、真上に向けて三対みつい6本の肢、それが持つ全脚力を使って、沖天ちゅうてん


「……ぬ…ッ!」

「くぅぅうううぉぉぉおおお!!」

 

 G(地への加速度)によって潰されそうになる内臓の強化に魔力を回し、耐える。

 その中で刀弥と進は、自分達がうつ伏せている筋肉の動きを感知。


「にぃげぇろおおおおおお!!」


 魔力噴射及び爆破!

 物理的重圧の下で、なんとかメンバー全員を、広い背から下ろそうと試みる!


『“浅稲畔脚按摩椎乳アシナダノ・ナヅチ”!』

「“天道眞氷嵐雷権現ヴァイシュ・テンマン・ジガワット”ぉぉぉ!!」


 彼らの下に古茶の氷面ひょうめんが張られて摩擦係数を低減!

 進の魔力爆破によって滑るように外側へ!

 それに当てられていた晴れが雲間に、


 いいや、雲ではない!

 翅だ!

 巨大バッタの翅が閉じられようとしている!


 肌に貼り付く害虫を掌で潰すように、

 背に纏わりつく害獣達を圧死させようとしている!


「おりるぅぅぅっ!!」

「うおおおおおおっ!!?」


 進達と同じように下に押しつけられる力と位置エネルギーとを溜め込まれた、積層構造の装甲板である翅が、関節の固定を外され遂に振り下ろされる!


 間一髪全員離脱!

 

「はぁ゛むしぃぃぃいいいい!!」


 だが瑠璃の両脚がギロチンの餌食になった!

 紅白と古茶の魔法が落ちながら治療に移るも、重大な身体欠損では完治不可!

 傷を塞いで誤魔化すしかない!


「手を伸ばしぃや!希望のぞみがあるで!」


 彼らの周囲に小さな灰雲が数十生み出され、それに掴まって自由落下を阻止!

 地面と引き合ってペシャンコになる結末は回避!


「今の跳躍、小型バッタが振り落とされています!好機好都合勝機到来!ですよぉぉぉおおお!」

し、や!全軍プランBに計画移行!」

『ありましたっけそんなの!?』

「まだ我らに運命が」「狙われてる!」


 進からの警告!

 その全身を晒した巨大バッタは、寝返りを打つように彼らに向き直り、腹の一部をぽっこりと膨らませる。

 その先端を5人へ向けながら蠕動ぜんどうさせ、丸まりが押し出されていく。

 そこには他のバッタと同じく、


「あかん!全速回避や!」


 産卵管からのバッタ弾幕!

 サイズに統一性の無い虫共が、鉄砲水のように噴射される!

 その全てが、中でおしくらまんじゅうしていた事によるローカル強化を受け、超音速で飛来する!

 風切り音が羽音と混じって不快な細かさと鋭さで耳を引っ掻く!


「出力が極端なシャワーかよ!温泉とかのさあッ!」

 

 各々が魔力と魔法で身を守り、雲が電磁力で射線外に彼らを引っ張り逃がす!


「灰の電光、ハヤブサの如く、や!」

 

 産卵管から出た小型バッタが再度その巨大バッタを覆い尽くす、その前にもう一度攻撃を入れてやろうとして、雲は時計回りでの接近航路を取る!

 

「壌弌のお!」


 道眞の呼びかけで刀弥の能力が紅色ラインを空中に示す!

 それは安全な突入ルートだ!

 向かう先は、六つ目の頭!

 アンテナとも鬼の角とも言える触覚が何対も並び、閉じた唇は般若の口元が引き結ばれたが如く!


「奥歯ガタガタ言わせたるッッッ!!」


 口の中に直接電流を流し込む!

 もうそれしかない!


吶喊トッカンするでえっ!真っ向から正々堂々の決闘やっ!」

 

 灰雲達は自らおやつになりに行くかのように、飢える異形の眼前に飛び翔け、


 口は迎えるように開く。

 下唇が左右二股に分かれる。

 その内側にも、小さな大顎部が、歯のようにびっしり並んでいる。


 紅色が曲がり、導きが中断を呼びかける。

 彼らの狙いに気付いてか、新たな動き、壌弌の魔法がそれに触れた。

 道眞は迷わず行動方針を“離脱”に変更。

 

〈ぎゅ、〉


 喉を絞めるような声の後、


〈ぎィィィィィィィィィィィィィィィィ!!〉

 

 口内から茶褐色溶解液高圧放射!

 それも数条の線として継続嘔吐される!

 頭が巡らされ、薄っすら茶色がかったそれらが灰色を千切り払う!


〈ィィィィィィィィィィィィ!!〉


 尚も後頭部に回ることで逃げ続ける人間共を追ってほうえき

 巻き添えで地に爪痕がくっきりとき彫られていく!

 

 溶解液がやっと止まった時、その頭にまで小型バッタの河が届き、防御が完全に戻ってしまう。


「逃した…っ!」

『いいえ、まだです』


 上部から見下ろして歯嚙みする進に、睦月が否定を返す。


『翅が羽ばたいていますが、急速な上昇や水平移動、方向転換を行っていません』

「あの巨体の足場になるものが無く、今は滑空滑落しているだけ、ということですかぁぁぁあああ!?」

「身軽な空中戦をするには、流石に図体が大き過ぎるし重過ぎるのか!」

「秀逸な洞察やで!あれが母なる大地と再びまみえるまでが刻限や!」


 脚力が充分に発揮されない空中、そこに留まっている間が最後のチャンス!

 

「獲ったるでぇ!その大将首ィ!」


 灰雲が巨大バッタの口目掛けて斜めに落下!

 胸から生えたバッタの頭のそれぞれから、G型、W型弾がお見舞いされる!

 紅色が安全な突入ルート誘導!

 

 だが遠過ぎる!

 それを辿っている時間が長くなり、それだけ相手に次手変更の猶予を与えてしまう!


 最前の触覚一対、それがスライドして三つの単眼のすぐ内、人間で言えば鼻の付近に配置される!

 敵の行動の変化によって紅の航路にも修正が入る!

 二つに大きく分かれる灰雲の群れ!

 そこを空振る斬撃を伴う頭突き!


 避ける為に後ろに入った事で、口を狙うには再度大回りをせざるを得なくなった5人!

 再合流して紅色を辿る彼らに、F型を背負ったG型とW型が襲い掛かる!


 瑠璃が紅白の牛頭を操り広域を薙ぎ払う!

 そこらを飛び回り、大きめなモンスターを取り巻く小型バッタ達の一部を奪ってF型を撃ち抜き、その機動性を大きく奪って雲から引き離す!


 並走し蹴りつけてくるG型達を刀弥が斬りバラす!

 W型の溶解液攻撃を進が魔力を炸裂させる事で散らし飛ばし、お返しに肉薄した勢いを乗せた飛び蹴りでひしゃぎ押す!

 キックの反動と魔力ジェットですぐさま雲に戻り、その後もヒットアンドアウェイを繰り返してW型を寄せ付けない!


「時が来るでええええ!!」


 六つ目がまた見えてきた!

 頭の横からの角度で飛来!


 首部分の可動域が狭いバッタにとって、そちらから来る小粒共を頭で叩くのは至難の業だ!

 小型バッタを瑠璃が退かし、唇や顎を動かす継ぎ目を狙って刀弥が鋼鉄を奔らせる!


「往生せえや!ハネトビ腹空かし(グラスホッパー)!」


 覚悟を要求された“醉象ローカスト”の横顔が、反響と共に答える。


〈死ね。地べた這いつくばり(グランドウォーカー)


 彼らの目前から、巨体が消失した。

 翅が、閉じられたのだ。

 揚力や抵抗が酷く除かれ、落下が急加速された。

 

「もう……!?」


 もう、落ちても大丈夫な高さ。

 そいつにとっては、この高度からの自由落下は、大した損傷にならないという判断。


 彼らは間に合わなかった。


 空中の優位は終わった。


 そのごくぶとく長い後ろ肢が、


 遂にホームグラウンドに、


 土で満たされた地表に着いた。

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