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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十九章:人も神も怪物も龍も、みんな等しく明日に狂う

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513.チクっとしますよ

 最速しか、許されない。


 ガネッシュの疾駆しっくたいは、本物の象と同じように、旋回に難儀する構造を持っている。

 体重を前に押し倒すように走り、急なベクトルの変化はそれだけで転倒や急減速を招く為、少なくとも最高速を維持したままのスムーズな方向転換は不可能。

 Uターンなどもっての外である。


 それがどのような意味を持つか?



 一度キルゾーンを通り過ぎると、再度待ち伏せの形を作る事が、著しい不可能の中に陥るのだ。



 そのスピードに追い付く、どころか先回りしてスタンバイし直すには、そのバッタより速く、そして長く動かなければならない。

 そのレベルのトップスピードを継続的に出し続けられるのは、この場にはガネッシュかヴァークのみ。


 だが“醉象ローカスト”の注意を惹きながら追い着かれずに逃げ、飛んでくる執拗な遠距離攻撃と弾幕で拮抗する役は、彼ら2名プラスαが揃っていなければ任せられない。

 背に乗せられている“刺面剃火オール・ラウンド”の立場は置換可能だが、火力担当の一人を運ぶガネッシュと、足下で踊って攻撃を分散させるヴァークは、どちらも囮役から外せないのだ。


 


 決めるなら、一回。

 最初の落下奇襲攻撃で終わらせられなければ、二度と待ち伏せの形をセッティングできない。


 


 彼らは飛んだ。

 飛び降りた。

 もう後戻りはできないのだ。


 数秒で最短落下のみ。

 少しでも遅くなれば背に取り付けない。


 G型弾による対空制圧連射、それを前にして、減速などという生温い真似は許されない。

 遠距離から撃ち込もうとしても、羽ばたきに飛ばされて深々と突き刺せない。


 故に、彼らは最速直線軌道で行く。

 “醉象ローカスト”と自分達の移動進路が、ちょうど一点で衝突する、そのタイミングしか活路が無いから。


 頭を下に落ちる彼らの視界から、大地の色を一切見えなくしてやろうと、壁のようなバッタ砲撃列が跳び上がる!

 だが直線、直線だ!

 回避では接近スピードが鈍る!

 修正無しで突っ込むべし!

 

「ひゅ、ゥゥゥウウウ…ッ!」

 

 先行して落ちる小柄な攻撃型アーマー!

 体の上面と顔から噴射した高圧魔力エネルギーでバッタ共を正面から削りぶち抜く!

 数匹分の空間が開いた!

 

 睦月が右足を様々な角度で蹴るように振って水のスクリーンを伸ばし、それが道眞の魔法で凍らされる!


 敵の図体と攻撃密度から比すると、細く狭い一本の滑り台。

 それで充分!

 5人が一列で下まで着ければいいのだ!


 氷が外から割られる頃には、

 進が一番乗りで着撃!

 広い背から生えたバッタの頭を一つ叩き割る!


『目標に到達』

「御三家勢揃いで降臨や!」


 他のメンバーが順々に降りるのを尻目に片足で何度もストンピング!


「痛かったら手ぇ上げてろ!」


 唇をこじ開け大顎を砕き、その喉の奥に氷柱避雷針を刺しやすいようにセッティング!

 だが口から小型バッタの大群が吐き出され、それを焼き殺すので手一杯になる!


「そっちはダメですよぉぉおおお!」

 そこから体内を攻撃できるとは考えない方がいい!

「先刻承知や!壌弌のぉ!」


 命じられる前から既に、刀弥は魔法に紅色のラインを引かせ、その中で最も太い一本を辿って、肉の筋の間に魔具刀を入れる。

 球体関節を持つ腕も、同じ部分にそれぞれの手に持つ刃を刺し込み、繊維を一本一本丁寧に断ちほぐし、切開する。

 その絵面はまるで、手術の為に作られた絡繰り人形のようであった。


く頼むでぇ!」

『防衛体制に移ります』

 

 睦月はしゃがんだ状態で片足だけ伸ばし、踵をガリガリと擦りながら前から真横にスライドさせる。周囲に古茶の液体膜。


 その間に道眞は別のこうせんが指す点に刀を突き立て手掛てがかりとし、睦月の生成したそれを凍らせる事でバリケード設営。

 同時に雲を育て電荷を高める作業も継続。


流星ほしが来たりて、や!」


 空に撃ち上げられ、当たらなかったG型達がワラワラ戻って来る!

 地面のような硬い何かに衝突したわけではなく、F型を背負って空中を自在に移動できる彼らは、鉄砲玉として使われた後も戦闘を継続できのだ!

 その産卵管の中に詰められた小バッタどもが腹の先から溢れ出し、彼らを覆い包む黒霧となる!


「おどきなさい!お道化どけ少年!」


 進が押さえていたバッタ群の泉に瑠璃が生み出した牛頭の剣が刺される。


「我が忠実なる眷属となりて!」


 紅白の魔力が湧き出るバッタ達を染め上げ、


「穿てぇぇぇええええ!」


 それらを魔力ミサイルに改造した上で周囲に降り来たG型達に特攻命令!

 敵の絶え間ない攻撃が無尽蔵の弾薬供給源と化す!


「増援!」


 少年の声!

 直後叩き割られる氷板壁ひょうばんへき

 カットインして来たのは4つの複眼!

 W型が現れた!


 刀弥に向けて口から溶解液を散射!

 だが不可視の魔力で払い飛ばされる!


「トンガリメガネはG型を!」

「『トンガリメガネ』ぇぇ!??私の事ですかぁぁああ!?」

「他に誰がいんだよ!」

 

 ロケットスタートを決める直前だった右後肢にワンインチ距離まで近付いた進がサイドキック!

 

 踏み切る筈の片肢が折れた事で右前方にすっ飛ぶ!

 氷の簡易城壁を破りながらなんとか止まるW型!

 その頭を爪先から魔力噴射しながら蹴り、首を斬り飛ばす!


 サッカーボールのように飛んでいくそちらには視線を遣らず、体内に魔力爆破を連射して潜んでいたL型(ハリガネムシ)を殺しながら、“醉象ローカスト”の広い背を蹴って戻り、別方向から現れたW型2体目の前に躍り出る!


 突如横入りして来た彼に右前肢と左中肢が繰り出されるも、纏っていた小バッタごと打ち破られる!

 頭突き!右眼部分に取り付けられたパーツからの高出力魔力噴射(プラス)回転刃!それでW型の頭をスイカめいて両断!


 L型を引き摺り出し八つ裂きながら疾走!

 次なるW型!

 助走を付け超音速水平跳躍で突入しようとしたそいつの前に反応型魔力を大量配置!

 減速したそいつの前から左脚を振り抜く、両者の勢いを掛け合わせたカウンター回転キック!


 ボディがベコりと曲がり、全身が進行方向とは逆側に浮き上がり、その停止と装甲の破損により開いた間隙かんげきを見逃さず回転刃が奔る左手刀(しゅとう)が貫く!深々と入ったその腕で横に振り破り、L型ごと斬殺!


 180°回転!W型の右後肢みぎうしろあし前蹴りを左手でいなし、その衝撃は脱力と強化の両方を施した体内に設定されたルート通りに伝達され、打ち下ろすような右拳の先で位置エネルギーが変換された力と合わせて同時炸裂!

 溶解液を吹きながら体を破裂させる四つ目バッタ!

 だが最後っ屁は魔力噴射防御によって装甲にすら触れない!


 W型のスピード、溶解液、纏う小バッタ、

 その全ては、魔力探知による先読みと、魔力噴射で潰される。


 日魅在進を前に、「ただ少しだけ速く強い」では無力!


 その間、本陣は瑠璃が防衛!

 紅白小バッタと牛頭が持つ残り5本の腕で並み居る敵をばったばったと薙ぎ倒す!


 それを無理に掻い潜り懐深くに踏み入ったバッタ達は、古茶の水に気門を塞がれ溺死!


『本物のバッタと配置が同じで助かりました』


 言いながらバリケードの破損箇所の補修も行う睦月!


「政十!」


 刀弥が名を呼んだ!

 それだけで合図には充分!


退がっとれぇ!」


 言われた通り剣士が飛び退いてすぐ、正電荷を大量に溜め込んだ氷柱が、紅色が開いた差し込み口にくいたれる!


「汝、ひとかどモンや。褒めて遣わしたる」


——やけれど


「この現世リアルを満たす蒼穹そうきゅうに、元素番号(いち)番と!」右手の人差し指を立て、「ろく番がある限りィ!」左手の親指と人差し指を立て、両腕を交差。


「我ののうは赦す事無しや!」


 全員が飛び離れ導線が通り、


 はし灰雷かいらい


 巨大バッタの神経系に突き立った氷塊に、嵐を告げる轟鳴ごうめいが爆来!


 絶縁状態を断ち下ろしながら閃いた須臾しゅゆ刀来とうらいは、


 体内の電気回路を焼き滅ぼしながら駆け巡る!


 その輝きは確かに、


 神話の怪物を身震みぶるわせた!

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