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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十九章:人も神も怪物も龍も、みんな等しく明日に狂う

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509.スロウ、スロー、クイック

 音より速いかのように静かに、けれど衝撃波を伴わず、さりとてグランドマスターの動体視力すら振り切る高速刃!


 リボンがその内の一つを払おうと横に振られ、


「!?重…ッ!?」


 軌道を変えられない!

 押し返される!


「待て!よく見ろ!」


 リボンにぶつかって宙に止まったのはスローイングナイフ。


 それはよく見ると、ごくごく低速で回転している。

 丸く見えたのは、回し投げられた短刃たんじん

 

「お前のリボンと衝突する直前で、遅くさせられた…!変速しにくくされたんだ!」

「じゃあそのローカルが解除されたら…!」

 

 急加速!


 詠訵の前に立ったニークトがショートソードからエネルギーの盾を展開!

 それを破りながら上に逸れ、彼の肩を、皮鎧の下、魔力シールドと変形型アーマーまでをも削り取るような一閃!


「先輩!」

「落ち着け!肉には届いてない!」


 治療の為に詠訵の魔法を、燃費が悪く防御・攻撃力の低い青白リボンに切り替えさせるわけにはいかない。

 防衛線の向こう側に届かせられる唯一の遠距離攻撃が、彼女の斥力特化青黒リボンなのだ。


「“無量の名を称えよナモー・アミター・バユス”!次が来ます!」


 コおン……!


 親指と人差し指で四角を作った両手の、それ以外の伸びた指を交差させるように付け、完全詠唱!


 ツツズン、ツツズン、ツツズン、ツツズン、

 ツツズン、ツツズン、ツツズン、ツツズン、


 青い円盤光!

 弧を描く軌道!

 リボンが叩く前に

 その場に固定!

 

 赤、黄、緑、

 オレンジ、紫!

 豪速接近からの急停車!

 急発進からの重裂破じゅうれっぱ


 加速減速切り替え三昧!

 緩急乱して追い付かせない!


「グッ!」

「ニークト様!!」

「お前は前に出るな八守ィッ!」

「当たる瞬間に軌道を曲げるしか…っ!」


 シールド、アーマー、魔法を斬り抜き、

 前衛3名、守りに退き閉じ!


〈既に見たり!上がる飛沫しぶき!〉

 

 哄笑と共に響く口上!

 ビートに乗せて予告する道化!


「守りに徹すれば!」


 幾つも重ねたリボンの防御!

 升目マスめを作るように渡す縦横じゅうおう

 

 ナイフ投擲!

 遅延固定!

 軌道予測!

 斥力操作!


 詠訵は自分以外の3人にリボンを一本ずつ巻き、残りの6本で3×3の格子模様を作った!

 飛び来る円盤光刃が一度空中で急減速する、その時の刃の向き等で着弾点を大雑把に見極め、リボンの配置をズラし変えてその部分の斥力防備を厚くする!

 

「わざわざ止まってくれるなら!」


 飛び方を読める!


「違うッ!罠です!」


 新たに足された水色のナイフが、宙に固定された他のナイフとぶつかり、経由するように跳ね回りながら飛来!

 ギリギリ防御!


 だがその時他のナイフも遅延から解放!

 衝突によって軌道が変化済みのそれらは全く計算外な飛行の末にニークトの体に突き立っていく!


「ぬおおおおおお!?」

「先輩!」

「これがっ!!」


 彼らの前面を囲むようにまたもばら撒かれる投げナイフの嵐!

 

「これが奴の…!!」

「次は…!?次はどっちだ…!?」


 とうとうニークト自身の体にまで刃が届いてしまった。

 “遅れる”壁越しにナイフを投げられているだけで!


「おかしい…!どうして…!?」


 詠訵が困惑を続けている。


「なんだ…!?」

「リボンの力を、斥力をどれだけ強めても…!加速しないんです!」

「それだけ強力な呪いだって事ですか…!?」

「違うんです…!変わらないんです…!強めても弱めても、遅さがそのままなんです…!」

「なにィ…!?」

「……まさか!」

 

 六波羅がそこで何故か、先程まで彼らが注視していた方角を振り返る。


「あれを見てください!」

「そちらは兄上が……ッ!」

「……っ!?」


 “雄戴噛惣ダイアウルフ”。

 ルカイオスの、白金の巨神。

 天を支える柱のような、その魔力光。

 

 その進度が、速くなっている。

 まるで早回しのように、コマが、フレームが欠落しているかのように、スルスルと進んでいる!


「速い……いや、逆か!」

「うっかりしてました……!体全体が遅らされているなら、あのナイフと同じで、“変わりにくく”なっている筈……!防御力も上がるんです!けれど、そうはなっていない…!」


 体と精神の時間のズレ、彼らはそれを正反対に捉えてしまっていた!

 遅れているのは、肉体ではなく、その機能の方!


「反応速度…!電気信号だとか、化学、生理的反応だとか、脳の内部のそういったものを狙って、遅らされている……!」


 音速に満たないナイフの飛翔が飛び飛びになる為に目で追えなくなり、脳から伝わる命令が魔法や体を動かすまでにラグが生じ、自分だけ一方的に重たい世界に居るような錯覚の中で戦う事を強いられる!


 敵から見れば、ナイフはもっと常識的なスピードの攻撃であり、ニークト達は緩慢に動いているだけ。

 例えばローカルによる速度変化なども、動体視力だけに任せたとしても、最適なタイミングに合わせる事が可能。

 幾らでもやりたい放題を押し付けられる!

 

「クソッ、これは…!」


 ナイフが数本投げ込まれ、周囲に展開されていた刃がランダムに再スタート!

 守り切れず被弾続き!


「このままでは…!」

「ニークト様ぁ!」


 そして彼らに守られ、後ろに庇われていたからこそ八守が気付く!


「ジャングルリングッス!」

「なにを言ってる!?」

「あれ、戻ってくるッス!」


 全員が真後ろを振り向き、滂沱ぼうだの汗に肌が覆われ、気化熱からか寒気に支配される。


「な、んだとおおおおおお!?」


 先程後ろにやり過ごしたスローイングナイフが、どういうルートを辿ったのか、少し離れた後方で、宙に並んで号令を待っていたのだ。


「……“ジャグリング”だ…!八守ィ…!」

「あ…それッス……!」


 刺激的な的当てというだけではない。

 投げては手元に戻し、また投げ上げる、その曲芸が元となった攻撃!

 

「六波羅殿!今我々を加速させるのに必要なのは!」

「分かってます!出力は上げますし『殿』はやめてください!」

 

 彼の口内で打たれたBPMが上がっていく!

 

 ダ、ダ、ダ、ダダダダダダダダダヅヅヅヅヅヅヅヅヅヅヅ!


 だが彼らを囲うようにナイフが置かれ、更に背後から戻されている刃も遅延から解き放たれ一斉に出走!

 

「バカなああああ!!」

「うわあああああああ!!」


 六波羅の生み出す拍動の加速で反応速度を上昇させるも手が回り切らない!

 数が多過ぎる!

 そして一度避ける、弾くといった事をしても、再度敵の手元に戻ろうという動きを見せ、互いにぶつかり合って変則航路に乗り、意識を外した頃になって二度目三度目と切りつけてくる!


「くぅぉおおおおおおお!!」

 

 テクノロジーによる装甲と魔法による防備、それらが諸共に削り剥がされていく!

 肉が裂け、道化が予め宣告した通り、鮮血が飛び交いくうに赤一色の絵を描く!

 その絵具を最も供給しているのは、守るように前に出ているニークトと六波羅だ!


「ニークトさまっ!?だめッス!」

「二人とも無茶です!私が…!」

「でしゃばるな!引っ込んでろ!」

「でもっ!守りは私の方が硬いのにっ!」

「大人としてこのポジションは譲れません!」

 

 六波羅は詠唱に集中し魔法の効力を最大パフォーマンスに保つ!

 リボンと魔具を使ってニークトがナイフを払い飛ばす!

 時間稼ぎ!

 悪足掻きの極み!


「ニークト様ぁっ!」


 そしてそれを強制終了する最後の一押し!


「兄上様があっ!」


 何度目かの、巨神の気配の高まり!


 ドーム状(こう)爆風ばくふうが、もうじき来る!


 モンスターは攻め手を強める!

 彼らを封じ込めるのと防御に回せる魔力を削るのを同時に行う!


 今直撃されたら、守り切れない!


 確実に大きなダメージを負い、そこを狙って止めを刺される!


 避けるか、逃げるしかない!

 

 逃げる、


 逃げる?


 何処に?


 前はナイフと遅延とイルカ達、


 後ろからは神話の再現。


 彼らに、何処に逃げろと言うのか?

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