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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十九章:人も神も怪物も龍も、みんな等しく明日に狂う

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506.おとぎ話から出て来たような

 岩礁で砕かれる白波のように、


 白金色に打ち上げられたイルカ共。


 彼らは潜った地面ごと放り出され、それでも宙にたいする間、フープを潜って横軸で回り、鼻先や尾ビレでボールをトスする。


 「てんひまさず」。


 跳び上がる時、飛び降りる時、足掛かりから離れて空気に囲まれている間、魔力による制動が容易になる。

 その時の動きが見事に映えれば映えるほど、切り取られたが如く目立って、周囲の注意を惹くという“窟法ローカル”。


 如何なる時にも見る者の目をたのしませるという、プロ意識の表発ひょうはつのような在り方。

 それを使って、彼らは魔法の威力を分散、境界を守ろうとした。


 だが、たとえ相手が下品な色彩だったとしても、眼球を直接塗り潰されてしまえば、余所見という概念は消えて無くなる。

 その見事な芸は、荘厳にして尊大なる純色じゅんしょくによって掻き消された。


 白金の足が、地を離れる。

 

 風が吹き、岩肌が裂ける。


 重心が、前へと傾く。


 大気を構成する分子が、振動すら許されず前方に押し退けられていく。


 不安定さから、前を支えるように脚が立つ。

 

 露出した土壌が縦に割れ、白金色が直線上の異形を蹴散らす。


 狼の鎧を着たそれは、頭の後ろの円を輝かせ、月の光を背負ってまた一歩。


 右腕が、ゆっくり、上げられて、いく。


 それだけで白熱はくねつ金輝きんきの熱波が放射される。


 昆虫の形をした猥物わいぶつ共が、それを食おうと口を開けて突っ込み、体内の水分を蒸発させる。

 より近くまで着いた者は、白金プラチナに染まってようせつされ、形すら変えられて丸まり死ぬ。

 溶け崩れて水溜まりになる者も、灰になって散っていく者も、抗えないという意味では同じだった。


 歩き、腕を振る。

 そこに何の技術も、技能も宿らない。

 普通の動き、普通の流れ。

 どころか、少しぎこちないくらいである。


 それは、ある種の巨人だ。

 行動一つ一つが伴う、その結果が膨れ上がり過ぎている。


 


——素晴らしい……!




 メナロは、兄の勇姿を前に、視界がけそうになるほど、感動していた。

 ルカイオスは“人間”を遡り、その中から獣を取り除き、神から生まれた部分だけを掘り返そうとした。


 そして遂に、父祖なる神々の更に源流、巨神達へと辿り着いた。


 彼らルカイオスの物語、それが背景とする神話にて、最高峰の神々に王座を奪われた、ふるき世界の支配者達。


 失われた神格が、今ここに甦っている。

 

 彼ら人間に罰を与えた上位者共、それを上回る原初がび出されたのだ。

 

 この存在感。

 質量すら確信させる熱力ねつりきの肉。


 それは神性を持つ何者かの体だ。

 それが届く範囲内では、その者が全てを決める。

 人の肉体が、人を生かすのに都合の良いように働くのと同じように。


 モンスターが滅却処分を受けているのは、人体が病原菌を熱殺するのに似ている。

 脳から伝達された命令が、一種の窟法ローカルのように体内を統治する。

 スケールの大きさ故に、在るだけで小規模な“世界”を作る。


 それが起こした行動は、最大の現象を伴う事になる。

 手を挙げれば空が割れ、歩けば大地が砕かれる。

 身動みじろぎで押された大気の流れ、それが嵐を生んでいる。


 ドラゴンやその他の能力によって防御を張って、真後ろから慎重に近付いている彼らでさえ、些細な動作が起こる度、ビリビリと痺れるような震えに襲われる。

 分厚いフィールドを通して尚、振動が殺し切れていない。

 外で猛威を振るうばくらんが、鼓膜にまで打ち届き、


〈壮、観……!〉


 狼の遠吠え、

 彼にはそう聞こえた。

 

〈壮!観!じゃあないかっ!!はっはははははははは!!〉


 ほんの端に触れるだけで、ルカイオスのスタート地点、それに匹敵するという事だ。

 これまで彼らの魔法が利用して来た、破壊的荒々しさ、それが末端、吐息の切れ端でしかないという事だ。


〈ルカイオスの理想が!文字や絵画の上でなく、目の前!この肉眼で触れ得る卑近に広がっている!〉


 あの中心では、どれだけの神秘が、どのように化学反応を起こしているのか。

 本当なら、盾も鎧も脱ぎ棄てて、生まれたままの姿で感じてみたい。


 だがそれは許されない。

 個人の感情を超えた道理が言っている。

 彼は死んではいけない。


 彼の役目は、あれを絶やさない事だ。

 後世に残す事だ。


 あの状態では、兄は子を成せない。

 その寵愛の前には、人の体は無力この上ない。


 当の兄でさえ、あのフルプレートアーマー型魔具が無ければ、その力を押さえつけられないのだ。


 魔法を発動していない間でも、微量の魔素から自動的に生み出される魔力が、体内に定着してしまい、極度の肉体強化現象が発生する。

 筋肉、血流、細胞の増減、シナプスに走るシグナルでさえ、巨神のそれに増幅されてしまうので、ただ生きているという活動だけで、その身を内から破裂させてしまう。


 それではと魔力を意図的に体外へ吐き出させようとすれば、そのエネルギー量に周囲が焼壊しょうかいさせられる。ルカイオスの実験施設は、それで一度全損した。


 人の身は、まだ巨神の力に適応し切れていない。


 代替わりが、より長い時間と進化が、物質的人間そのものの変化が必要だ。だがそんな存在を性的に受け入れて、壊れないでいられる者がそもそもいないという堂々巡り。


 けれども、魔法とは物語。

 ルカイオスの血統に、それは宿っている。


 兄が子を成せずとも、メナロは違う。

 彼が子を作り、その者に基本の物語と共に、オーンの話を、情報遺伝子を受け継ぐのだ。

 記録映像を、見せてやるのもいいかもしれない。

 文字で流し込むより、遥かに直接的な刺激が刻み付けられる。


 “ルカイオス”にはこれが可能。

 その認識こそ、魔法を変える。

 魔法は現実を変え、巨神降臨が再現される。


 彼の役目はそれだ。

 彼は全身でオーンを、完成形を感じ憶え、その物語を次代に克明に継がなくてはならない。

 

 神話を継ぐ者と、肉をぐ者。

 別々に用意する2本並列体制で、時間という壁を突破する。

 その先の遥か末代で、身も心も完全な巨神に至る、そこまでバトンを受け渡す為に、彼の順番で落としてはならない。


 成功と完成の間を繋ぐ橋。

 それがメナロなのだ。


〈“遅らせる”!『夢幻の如くなり』!結構な事だ!そうとも!大いに結構な事だが!〉


 “奔獏ジェスター”が張ったであろう、時間の流れの変節線。

 それは奇跡のような力だが、


〈ルカイオスには、無意味だ〉


 彼らの神には無効だ。


 既にその身体は、時間すら超越している。

 こうして現れてしまった時点で、歴史に刻まれるのが決定した事で、

 “ルカイオス”の物語として、

 知られ、認められた結果として、


 死すら凌駕する超常となった。


〈道化風情が…!王にこうべを垂れるがぶんというものだろう…?〉

 

 空間が、神話的生物の体内へと、その定義を塗り替えられる。

 ローカルが、新法に定め直される。


 そのを辿った先、“奔獏ジェスター”ラインより手前の横一列に、カラフルな服を着た青白いイルカ共が次々と顔を出した。

 そのすぐ後ろから、一際巨大な一体が、牙がチラつく長顎ながあごで威嚇する。


が高いぞ原始鯨バシロサウルス…!地中にうずまれどだ足りぬ!〉


 “飛燕サルタドール”が超高周波振動水流メスを、眷属達に一斉発射させる。

 金属加工工場で聞こえるような、火花と共に散る鋭い擦音さつおん


〈先祖返りし、己が何者だったかを思い出す。そのやり方一つが重なるだけで、我々と同じであるつもりか〉

 

 表面温度を低める事も出来ず、

 冷却ジェルシートの如き気休めとしての用すら為さず、


〈結果は見事に好対照だがなあ!〉


 次の一歩で、“奔獏ジェスター”の遅延による防御の上から、踏み倒された。


〈進!軍!せよ!我らが祖に、続けえい!!〉


 紛い物の超越者気取りに、


 神話を、


 本物の神秘を分からせる時だ。

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