501.その名に懸けて part1
最初の一体の時点では、特段の困難とも言えなかった。
確かに犠牲は出た。
出たが、不意討ちの初撃だけだ。
優秀なB陣が即応し、重要な臓器が滅多裂きにされた、ビリビリに破裂させられた、といった手遅れな数名を除き、前衛の再編成に1分も掛からなかった。
メナロがメインで戦い、盾持ちと共に囲い込んで殺す。
それで処理出来た。
だが、最低ランク9の集団を、意識外からとは言え一撃の下で複数同時に撃破できる、それだけの力を誇ったモンスターが、
9層の後半でW型を見るような頻度で現れてしまうと、
英国紳士が紅茶を投げ捨て逃げ出す程の、最悪局面としか評しようがなかった。
自惚れの強いメナロであっても、この戦場で自分達が、「弱い側」だと理解せざるを得なかった。
“醉象”のローカルは、「十人寄らば智賢も形骸」。
一定範囲に仲間の数が多いほど、それぞれの間隔が狭いほど、強さを増していくというもの。
その法則による強化は、何故かバッタ共の方により大きく働いているように見えた。
illともなれば、ローカルの適用範囲をそこまで自由に出来るのか、はたまた“醉象”が異形の中でも規格外なのか。
どちらにせよ、推定W型が複数同時に現れると、それだけで壊滅が匂い立つ。
更に一部のバッタには、“鳳凰”の「味方が減るほど強くなる」ローカルまでもが付与されている。
これは死んだ者が強ければ強い程、残された者をより高みに押し上げる。
命を使い捨てられるモンスターと、仲間を一人でも多く残したい人間。
この対比は、ダンジョン内の人間が常に抱える劣等性として、潜行者なら耳に胼胝が出来るほど聞かされる話である。
メナロの舌はその苦味を、初めて口にしたような新鮮さで思い出した。
盾持ちのR達なら、W型を一度は止める事が出来る。
一度は。
二度目、三度目、四度五度………。
攻撃しては離れ、回り込んでは羽根や体液を撃ち、上から踏みつけ横から引き裂き、ヒット&アウェイを何度も繰り返されていると、堅固な壁にも綻びが生まれる。
こちらの攻撃は殆どそれらを捉えられず、傷を付けても敵体内のL型に、即座に治療されてしまう。
こちらも肉体を治すことは出来る。
しかし意思や集中力、戦意や気合は同じようにいかない。
消耗が早いのはどちらか、それが確然としていた。
そこに、バッタ側からお代わり。
推定C型を始めとした、W型に指揮される下等モンスター達。
賑やかしであろうとも、ローカルのせいで居るだけで最大の迷惑。
無視してW型だけを相手にする、という事が出来るほど、存在感を示さない相手ではない。
かと言ってそれを減らすのに躍起になるほど、敵の最大戦力から目を離すのと同じになり、押さえ切れずに惨事を見る。
結果、多正面を同時に相手にするしかない。
言っている事がどれだけ無茶でも、やらねば敗けるのだ。
ルカイオスに、敗北があってはならない。
それは栄光あるエイルビオンに、二度と消せない瑕を付ける事になる。
国の歴史とは、人の命と比べてならない程に重い。
それが穢れてしまえば、守り通して来た祖先に顔向けできない、だけではない。
無限の未来で生きる子々孫々に、屈辱と徒死とが与えられ続ける。
死ねば責任が取れる、という軽々しい問題ではない。
世界が終わる日まで魂を焼かれ続けてもまだ足りぬ、誰にも受け止め切れない罪業となる。
〈〈〈グゥアラグゥアラグゥアラグゥアラ!!〉〉〉
深緑の鎧が金の縁を浮き光らせ、要所からジェットスラスト!三つ首の竜がその身を一回転させるのを補助!
輝く翼が光りの輪を描き、360°を焼斬!
〈〈〈ヒュゥゥゥウウウウウウウォォォォオッ!!〉〉〉
頭が各々、顎を引いて弓の弦のように首を張り、
〈〈〈ドグァアアアアアアアアアア!!〉〉〉
チューブを通る流体のように連なったプラズマ連射弾!
ビビッドグリーンが昼間を過剰なまでに明るく照らし尽くす!
草木の青々が目に痛いほど焼き刻まれる!
バッタ共はまるで一般的イメージの緑色に戻ったかのように燃やし滅ぼされる!
ドラゴンの首に脚だけで掴まる弓兵達が、魔具弓を速射し空から迫るトンボのようなシルエットの推定F型を射殺し墜とす!
地上からは旅装を纏った推定G型達が、小型バッタを吐き続ける推定M型を抱えて高々とホッピング!
弓兵B達と同じ高度まで上がって来ては撃って落ちるを繰り返す!
一人が赤土の砂嵐のようなものを呼び出して散布!
敵の視界を奪うだけでなく、バッタが触れた粒子が機雷と化して爆放!表皮を凹ませ勢いと命を殺す!
彼らが放つ飛び道具全般、あるBポジションの能力によって必中に導かれる!
であればこそ容赦も遠慮も無く、撃って撃って撃ちまくれる!
C型と思しき三角頭が地上から接近するのを、ドラゴンがジェットの排炎を表面から噴くシッポをしならせ叩き、そこに装備された鎧の鋭角部で断殺を仕掛ける!だが正面が異様に硬いそれは、直突した触覚を剣のように操り何合も打ち合ってくる!
推定C型は他にも複数!
竜を支える4本の後ろ脚を狙って頭から突撃!
騎士の一人が右の前脚に跨り、竜のその手に長く太い白銀のランスを持たせ、それで1匹を上から突き刺すと、一時水銀のように液化して敵を溶け固める!
翼で大気を叩き鎧の腹から炎を噴射する事で体を持ち上げ、後ろ脚の防具と爪とで残りも返り討ちにする!
背を捩る動きとジェットスラストでビビッドグリーンの光を纏った翼を大きく横振り!F型に運ばれて空から降ってきたC型を胸から両断!
そうして回りながら下方に再度火炎放射!ペンペン草一つ残さず根から除草するかのように、親の仇でも狙うが如き徹底ぶりで、灰となった原野に重ねて火を入れる!
炭化した景色は、しかし竜の輝ける息吹に照り映えて、緑があった頃の記憶を残したままのよう!




