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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十九章:人も神も怪物も龍も、みんな等しく明日に狂う

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厳冬が生まれた日 part2

 彼女は、顔の曇りを濃くする。


「でも、それって、かみさまに、でしょ……?わたしにころされたら、かなしいよ……」

「「彼らを想って頂いて、ありがとうございます、優しい人。ですが、それは彼らの決意と、父のかいなの広大さとを、共に過小評価すること……乃ち、甘く見る事に他なりません」」

「わたしっ!あまくなんて……!」


 焦ったように弁明する彼女に、彼らは掌で撫でて落ち着かせる。

 そこに悪意がなく、純然たる思いやりである事くらい、承知していると示す。


「「父は広く、この世の全てです。全てを内に宿し、全てそのものであり、全ての内に宿ります」」


 その意思を読み解くのは、世界を解くのと同義。

 そして世界の仕組みの中で、最も色濃く恣意的であるのが、ダンジョンと、それが生み出す魔法の数々。


「「あなたの力に向き合う、それは、父と向き合う事と同義です。我々信徒にとって、最もせねばならない事であり、最もしたい事なのです」」

「でも、しんじゃっても、やりたいの……?」

「「そもそも我々は、『死』、そのものに重きを置きません」」

「え……」


 死を軽んじているのではない。

 その逆。

 死を絶対のものだと理解している。


「「父は、無限の存在です。その偉大さを深く知る者ほど、ひるがえって我々が如何に有限なのかを知るのです」」

「え、っと……」

「「つまり、我々はいつか、必ず命を落とす、その事実から、父から与えられた宿命から逃げない。それが、我々の使命であり、誇りなのです」」


 いつまでも死にたくない。

 それは原罪を忘れ、神の作った世界に背く邪念。

 

 地上に生きる者達は、有限であるからこそ、限られているからこそ、貴重で尊いものなのだ。

 神から与えられた役割が、「有限なるもの」であるのだから、いつかは終わるものとして生きるべきなのだ。


 人が人として死ぬことは、

 神の法に従うという、

 至上の行いと言えるのだ。

 

「「我々にとって、『死ぬか死なないか』は問題ではありません。確定した事実として、『いつかは死ぬ』、それだけです。我々を作るこの魔法でさえ、人の世に絶対が無い以上、遥か未来では滅んでいるでしょう」」

「い、いのち、いらない、の……?」

「「それもまた、認識が違います。我々は命を捨てないというだけです。そうですね、我々が思う最も重要な事は、『死なない為にどうするか』ではなく、『正しく生きる為にどうするか』、『正しく死ぬ為にどうするか』」」


 死ぬことは分かっている。

 それは受け入れる。

 その上で、それではどうやって死ぬか。

 命という一回限定の権利を、何に使うか。


 どうやって、理想的に世を去るか。


「「我々信徒にとって、あなたの力と渡り合い、その結果として命を落とすのは、望むところなのです。命はいつか消えます。それを信仰の為に、世の真理を目指す巨大な運動の為に使えるとしたら、それはなんと素晴らしき事か」」


 彼女は神に関係無いから、命を捧げるに値しない、なんて事はないのだ。

 何であれ、そのものの本質を掘り下げる事は、神と相対し、それにかしずくのと同じなのだ。


 特に、人の身で抑え切れぬ彼女の力。

 それを意に沿って操る事を実現したのなら、それは神の試練を一つ越え、明確に一歩前進した事になる。

 自らがそこに貢献した、そう信じながら永遠とわに眠れる事。


 なんて素晴らしい今わの際か。


「そ、そんなの、みんな、きもちがよくなったら、じゃあもういいやって、しんじゃうってこと……?」

「「それを赦さない為に、救世教では()()()()()()()()とされるのです」」

「あ……」

「「父は我らの刻限をお決めになっています。役目をお与えになっています。どれだけ苦しむとも最後まで生き切る。父から与えられた終わりに至るまで、最期まで全身全霊を賭す。それが一番の信仰なのです」」


 神からの使命、天寿の中から、自ら降りない。


 短く生きた者は不公平だと怨み、

 長く生きた者は苦しみが続くと嘆く。

 その両者が存在する中で、逃げを選ばない。


 平等ではない、馬鹿馬鹿しいなどと冷笑せず、

 生きる苦しみ、いつか知らぬ時に死ぬ恐れ、

 それらを抱えながら、霊峰を登り続ける。


「どうして、どうしてそんな、かみさまをしんじて、そこまで……?」

「「その魂が、救われる為に」」

「たま、しい…?」

「「我々は有限です。しかし、神の国が到来するその時、有限なるものは時間を超えて、全てがそこに召されます」」


 人は神の教えによって繋がれ、その先端が神に引き上げられ、連なる者達は神の手で無限となる。

 一つ一つではちっぽけな有限が繋ぎ合わさる事で、いつか無限に至るという希望。

 

「「それは、『有限』である事から逃げた、降りた者達には、二度と訪れない幸福」」

「てん、ごく……?」

「「はい。我々は有限である事から目を逸らした時、永遠に有限のままになり、無いも同然な小さな一つである“個体”の枠に閉じ込められ、虚無の中をどこにも着かずに彷徨い、自らの生の全てを、必ずや消滅する無意味としてしか捉えられないという、真の地獄に堕ちる事になります」」


 絶望を癒す唯一の特効薬。

 真理への探究。

 神の導き。

 その道の一部となっている実感こそ、人を永遠にする。

 その中でなら、人は笑って逝ける。


 世界に挑むには、人は小さ過ぎる。

 だが矮小さを自覚し、対応策として時間を超える術を見つけ、それによって無限に至る道を見出す者達が居た。


 人は彼らを、求道者と呼ぶ。


「「我々に、あなたの事をお手伝いさせてください」」


 彼らは再度、彼女に要請する。


「「あなたのその力を、あなたの、人の意思で御する事が出来るように」」


 どれだけ肉体が滅びても、それに挑戦させて欲しいと。


「「それがあなたや我々を滅ぼす罰なのか、それとも超克する事で人を正義に近付ける試練なのか、それはこれから分かります。そして、どちらであったとしても」」

「みんな、うけいれる……。かみさまのきめごとのなかにはいって、かみさまのいちぶになる……。それが、しあわせ……?」

「はい。その通りで御座います」


 彼女にとって、それは世界からの呪いであった。

 彼らにとって、それは神からの伝言であった。


 彼らはそれを才と見て、どのような形であれ、それと関わる事を幸福と感じた。

 

 触れる者全てを傷つける、そんな彼女と、心から一緒に居たがった。




 信仰。

 彼らが彼女に見せたかったもの。

 人が唯一ただひとつ、自らの手で紡げる“奇蹟”。




「わたし」


 後年に彼女が、救世教会からの洗礼を受けるのは、一つの自然であった。


「わたし、リーゼ」


 彼女が最も信を寄せるのが、


「リーゼロッテ」


 言葉を持った魔法であった事も、


「「私は“聖聲屡転ガヴリール”と、そう呼ばれています」」


 疑う所のない当然であった。


「ずっと一緒に居てね、ガヴ」


 彼女が差し出した手を、二つの掌が包み温める。


「「ええ、お約束します。神の元に召される——」」


——その時まで、ずっと

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