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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十八章:おい邪魔だ!全員触れるな!指一本!

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492.決め手

 丹本のダンジョン、魔学関連分野は、世界的視点で見ても進んでいる。

 それは事実としてある。

 その国家の中で、トップクラスを獲るということは、世界有数を自負してもいい。


 それは大きな成果として、着実に進んでいる手応えを、彼らの腕に馴染ませた。

 チャンピオンとの差異なんて、名が広く知れているかどうかの違いだけ。

 今ある強弱は、世界人類からの認識による上方改変バフ、その程度がどれだけ強いかの差異のみ。

 知名度さえ追い着けば、上位10名も夢ではない。

 

 寧ろ、国際法の縛りが課される分、彼らは自由度で劣っている。

 基本的に各国ともに「バレなければ無問題」を基本スタンスに、チャンピオンの魔法行使を極秘裏に断行しているが、それでも大っぴらに戦力として投入出来ないというのは、かなりの抑止力となる。

 

 実際に昨年、五十嵐や吾妻の魔法行使は強く糾弾され、一部の国から特定品目輸出量規制や関税再検討等の経済制裁を受けている。

 ill(イリーガル)込みの永級フラッグという、異例そのものな大規模窟害対応であったからこそ、その程度で済んだのだ。明胤での正村の完全詠唱発動まで知られていれば、いずれかのチャンピオンの能力管理権を引き渡せと、そう攻撃されていたかもしれない。


 “チャンピオン”という称号は、枷でもある。

 丹本国籍保有者が多いのは、何の事はない、敗戦国への首輪の名残だ。


 それに認定されているかいないかで、どちらかが圧倒的に優れて、他方が致命的に劣っている、などという根拠にはならない。

 所詮、強くて目立っている人間のうち、締結国の間で「鎖を付けたい」と合意が為された相手であり、個人の強さより国の立場や情勢によって変わるリスト。


 その称号を持っていないからと言って、最強を目指せないなどと言う事はなく、実状はその真逆。

 それの対象と見られていない、出る杭として打たれる前の今のうちこそ、適度にフットワークが軽いチャンス期間なのだ。


 と、そういう認識だったからこそ、三都葉は「国際化」を無理に急ぎ過ぎ、央華が友の顔で舗装した道を走って、突如開いた落とし穴に落ちた。

 彼女はそんな、功を焦った上層部のしくじりを愚かしく思っていたが、早いか遅いかの違いだけで、目指す所は彼らと同じだった。


 “ミツバ”が世界的な看板になれば、魔法においてもトップに立てる。

 それは時間の問題でしかない。

 


 その自信が、脆くも崩れる音がする。

 ここまでいただきの近くに来て、ようやくその急峻さを理解する。



 高さだとか、疲れがどうのだとか、プランを練ればとか、そういう問題ではない。

 彼女の前にそびえるのは、指を掛ける出っ張りも無い、90度を超えて傾き、上から威圧する滑面の断崖だ。

 金具を弾き、ロープを千切り、その身一つでよじ登る事以外を拒絶する、偏屈な尾根だ。


 人間を超克する、そんな夢想を理性の下に言い切れる狂気。

 その実現までの道のりを、筋道立てて説明してしまえる異常性。

 それが無ければ立てるものではない。


 形の違う複数の器を用意し、己を偏在させる者。

 殺し合いの興奮を快楽と捉え、危機に陥る事自体を目的とする者。

 知的好奇心の為だけに、魔界と言うのも生温い地に立つ者。

 

 彼らは摩擦係数がほぼゼロの壁に、素手の握力だけで挑むような狂人達。

 そしてだからこそ、逸脱した物語をその内に宿し、世界屈指の兵器となれる。


 分かっていなかった。

 敵は、化け物は、まだ先、もっと上。


 彼女の代では、及ばない。

 これほどまで、手段を選ばぬ在り方の中で、三都葉は最強に至れない。

 覚悟や決意という、石積みの数段。

この差の前では無為無力。


 何度も、

 何度も理解させられる。

 こんな挑戦、達するなんて彼女には出来ない。

 空に浮かぶ星は人を祝うが、それを掴み取る大願成就を、彼女が捨てられないのなら、

 

 それは呪いだ。

 彼女は夢を見続けていたかった。

 だからこうやって、何度もその不可能性に叩きのめされる。

 この道を選ばなければ、ただ平穏を目指していれば、

 こんな思いにはならなかった。

 自分が足りないと気付かずに済んだ。




 だからこれは、彼女の罪で、彼女への罰だ。




 だが、


れつ上等……!」


 だが!


「元々承知っ!」


 三本角のど真ん中から紅白二筋の光線照射!


「たかが個の力の差で!海溝の如き深い断絶で!」


 バッタ達のうち小物な奴を侵食!乗っ取って己が魔力ミサイルとして改造しダマになった敵の中で自爆させる!


「“三都葉”を折れると思うなぁぁぁああああ!」


 今は遠いその境地へ!

 彼女は“次”を、諦めていない!

 元より2世紀弱の臥薪嘗胆を経てきたのだ!

 勝てない事など今更と開き直れる!



 たかが予定が、思ったより数十数百年長引きそうなだけ!

 願いは、まだ見ぬ同志に、未来に託せば良いのだ!



 その彼女を守る黒い炎や多種の魔具!

 囲うは戦車・機兵隊!

 彼らは弾切れ後も魔法能力によって、蝗害とチャンピオンからの一斉発射に耐えている!


 そこに砲撃を入れ続ける女は、頭の両端にT字型のサブマシンガンを括り付け、両耳を曲げて引鉄を握り搾りながら顔を巡らし、バッタが本能のままに喰らいつこうとするのを弾き退しりぞけている!


 少し離れた地点から、白っぽい青をしたイルカが頭を出し、口の中から高圧溶岩流を噴砲ふんほう

 象の鼻が振るわれる!救世教会によって聖別された水が引っ繰り返された容器から地に滴り、その線に沿って瞬間的だが強固な壁を立てる!

 先程からそれは幾つも地面に撒かれており、魔力を籠められたハーケンが刺されると再度活性化、発動!

 ワイヤーが使用済みハーケンの穴に通され、肩の後ろから生えた太腕で回収される!



 膠  着。



 こんな混沌の中で、状態が拮抗している。

 秩序が生まれつつある。

 だが、言われるまでもなく気付く事だが、それは嵐の前の静けさ。


 各々が、この後の連戦を予感し、リソースを温存し、奥の手を引っ込めているからこそ、この揺れる塔は絶妙なバランスを崩さずにいる。


「どう、突き崩したものか……」


 鉄板のように熱された、段状になった罅割れ黒岩に腰掛け、“靏玉エンプレス”は“飛燕サルタドール”の中で運ばれながら、決断の時が迫っているのを感じていた。

 “奔獏ジェスター”を本格投入し、それ以外にも混種モンスターを配置して、この場を厳重に守ってはいる。

 

 が、あの“全人未到ワイズマン”、ガネッシュ・チャールハートのような、障害を踏み越えて来る例外というものが、往々にして現れ得る。

 “号砲雷落ワールド・ウォー”をここに打った手番で、詰みの筈だった。

 今に至るまで局が長引いている事実は、「このまま話が進む」という予想が、裏切られる事を立証している。


 彼女の予想では、次にここに来るのは、“環境保全キャプチャラーズ”のうちの何者かだ。

 

 それが当たれば、勝つのは“右眼”破壊を試みる側。

 順当に行けばそうなる。


「『順当』……、現状からは程遠い言葉、じゃなあ……」

 

 気は進まない。

 進まないが、これが最善か。

 

「サルタドール、ジェスターに『通せ』と伝えよ」

〈わあ、ほんとにやるんだ?〉


 内部で籠るように響く、幼い声音。

 彼女を運んでいるイルカ擬きの言葉。


「已むを得ん。妾が行ってやりたいが……」


 彼女は横目を流した先には、虹彩の内に輝きを押し込められ、焦点をどこにも結べずに、何をするでもなく佇むゴシックな装い。


「こやつの頑固さには、ほとほと手を焼かされるわい」

 

 その女の目は、小さな鏡が複雑に組み合った構造物で塞がれている。

 それは合わせ鏡のように女を閉じ込め、迷わせている。

 時折、出口のように光で招き、空を匂わせ、意識の動きを誘導。

 それによって、無理矢理能力を使わせている。


 年季の違いというものがある。

 斯様かような小娘の1、2体、好きなように操れなければ、「女帝」の名折れというものである。

 と、息巻いたものの、気を抜くとその場にどしりと構えられ、魔法による精神干渉を止められ、意識を奪い返される事になりそうだというのも、また事実。


 他の事柄ならともかく、“可惜夜ナイトライダー”について意に反した行動を取らせるのは、その女に対してはかなりの骨折り。

 ただこうしないと、無視できない戦力となって歯向かって来るので、やらずにはおけない。


〈そんなに大変ならさあ——〉


——やっぱりもう殺しちゃおうよ


 “飛燕サルタドール”から妥当な提案が飛ぶ。


〈エンプレスが全力出した方が、絶対もっと楽に終わるよ?〉


 わざわざ格下にやらせるより、ずっと快適で自由になれる。


「いんや、その上奏じょうそうは却下じゃな」


 ところが彼女は、そのやり方を選ばない。


〈どうして?“右眼”が破壊出来たら、もう絶対味方になってくれないよ?〉

「じゃがこやつがいなければ、妾が最前に出張る事になる」

〈うん、そうだね〉


「それは、妾ではない」


 それは、女帝ではない。


「誰よりも前で、誰よりも労する。それは妾のやり方では、在り方ではないのじゃよ」


 玉座で悠々と取り仕切る。

 最も安全な場所で、一番楽な体勢で。

 それが彼女の正しき姿であり——


〈ふふふん……〉

「何じゃ。含みのある笑い方をしおってからに」

〈ううん?ススム君を直接誘惑しに行った人が、言う事じゃないなあ、って〉

「為政者であり、最高位じゃぞ?れもする」

〈ふっふ、そうだね。ふふふふふん〉


 胸の愉快を、つい鼻に乗せる。

 

 彼女は結局、王様気分なのだろう。


 そして、彼女の中での、「王様」の定義とは——


 だから彼は、彼女と一緒に居たくなった。

 

 きっとあの忠臣も、同じなんだろうと、


 伝言を走らせた先に、


 思いを馳せるのだった。

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