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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十八章:おい邪魔だ!全員触れるな!指一本!

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489.本物の強者

 降りしきるは日を乱反する大粒氷塊。


 寒い夜を越え、晴れた朝の清涼さを宿す、天然宝石箱を引っ繰り返したようなまぶしみ。


 それに心洗われるのを待たず、ブレードの(かかと)側で地を蹴ってエッジに乗り、絶景の下から(すべ)退すさるリーゼロッテ。


 彼女が立ち止まっていた場所に刺さる猛禽のきんきゃく

 氷壁を蹴り砕いた余勢を駆って小動物の巣穴のような凹みを抉り掘った“鳳凰トリッパー”は、コートの前を寄せるような所作で左翼を半ば開きながら体の前へ。


 半身はんみの構え。

 広い翼が視線を途切とぎり、次なる一手に移行する表面の運動を見えなくする。

 

 リーゼロッテは右肘を横に、手で口元を隠すようなポーズ。

 掌を開きそこに乗せた六出花りくしゅつかを赤い肉感で吹く。

 霧吹きのような放射状の散布。

 生成した水分を空気中で固めて敵を包囲するように凍結させる。


 それを避けて垂直上昇回避した所に冷凍結晶弾を撃ち込んでやるつもりで目線を空に向けた彼女は、その動作の中途で左方に壁を凍作とうさくする。

 出来立てヒエヒエの防壁が突破され、そちらから蹴りが突き出されるのを目の端で捉えながら滑走離脱。

 僅かに爪が掠り白く細い腕に入った傷を凍らせた血液で塞ぐ。


 半径十数mにも及ぶ氷床ひょうしょうを張って自分の側が有利な足場の中で格上を待ち構える形。だから足運びには利があると考えた。


 考えて、いた。


 削り散らされる高音。

 それは時計回りに彼女の背後へ。

 鋭利な鉤爪かぎづめの表面で氷の上を滑り動くモーションそのままに回し蹴りに繋げてくる。

 振り返りながらを使って避ける。

 肺の空気が無くなる。


「げあッ」


 突如全身を覆った衝撃に身を委ねるように身体を振って左脚を背後に着き、地面に流しながら踏み切って回転跳躍。

 飛び足の下に小規模クレーターを作りながら空気抵抗に身を切られるような8回転疑似サルコウジャンプの後に右足着氷、その勢いで後ろ向きに滑って距離を開こうとする。


 その目の前に帽子を目深に被った鳥の頭部。

 左の翼が横に振られ、打撃を超えて断撃な水平チョップが放たれる。

 背を屈めて空振りさせ、追撃の前蹴りを左の踵で地を蹴り身を捻るトウループジャンプで躱し、右足着地時に身体に掛かっていた回転に乗って、後ろに伸びた左脚を体の前に外回そとまわし、腰を落として体を独楽にするシットスピンのような体勢でブレードを使い、斬りつける。

 

 結晶を振り散らしながらのその動作に、羽根を投げながら鉤爪を捩じ込もうとした“鳳凰トリッパー”。

 が、途中から水中に入ったかのように勢いを減じられ、羽根は凍った上で彼女に届かず地面に落ちる。

 追加で撃たれた雪の花を翼が起こす風ではらいながら一度離れ、リーゼロッテも回転を止めて向き直る。


「っ、つぅ~……!」

 

 間合いが、伸びた。


 恐らくあの、小型肉食恐竜の如き爪の表面で滑りながら、こちらが目測をつけたタイミングを計って爪先で刺すように地を蹴るという、単純な緩急による錯覚。

 彼女としては、そういう細かいテクニックでは上回れるように、一帯を氷漬けにして摩擦を減らし、動きにくくした筈だった。


 それをやれば、地上戦を嫌って空中からの降下による攻撃に切り替えて来る。

 翼を飛行に使わせれば、打ち合いも少しは楽になると、そういう目論見があった。

 

 甘かった。


 鳥の主要移動手段は、必ずしも“飛行”ではない。

 その状態に移行する為、スピードを出さなければならず、走行だって重視される。

 地上を我が物顔で闊歩していたご先祖様からの伝統通り、彼らは獲物を追って歩き、走り、

 その延長でいつの間にか空が飛べるようになっていたのだ。


 鳥は、地上でも強い。

 思った以上に、普通に走る。

 風に乗って大空に羽ばたく、その序奏として足腰の運動は欠かせない。

 

〈お前の、能力……〉


 空中で飛行中に氷に閉じ込められ、地に落ちた自らの羽根を見下ろし、そいつは能力をより仔細に理解し始めている。


〈“奔獏ジェスター”の窟法ローカルに似ているな〉


 分かり掛けている。


〈これは、止めているのか?いや、「奪って」いるのか〉


「鳥頭、ってわけでもにゃいかあ……!」


 無口な奴だったが、人形のように命令された単純動作のみするだけ、というわけではない。

 しっかりと脳が、知能が備わっている。

 考察される。


〈同圧力間での気体の体積変化……、いや、水の生成と表裏一体と言うなら、“向こう側”で液体水を水蒸気にする事による気化熱、それをこちら側から徴収しているか〉

「ちょいちょいちょちょちょい!なーに乙女のヒミツ探っちゃってくれてんのさあ!?」

 

 彼女の能力にここではない別の場所とのエネルギーのやり取りが深く関わっていると、この短時間で見抜かれた。

 ダンジョン、魔学に関しては、圧倒的に先を行かれている、というのは杞憂などではなかった。


 そして彼女の十八番オハコである、氷に触れただけでも凍結が開始される極低温は、“提婆キャメル”の力とこの鳩男の耐性が合わさって、効きが芳しくない。

 体温を奪えているかも怪しい。

 羽毛の下まで刺し貫けば、血流を凍らせられるか?


「まいっちゃうんなあ、もう……!」


 チャンピオンとして認定されると、世界中の人々にその名が知られ、その者自身が一種の物語と化す。

 それは魔法にも大きく影響を与える。

 グランドマスターと比べて、明確に一段、別格な存在になる。


 そんな世界上位10名の伝説を前にして、明白に優勢。

 タネも半ば暴かれた。

 彼女は認識を改める。

 

 高濃度魔素環境下なら完全詠唱だって使いたい放題。

 その条件で一対一なら、隙を突けば勝てる。



 そんな生易しい力量差ではない。



 切り札はあるが、あれは自滅覚悟。

 ここで撃つようなものじゃない。


「でえい!」


 彼女は足下から氷壁を出し、背後に虹を浮かべる水の橋を架け、それを即座に凍結。跳び乗って渡り逃げる!


「あばよ~~~!」


 “鳳凰トリッパー”は冷却凝固に巻き込まれないようバックステップ、した事で一本の木の側面に着地。それをしならせ、元の直立に戻ろうとする反動をトランポリンのように使って自らを射出!


「ぎっ!ぎゃにぃぃぃっ!?」

〈“過去は風と共に去ってザ・ラスト・オブ・ザ・ミグラトリウス”〉

 

 空中に飛ぶ黒と朱色の二色の鳥。

 その上を蹴り渡る三角帽子の旅装(ばと)

 翼で力強く揚力と推力を生み、撒かれた結晶は風で逸らすかジグザグ機動によって避け、減速させようと立てた氷の壁を減速せずに破って追跡!


 と、見えたのは一瞬。

 破れていない。

 壁がすり抜けられている!


〈この魔法の本質は、〉


 彼女の頭の上を高く取ったそいつは、


〈“渡る”、こと、だ〉


 急速降下!

 進行方向のレールを破壊!


〈俺は、この身を必ず、目的地に到達させる〉


 風も、翼も、壁抜けも、その道具の一つに過ぎない。


〈お前が俺を倒すならば、それもいい〉


 けれども、

 勝つ以上に、

 逃げる事だけは——




——絶対に出来ない




 帽子の下から朱色の双光がキラリと燃える。

 飛ばされた羽根が氷に固められ、止まる。

 羽ばたきによって自重を垂直に浮かせる事もできる筋力が、その後端に一撃ずつ入れ直す。

 止め切れない。

 しかし一瞬の減速はあり、強化身体でなんとか避ける。


 その先、彼女の運動エネルギーを奪う魔法が薄くなった部分で、押し合いに勝った一匹の鳩が、脇腹にめり込む。


「ぎゅぉ」その続きは緋色に潰された。

 いつの間にか、刺さっていたのは鉤爪の先だった。


 「渡った」、

 辿り着いたのだ。


〈終点、だ〉


 右脚がそのまま抉り抜かれ、一周しながら左脚が宙を踏み切り、

 作用反作用で開いた距離を強引に縮め直し、次なる一過いっか


 自分が後ろに引っ張られるような感覚に、彼女は追撃を防ぎ切れなかったと確信、死を覚悟した。


 穴に落ちるように、視界の隅から黒が埋めていき、

 

 そのまま木立の中に放り出される。

 

「……?」


 景色が若干変わった。

 シーンが飛んだ映画みたいな脈絡の脱落。

 吹っ飛ばされている僅かな間に気を失ったのか?

 

 と、頭に血を巡らせようとして、首根っこを持ち上げられる。


「おい立てよリーゼのねーちゃん!ボーッとしてんじゃーねーぞ!」

「暫定で味方なんだからもうちっと丁寧に扱えよバカ女が。お前が喋っても混乱が無駄に深くなって動けなくなるだけなんだよ」


 彼女は、

 本当に「引っ張られ」ていたようだった。

 その場に居た二人のうち、一人は知らない男。

 だがもう一人は、よく知っている。

 顔が知れている。


「ナナ=チャンじゃ~ん?元気?飲む?」

「おっ、いーねー!」

「職務中に酒類を摂取しようとすんじゃねえよアルカス」

「アルカスはこいつな」

「私は仕方ない事情があるからい~のお!」

「『コミュ障』が『仕方ない事情』だって?」

「ふじのヤマイー!」

「へいへい」


 ボディースーツの上から、自然体な緩めの格好で、リラックスした様子の女。

 吾妻漆。

 丹本のチャンピオンで、来るとしたら矢張り彼女か。


「なーんか、でけー氷山みてーなのが生えるし、魔力を派手にバチバチやってんのが見えたから、様子を窺いに来たらよー?たのしそーなのとやってんじゃーん」

「どうでもいいが、どうすんだよ。ガキと厨二オヤジは突っ走って、今すぐ追わねえといけねえのに、ンなの拾ってよ?んで、ありがたい事に特典まで付いて来やがってんぞ?」


 変身能力に干渉しない為か、要所要所の防備が簡略化された、土色の重装アーマーの男が指した先、吾妻の魔法で開いた黒い転送ホール。

 閉じつつあったそこから黒と朱色の鳩が溢れるように現れ、無理矢理広げ、


〈“向こう側”との入り口、それもこれほどのサイズを、二つも!〉


 その縁に手を掛けながら、“渡って”くる最上級モンスター。

 

〈話には聞いていたが、見事なものだ。“徴崚抜湖トランスポーター”〉

「鳩ぽっぽに褒められてもうれしくねーな」


 チャンピオンが、二人。


 勝ちようが、出てきた。

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