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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十八章:おい邪魔だ!全員触れるな!指一本!

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484.超昇華

 常人の肉眼でも細部まで作り込まれたその繊細な形状を目視できる、ウォーターブルーの結晶が降っている。


 それが触れた先から水分が生成され、瞬時に凍結する。


「ニハハハ!水を凍らすだけなら、楽なんだよにゃー」

 

 雪菓子綿菓子千鳥足。

 ラメのような光の粒が、冷気に乗ってよぎる中、

 リーゼロッテはスキットルの中身をぐびりと嗜み、着氷してから袖口で口元を拭った。


「ガヴー!とっととあのデッカいにょ、捕まえちゃおうよーう!酸素の予備とかはあるだろうかりゃあ、窒息はしてないだろうしいー」

「「お待ちなさいリーゼロッテ。未だ奪取も拘束も不可能と、そう判断します」」

 

 愁々《しゅうしゅう》と足下から昇る音。

 そちらを見れば、地下にも拘わらず太陽の欠片が射しこんでおり、それが当たった地点から湯気が立っている。

 氷は融け、斜面を作るように流れ落ち、それは段々の形へと整えられ、


「すごいすごい。本当にすごいねー」


 てちてちと適当に手を鳴らしながら、ビキニ姿の美女が顔を出す。


「人間にしては、びっくりするくらいの出力だよ。いやほんと、わたしほんとに感動してる。ここまでのは中々お目にかかれないよお」

「ありゃりゃ……。流石に完全にゃ止まってふれふぁいか……」

「「リーゼロッテ?酔いを醒ましましょうか?」」

「それだけはやめて」

 

 上階から覗く、二人の男女の口を借りた天使に、右の掌を向けて真顔で言い放つリーゼロッテ。

 

「で?」

「んにゃあ?『で?』って?どういう意味?」

「まだやるの?」

「あ゛~~~~……」


 彼女は両手を胸元まで上げ、掌を前に親指を曲げて交じわらせ、双頭の鳥をかたどるような仕草を取る。

 

「“氷々とした絶対零土ジェネラル・シヴィール”。もうちょい本気出すけど、よさそ?」

「あ、っそう」


 “提婆キャメル”が開けた穴から体温を奪われ動きの鈍ったバッタ共が間欠泉のように噴出!

 彼らはウォーターブルーの吹雪に雪崩れ込まれ、結晶で突き刺される!


「おー、これも凄い」


 呑気に感心する地球最強のモンスターの目前でバッタ共は体内の水分を固体化され細胞を破壊される!

 幾何学結晶のもうとうが群生相昆虫群で編まれたころもを剥がして日に焼けた素肌に刺し立っていく!


「ロー君のローカル相手でも、体の中側の制御奪えるんだ」


 ハート型のリムを持ったふざけたサングラスを掛けている女は、ピストルの形を作った手指の先端を、横に90°倒しながらリーゼロッテに向けて健闘を称える。


「いいね」

「……おアツいね~、お前……!」

 

 着弾した筈の六角図形達が、形を溶け崩され散っていく。

 攻撃はヒットした。

 だが効いていないか。


「「父の国を」」


 天使の一声で白い輪が何重にも彼女達の間に挟まり層構造の壁を築く!

 ガラスの如き破砕音!

 氷を突き破って垂直飛翔する旅装男!

 その腕は鳥類の如き羽と化している!

 空中姿勢制御から片足水平ドロップキック!

 今生み出された防御の全てがパフォーマンス用の瓦めいて弾け飛ぶ!

 

 露出した生娘の白いやわはらに猛禽の爪を持った足が突き刺さらんとする直前、リーゼロッテの足元で氷に罅が入り溜め込まれた圧力が開放され上下逆さな滝のような水流が噴き立つ!

 瞬きを待たず冷凍!

 蹴りはその即席スクリーンをも砕いたものの、長い間触れていると足の水分の自由と体温を同時に奪われる恐れがあった為に引っ込めざるを得ない!

 

「む」


 蹴り足の側面に氷が付着。

 体内の血流と結びついてそれを堰き止め、根を張るように粘着する!

 “鳳凰トリッパー”は鳩を一匹召喚、その嘴で自分の肉の一部ごとベリベリとウォーターブルーを取り除かせ、魔力を使って即座に破損箇所を修復した。


「ガヴ!あっちの女、たぶん熱を操って仲間を守ってる!相性が悪い!」

「「確認済みです。父の腕を」」

 

 宙に浮いた二つの輪から一本ずつ白い太腕が伸び、何も無い空間で引き戸を両側に開くようなジェスチャーを取る!


 白いオーロラのような魔力障壁!

 それが分厚い氷層ひょうそうまで含めて室内を二つにわかつ!

 

「「行きなさい」」

「しゃあ~~!」


 氷で靴の裏にブレードを装備しアイススケートの要領で部屋の奥へ!


 狙うは央華のチャンピオンが持つ“右眼”!


「「!!リーゼ!」」

「ぬナっ!?」


 そこに()()()()()()カーボンブラックの炎が蠍の尾のように燃え伝う!

 壁と氷を融解させながら割り進むそれが氷の中に閉じ込められた央華側の主要人員を解放!


〈くぅるぅしぃめぇえええええ〉


 共に掘り当てられたバッタ共は活発さを取り戻し貪り襲うのを再開するも、黒炎に焼かれた後に紅白の魔力で侵蝕され一部は敵側の弾丸として再利用されて潰れていく!

 リーゼロッテの前に旅装のバッタが5体出現!

「じゃまあああアア!」

 その気孔から魔法生成物である結晶を吸わせ、身体の内から氷柱を生やして破壊!

 水分を持ち他者魔力への耐性が低い奴相手では彼女の敵にならない!


 壁向こうから追加の銃撃!どころか砲撃!

 装甲車を破壊するような徹甲榴弾!

 壁向こうから向けられた巨砲から撃たれたそれは障害物を貫通した後にワンテンポ遅れて炸裂!

 敵剛体内部に効果的破壊を押し付ける!


 が、バッタ達と増設した氷の堤防で効果を殺し切られる!

 水や氷の抵抗の前では、諸々の火器は大きくその運動エネルギーを損なってしまう!

 水中用に特化したハープーンや魚雷等でない限り、水で満たされた立体を貫徹するのに銃器は不向きなのだ!


 隣室に見えたのは横に三連結された固定砲座と接続し排莢から再装填までを魔法の炎を使って一人で行う四脚戦車!

 

——さっきの攻撃……!


 リーゼロッテが冷や汗を掻く対象は、その破壊力ではなく、一手前の黒炎の方!

 あの魔力の色、央華のチャンピオンの魔法に見えた。

 だが、それは彼女が氷漬けにしていた筈だ。

 氷の中からそれが出てくるなら分かる。

 だが隣からお邪魔してくるのは、はっきり言って想定外である。


「おにぃさん、もしや」


 削氷さくひょうし離脱を図る“刺面剃火オール・ラウンド”に向けて、ほぼ真上に立った彼女は問うてみる。


「もしやもしや恐ろしや、それが本体じゃなかったり?」

 

 答えは無い。

 そういう対応になるだろうと、リーゼロッテも特に気分を害さない。


 求めているのは返事でなく、恭順、

 或いは倒滅とうめつだ。


「ほりゃどうじょ!」


 彼らの上にあった氷を全て液体に変えて下に流れ落とす!

 そこから再氷結させると言うのだ!


「大人しくね~!」


 流水の一部が螺旋滑り台の形になった一瞬間で凍り付かせ、その上を滑り降りる!

 黒き炎に冷気で対抗!

 温度を奪う事で鎮火しながら自らを追尾させていた雪片せっぺん達を下方に向けて撃ち放つ!

 それは燃え盛るカーボン色を抜けてその先の“刺面剃火オール・ラウンド”に——


「!?」


 止まった!

 雪華せっかも、炎も!

 空気ごと揺らめかせていた燃焼現象、そのプラズマ相が唐突に滑らかな表面を持つ固体へと変化した!


「なぁっ!?」

「“赤角姜蚩荒魂逆尊カムスサノ・シユシギコト”!」


 紅白牛頭(ぎゅうとう)!医療、反逆、そして疫病の化身!

 彼女が追加展開した結晶内の魔力的な纏まりを奪って魔法として不成立にさせる!

 敵魔力を吸って己が物にする病魔的効果!

 チャンピオン相手に完全奪取は不可能ではあったが、無効化手前までは漕ぎ着ける!


 ブレードで地を蹴って縦軸回転ジャンプをしながら離脱!紅白の像と距離を取る!


「いまの……!???」

 

 ()()()()()()()()


 確かに、炎で盾や刃などの武具を作る魔法や、炎の兵士を生む魔法など、それらしい事は珍しくない。

 炎が発する光が持つ電磁力や、熱が持つ分子運動エネルギー。

 そういった物を使って、さも実体があるかのように振舞わせる。


 本物の固体・物質と比べると脆く、燃費が悪いといった面もある一方、剣との打ち合いで一時的に相手の武器を貫通させて奇襲する、というような戦い方も出来る。

 精密に扱えれば、どんな金属より薄く鋭い刃と同じになる。


 が、プラズマから固体、それも金属並の硬度や靭性を持つ物質にまで、相転移をあれほどあっさりと、エネルギー的な揺らぎをほぼ見せずに行うなど、魔学の常識からも大いに逸脱している。


 直感的に言って、不思議な事が起こっていた。


 物質生成系魔法と、エネルギー生成系魔法、その良い所取りのような魔法。

 何の物語だ?

 央華の神話にああいった物があっただろうか?

 あったとしても、状態の移行があそこまでスムーズになるものだろうか?

 人間側の意識が、そこに不自然を感じてしまったら、その時点であれは成立し得なくなる筈だが?


「!!」


 連続回転バックジャンプ!

 足元からカーボンブラックが迫り尖る!

 数本現れたそれは確かに氷を融かしつつ掘り進んでいた筈の火柱だったが、地表に出て彼女を捉えるか捉えないかという段になれば即座に固体の剣身に早変わりしている!

 そして彼女を逃したと知るや否やまたも火焔に戻り蛇のように地を這って追尾!


 水と氷の2相を操る“全仇冬結スノウ・ボール”。

 火と鉄の2相を操る“刺面剃火オール・ラウンド”。


 似ているようで、明らかに後者の方が異質である。


 炎を鎮めようと霜を下ろしたら、固体となって消されるのを避け、充分な魔力供給を受けたところで火に戻り、熱波で冬を吹き飛ばす。

 互いに勝てないし、負けない。

 これが殺し合いであれば、そういう結論だ。


 だが今は宝の争奪戦をやっている!

 時間は目標を手にして逃げる側の味方だ!

 “刺面剃火オール・ラウンド”は武装と炎を使って氷を削り切って出口に手が届く!

 

 出口に、

 口に、

 口が、

 イルカの口が、

 イルカの頭がニョキリと生え、その口が開き、その中で更に、溶岩を漏らす洞窟の入り口が開放された。


〈警告。高エネルギー反応検知。防御姿勢に移行〉

 

 殻に籠るようにして、機械腕と黒い炎のフィールドで自らを覆う“刺面剃火オール・ラウンド”。


 それに構わず箒で払うように端から端まで高圧直線溶岩噴流が横断した。


 壁も氷も上下に分かれ、それが重力で傷痕同士をくっつけ合ったその時、


 可燃性ガス、酸素、体液によって作られた高温が揃ってしまい、


 起  爆  !  !


 部屋内部から外側へ、


 急速燃焼による膨張圧力爆裂!


 その閉所を満たした氷を高熱によって昇華させ水蒸気爆発をプラス!


 人工島の地下に隠された施設、その1ブロックが地表ごと丸々吹き飛んだ!

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