シーン482「央華人工島第一ホール内にて」 part1
窓の無い、薄暗い室内。
フレームやコンクリートが剥き出しとなった、味気の無い壁や床。
人体を一回り拡張したような、強化外骨格を装着した一団が左右に並ぶ。
長方形型の部屋の端が、舞台のように一段上がっている。
照明が点灯。
壇上を明るくする。
3人立っている。
左から順に、
首から下を覆うボディースーツの上に、身体のラインにぴったり沿ったビジネススタイルを着用する三都葉瑠璃。
ダークグリーンをした軍服姿の武安高将。
肥大化したような肩部装甲から巨大な機械腕を幾つも生やした、重機や蜂の体表のようなイエローラインが塗られた機動型外骨格を纏い、全身至る所に匣型パーツを組み込んだ、戦闘ロボット風な外見の二足兵器。
スポットライトが一つ点灯。
平場に置かれていた黒い物体の上に、いつの間にか寝そべるように乗っていた金色ビキニ姿の“提婆”、その左隣で佇む旅装姿の“鳳凰”を真上から照らし出す。
武安高将、一歩前に出て「休め」の姿勢で威圧。
武安高将「ようこそおいでくださいました!この世で最も自由な意識、illモンスターと呼ばれた皆々様!」
“提婆”「やあこんにちは。元気な挨拶だね。元気なのは良い事だ」
武安高将「大変恐縮では御座いますが、他勢力が存在する可能性に配慮致しまして、到着までの猶予をもう5分ほど設けさせて頂ければと——」
“靏玉”「(被せるように)その気遣いは無用じゃ」
スポットライト点灯。
舞台上から見て“提婆”達とほぼ左右線対称地点、身体を膨らませソファ状になった“奔獏”、その上に幼い姿で両足ごと乗っかり、立てた片膝に片肘をつく“靏玉”、その右隣に小学生姿の“飛燕”、左隣に“臥龍”。
“靏玉”「見ての通り、我ら“転移住民”の手勢は、全てこの部屋に揃っておる」
“提婆”「わたしら“環境保全”も、今来れる子は全部来てるから、始めちゃっていいよ~」
武安高将「畏まりました!それでは!」
武安高将、手を上下に二回叩く。
壇上の重装兵が前に進み出て、自身の本来の腕で鳥籠型の容器を掲げる。
武安高将「こちら!文字通り本日の目玉商品!あなた方をお招きした理由であり、各々方が喉から手が出る程欲する、“可惜夜”の権能の具現で御座います!」
並んでいた衛兵達の拍手の音。
“提婆”は面白そうに周囲を見回し、“靏玉”は詰まらなそうに頬に拳をめり込ませる。
武安高将は両腕を挙げ、指揮者のように両手首を返すようにして拳を握る。
それを合図に静寂が戻る。
武安高将「今この場にいらっしゃいまする、運の良いあなた方のどちらかに、我々と手を組み、共同研究者として連帯する道を御用意致します!」
武安高将「永級ダンジョンを、illを真の意味で滅ぼす事が出来る、世界に二つとない秘宝!敵方に対し、永久欠番を押し付ける事の出来る絶大な権利!これを共に管理し、その力を引き出し、我らが物にする!そのパートナーとなって頂きたい!」
“靏玉”「共同管理と言うと、オヌシらは飽く迄それを、我々に渡すつもりはない、と?」
武安高将「これは我々の切り札です!本来は我々だけで独占する所を、その神髄を操れるようになるまでの、時間的な効率に優れている道であるからと、あなた方に門戸を開いているのです!調査内容を共有し、あなた方の敵を殺すという用途で貸し出す、それ以上の譲歩は望み過ぎと言うもの!」
“提婆”「随分強気だねえ?わたしらが力を揃えてそれを奪う、みたいな事は考えないのかな?」
武安高将「可能であればどうぞご随意に!但し!お隣にあなた方の敵が在る事をお忘れなきよう!」
武安高将、左の前腕を上げて合図。
壇上の重装兵、肩部から生える巨大な腕が、それに見合った大きさの長四角な砲塔のようなものを構える。
武安高将「こちらに控えますは、我ら央華の最高傑作!チャンピオンにも名を列せられている“刺面剃火”!詳細や活動内容のほとんどを非公表としている為に、9位という序列に甘んじておりますが、戦闘能力に限定するなら世界最強を冠しても恥ずべきではないでしょう!」
“靏玉” 「それはそれは、これまた大きく出たものじゃのう?」
武安高将「勿論の事ではありますが、あなた方全てを敵に回して、生き残れるなどと思い上がってはおりません!ですが、そう簡単には死なない!という自負は御座います!我々から“右眼”を奪おうと躍起になっていると、横っ腹や背後がガラ空きとなり、同格の存在なら容易に刺し込めるだけの隙が生まれる、とだけ申し上げておきましょう!」
“提婆”「ふーん?」
“靏玉”と“提婆”、互いに横目と横目を合わせる。
“提婆”「だってさ?」
“靏玉”「やれやれ、暫くぶりじゃのう、息災じゃったか?」
“提婆”「わたしはいつでも元気だよ?お日様みたいにね」
“靏玉”「そうじゃったのう。いつまでも子どものような奴じゃ。もういい歳なのじゃから、もう少し落ち着いても良い頃合いじゃろうに?」
“提婆”「年齢の話すると、きみにもそれなりの流れ弾が行くでしょ~が」
笑顔を崩さず応酬。
武安高将、頃合いを見て大きく咳払い。
武安高将「あなた方が、それぞれ人間社会の有力者と通じている事は、我々も大凡で察するところで御座います!つまり、内情についてそれなりに深い知識をお持ちです!今我々に乗り換えて頂ければ、古巣に対して圧倒的なアドバンテージを築いた状態を作る事が出来ます!」
“提婆”「で、君達もライバルのディープな情報貰えて、色々お得、ってこと?」
“靏玉”「それで、節操なく客を呼び込んだか。丁度今、この部屋に潜んで盗み見ておる各国代表連中の前で、我々に寝返りを宣言させるのじゃな?さすれば諸国への『逆らうな』という脅しとして機能する。『こちらにはillがついておるぞよ』、と」
武安高将「ご賢察!当にその通りで御座います!そしてそうなった暁には、我々は人間の世界で他を圧倒する権勢を誇り、それは同盟者であるあなた方にも得となります!」
武安高将「今回のお話、我々の側に多大な利がある取引であり、故にあなた方にこちらの狙いを包み隠さずお話ししております!疑うべき所など一つとしてなく!我々はあなた方を欲しており!あなた方は我々と連帯する事で利潤を得る!」
武安高将、語っている内に段々と声のボリューム、身振り手振りが大きくなっていく。
武安高将「目の上の瘤を除き、人間社会で最も強い立場の勢力と結びつき、どの面から攻められようと落とされない!確固頑健たる同盟を構築する事ができる!我々と共にこの“右眼”を所有するだけで、世界制覇が可能になるのです!」
武安高将「反対にこれを逃せば、あなた方の目の前で!宿敵が一方的殺傷権利を持つ武器を!手に入れる事になってしまいます!それを許して宜しいのでしょうか!千載一遇の好機であると同時!九死一生の危機でもあるわけで——」
“提婆”「(遮るようにして)あーあー、ごめん、ちょっといいかな?」




