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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十八章:おい邪魔だ!全員触れるな!指一本!

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478.抑えるしかない

「ずっと狙ってたってわけですか」

「あなたがこの学園に来るよう取り計らったのも、私と三都葉の働きが元々です。というわけで正確には2059年時点から、足掛け2年と半年ほどです。ええ、それを考えると、『ずっと』という表現は正しいと言えるでしょう」

「なにひとごとみたいに!」

「カミザ!止まれ!」

「おまえっ、恥を感じる器官死んでんのか?そんくらいツラの皮がブヨブヨだぞっ?ああそれとも、そのヘルメットのせいか?それがあるから実質的に厚くなってんのか?やっぱ割るかそれ?」

「カミザ!」


 今すぐ拳をぶつけてやりたいが、この環境では乗研先輩に力で勝てない。

 腕を全力で引っ張られると振りほどけないのだ。


「ったく。入校から2ヶ月、ようやく生活に慣れてきたと思ったらこれだ」

「俺の推薦だぜ。感謝しろよ浪人生?」

「ふざけんなよクソボケが。今はもう大学生だっつってんだろ」

「少しは社会コーケンしろよ不良生徒クン」

「貢献する為に今の大学通ってんだよ。これでも毎日多忙極めてんだ。だってのに、遠慮の『え』の字もねえのかよお前には」

「そーゆーのショートカット出来るっつってんだ!今から一々ガッコーで学ぶなんてお前には必要ねーだろ」

「しちゃいけねえんだよショートカットなんて。職業倫理が一番問われる領域だろうが。学ばせろ、一から」

『任務終了後の君の希望はなるべく尊重するよ。ただ、今は地獄に連れてっても戻ってこれそうで、且つ信用出来る人間に飢えててね。チャンピオン直々の御指名だし、そこの彼を制御出来そうだって言うし、ピックしない手がない』

「ガキのお守り継続だってか」


 他が呑気にお喋りに興じている間、俺はずっとバイザーを、その向こうの素顔を見通そうと、目の中の光を全部集めてぶつけるつもりで凝視し続けた。

 だが何も感じない。

 平然として冷たい態度。

 それに腹が煮立っていく。

 今すぐこいつを苦しめないといけない。

 おかしいじゃないか。

 俺だけ奪われて、こいつは快適に健康の心配か?


 ぶっこわしてやる。


「だから待てって言ってんだガキ。暫く会わねえ内に待ても出来なくなったのか駄犬小僧」

「状況分かってないんですよ!後から来た乗研先輩には!それに飼い主の手を噛んだ駄犬はそいつですよ!躾けないと!痛めに!」

「情報量の洪水で頭がペシャンコになる寸前だがよ、お前が調子を外してる事だけは分かる」

「外れてなんかいません!冷静に、やらなきゃいけない事が分かってます!そいつから聞けること全部聞いとくのが急務なんです!引っ繰り返してでもゲロらせましょうよ!」

「そいつが深くまで知ってるわけねえだろ。三都葉と央華、その二つが主犯だ。こいつは末端のパシリに過ぎねえよ。好奇心を満たせるからって自分から進んでその立場に身を売ったんだ。政治がどうのに興味を持つタマじゃねえ」

「その通り。ええ、どうでもいいことです。“可惜夜ナイトライダー”以外は」

「こっちが聞きたいこと喋る以外で口開くなCO2排便機!そんな都合の良い言い草が信じられるか!!」


 こいつのせいで、

 こいつのせいで俺は——

 

「ッンとに、恥ずかしくないのかよ?言うに事欠いて保健の先生が生徒殺しやがって!謝れよ!全校生徒と世の中の教師という教師全員に!『私は教職の分際で子どもを殺しました』って!」

「それに関しては、こちらの試算が甘かったと謝罪いたします。本来であれば、あなたは意識を失っており、その欠損は修復され、何事もなく被害も出さずに終わる予定でした。あなたの能力が“可惜夜ナイトライダー”無しで行使できるものらしい事は、新開部の活動で得たデータによってほぼ確実と分かり、よってあなたからも何も奪わずに終わる、と」

「俺が悪いっていいたいのかよ!?お前がやらかしたから俺はアミボシ君の葬式にすら行けそうにねえんだよ!」

「こちらの下らない政争に、あなたはもう巻き込まれなくてよいと、そう浅はかに思った私の落ち度です。本当に申し訳ない」

「……っ!この……っ!謝ってどうにかなる話じゃあ…っ!」

 

 いけしゃあしゃあと…!

 誰だよ怒りは数秒我慢してれば収まるって言った奴。

 いつ収まるんだよ。

 腹の虫はいつ燃え尽きるんだよ。

 頭に籠った熱を、口から蒸気として吐いたって、全然冷めやしないだろうが。

 

 だが今の俺には、

 カンナが居なくなってからこっち、急に頭に永級ダンジョン改変後の記憶が押し込まれた俺には、痛みも怒りも、有難いと言えるかもしれない。


 憤激と喪失感で、記憶の一切を塗り潰せば、少なくともカンナの事は忘れない。

 だから右眼は治さない。

 この寂しい欠損が、俺に彼女を思い出させてくれる。


『かわいい生徒がこう言ってるんだし、何か追加で開示オープン出来る伏せ札は無いのかい?』

「残念ながら、仮説を除いて私から確実にお教えできる事は、以前お伝えしたもので全てです。ダンジョンに纏わる私の推測でしたら、ここでじっくりお聞かせしますが?」

『それはまたの機会にしよっか』

「三都葉は、御三家の一角ともあろーヤツらが何考えて、丹本を捨てて央華に協力しよーってんだ?金か?」

「さあて、それも私には。ただ、不本意そうではありました。彼らも央華に『してやられた』側なのやもしれません」

「今回に関しちゃあ、どいつもこいつも不本意な顔してやがんだよ。央華の連中も急ぎ足で、三都葉も渋い顔、テメエもその調子だってのに、急に右眼とダチ持ってかれるんじゃあ、そりゃガキも一頻ひとしきりキレたくもなろうがよ」


 みんな、こいつの言う事信用するのか?

 敵で、ゲスで、クズなんだぞ?

 もっと厳しくやるべきだ。

 もっとこいつに——


「カミザ、落ち着け。規則だってなら仕方ねえ。それで収めろ」

「先輩!こいつは……っ!」

「俺はこいつを守ってんじゃねえんだよ。『決まり事』に反して人を殴る前例を作ると、真っ先に困るのはテメエみてえにルールに守られてる連中だろうが」

「…ッ!それは………っ!それは……!」

「あとな、上の言う事聞けねえ狂犬が、戦場まで着いてくのを許可されるって思ってんのか?命令無視は能力不足のクソ役立たずと変わらねえぜ?」

「………!」

「俺がリードの役をやるから、それで今は向こうさんも『まだ使える』と思ってるわけだが、テメエがこれ以上制御不能だって見られて、お前を連れてくメリットがその不便を下回れば、容赦なく置いてかれるぜ?お前を閉じ込めたまま宣告なしで出撃しちまえば、そいつらはそれで済むんだ。だろ?」

「どーだかなー?」

『ノーコメントだね』

 

 戦場において、K(キング)の言う事は必ず従わなければならない。

 一つの無視で、全員死ぬことすらあり得る。

 俺がここで譲らないと、実戦でもそれをやるかもって思われて、俺を抱えるリスクを重めに見られる。

 置いていかれる。

 それは、駄目だ。


「………わかり……、ました……!」

「ったく。見ねえうちに反抗期か。扱いが前より難しくなってやがる」

『いやあ、ありがとうね』

「なー、こいつで正解だろー?」

「テメエにこんな事見通す先見はねえだろうが。適当こくなよ脳天気ニヤニヤヤニ女」


 悔しいが、乗研先輩の言う通りだ。

 ここは俺が折れるしかない。

 迎えに行かないといけない。

 何故か?

 そういう約束だったからだ。

 そうだった筈だ。


 その記憶はまだ、残ってる筈だ。


『同行者として編成に入れてるのはあと一人。そっちの顔合わせもあるから、もう行こうか。どうやら新しい収穫は無さそうだしね』


 深く、

 深く息を吐く。

 カンナまでの道のりは遠い。

 まだ焦る時じゃない。

 全力を投じる時じゃない。


 島まで行って、

 ill(イリーガル)の奴らが現れて、

 戦闘が始まって、


 そこまで行ったら、

 こっちのものだ。


「ああそうそう、一つだけ」


 とぼけたような、癪に障る声で呼び止められる。


「一つだけ、確度の高い推理をあなた達に」

「あん?」

「彼らは“右眼”を回収する際、“可惜夜ナイトライダー”との戦闘の可能性も視野に入れていました。そしてその後、島でill(アイ・エル・エル)とチャンピオンとを待ち構えている」


 それがどういう意味か。

 皆まで続かないうちから、理解出来た。


「向こうの最高戦力が、襲撃者の中に居て、今そこで待っている、か?」


 央華が用意出来る最強。

 チャンピオン第9位。

 詳細不明の軍人。


 知られているのは、“刺面剃火オール・ラウンド”という別名のみ。


「十中八九的中する予想ですので、お気をつけを」


 そいつはやっぱり、


 何も心を動かさない様子で、


 親切ごかす事もせず、


 平たい忠告だけを持たせた。

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