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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十八章:おい邪魔だ!全員触れるな!指一本!

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474.世界規模マーケティング part1

「「招待状、かと」」


 緊急招集された、神聖ローマ市国枢央教会教王庁枢機卿団会議。

 大気まで潔白にするかのような、目に痛いほどの清さ。精緻かつダイナミックな彫刻が柱に施され、史上に名を残す様々な宗教画が壁に描かれ、下界と繋がりが断たれたその神秘の地下堂にて、二人の男女に降りた天使の声が木霊こだました。


「招待状?」

「誰に対して、何処へ招くと?」


 円形に並び、ざわざわと波風を立てる参加者達を余所に、中央へと四面立体モニターが運び込まれ、そこに地球地図が投影される。


「「問題となる央華未確認兵器が、最後に観測されたのが、この地点です」」


 球面のほどんどを覆う領域、その中でも特に広い、極東と南北聖大陸の間を隔てる海、太蔽洋。

 島国丹本から東に行った先、青色一色の中に、赤い点が立てられる。


「位置情報をそこで失ったか」

「大回りして央華へ蜻蛉返り、というルートだろう。追手を振り切るという点で見れば、分からなくもない航路だ」

「「いいえ、そうではありません」」


 彼らは思い違いをしている。

 これは、そこで反応が途切れた、という意味ではないのだ。


「「我々は、いいえ、世界のどこであっても、この飛行兵器が丹本上空、明胤学園での襲撃者回収を遂行するまで、これを捉えられはしませんでした。そして、そのまま領空を出た時点で、一度完全にロストしています」」


 央華の技術なのか、どこかから買い上げた、はたまた盗んだ秘術なのか。

 いずれにせよ、その偽装効果はかなりの高水準で完成しており、厳なる警戒を張っているわけでもなかった諸国は、それを掴み漏らした形となっている。


「ですが、それではこの、海上における観測は、どういった?」

「「そこです。我々が注目すべきであるのは、この瞬間、僅か0.5秒の間、この地点を圏内に見下ろしていた()()()()()()()()()この機影を捉えた、という点なのです」」


 また、枝を擦り合う木々のような、さざめく風の音があった。


「「クリスティア、キリル、陽州各国、その他多数、世界中の勢力が、この一瞬だけ、同時にこれを見つけました」」

「それまで一切出さなかった尻尾を、その時だけ、一斉に?」

「「そういう事になります」」

「……『招待状』、か」


 誘っている。

 ここに来い。

 そうすれば“交渉”に応じてやる。

 そう言っている。


「地図上には何も見えないが……」

「秘匿された人工島でも存在している、と考えるのが妥当だろう」

の国の隠匿の巧みさは、今回の計略で骨身に沁みた所だからな。有り得ない話ではない」


 問題は、宛名が誰か、ということ。


「普通に考えれば、全世界に宛てて、だが……」

の“右眼”が、我々が恐れていた通りのものであっても、遍く全土を敵に回すほどに、大それた戦争を許すだけの力は持たない」

「永級保有国に対しての脅迫というのは?」

「“不可踏域アノイクミーヌ”消失の大役を欲している……いや、労に見合う益がそこにあるか?」


「「様々憶測が出ておりますが、央華が“あれ”を持ち帰らず、このような回りくどいやり方で、けれど広く呼び掛けた、という部分に端緒たんしょがあります」」


 ただ特定の国に、“右眼”に利を見出す者達にコンタクトを取るだけなら、安全な国内に持ち込み、有力な勢力が接触して来るのを待っていれば良かった。

 自分達だけで独占したいなら、こんな広報など必要なかった。


 何故、央華から離れた上で、危険に飛び込むような立ち回りをしたのか?


 彼らが話したがっている相手とは、何者か?


「まさか……」


 幾人か、見当がついてしまう。

 だが、その解答は、受け容れ難い。

 それを認めるなど、あって良いのか、そういう葛藤が言葉を詰まらせる。


 けれども、筋は通る。

 その理屈が、複雑な道を、一本に纏める。


「“聖聲屡転ガヴリール聖下せいか!あなたはこう仰せなのか!」


 一人が意を決して、正気を疑われかねない、その論の口火を切る。



「彼らはモンスターに、人の世に潜むill(イリーガル)に呼び掛けているのだと!」



 今度の波は大きく荒かった。

 各方向から一斉に、高く立ってから乱突らんとつし合う。


「馬鹿馬鹿しい!ill(アイ・エル・エル)が人の皮を被り人の世に紛れるなど、御伽噺でしかありはしない!」

「神学的解釈から言って、ill(イリーガル)に意志を見出すのは異端の発想ですぞな!」

「ダンジョンは神の御意思である!人の姿、人の言葉で人を惑わすなど、悪魔の所業を自らの使徒に許す筈がない!」


「「しかしながら、悪魔もまた、神の御業の落とし子です」」


 森が、凪いだ。


 父の全能性を、天使が今一度唱え直す。


「「我らが父の意図に対し、我々は未だ、完全な理解に至れてはいません。『そんな事はない』、果たして本当にそうなのでしょうか?“悪魔”が肉と形を持って実在し、それが人を堕落させるべく暗躍している。我々教会の見えない裏側で。そういった試練が、存在しないと言い切れるでしょうか?」」


 ill(イリーガル)モンスター。

 永級と何らかの繋がりがあると考えられ、しかし実証には至っていないダンジョン内異常現象。

 

 ダンジョンの声や人に化けた悪魔として、巨万の富を与える一方、国を裏から滅ぼす、戦争を起こし世を乱すといった悪事を働いていると、かねてより民間伝承の端々に残る知能型モンスターが、彼らill(イリーガル)の事ではないかと、囁かれて既に久しい。

 その読み解きについては、枢央教会の中でも分派が激しく、一貫した論の確立に至ってはいない。


「「恐らく央華は、ill(イリーガル)と対話が可能であり、更に人間社会の中に根を伸ばしていると、そう考えた。そして、こう持ち掛けているわけです。お前達を滅ぼせる剣を手に入れた——」」


——我々に従い、ただ恩恵のみを差し出すべし


「「伝承において、悪魔には派閥が存在し、相争う姿が描かれる事もあります。央華が“右眼”を本国に入れなかったのも、恐らくそれが理由です」」

 

 ill(イリーガル)を殺し、永級ダンジョンを埋め立てる、“可惜夜ナイトライダーの右眼”。

 それを恵って、悪魔のよこしまなる大力だいりきが、全力の闘争を繰り広げる。

 彼らはそれを、既定路線と考えている。


「この場所で、仮に巨大規模の魔法がぶつかり合うような、なにかしらの惨禍カタストロフがあったとしても、その被害が真っ先に襲うのは丹本国」

「その列島が防波堤となり、央華本国に及ぶ頃には、被害は最低限へ減衰される」

「悪魔と契約するデメリットを、売り払う魂を他者から奪って代用し、自らは旨みのみを享受する」

「彼らから見て、悪魔がどこに潜んでいるかは分からない。しかし、人類種に見つけられぬよう、いずれかの国に深く入り込み、そのシステムに巣食っていることは必定」

「故に、主要な情報網全てに、己の居場所を晒した、という事か」

「永級に意志があると仮定した場合、“右眼”が制御不能な人間の手にある現状は、容認できない」

「必ずや向こうから、やって来るということ」


 そして彼ら救世主教会は、それを止めなければならない。

 ところが、事は市国の遥か東、離れに離れた海の上。


 救世教勢力下の国に戦力を出させるとして、それなり以上の大義名分が無ければ、宗教の暴走と見られ国際社会の緊張を煽り立てる。

 他勢力も同様の事をすれば、主要諸国の大艦隊が一同に介し、今にも抜剣ばっけん発砲しそうに気を尖らせ、牽制し合って身動きが取れなくなる。


 どころか「動けない」だけならまだいい方で、暴発、着弾なんて事が起こった暁には、第三次大戦の火種になる憂き目すら見える。


 そしてもう一つ。

 相手が知性を持つill(イリーガル)モンスターである、その仮説が正しければ、どれだけ大軍を寄越した所で、実力が一定以下の人員はいないに等しく、犠牲者数が増えるだけ、という事態があり得るのだ。


「「我々は世界に気付かれぬほど静かに、同時に契約が終わってしまうより早く、あの場所に到達し“右眼”を得なければなりません。我らが父の真意を量る事への、飛躍的一歩に結び付くそれを、交渉が絶望的な者に明け渡すなど、あってはなりません」」


 少数精鋭。

 それも救世主教会が今すぐに用意出来る、最上戦力。

 

「「以上の理由を加味し、我々“聖聲屡転ガヴリール麾下きか聖別能徒パウエルズ”、及び、東方聖騎士団団長リーゼロッテ・アレクセヴナ・ロマノーリを派遣するのが、現状取り得る最良手である」」


 「それが、教王猊下の結論です」、

 代弁者は、そう結んだ。




 そして世界中で、強力な兵を持つ者達が、似たような事を考える。

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