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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
これは準備期間の話

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閑話.昏迷のマスカレイド part1

 来たる決戦の日に備え、一発でも多く弾丸をるのだ。

 彼女は決意を胸に、丁都最大のターミナル駅、神宿の大地に立った。


 


 突然だが、カミザススムは事務所所属の活動者ではない。

 飽く迄個人、それも収益度外視、私的な趣味の範疇で配信業を営んでいる——営利でない以上この言い方が適当かは分からないが——、一種の奇人変人である。

 

 更に本人は、自身の戦闘力が一番の“売り”であると考えており、その人間的側面をオマケのように捉えている。例えば顔貌かおかたちであるとか、声であるとか、見る者・聞く者を不快にさせない程度で、メインは世界で現状唯一の魔力利用法を見せる、異能者の派手な交戦シーンであると、そう分析している節がある。

 

 が、そんな彼の見通しとは裏腹に、“日進月歩チャンネル”、及び“カミザススム”は、立派なキャラクタービジネスになりつつある。

 人間性に魅力を感じ、応援したいと思う者が、一定割合以上存在する。

 雑談だとか、日々の何気ないルーティーンだとか、そういう物をもっと公開してくれないか。

 もっと自我を見せてくれないか。

 そう願う声も、実は少なくない。


 配信上のコメントが常に辛辣なノリである為、そういう要望があったとしても、彼はあまり本気にしていない。悪ふざけによる揶揄いだと考えている。

 だが今や、彼にアイドル的人気がある事は、否定し得ない事実となっていた。




 この、活動者が想定するものと、実際のファンの熱意とのギャップで、何が起こるか?


 供給不足から来る、ファン側からの二次創作運動隆盛である。




 特に禁止されていない、どころか「え?まあ別に自由で良いですけど」、という言質が取られた事により、缶バッジやアクリルスタンドといった王道オタクグッズを皮切りに、彼の白髪を意識して白いラインを入れたワンポイント擬態アクセサリーやメッシュ入れ、更に他の配信者との関係性を捏造した同人誌、果てはモンスターから性的に襲われる18禁本まで。


 ファンの独自活動は衰えを見せず、巷には手製の品々が溢れている。


 その一環、と言うべきだろうか。

 資金に余裕のあるススナー——ネット用語で言う所の“有銭ファン”——が何人か集まり、最大1000人収容規模のレンタルホールを借りて、ススナーオフ会が主催されたのだ。


 会場を押さえるだけで一体何百万掛かっているのか。そこにケータリング等のサービスを充実させる所まで含めると、眩暈を起こしそうになる金額が想定される。

 

 見上げた豪気と言うべきか見下げた愚物と罵るべきか分からず、彼らの中で燻る火の熱量の加減知らずさに、推されている当の本人でさえ軽い恐怖を露にしたイベントであったが、重要なのは、ススナーと呼ばれる集団の中でも、選りすぐりが集うという点。


 彼らのような人間は、例えばカミザススムに何かあった時に、騎士のようにどこまでも付き従うか、激烈に反転するかのどちらか。

 少なくとも、知らぬフリは出来ないだろう。


 彼らがどういった人間なのか、

 どれだけの数が計画決行時に利用できるか、

 こちらの勢力の将として引き込める者はいるか、

 弾丸として使えるスキャンダルが埋まっていないか、

 

 彼女はその辺りを、現地で見極めたいと考えた。

 “カミザススム”というコンテンツを終わらせるなら、内側からも破壊の限りを尽くさなければ。


 幸い参加条件である、「ススナーの中でもコアなファン達による、王手ボイスチャットサービスの鍵サーバーメンバー」については、事前の潜入活動が実を結んで、彼女は満たしていた。

 そして今日、帽子にマスク、更に金髪のウィッグを被ってまで、本来の人相をひた隠しながら、彼女は会場の扉を潜るのだった。




 情報収集の進捗は上々と言えた。

 それなりに責任ある立場の成人、彼らは男女問わず揺さぶるのが難しいだろう。


 一方、少年少女世代の、“熱狂的”とも言えるファン達。

 彼らは使える。

 ああいう熱しやすい者達ほど、トラブルが起きると有り余るエネルギーを暴走させるものだ。


 彼女は頭の中で、若気の至りで問題行動を起こしてそうな、危なっかしい人間をリストアップしていく。

 彼らの問題行動が、即ちカミザススムの問題になる。

 こちらに都合の良い材料、その供給源たり得るのだ。

 

 あちこちでにこやかにコミュニケーションを取りながら、脳内の落城シミュレーションを順調に組み立てて、ふと一休みをしようと壁際に設けられた休憩スペースを見た時、少年とも少女とも言い切れないシルエットを持った一人が、賑わいから離れて椅子に座っているのを見つけた。


「こんにちは、楽しんでます?」

「あ、こんにちは!はい!とっても!ちょっとハシャぎ過ぎちゃって、ここで休んでるんです!」


 髪を上げて帽子の中に収納し、眼鏡とマスクで顔を隠し、と、引っ込み思案に見えたその人物は、話してみると、取り立てて人見知りというわけでも無さそうだ。


 さてどうしようか。

 今のところ、どうやら少女らしいその人からは、危うげな物を感じない。極めて健全な女子高生、といった風情。

 収穫にはならないと、見切って別のグループへ向かうか。


 彼女がそういった計算を走らせていたところに、


「失礼」


 また一人の来客。

 成人男性。だが半分が朱色のマフラーや、尖った帽子を被り、おとぎ話の旅人みたいな恰好をしていて、顔や年の頃は窺えない。


「一息つきたいのだが、そこの席は空いているだろうか?」

「どうぞどうぞー!」

「かたじけない」

「古風な方ですね~」

「ふひー!すっごい熱気!」


 更に一人。

 少年、というより最早“男児”とでも言うべき子ども。

 小学生くらいだろうか?

 六つの複眼を持つ、テレビヒーローの面らしき物を被っていて、その素顔は分からない。

 僅かに電子音らしき響きが混ざっており、声も変えているのかもしれない。


 こんな年齢の参加者が居るのは予想外だった。

 保護者がススナーで、それと同伴、という事なのか?

 身バレ対策はしっかりしているが、にしても一人で散策するのは危険ではないだろうか?

 

「あ!こんにちは!ここ座って良いですか!人いきれモワモワで疲れちゃって!」

「あ、うん、どうぞ」

「いいよー!」

「問題ない」

「ありがとー!」


 やけに大人びた語彙を操りながら、休憩スペースをまた一つ埋める。

 彼女以外に、3人。

 どれもまだ話した事が無い面子めんつ

 折角だから、この場で纏めて探りを入れてみるかと、彼女は心を決めた。

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