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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十七章:因果は偶に、思いもよらない巡り方をする

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471.援軍到着

「ニホンジン!……いや、央華の人間カ?」


 隊長格が現れた青年に呼び掛け、他の隊員は個人携行型防衛火器、小銃ライフルを小さくした短機関銃サブマシンガンのような武器を構える。


「生まれはどうであれ、僕は丹本人だ!」

「そうかい!まあどっちでもいいんダが、そこをどいちゃあくれねえカ!」

「断る!」

「そこの漏魔症を駆除するだけダ!他の寮生に手は出さないと約束スル!」

「彼は第十学生寮の寮生で、私はその寮長だ!学園側から特別の命が無い限り!寮生の生命、生活を守る役目が何よりも優先される!たとえこいつ相手でもだ!」

「口振りからするニ、お前もそのあんちゃんを良く思っちゃいねえんダロ!?だったらせめて、そのまま出血多量で死なせてやっちゃくれねえカ!?双方両得ダ!」


 対象、カミザススムの体が、あの青年の魔法能力によって覆われている。

 治療まではされていないようだが、出血は止まっていた。

 同じ状態から動かさず固定する魔法、といった所だろう。


「こいつを助けるかどうかを決めるのはお前じゃない!丹本政府、及びそれから監督を任されている学園上層部だ!お前の言う通り、僕だって役目でなければ今すぐにでもこの場を放棄したい!だがこいつは弱過ぎて、ほっとくと死ぬ!僕がこいつを行動不能にした時、どれほど楽だったと思ってるんだ!

 そしてこいつを死なせることは、この僕が『役目を遂行しなかった』という事になる!」


 彼はそれを拒絶する。

 それだけはあってはならない。


「他でなら幾らでも殺してくれて構わないが、この第十学生寮の敷地内でだけは、僕より先に何者も死なせない!」

『おいクソおかた真面目タイプだ。俺の一番嫌いな人種だぜアレ』


 面倒具合がグンと上がった。

 部下からの必死の進言ではあるが、ここで無為に交戦するというリスクを冒したものか。

 

「だったら、せめてそこでただ見ててくれないカ!?俺達はこれから帰る所なんダ!」

「それも、断る!信用出来ない!お前達外国人、それも央華の人間だろう!?」

「……どうしてそう思う!」

「訛りと、先程の『央華』という語の発音だ!」

『隊長ー?』

『すまん、しくった。まあどのみちすぐバレてただろ』

「今緊張状態にある国から、我が国の潜行者育成の中枢に攻撃が仕掛けられている!仮にそちらが言う通り後は出て行くだけでも、それをここで見逃せば、後により巨大な脅威として我々を襲う可能性もある!寮生保護の観点から言って、それも望ましくない!」


 さて困ったのは襲撃者の側だ。

 向こうがやる気である為、ただボーッと待ってるだけにもいかなくなった。

 今は銃口を突き付けているから、奴は動かない。

 だがこれで少しでも他に気を散らせば、さっさと攻撃に転じてくるだろう気配がある。


 最悪、離脱を妨害される事もある。

 宜しくない。“これ”は何としてでも、武安高将の元まで持ち帰らなければならないというのに。


『どうします?あれを無力化しなければ、殺すのも帰るのも難しそうですよ?』

『今考えてる』


 残り3分弱。

 さっきの小型榴弾を放った砲塔。

 謹製特注弾を残すと証拠となる為、排莢機構もオミットされている、単発使い切り式。それが左右2門ずつ、計4門。単純な引き算で分かる通り、残り2発ぽっち。あの防御を突破しようとするなら、物足りない。

 もっと口径の小さい歩兵銃弾は、当然の如く論から外す。

 

『近付いて魔法をぶち込むしかないな。見るからに近接タイプのあいつに向けて』

目晦めくらましくらいはしないとですね』

『出来ればアレは使いたくねえが』『隊長!下からです!』


 四脚戦車も含めて全員が飛び退く!

 地面から白黒の金属針、いや棘が乱立!

 

『魔法生成物!?』

『いや、付与・操作型だ!地中の金属を操っているらしい!』

「ガッコーの設備ぶっ壊して武器扱いカ!とんだ不良生徒ダナ!」

「言ってるがいい!」


 屈辱の敗戦から約1年、U18メンバー選抜で一蹴されてから半年超、万は己の魔法を更なる高みに至らせた。

 その内訳は?単純に射程距離と操作精度を向上させたのだ!


『全員あれに金属を触れさせるな!持ってかれるぞ!』

『どうします?編成的には破壊工作特化の隠密重視ですよ?火力的な選択肢はかなり少ないですっ』

『隊長!新手です!』

『何!?』

「“萌竜ロング”!」


 隊長格目掛けて飛来した弾頭が四脚戦車の大盾に弾かれ、あえなく地面に、落ちた先で地中へ掘り入る!


「“萌竜ロン” “萌竜ロン” “萌竜ロン” “萌竜ロン”!」


 更に撃たれた後続も全てが地面に!


「“萌緑黄色満面東竜シング・ロング”!」


 種が埋もれた地点から樹木が急生長!


『隊長!魔法能力を隠蔽しながらでは耐えられません!』

『クソが!詠唱許可!許可する!』


 一人がファイアーレッドに燃える双刃そうじんげきで斬り払い、別の一人は妃紅ひこう色の油紙ゆし傘を回転させながら360°回し、伸び襲う根や枝を追い返す!

 それ以外も銃器で応戦!

 黒が強い夜の中で何度も閃く銃火によって、彼らの防戦がコマ送りのように浮き彩られる!

 

『よおし!全員、丹本へのお詫びの饗餐きょうさんとして突き出されないよう、今から祈っとけ!』

『これで個人情報特定とか、笑えませんね!』

武安ぶあん高将こうしょうに給料アップを強訴しましょう!』


 あと1分半。

 警備の到着が遅れてくれているのは手筈通りだが、それ以外が想定を超えてヘビィ過ぎる。生徒の相手をしてるだけでこのザマだ。

 去年この学園に表から堂々と入校して、見事にボコられた連中が2、3ダース程いたらしいが、隊長は彼らに深く同情してしまうのだった。


『今は時間を稼げ!合流地点の防衛戦だ!迎えが到着すればこっちの』


「“徳が治むる王政をジェン・イ・リィ・ジ・シン”!」


『今度は何だ!?』


 木の幹のうち燃やされた部分から黄色の物体が出血めいて噴出!

 それらが固まって幾つかの白く光るぐんかいとなって彼らの頭上へ!


相生そうじょう魔法!五大元素か!』


 その思想の総本山である央華から来た彼らだからこそ、それが何かを瞬時に理解!

 だとするならば!

 その白い物体が金属であることも分かる!

 万という名の寮長の能力も合わせて考えれば、次に来る手は——


『上!防御しろ!頭を押さえられた!』

『やってます!』


 傘と戦車の盾アームを合わせて空を塞ぐ!

 金属が白黒に変わり加速してそれらを打つ!

 戦車の防護シールドが削られる!

 それが破れた瞬間、戦車の装甲フレームも敵の能力に乗っ取られるだろう!

 そして傘が上への防備に回った分、周囲からの攻撃の激しさを捌ききれない!

 地面からも金属棘が迫り上がる!


『特殊部隊養成所かよここはァ!?』

『隊長!このままじゃ持ちません!』

『………』

『隊長!』

『……はぁー……、お前ら、今から三跪九さんききゅう叩頭こうとうのイメトレしとけ』


 隊長は腹を決めるしかなかった。


『………了解』

「おーい!降伏ダ!俺達は降伏スル!やめダやめダ!」


 彼らは一斉に武装を手放して捨てる。

 攻撃が止むと同時に魔法まで解いた。


「煮るなり焼くなり好きにしてクレ!」

「………これから我々の魔法で拘束する!これ以上手荒な真似はしたくない!」

「だろうナ、お蔭で助かっタ」

 

 隊長は部下に目配せした。

 既に起動コードを打ち込み終わった彼は、頷いて要請を送信した。


「そんなんだカラ、お前らは戦勝国にはなれねえノサ」


 重い扉の分厚い錠前が開いた、そんな音だった。

 万は、明胤学園第十学生寮長とその友人達は、即座に攻撃を再開した。

 不審があるなら一発ぶん殴っておく。

 敵性人物と対した場合の、一つの心得。


 しかし遅かった。


 その時にはもう、四脚戦車の上半分から、巨大な四肢がゆっくりと起き上がる所だった。


「あれは……!?」


 人間の頭部のようなパーツ、あれはメインカメラやセンサーのようなものだと思っていた。

 だが、

 あれは、

 あれでは、


 人の頭だ。


 ぶ わ り、


 前面から肌を撫で背中まで駆け抜けたそれは、

 悪寒か、

 それとも何らかの魔法の気配か。


 万の目の前に、全身にゴツゴツとした鉄の匣を幾つも付けたような、そんな格好の巨漢が立っていた。あちこちで緑のランプが点灯し、状態の正常を報告していた。双眼鏡を縦に取り付けたようなカメラが顔の真ん中についており、頭を十字に走るレールを伝って、彼を見下ろした。


 彼は動かない。

 動かない事で、堅く、平常を、健常を、頑丈を保つ。

 それが彼の能力の一側面。

 

 何か強力な攻撃が来る。

 戦場が磨いた勘がそう言っている。

 耐える。

 これまで以上に動かず、命だけでも守り切る。


 命があれば、魔法が続く。

 魔法が続けば、まだ守れる。

 戦える。


 そう考え、構えた彼の腹に、太い注射器に似た形状の、滑らかでカーボン色をした物体が触れた。

 

「……?」


 優しく添えられるように、何の感触もない。

 巨漢は消えた。

 そのスピードには目を瞠るものがあるが、この不可解な攻撃は一体——


「お」


 足が、浮いたかと思った。

 心臓が、胸を強叩きょうこうするように、一際大きく打って、

 止まった。


 “動かない”、その魔法能力を逆用した何かか?

 彼は敵の魔法生成物を見ようとして、

 視線を下げ、


 無い。


 何も、無い。




                そ  そ

                の  の

             彼  内  先

             の  の  の

   敵が残した物体も  胸  骨  背

             も  も  中

             腹  臓  も

             も  器

                も




 何もかも、無い。


「………」


 柔らかく水を含んだものが、数m先で落ちる音がした。

 そちらを見ると、奇妙な形のドス赤く汚れた何かが転がっていた。

 赤は、それに詰まった液体の色。

 穴が、

 僅かに残った高熱が、縁を夕焼け色に淡く映えさせる、

 焼け溶けたような穴が——


「…………あ」


 それは、二つあった。


「あみ、ぼし……」


 巨漢は、戦車の中へ、座席へ戻っていた。


「え、ぶり………」


 樹木が色褪せ朽ちていくのと共に、


「た、い、ちょ………」


 万は、

 自らが吐いた鉄臭い池の中へ、して緋色の飛沫を撒いた。


『ここまでだ。切り上げて帰る準備をしろ。邪魔される心配も無くなった』

『対象は……』

『まだあの金属魔法が残留してやがる。流石にあの瀕死のゴキブリを殺す為だけに、こいつをもう一回動かすのは避けたい。金が掛かるわ、帰りの便に乗り損ねる危険が出るわ、良くないことだらけだからな』

『3人殺せば、後はあいつを撃ち殺せると思ったんですがね』

『良い。仕方ない。お前の判断は正しい。寮長殿のタフネスに敬礼だ』

 

 一人が念の為銃器で対象に鉛を撃ち込み、矢張り効きそうにないと確認。別の一人が戦車の後方に取り付けられたパックを開き、内部の気球が瞬時に爆発的膨張。


「あばよ!非!常任理事国の諸君!」


 それは長いワイヤーを引きながら上空へ昇り、魔具技術も利用された最新鋭のステルス航行機が低空を飛びながらそれをフックに引っ掛け、彼らを空へ吸い出すように回収した。

 

「たい、ちょう……」


 後に残された一人は、それでもまだ、継戦を、勝ちを確信していた。


「まって……す……」


 何故なら、助けが来るからだ、と。


「きて、くれま…よ…ね……」

 

 彼女は女子用の学生寮を利用している。

 彼女の能力なら、

 彼女の精神なら、


「きま、すよ、ね………」


 妨害があろうと、この場に必ず来る。


「たい、ちょう……ぼく、しんじ………」


 彼が眠り際に見た、金気かなけの輝き、


 それがうしなわれゆく最期の刹那、


 反射光の中に、彼女は漸く間に合った。


 2061年3月をって、


 この学園を卒業した、


 棗五黄は。

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