表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第十七章:因果は偶に、思いもよらない巡り方をする

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

669/979

463.「無欲」は薬にも毒にもなる part2

「後悔、ですか?」

「そう。いずれあいつと二人、大き過ぎる希望に、過大な期待に、潰される」

「言ってる意味がよく……」

「そこで分からないから、あなたは駄目なの。見えてないの」


 日魅在進を、まるで理解していない。


「あいつは、弱くて臆病なヤツよ。自分に力があれば、威勢の良い事の一つでも言えるけど、それは有利に立っているから。勝てる希望が僅かでもあるから」


 絶望すれば、簡単に折れる。

 大事な所で、腰が砕ける。


「ススム君は、魅力的ですよ?今までだって、何度も立ち上がって見せてるでしょう?」

「そう?あれが?あれが強いように見えてるとしたら、それは寄り掛かる先があるから」


 どんなに辛くても、耐えられるような顔をしている。

 だけどそれは、どこかに避難所が、最後の砦があるからだ。

 どうしても台無しになった時、それでも奪われず抱えておける、一番の財産があるからだ。

 

「人って、そんなものじゃないですか?」

「そう、そこよ。あいつが見せてる“強さ”なんて、普通の人間が持ってるものでしかないの。そんなの全然、『強い』ことにならない」


 あんなのは、偽物だ。

 まるで当てにならない。

 砂上の楼閣。

 宝石に似せたガラス玉。


「あいつはね、何かを取り上げられる時、手を伸ばさない。塩で揉まれた青菜みたいに、しなしなにヘタレる。間違った清貧思想みたいなのに取り付かれて、守るべき自己みたいなものを持とうとしない。『自分にはこれだけあればいい』、その満足が、あいつを腐らせる」


 今回も、徹底的に敵を潰し、二度と逆らえなくさせる事も出来た。

 勝手な軽口を吹聴する空っぽどもに、「もう二度とやるなよ」と見せしめる意味でも、それをやるべきだった。

 そうすれば、彼だけじゃない、社会の色々な場所が、もう少し生きやすくなっていたかもしれない。


 で、彼が何をした?

 城の外に敵を追い出して、そのまま休戦協定で終わり。

 一度背いた者達に、転向を悔いさせることすらしなかった。


 より遠くまで領土とすれば、次に攻められた時により安全になる。

 敵を威圧する事は、平和を維持する第一歩。

 裏切りへの厳しい罰も、秩序という地に足を着けさせる重力。


 乱暴さ無き国に、穏やかな暮らしなど有り得ない。

 それをしないのは、邪悪に向けて胸襟を開くのと一緒。


 甘っちょろい。

 弱腰ここに極まれり。


 回土えど時代の初期、丙都を本拠としていた、前時代の支配者の一族が、そういう寝惚けた和睦を呑んだことがある。結局堀を埋められてから、改めて攻め滅ぼされたのだが。

 

 自分が悪者になったり、或いは一部の人気や信用を失ったり、そういった危険を冒しても、前に進む勇気がある。それが、頂点や英雄へと、人を導く。


 今の彼には、それがない。

 最悪失ってもいいか、どこかでそう思っているから、退路がずっと開けているから、だから強者の寛容さみたいな余裕を、装う事が出来ている。


 それは彼から“配信業”を取り上げても、帰る場所が残っているからだ。

 強いのではない。

 強ければ、自分の蓄財の一切を敵に明け渡さない、その覚悟を持てる。

 彼はそうしない。敵対しないのが一番と逃げる。

 

「どんなものでも、『絶対に渡せない一つ』以外、最悪あげてやっても良いって、変な甘えを持ってるのよ。そうやって持ち物を切り崩していって、だから何度でも敵の攻撃を受けて、まともにダメージを受けて、そしてまた捨てるか、ってなって………」


 日魅在進と絆を持っているつもりの女を、彼女は憐れみたっぷりに見下す。


「あなたも、捨てられる側の一人。まあ、最後の一つになれれば別かもしれないけれど、その時手に入るのは最強の騎士でも、高貴な王子様でもない。一匹の怯えた痩せ犬だけ」


 そして「最後の一つ」の方から、見放される。

 それを守る為には、他の物も手放してはいけなかったのだと、そこで思い知る。

 いつの間にか、何もかもを捨てていた事に気付いて、もう何も持っていない事を実感して、その時初めて地金じがねが露出する。


 何でも倒せる最強ではなく、

 底辺に堕ちた餓鬼道の住人。


 悲しくて、苦しくて、

 凍りつくみたいな心細さが狂いたくなるくらいの怖さに成長して、

 泣いて、嘔吐えずいて、

 顔をぐしゃぐしゃに丸め歪めて、

 憎くて、恨めしくて、

 駄々っ子のように喚き散らして、

 沈殿物を吸った体が重みを増して、

 四肢に入る力がなくて、誰も手を貸してくれなくて、

 じゃあもういいやと、大の字に投げ出して、

 惨めさだけは一丁前に感じながら、

 朽ち果てる事への抵抗をやめて、




「で、何故かまた立ち上がる」




 弱いのに、

 折れてるのに、

 何も持ってないのに、

 何も手に入らないかもしれないのに、

 自分も知らない何かを、これ以上を奪われるかもしれないのに、

 勝てないのに、

 彼の全身全霊、毛先に至るまでがそれを理解しているのに、


 彼は立つ。

 

 自分の幸せはもう手に入らないから、

 誰かの幸せを守ろうとする。


 その結果がどうであれ、


 幸不幸を問わずして、


 彼が死ぬ時は、立ち往生だ。


「あいつは、すすむは、何かを持ってると、輝きを鈍らせる」


 日魅在進は、


 “持たざるもの”でないといけない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ